【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
元は漁師小屋だったというその場所には、よくわからない機器がたくさん並んでいた。
こういう謎機械の配線は絡みまくっているのが定説だと思ったのだが、端っこにきっちりまとめられている。なんだか残念だ。
『ここが観測拠点ですか。成程、山の方ばかり見ているからあんなものを野放しにしているんですね』
ソラ曰く、山以外にやべー奴がいるらしい。
絶対に海にいるので、俺としてはさっさと解決してとっとと廻縁都市に帰りたいところだ。
だが、それをソラが許すかな!
許さねえよなぁ……。
「セナノ殿、これがここ一か月の観測地点の数値です。縁波密度や封応値に一定の乱れがあるのが確認できると思います」
「……確かに異常ですね。この数値が確認できた時刻は」
「16時から18時の間ですね。頻度も上がってきていますから、おそらくは今日も観測できるでしょう」
「数値の異常と共に社が出現を?」
「いいえ、あくまで社は中に侵入した人間がルールに違反した際に確認されます。今後確認できた時は、被害者が新たに出たときですね」
「成程……であれば、出来るだけ見たくはないですね」
セナノちゃんと大河さんは真面目な話をしているようだ。
それに比べて俺は、お菓子をご馳走になっていた。
「ここはたまに子供たちが遊びに来てさ、その時振る舞うようにお菓子を常備しているんだよね。結構たくさん来るからさ、用意しておかないと」
「ありがとうございます!」
『ありがとうございます!』
神様がご満悦で何よりです。
「エイちゃんってよく食べるよね。うんうん、見ていて気持ちが良いよ。ほら、私の分のチョコパイもお食べ」
「いいんですか?」
『貰える物は貰っておきましょう。特にお菓子なら止むを得ません。ご安心を。いかなる毒物であろうとも私の前には無力ですから。例え何が盛られていたとしても問題はないですよ^^』
それなら今後毒を盛られても安心だね。
『ですが、毒に苦しむエイはぜひ見てみたいので苦痛だけは残してあげます。後遺症無し、命に別条無し、地獄のような苦しみあり!』
うーん、倫理観無し!
『わ、わぁい。嬉しいなぁ』
『おっ、苦しむ気満々ですね^^ その意気や良し! 2.2天移ポイント!』
『キャンペーンが適用されてる……』
『キャンペーンなんて言葉、良く知っていましたね^^』
『この一週間で覚えました(震え声)』
『成程! 学びに対するその姿勢、とても感心ですね。追加で3.3天移ポイント!』
『やったぁ!(やけくそ)』
死ぬかくたばるかの二択で迫られることなんてあるんだね。
『いいですか、エイ。今の貴女はなんでも食べちゃう食いしん坊。しかも、人の悪意というものに鈍感なので、もしも悪意を持った人間が近づいても気が付きません。そこで貴女は毒を盛られて苦しんでしまうのですよ』
しまうのですよ、じゃないんだよなぁ。
今後どうやら俺には服毒イベントが待っているようだ。そんなの予約されることあるかよ。
『無垢な人間が悪意により苦しむ姿でしか得られない栄養もあるのです。エイ、口の端っこから泡拭いて痙攣しながら倒れてください。そして、あとで嘔吐もぜひ!』
『ソラってそういう趣味あるよね……』
『可哀そうは可愛い、コンテンツの基本ですよ。そしてバッドエンドよりもメリーバッドエンドの方が好みです』
『……ち、ちなみに俺の終わり方は?』
『? そんなの天移に決まってるじゃないですか。だからハッピーエンドですよ』
『そっかぁ』
『ハッピーエンドが決まってるなら、道中で何がどうなっても大丈夫ですよね』
『大丈夫じゃないです!』
大丈夫じゃないです!!!!
『そんなこと言って、本当は嬉しい癖にー!』
『いや、俺は本当に『^^』ハハ、ソッスネ』
どうして縁理庁はこんな化け物を放っておいたんだろう。
灯らぬ社よりもこっちを対処するべきだろ。
どうすんだよ、人類巻き込んだメリバとか目指し始めたら。
俺嫌だよ。コンテンツが原因で人類が滅亡するのは。
『エイ、私と話してばかりいないできちんと難しい話も聞かないといけませんよ? 貴女には時折直感に任せて鋭い事を言う仕事があるのですから』
『それ指示されてたら直感じゃないっすよね』
『そして無知のふりをして沢山質問をしなければなりません』
『それ指示されてたら無知じゃないっすよね』
『ん?^^』
『頑張ります!』
監督がそういうなら俺はそうするしかない。
よーし、頑張るぞー。
■
セナノは内心でホッと胸を撫でおろした。
それは、この異縁存在の実態が自身の想像を下回っていたからである。
(ただの民間伝承を窓としている異縁存在ね。確かに、普通の縁者の卒業試験としては丁度いい難易度だわ)
今まで処理してきた二体の異縁存在は異常であったと、セナノは改めて思い返す。
異縁存在同士が合わさった特異個体に、縄張りを乗っ取り活動していた強力な異縁存在。
どれも、生涯で一度だけ出会うであろう難易度の依頼であった。
たとえ、処理を成功しようとも失敗しようともである。
(これならさっさと解決できそうね。エイの初任務には丁度いいわ。伝承型の処理って経験がないと色々と躓くことが多いし)
セナノにとって、今回の任務は成功して当たり前の任務であった。
何せ、彼女は既にS級とA級の異縁存在を対処しているのだ。片田舎の異縁存在相手に手を焼くわけがない。
(あとは、どれだけ被害を抑えることが出来るのかだけれど)
成功は当然。
後は、どれだけ完璧な形で成功させるかであった。
「仮にこの村から人を全員避難させるとしたら、どれくらいかかりますか」
「受け入れる施設があれば、一日で完了できます。総人口は100名程度。尤も、その殆どがご年配の方々ですからこちらでの補助は必須になりますが」
「成程。なら全員が避難するのは難しそうですね」
その言葉に、お菓子を食べながらエイが首を傾げて手を上げた。
「皆さんで隣の町まで行けばよいのではないでしょうか。バスとかありますよね?」
「それを灯らぬ社が許せばいいわ。けれど、もしも逃がさないように結界の範囲を無理矢理広げてきたら? それに、夜に明かりを灯す行為に忌避感を持つこの村の人間が外に一斉に出た場合、その場所で新たに灯らぬ社が観測される場合もある。土地に根差すか、それともその土地に住む人々の意識に存在するか。伝承型は、それを理解することが重要よ」
「成程。セナノさんは相変わらず凄いですね!」
「ふふん、そうでしょうそうでしょう。メモしておきなさい!」
「はい!」
エイは目をキラキラと輝かせてノートに先ほどのセナノの言葉をメモする。
それを隣で見下ろしながら、ミナコは感心した様子で何度も頷いた。
「おぉ、熱心だなぁ。私なんて座学は全部寝て過ごしたのに」
「それで良く縁者になれたわね……」
「ぜーんぶフィジカル! 私ってば腕っぷしには自信があるからさ」
腕をぱしぱしと叩いてミナコはその筋肉を見せつける。
その身長もあって、まるでヒグマを前にしたかのように十分すぎる迫力があった。
「あーあ、NARROWがあればもっと活躍できるんだけどなぁ。灯らぬ社も一人で処理できたりして」
「あんな高級品がこの村に配備される訳ないだろ」
「わかってますよ班長。ねえねえ、セナノちゃん。後でヒバリを見せてよ。私、本物のNARROW見てみたい!」
「いいわよ。いくらでも見せてあげる。それに、灯らぬ社を処理する時には起動しているところも見せてあげるわ!」
「おぉ! 楽しみだなぁ!」
胸を張るセナノとそれに惜しみない賞賛の拍手を送るミナコ。
その二人を交互に見て、エイは自身の存在をアピールするように手を上げた。
「はい! それで、これからセナノさんはどうする予定ですか?」
「そうね……とりあえず、この村の歴史とか知りたいわ。大河さん、この村の郷土資料館に案内してくれます?」
「はい。……おい、小川行くぞ。さっさとお菓子をしまえ」
「はいはい、すいません。……あ、エイちゃん、いくつか持っていく?」
「いいんですか!?」
「遠足じゃないんだから……」
セナノの呆れた言葉は、窓から吹き込む潮風に流れて消えていった。
『うーん、データじゃなくて書物なら改ざんできませんね。残念です^^』
『しなくていいから』