【8/24 1巻発売!】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
その祭りは、空澱大人ではなく空写の為に作られた初めての祭りであった。
始まりは折津ヨイという空写。
自らの為、そしてこれから自分と同じように空写になる者の為に幸せな手向けをという願いがあったという事を知る者は殆どいない。
60年の歳月が全てを押し流し、その祭りもまた空澱大人の物に変わってしまった。
「良かった」
「ああ、よかった」
「これでオソエが空に還った」
安堵しながら語り合う村人達の目に折津エイは映っていない。
その青い瞳の向こうにある空澱大人だけが、村人たちの崇拝する存在なのだ。
「ふう、久しぶりでしたがしっかり舞えましたね」
舞台を離れ、本殿の階段に腰を下ろしてエイは汗を拭う。
今、傍にはセナノとネネだけだ。
「エイ、体は大丈夫なの?」
「はい。朝から調子が良いんです。それに、舞った後から更に快調になって、こんなに!」
エイは腕をぶんぶんと振り回し、セナノに元気をアピールする。
その姿に嘘偽りはなさそうだ。が、問題はエイの髪である。
特徴的であった黒い髪は、その先端が濃い青色に染まっていた。
(あの時と同じ髪色だ)
シオナキ事変で、空澱大人の器となったエイの髪も特徴的な青さをしていた。
今回はそれほど染まっているわけではないが、やはり髪色が空澱大人との距離を示していると言っても良いだろう。
(……エイは黒い方が似合うわよ)
セナノはそんな事を考えながら無意識に、エイの髪を掬いあげて目の前でじっと観察する。
その光景を、エイは不思議そうに見つめていた。
「どうしたんですか、セナノさん。私の髪がなにか?」
「え? ……あっ、な、なんでもないわ!」
自分の行動に気が付いたセナノはハッとして髪の毛から手を離す。
それからエイの表情をこっそり窺ってみるが、どうやら気持ち悪がられている様子はなさそうだ。
「そうですか? なら良いんですが。……あ、そう言えばこの後はまた昨日みたいなお祭りになるらしいですよ! 楽しみですねえ、焼き鳥とか……えへへ」
「もう、食べ過ぎないでよね」
兎も角、これでエイの祭りでの役目は終わった。
後はエイの気の向くままにこの祭りを楽しむだけである。
そうするだけの権利が今のエイにはあるのだ。
セナノはそれを支えるべく、ここにいるのだからやる気は十分である。
「また昨日みたいに背負ってあげようかしら?」
「それも良いですねぇ。セナノさんの背中、ポカポカして温かいんですよ。でも今日は」
エイは階段をぴょんと軽快に飛び降りる。
振り向いた拍子に風が吹き抜け、巫女装束の裾を揺らした。
白の装束と先端の青い髪が宙に踊るように舞う。
「また一緒にお祭りを巡りたいですっ」
「勿論、あなたに従うわ」
「勿論、師匠も一緒ですからね! ……師匠?」
先程から一度も口を開いていなかったネネは、ただ山の向こうを見つめている。
その目は鋭くなっており、いつの間にかカミキリを抜き取り握っていた。
「師匠、どうしたんですか」
「誘われているな」
「え?」
ネネはその場で準備運動を始めた。
十分な屈伸と伸びをして、彼女はもう一度山を見やる。
霊峰とは真逆に位置する、なんてことの無いただの山だ。
しかし、ネネの様子は一変して異縁存在を前にした時と同じである。
「……山の異縁存在ですか」
「たぶんそうだな。どれ、ちょっと行ってくるか」
「ああ、それなら私も行きますよ! お供させてください」
「エイ、お前はもう今日は鍛えた。だから休め。というか、カミキリにそろそろ何か食べさせたいんだ」
カミキリの表面に浮き出た歯がガチガチと音を鳴らす。
餌を欲しているのが、セナノの目から見ても明らかだった。
「あまり食べさせないと、へそを曲げるからな。行ってくる」
ネネはそう行って、二人の返事を待たずに駆け出した。
巨体が軽快な足取りで木々の間を跳んでいき、あっという間に姿が見えなくなる。
その光景を遠目から目撃した村人たちも、あっけに取られていた。
「……行っちゃいましたね」
「一応、異縁存在を相手にするなら私もいた方が良いとは思うんだけど……まあ師匠だし、大丈夫ね」
「そうですね。じゃあ、私達だけでお祭り行っちゃいましょうか」
エイは遠慮なく手を握る。
特に深い事は考えていないのだろう。
その笑顔には、一切の思惑が無かった。
「はあ、しょうがないわね」
セナノは笑みを浮かべながら、エイの細い手に引かれて歩き出す。
彼女達の今日は、ここから始まるのだ。
そして――神々の宴も。
『おや、そろそろ縁理庁も動き始めるようですね。エイ、始まりますよ』
『え、何が? って、へへ俺はもうこの千里眼で見れるもんねー! ソラが何見てるかわかっちゃ……あー!俺のカスタムしたドラゴニックオソエΣがぁ!?』
『攻撃にばかりパーツを寄せるからですよ。オソエはバランス良くカスタムしないと』
■
山を凄まじい速度で移動し続けるネネは、数分後には目的の場所に到達した。
急こう配の山道は、普段は獣だけが通る為か、木々が鬱蒼としている。
それでも多少は開けて見えるのは、ここが戦いの場所であったからだ。
辺りに転がるのは、ソエだったものである。
それらが大きな力で引き裂かれたのか、辺りに転がっていた。
「……む」
ネネはその場に降り立ち、傍にいたソエを見る。
まだこの個体は息があるようだ。
カミキリはそれを見て歯を鳴らすが、主はそれを良しとしない。
ネネはソエに手を伸ばし立ち上がらせると自身の背後を指さした。
「行け」
ソエは小さく「くう」と鳴くと、震える足で駆け出す。
やがてソエが見えなくなった頃、ネネは不満そうに歯ぎしりをするカミキリを担いでその男を見た。
「――久しぶりだな、俺からの選別は不要だったか?」
ソエの死骸に腰を下ろしているのは、スーツを気崩した一人の男だった。
髪は白髪になりすっかりと色が抜け落ちているが、その姿は老人とはとても思えない程にしゃんとしており、顔も随分と若く見える。
鋭い目は白濁して、唇は渇き切っているが、弱弱しさは感じない。
彼から感じるのは、鋭利な刃物に近い剣吞とした雰囲気だけだ。
「狭間か」
「リョウシって名前で呼んでもいいんだぞ? 狭間だと、どの狭間かわからなくなってしまう」
リョウシはそう言って、少し笑う。割れた唇が更に裂けるが、流れ出る血はもう残されていなかった。
「なんの用だ。セナノの時の礼なら、もうしたが」
「あー……S階位昇格試験の時の名義貸しだったか。楽な仕事で良かったよ。またお前の弟子がS階位になるときは受けてやってもいい。けど、今日はそうじゃないんだ」
彼はソエから飛び降りると、ネネを見る。
「実は久しぶりに依頼を受けたんだよ。縁理庁からの依頼だ」
そう言って笑う彼はどうしようもなく、凶兆であった。
【縁理庁・特別処理申請書】
文書番号:EN-RIFN-007-EX
機密区分:極秘
申請区分:緊急/特例機密処理
■ 申請概要
██県██村にて療養中のA-E1の天移能力の測定を目的とした作戦の補助。
対象は本来の災主級疑似媒介体から逸脱し、常時EN-XF-SORA-0815と接続している可能性が高い。
また、現地での妨害の可能性を考慮し、S階位の派遣を申請する。
■ 派遣対象
氏名:狭間リョウシ
階位:S階位
職種:鎮縁課第六戦術班 班長
■補遺
あくまで天移能力の測定が目的である為、開門は2段階に制限する事を命ずる。