【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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書き溜めてました!
でも、ゲームしてたので大して溜まりませんでした!!(元気な無能)




第33話 田舎特有の距離の詰め方

 間もなく昼になろうかという平和な今日という日、海風の匂いが店の障子をゆらしていた。

 

 波の音が近い。

 港町特有の潮の湿気が、料理屋の畳にまで染みついている。

 テーブルにはまだ湯気の立つ焼き魚、貝の味噌煮、そして鮮やかな刺身の盛り合わせ。それから、海の幸をふんだんに使用した海鮮丼があった。

 果たしてそれらが一人分だと言われて誰が信じることが出来るだろうか。

 

「わぁ……!」

 

 エイは箸を握ったまま、目の前の料理に心を奪われている。

 どうやら彼女の頭の中からは既に異縁存在という言葉は抜け落ちてしまったようだ。

 

「よく噛んで食べなさいよー」

 

 向かいでは、セナノが静かに茶を啜っている。

 彼女にとって今の時間は待ち合わせの為の暇つぶしでしかない。

 

(これくらい不用心な方が、地元の人間には警戒されないか……)

 

 年齢に似合わぬ落ち着いた仕草だが、その視線はずっと窓の外を見ていた。

 店の外には、昼でもどこか陰のある海が広がっている。

 そして港の先にある山が、これから向かう予定の灯らぬ社の眠る場所だ。

 

「……魚が美味しい!」

 

 エイが噛み締めるように呟く。

 その声が妙に現実感を保ってくれて、セナノは小さく笑った。

 

「今のうちに味わっておきなさい。明日になったら、何も感じられなくなるかもしれない」

 

 軽口のつもりだった。

 だが、店の奥にいた老女の手が一瞬止まった。

 

 包丁の音が消え、空気が微かに凍る。

 しかし次の瞬間、何事もなかったように音が再開された。

 その不自然な間に、村の人々があの名を避けていることをセナノは悟る。

 

(畏怖の対象ではあるけれどこの落ち着き様。……この地ではあの異縁存在は恵みをもたらす神ではなく、何かしらの罰を与える秩序の機構なのかしら)

 

 地に長く根付く異縁存在というものは、必ず役割を持つ。

 そこから紐解いていくことで異縁存在の対処、蒐集、管理をするのは縁者としての必須技能の一つであった。

 

 そうしてセナノが茶の中で音を鳴らす氷を見ながら思考に耽っていると引き戸が音を立てて開いた。

 潮風とともに入ってきたのは、二人の黒衣の男。

 胸元には縁理庁の紋章が輝いている。

 彼らがこの地の 「封祀(ほうし)管理班」――地元で『灯らぬ社』を監視してきた縁者たちだった。

  彼らの黒衣は潮風で少々くたびれており、この地の監視任務がいかに長く続いているかを物語っていた。

 

「おばちゃん、こんちわ! とりあえず、蕎麦一つ!」

 

 二人の中でも若い男は、そう言って食堂の奥の老婆へと人の良い笑顔と共に声を掛ける。

 顔見知りであろう老婆は和やかに返事をして厨房へと消えて行った。

 

 その男の横では、顔に深いしわが刻まれた体格の良い男がセナノとエイへと頭を下げている。

 

「お待たせしました、三鎌セナノ殿。遠路ご苦労さまです」

 

 男が一礼する。声は低く、疲労と警戒の色を帯びていた。

 エイは真面目な空気を感じ取ってそっと箸をおこうとしたが、隣の男が「いいよいいよ」と言って食べる様に促す。

 

「この人、ずっとこの調子だから合わせると疲れちゃうよ。あ、ちなみに俺は小川(おがわ)。でこっちは大河(おおかわ)。最初に来たのがむさくるしい奴ばっかりでごめんね」

「いえいえ! あっ、私は折津エイです! 縁者の見習いなんですよ!」

「そっかそっかぁ! いやぁ、君達みたいな若い子が縁者になってくれるなんて助かるよ。ね、大河班長」

「久しぶりに外の人間と話せて嬉しいのはわかるが、私語は控えろ」

 

 大河の言葉に耳を傾けることなく、小川はへらへらと笑ってエイ達の隣のテーブルに移動する。

 丁度その時、一人分の蕎麦が運ばれてきた。

 

「ま、ここからは食べながら仲良くお話しましょうよ。短い間とはいえ、お仲間なんだから」

「……はぁ、セナノ殿、エイ殿すまない」

「別に構わないですよ。大河さんもそんなに畏まらないでください」

 

 セナノの言葉に大河は真面目に首を振った。

 

「いいえ。そうはいきません。貴女はS階位の縁者でしょう。そしてその下で見習いをしているならエイ殿もそれ相応の実力者の筈」

 

(まあ、あながち間違いではないわね)

 

 そう思いながらエイへと視線を向けると、彼女は空になった容器と隣のテーブルで湯気を立てる蕎麦を交互に見つめていた。

 

「……今日はもうおしまいよ」

「………………うぅ」

 

 やっぱりただの食いしん坊では?

 そう思ったが、セナノは口には出さない。

 

「エイちゃん、ここの蛸のから揚げってもう食べた? すっげー美味しいよ」

「から揚げ……! せ、セナノさん」

「はぁ」

 

 セナノは大河へと視線を向ける。

 すると大河は、少し表情を緩めて頷いた。

 

「注文していいから、そっちで食べてなさい」

「セナノさぁん!」

「抱き着く程の事じゃないでしょ。ほら、行って行って」

 

 エイはニコニコしながら蛸のから揚げを注文し、小川のいるテーブルへと移動する。

 どうやら、二人は食を通じて気が合いそうだ。

 

「さて、こっちは真面目な話でもしましょうか」

 

 セナノは大河と向き合う。

 海の幸の話題で盛り上がっているテーブルとは対照的に、こちらの空気は重々しく張りつめたものだった。

 

「現地の状況は?」

「結界は不安定です。昨夜、再び社の影が山頂に浮かびました」

 

 男の言葉に、セナノは顔を上げた。

 

「異縁存在に何か変化があったのかしら」

「……ひとつ、報告があります」

 

 大河は静かに口を開いた。

 

「前夜、山中で一名、行方不明となりました」

 

 コップへと伸びていたセナノの指が止まる。

 

「縁者?」

「いえ。隣町の一般人です。山菜取りに入ったとのこと。地元の者ではありません。……偶然、結界域に踏み入ったようです」

 

 そう言って差し出されたのは、手書きで雑多にまとめられた報告書であった。

 まだ提出する予定はなかったのか、いくつもの注釈が赤文字で記されている。

 

「見つかっていないのですね?」

「本人は。籠だけが見つかりました。中身は空。地面には足跡が残っていましたが、十数歩のところで急に消えていたそうです」

 

 セナノは黙って茶を飲み干す。

 すでに味がしない。

 

 山に入った人間が姿を消すのは、この土地では珍しいことではない。

 だが灯らぬ社の結界が膨張している兆候であれば、話は別だった。

 大河は声を潜めて続けた。

 

「村の者たちは『神が呼んだ』と言っています」

 

 店の奥で片付けをしていた老女が、その言葉に反応したように手を止めた。

 沈黙が落ちる。

 障子の向こうで、波の音だけがまるで遠くの祭囃子のようにゆらめいていた。

 

「……社の影は、今も確認できますか」

 

 セナノの声は低く、静かだった。

 

「いいえ。既に消失しました。観測地点での数値も正常です」

「成程。なら、一度その観測地点に行ってみましょうか」

 

 セナノがそう言って席を立とうとすると、大河は目を伏せる。

 その仕草には、申し訳なさがにじみ出ていた。

 

 まだ部下が食べ終えていないためか、と思い隣の席に目をやるがそこでは既に小川とエイが皿を空にしている。

 

「美味しい……!」

「でしょ! ここは海の幸が超うまいんだよぉ。あっ、後で俺が良くいくラーメン屋も紹介するよ。海鮮ラーメンがすっごく美味しくてさ――」

 

 このままだと、本当に観光に来たことになってしまうだろう。

 そう考えたセナノがその空気を変えようと立ち上がった瞬間だった。

 

「――ごめんなさーい! 寝坊しましたー!」

 

 からっとして耳触りの良い女性の声。

 そして食堂の扉が勢いよく開かれる。

 そのまま中に入ってこようとした人影は、そのまま扉の枠に額を激しくぶつけた。

 

「いたぁっ!?」

「大丈夫ですか……!?」

 

 セナノは慌てて駆け寄る。その後ろで大河のため息が聞こえた気がした。

 

「……遅刻だ、ミナコ。皆、お前を待っていたんだぞ」

 

 額を押さえて蹲っているのは一人の少女であった。

 小麦色の肌に短く切り揃えられた藍色の髪。

 真っ青なジャージを着ている事から、まるで部活動中の高校生のようである。

 

「ごめんなさい、班長!」

 

 ミナコは涙目になりながらゆっくりと立ち上がる。

 最初は見下ろしていたセナノは、やがて同じ目線、そして最後には大きく見上げる事となった。

 

「……でか」

 

 二メートルはあるだろうか。

 まるで巨人のような身長の少女は、セナノを見ると見様見真似ではないきちんとした礼をする。

 

「遠路はるばるようこそ! 潮目村へ! 私は海原(うなばら) ミナコって言います。18歳です! よろしくね!」

「……よろしく」

「よろしくお願いします。私は折津エイ。それにしても大きいですねぇ」

「えへへ……毎日新鮮なお魚を食べてたらこんなに大きくなりました!」

 

 ミナコとエイは穏やかに会話を始める。

 その後ろでは、小川がミナコの分であろう蕎麦を注文していた。

 

(一応……異縁存在の処理のために来たのよね?)

 

 あまりにもアットホームなその雰囲気に、セナノは大河へと目を向ける。

 大河は諦めた様子で首を横に振り、厨房へと手を上げる。

 

「俺にも蕎麦をくれ、おばちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『は?』

『えっ、なんでキレてんのソラ』

『…………いえ、別に。怒ってないですよ』

『いやでもさっき』

『なんですか^^ 私は怒っていません。そうですね?』

『ウィッス』




みなさーん

長身褐色の活発美少女は好きですかー?

(耳を傾ける動作)
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