【8/24 1巻発売!】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
突如として現れた異縁存在達は、まるで何かを祭り上げているかのように統率が取れていた。
薄水色の水晶で体が出来た鹿や、妙に背の高い修道女、蜘蛛の脚が生えた大鐘など他にも合計13体の異縁存在。
神楽鈴を手に、今まさに儀式の途中であろうそれらは、澄目村へとまっすぐに向かっている。
その名を、確かにエイは唐突に「夜神楽」であると断定した。
それはエイというよりは、背後にいる神その物の言葉であるかのように、はっきりとしている。
エイは一度も、夜神楽を見たことが無い筈だった。
「セナノさん、これらは御空様の座を狙っています。窓を持たない異縁存在だからこそ、自身の存在を安定させるために強固な信仰を求めているのでしょう」
青い目が、全ての異縁存在を捉えてそう告げている。
「空になり替わろうって事?」
「恐らくは」
エイは、前に進む。
空写であるエイには、この村を守る義務があった。
「たた なが ひそ くく ことはら みなし な いず みよ」
座を持たぬ神に遠慮などいらない。
空へと侵攻してきた時点で、それらは敵なのだから。
「
澄目村を飲み込もうとしていた暗雲がぴたりと停止する。
そして、瞬く間に青空に塗り替えられた。
澄目村上空を青空が支配し、中心から青がその濃さを増していく。
どこからともなく聞こえる蝉の声が祭囃子と真っ向からぶつかり合う中で、エイの傍の空間が割れた。
「――
割れた空間の向こうから、翡翠色の四足動物に似たものが姿を現わす。
カモシカのような四肢に、麒麟の頭部と胴を持つ灰色の異縁存在だ。
毛の隙間からコケや草が生えており、その生き物自体が一つの自然であることを象徴している。
セナノはそれを目にした時、警戒ではなく感嘆してしまいそうになった。
妙な神々しさは、どう見ても異縁存在として括って良い物ではない。
これもまた、一つの神なのだ。
「力を貸してくださいね」
翠角は頭部に生えた二本の角をエイに見せるように頭を下げる。
明らかに格の高い神であろうそれも、エイには従順であるようだ。
「セナノさん、行きましょう」
「っ、わかったわ!」
セナノは懐からヒバリを取り出す。
本来、特殊な抑制装置にて保管することが原則のNARROWだが、彼女はその規則を守る気はさらさらなかった。
このような有事を想定していたわけではない。が、自身の師が常にカミキリを傍に置いていたことで警戒をしていたのである。
不幸中の幸いだろう。
彼女はすぐに、青空にヒバリを飛ばすことに成功していた。
「翠角に出来る事は?」
「距離と進行方向を自由に変えられます」
異縁存在は村の入り口まで来ていた。
だというのに、足を踏み入れる事が出来ていない。
一歩進む度に、何故か村から遠ざかっていくのだ。
まるで、山を彷徨っているかのようにふらふらとした足取りで、夜神楽は一心に澄目村を目指す。
しかし、翠角がそれを許さない。
「こんな感じで、村には入れません。ですが攻撃はセナノさんにお任せしたいです」
「任された」
セナノはステップを踏みながら、距離を詰めていく。
足元から火が迸り、同調してヒバリがすぐさま大きく変化をした。
鷲と同サイズにまで変化したヒバリは、燃えるかぎ爪を突き出して異縁存在に向かっていく。
そして激しい焔と共に傍にいた異縁存在へと飛び掛かった。
隣では、足に焔を纏ったセナノが修道女型の異縁存在の腹部に蹴りを入れている。
「エイをこれ以上、煩わせるな!」
修道女型の異縁存在が、身体に刻まれた構文を燃やされ、存在自体が焼却されていく。
それを見て他異縁存在達もセナノに殺到するが、いつの間にかセナノと異縁存在の間には距離ができていた。
「セナノさんを傷つける者は許しません」
エイはその場で異縁存在達を見つめている。
揺れる髪は、既に半ばまで青く染まっていた。
■
見て見て! これ、俺が作った異縁存在の翠角君!
かっこいいでしょ!
ここでいきなり、最強の異縁存在とか持ち出すようじゃあ、センスが無いね。
やっぱり空間を操ってトリッキーに戦ってこそでしょ。
俺ってば、最初からセンス光っちゃうね。隠しても、ヒーローってのは素質でバレちゃうか(笑)
.
『ふむ、翠角ですか。良いセンスですね後で伝承と村を作ってあげましょう』
『わぁい! ……って、え?』
伝承と村って後から出来るものだっけ……?
まあいいかぁ!
『エイ、第二波が来ますよ。まだ終わりではありませんから気を抜かないように』
『わかった』
俺は御空様からのありがたい言葉を告げる。
「セナノさん、また異縁存在が来ます!」
間もなく、山の奥から再び沢山の異縁存在が姿を現わした。
どれも、普通の縁者なら一体相手にするだけで大変そうな個体である。
そう、普通の縁者ならね。
ただ俺はSSSSSS階位の縁者だからなぁ!
「……仕方ないですね、あの子も使いましょう」
俺はもう一体の異縁存在を出すために、再びチートコードを唱える。
これ唱えなくても出せるんだけど、ソラが怒るから唱えなきゃいけないのだ。
「たた なが ひそ くく ことはら みなし な いず みよ」
俺はオソエキットで作ったもう一体の異縁存在をさも存在するかのように口にした。
「制縛、再臨――
俺の傍の空間が割れ、再び異縁存在がデリバリーされる。
『オソライーツです! 禍角お一つでお間違いないですか?』
『食べ物ではねえよ』
翠角は二メートル程度だったのに対して、禍角はその倍はある巨体だ。
黒曜石のような体表に、筋肉が盛り上がったシルエットは闘牛を思わせる。
頭部には余っていた角パーツ8本を贅沢に使用し、銀と赤の金細工で四肢と胸元を飾り付けた。
うーん、かっこいい。
いずれはこの二体をデフォルトで使いたいねぇ。
それ以外の異縁存在が怖すぎるから。
針金だとか鏡だとか空から降ってくるでっけえ嘴だとか。
『ふふふ、最初はそうやってカッコイイ異縁存在を作りたくなる気持ちはわかりますよ。でも、いずれ野生の異縁存在にも良さを見出して、色々と使うようになるんです。初心者プレイヤーあるあるですね』
そうなんだぁ。
ってあれ? 今、俺ソラに話しかけたっけ?
『話しかけましたよ。もう、興奮して忘れちゃったんですか? うっかり屋さんですねぇ』
『面目ねえ。じゃあ、気を取り直して、禍角発進!』
禍角は雄たけびを上げて、現れたばかりの異縁存在に向かって突進する。
すげー! ボーリングのピンみたいに異縁存在が跳んでいくわ。おもしろ。
「セナノさん、この子で私も加勢します!」
「あなたその髪っ……」
「今はそれどころじゃないですよ! 一緒に切り抜けましょう!」
髪はもうほとんど青く染まっている。
かっこいい。
本気出すと髪の色が変わるのに憧れていたんだよね。
嬉しいなぁ。
「無茶だけはしないで!」
「はい! 禍角、お願いします!」
禍角は角から赤い雷撃を周囲に放つ。
うおおおおおお! いいぞいいぞ! 和風ファンタジーバトルだぁ!
強いぞー! かっこいいぞー!
『オソライーツでーす』
『え、俺何も注文してないけど』
『戦闘後の気絶をお一つでお間違いないですか?』
『お間違いですねぇ』
『じゃあ心のドアノブにひっかけておくので』
『気絶をレジ袋に入れてるって事?』
翠角と禍角は、縦横無尽に山を駆け回り、異縁存在達を処理していく。
セナノちゃんもそれに負けず劣らずの速度で焼却を続けていた。
というか、セナノちゃんも強くなったなぁ。
俺と出会った時は、舞ってヒバリに戦わせるだけだったのに今じゃ、足に焔を纏って攻撃だもんね。
『ソラ、俺もあれやりたいよ』
『エイは近接格闘ヒロインではないので駄目です』
『ちぇっ……まあ、召喚士タイプもカッコいいか』
実際、今も非常に気分が良い。
そもそも夜神楽がどうしてここで起きているのかはわからないが、感謝しかない。
そろそろ第二波の異縁存在も倒しきれるかな?
『ソラ、第三波は?』
『無いですよ』
『やれやれ、もう終わりか(笑)』
少しは楽しめると思ったんだけどな。
どうやら俺が全力を出せる相手ではなかったらしい。
「……終わり、ましたかね」
辺りはなぎ倒された木や灰が散乱し、争いの跡がはっきりと残されている。
奴らの物だった神楽鈴は地面に転がっており、今まさに禍角に踏み潰された。
どうやら、夜神楽はこれで完全に終わったようだ。
じゃあ後は――。
「……ぁ」
体から力が抜け、俺はその場に静かに倒れる。
ポイントは音を出さない事!
セナノちゃんが振り返ったら、既に倒れている状況を作りだすんだ!
『よくわかっていますね、エイ^^』
■
合計32体の異縁存在の同時処理。
それも、二人の縁者だけで行った記録は過去に存在しない。
そもそも夜神楽とは大勢の縁者と大量の兵器で対応するものであり、区分としては災害である。
故に、それは縁者として、S階位として快挙であった。
「はあっ、はあっ……」
肩で息をしながら、セナノは周囲を警戒する。
もう異縁存在は姿を現わす気配が無い。
エイの言葉の通り、終わったようだ。
翠角と禍角も、役目を終えたのかその場に生まれた割れ目に入っていく。
そこでセナノはようやく、重く深い息を吐いた。
「師匠が居なくても、乗り切れた……」
怒涛の処理は、今までとは違う緊迫感があった。
彼女は既に脳内で自身の立ち回りの反省会をしながら、とある物を見つけた。
ヒバリが焼却した後に残った灰の中に残されたそれは、彼女も見覚えがある杭である。
「……封縁杭? なんでこれが」
見たところ最新の物であり、杭の上部には縁理庁の印である逆さ社が刻印されている。
それを拾い上げた彼女は、少しの間観察して一つの最悪な答えにたどり着く。
「まさか……縁理庁が仕掛けてきたの?」
今までの所業を考えれば、当然とすら言えるだろう。
「っ、あいつら……本当にッ……!」
セナノは杭を強く握る。
そして、エイの方へと振り返った。
「エイ、師匠とさっさと合流して、少し話を――」
思えば、エイは静かだった。
何も言わず、いつものようにセナノに抱き着いてこない。
疲労と怒りで染まった脳は、すぐにその異変に気が付けなかった。
「……あ」
青く染まった髪が地面に広がっている光景は妙に美しく、青空のようだと思ってしまった。
うつ伏せで倒れているエイは、何も言わず浅い呼吸を繰り返している。
「エイッ!」
セナノの声が、村に木霊した。
既に頭上の暗雲は全て払われ、深い青空が広がっている。
残酷なまでに青い青い空だ。
『あー、楽しかった! ソラ、次はいつ無双できるの?』
『またすぐに遊べますよ^^』
『最高!』