【8/24 1巻発売!】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
はわわ……俺がコモドドラゴンとカメレオンとカナヘビのパーツで作ったオソエがぐっちゃぐちゃになってる……。
まだソラとオソエバトルしてないのに。
折角、透明化から高速移動、噛みつきのコンボでソラのオソエを倒そうと思ったのに!
『ソラ、あの男の人は何? 明らかにまともじゃない風貌なんだけど』
『うーん、古臭い骨董品が人間の器に入っていますねぇ。成程成程……』
『教えてよぉ』
『あの器はもう駄目ですね。なので、今後のコンテンツには関係ありません。忘れて結構』
そんな理由あるかよ。
しかしソラがそう言うのなら、俺はもうこれ以上聞き出すことはできない。
……が、俺にはこの千里眼がある。そして、ダブルコンテンツシステムも。
『エイ、忠告しておきますがダブルコンテンツシステムは使わないように。わりと疲れますよ』
『了解。ダブルコンテンツシステム、起動!』
『キャッキャッ』
使うなは使えと言う事だ。当然、それも俺は学習済みである。俺ってば賢いんだから。ソラが俺の体を気遣うなんてあり得ないんだから、わかりやすいっての!わはは! ……わはは。
師匠は相変わらず、スーツ白髪男と対峙している。
どう考えても、これからバチバチに戦い始めるのだろう。師匠大丈夫かな……大丈夫か、師匠だし……。
むしろ心配なのはこっちだ。
これからこの体を利用して、きちんと曇らせの舞を奉納しなければ。
祭りよりもこっちがメインだしね。やれやれ、俺はこうして世界を人知れずに救ってるって訳。
ヒーローも楽じゃないな。
「セナノさんっ、一本どうぞ!」
「ん、ありがと……って、すぐに屋台に駆け込んだわね」
「舞ったらお腹空いちゃって……えへへ」
セナノちゃんと焼き鳥を頬張りながら、青空を見上げる。
今日も怖いくらいに快晴だ。
「今日はいっぱい食べますよぉ!」
「はいはい」
「セナノさんセナノさん、次はこのたこ焼きです! はい、あーん」
「エッ!?」
俺はたこ焼きを器ごと虚空より取り出す。
そして一つをセナノちゃんに差し出した。
本来であれば、たこ焼きの出所を疑う所だが今のセナノちゃんは、俺からの「あーん」で殆ど思考と視界がナイナイだ。つまり、怪しまれないってわけ。これがミスディレクションね。
『見事』
ソラも腕を組んでセナノちゃんの背後で頷いている。
ちびっ子ラーメン屋の大将みたいなポーズで可愛いね。
「セナノさん、どうしたんですか? 美味しいですよ」
「あ、あーん……」
セナノちゃんは意を決してたこ焼きを頬張る。
そして、すぐにたこ焼きの美味しさに気が付いたように、目を見開いた。
「うまぁっ!? えっ、なにこれ!? 今までの人生で一番美味しいんだけど! どういうこと!? ……って、あれ屋台にたこ焼きってあったかしら」
マズイ!
ミスディレクションで二回攻撃!
「セナノさん、今度は私に食べさせてください」
「え」
「あーん」
俺はセナノちゃんにたこ焼きの器を渡して、口を開く。
その時目を瞑って無防備に口を開いてこそ、神への信仰心が伝わるのだ。
『警戒心の無い巫女♂、見事』
ね。
「……っ」
セナノちゃんは俺を見て、顔を朱に染めると辺りを見渡した。
周りは俺達の事など気にしていないように、それぞれが祭りを楽しんでいるようだ。まあ、全員常に俺を視界にとらえているんですけどね。
そして俺も千里眼(空属性)でセナノちゃんを見ているけどね!
ほら、プルプル震えながら俺にあーんってしてくれ。
「あ、あーん」
「はむっ……うん、美味しいです!」
「そ、そう。良かったわ」
「じゃあ、次は私の番ですね」
「えっ、これなくなるまでやるのぉ!?」
「なーんて、冗談ですよ」
俺は悪戯っぽく微笑む。
さて、次はどうしてくれようかな。
『ソラ、何かリクエストはある? 今の俺なら、どんなコンテンツでも奏でられるよ』
『そうですか。では、今から来る者達を蹂躙して、ぶっ倒れてください』
『今から来る者達……?』
■
仮にその場に足を踏み入れた者がいるとすれば、戦場と錯覚するだろう。
森の中とは思えない程に殺気に満ちたネネと、どこか人を馬鹿にしたような気だるげなリョウシ。
二人は、その場から一歩たりとも動いていないが常に主導権を奪い合っていた。
両者の中に宿す荒神、あるいは呪いが目の前のソレを殺そうとしているのである。
「……つまり、私と戦うという事か」
表情は変わらず、しかしそれは最後の警告であった。
「相変わらずお前はこういう時だけ察しがいいな。もう少し質問してくれよ。いつもはポンコツの癖に」
「……私はいつも察しが良いが?」
「嘘だろお前」
彼は笑いながらくたびれたスーツの内側に手を伸ばす。
そしてシャツのボタンを外すと、自身の心臓部をネネへと晒した。
そこにはソフトボールサイズの何かがはめ込まれている。
正十二面体の、古めかしいパズルだ。
「ってなわけで、俺は久しぶりにこれを使おうと思う」
ネネはそれを見ても、表情を変えなかった。
代わりに彼女はカミキリをゆっくりとリョウシに向ける。
「S階位が相手でも、弟子の為なら私は殺すぞ?」
縁理庁にとって貴重な存在であるS階位同士の殺し合いは、避けるべき事ではあるが禁忌ではない。
実際、依頼により敵対した場合彼女達は、戦う道を選ぶだろう。
「まあ、なんだ……お互い仕事だし、後腐れは無くいこう。こっちはお前を殺す気は無いしな」
気だるげな様子で告げるリョウシを、ネネは不愉快そうに睨みつける。
「舐めているのか?」
「貴重な人材を自ら無くすわけないだろ。お前、一応は人間だし。体を替えるとか出来ないだろ。だから足止めだよな、やるべきは」
「っ、村の方に本命を送ったか!?」
ネネが村の方を向いた時、目の前には赤黒い体毛の5メートルはあろう大熊が立っていた。
口から吐き出される息は、血煙のようだ。
刃物のような爪には、ソエのものらしき血と肉がへばりついている。
感じるのは溢れんばかりの世界への憎しみと、怒り。
生きる者全てへと向けられた怨嗟が、生き物としての形を取っているようだ。
「開門――
リョウシは木に体を預けて、ネネに告げる。
それはまるで彼女への最後通告のように、冷たく響き渡った。
返事の代わりに、ネネの手の中でカミキリがガチガチと歯を鳴らす。
まるでその恨みの怪物すらも皿の上の料理であるかのように。
「熊鍋も良いな」
空の端から暗雲が侵食を始めている。
見ているだけで気分が悪くなるような雨雲だ。
「相変わらずの食い意地で安心したよ。今日に限って満腹じゃ困るからな」
「私は満腹になった事など無い」
やがて、森の奥から割れんばかりの激しい雨音が向かってくる。
間もなくここも雨空に見下ろされるのだろう。
「「……」」
そしてぽつりと一滴の雨粒が、傍の葉を揺らしたその瞬間に両者は――。
■
澄目村の方からも、雨雲はすぐに確認できた。
山の向こうからまるで津波のように大きく広い雨雲が、快晴だった空を塗りつぶしていく。
村人たちは、それを見てそそくさと雨を凌ぐ準備を始めていた。
が、その中で一人だけ、空を見つめる者がいる。
「……来ます」
「エイ?」
「セナノさん、行きましょう」
エイはそれまでセナノの手を借りていたとは思えない速度で走り出す。
風に白い衣装が揺れて、風のように村の中を突き進んでいった。
通り過ぎたエイを見て、村人たちは首をかしげる。
その前を、セナノは少し遅れて横切った。
「エイっ、どうしたの!」
「セナノさん……一つ、お願いです」
村入り口の石碑の前、エイは立っていた。
セナノの方を向かないまま、山の中に続く薄暗い砂利道を睨んでいる。
まるで、何かを見逃さないように。
「どうか、私と一緒にこの村を守ってください」
「……え」
しゃん、と鈴が鳴る。
澄んでいるのに、乾いて冷たい、心にのしかかるような恐ろしい音だった。
続くのは、人間には理解できない歪な歌。
唸るような声が重なり、一つの不協和音を作り上げている。
「何、この感じ」
「わかりません。けど、すごく良くないものです」
砂利道の影から、ゆっくりとそれらは姿を現わした。
ひび割れた鈴が数個しか残っていない神楽鈴を鳴らし、あるいは潰れた面をかぶり、異形達は暗雲と共に訪れる。
形や大きさすら様々な異縁存在が、まるで儀式を為すように列を作り、澄目村へと向かって進行をしていた。
エイを追ってきた村人たちは、その光景を見て口々に叫びながら村の奥へと駆けていく。
間もなく、村中に騒ぎは伝播し、祭囃子と相まって異常な様子となっていた。
しかし、エイだけはいつもの様子から一転して静かにそれを見つめたままだ。
無意識の内に口をついて言葉が出た。
「夜神楽」
予期せぬ凶兆は、今青空を飲み込もうとしている。
『なにこれぇ!』
『恐らく、前の夜神楽の個体を飼育していたんですねぇ。雑魚ですよ雑魚』
『じゃあ……無双タイムって事だね?』
『かしこい』
『っしゃぁ! どの異縁存在を降ろそうかなぁ……!』
『ふふふ、オソエのパーツでエイだけの異縁存在を作ることもできますよ』
『えぇっ!? そんな事も出来るのぉ!?』
『はい。もうエイは空に近いので』
『ん? まあ、いいかぁ! じゃあ作っちゃお!』