【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第46話 現場のソラさーん!

 東の空が、ゆっくりと白んでいく。

 夜が溶けるように退いていき、潮目村の海はまだ眠たげに波を寄せては返していた。

 

 昨夜の戦いが嘘のように世界は、空は静かだった。

 

 セナノは海辺の石段に腰を下ろし、寄せてくる波の音をただ聞いている。

 夏の夜明けは少しだけ湿っていて、風が頬を撫でると少しだけ塩の味がする。

 

「ふぁ……」

 

 彼女の隣には、エイが座っていた。

 まるで影のようにぴったりと寄り添い、肩が触れそうな距離で海を眺めている。

 エイは何も言わずに静かに欠伸をして背中を少し丸めていた。

 

 セナノは彼女はここにいることを当然のように受け入れているようで、欠伸をするたびにエイが体を預けてくるのではないかと気にしている。

 

 波が寄せる音が、少しずつ明るくなる空に溶けていく。

 山の中からよくわからない鳥の声がまばらに聞こえ始め、村の空気も少しずつ目を覚ましていく。

 

 その音に混じって、背後から砂利を踏む足音がした。

 

「セナノ殿!」

 

 振り向くと、大河と小川が息を切らしながら坂を降りてくるところだった。

 ふたりとも夜通し働いていたのだろう、服には土と葉がついている。

 

 まず始めに、大河が真っすぐセナノへ向き直り深く頭を下げた。

 それに合わせて小川もぺこりと軽く会釈をする。

 

「報告の通り、灯らぬ社は完全に消えていました。影の残滓も、結界の歪みも、一つとして確認できません。本当に……終わったようです」

 

 その声には安堵と、言いようのない恐れが混じっていた。

 長年頭を悩ませていた異縁存在が突然処理されたとを思えば無理もない。

 

「まさかあんな形で消えるとはねぇ。俺はてっきり、昨日はまだ観察の段階で一週間くらいは準備すると思ってましたよ。それがまさか、二人だけで成し遂げるとは……」

 

 小川が苦笑しながら頭を掻く。

 

「一応、報告書をまとめるために現地縁者であるミナコも連れて行きましたよ。だから、三人です」

 

 灯らぬ社はセナノにより処理がなされたという事実で纏められた。

 空澱大人の存在は同じ縁者とはいえ、情報規制の対象である。

 

 故にセナノは、自分が処理したという体で労うように言葉を掛けた。

 

「現地確認ありがとうございます。NARROWを使った後だと流石にそこまで行う体力的余裕が無くて。……まだまだ精進の身です」

「いやいや謙遜を。昼間の幼体ですらあの騒ぎ。ならば、十分に山で育った個体はより厄介だったことでしょう。まったく、今まで誰も処理をしようとしなかったのが不思議なくらいに危険な異縁存在でした」

「……そうですね」

 

 そう。この異縁存在はセナノ達が初めて処理を担当したのだ。

 もしかすると過去には大河達と交流を深め、準備をして挑んだ縁者達もいたのかもしれない。

 が、それも今となっては確認のしようが無かった。

 全ては闇の中に存在ごと葬られたのだから。

 

「おかげで俺ら、朝まで山中の確認でヘトヘトっすよ……。あ、というか、そのミナコが今朝からどこにもいないんですよ! アイツ、また海に行きやがった!」

「昼前には戻ってくるだろう。いつもの事だ。報告書は任せておくか」

「えぇ! じゃあアイツの担当する山は俺達が調査するんすか!? ……いてっ!?」

 

 頭をぺしんと叩かれ、小川は痛みに悶える。

 

「この程度の仕事で済んでいるのだからマシだと思え。まったく、申し訳ございません。セナノ殿とエイ殿はあとは休んでおいてください。後は私どもで片付けますので」

「ありがとうございます」

 

 海を眺めたまま、セナノはそう答える。

 嘘と欺瞞だらけのこの功績を前に大河に笑顔を向けられるほど、彼女は図太い人間ではない。

 

「では、私達はもう少しだけこうしています」

 

 隣のエイはまだ海を見ていた。

 波がさらりと砂を撫でる音が、会話の隙間に流れ込む。

 

「では、私達はこれで」

 

 大河の言葉に、セナノは小さく頷いた。

 そして同じように視線を海に向ける。

 

「ごめんなさい、エイ。貴女の手柄を横取りしてしまう形になって」

 

 視線を隣へ向ける。

 

 エイは夜明けの光を受けて、髪が淡く輝いていた。

 その表情は穏やかで、昨夜あの異常存在を圧倒した面影はどこにもない。

 ただの少女のように朝の海を眺めている。

 

「いいんですよ、私はセナノさんが見ていてくれたらそれで」

 

 エイはそういって小さく微笑むと少しだけそちらへ寄った。

 小さく袖をつまむようにして、彼女はセナノの腕に触れる。

 

「……セナノさん。海って朝も奇麗なんですね。割れたガラスみたいにキラキラ光っていて綺麗」

「気が済むまで見ていて良いわよ。夕方に帰る予定だから、ゆっくりしましょう。普段は夜更かししないんだから、今眠いんじゃないのかしら。このまま少し眠っても良いわよ?」

「うーん……ちょっとだけ眠いです」

 

 エイはそう言うと、こてんと頭をセナノに預ける。

 それは恋人と言うよりは、姉に甘える妹のようだ。

 

「ふふ、おやすみなさい」

 

 灯らぬ社を一瞬で処理してしまう程の圧倒的な存在が、今はセナノに寄り添う無邪気な少女にしか見えない。

 しかし、昨夜の上空で目が開いたあの瞬間を思い出すと、疑う気にはなれなかった。

 

 淡い朝焼けが海を照らし、波間に金色の光が揺れる。

 潮目村の長い夜が、ようやく終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 灯らぬ社を倒して無事に事件解決!

 空澱大人の力を使えるSSSSSSSSSランクの俺は縁者として無双!

 

 うーん、最高!

 なのは良いんですけどぉ……ソラが近くにいないのが不安なんですよねぇ。

 

『ソラ、どこにいるの?』

 

 俺のテレパシーにも返事はない。

 ソラは一緒に山を下りた筈なのだ。

 しかし、海で寄り添えという指示を出してからその姿が見えない。

 

 すっごく不安です。

 監督、俺はこれからどうすればいいんですか?

 とりあえず、セナノちゃんの肩で寝ていれば良いですか?

 

 潮風は心地が良く、昇ってきたお日様もポカポカでグッド。

 なのに俺の心にはどうしても暗雲が立ち込めていた。

 

 ソラという特大のコンテンツモンスターが姿を消したのが怖くてしょうがないのである。

 それとミナコちゃんもいないのが怖い。あの子も気が付いたら姿を消していた。

 

 お願いだから、厄介ごとは起こさないでひょっこり戻ってきてくれー!

 

 

 

 

 

 

  夜が終わる直前の空は、まるで息をひそめていた。

 

 太陽が昇るはずの東の地平はまだ色を持たず、海も風も、鳥の声さえも、すべてが沈黙している。

 その静けさは自然のものではなく世界が干渉を拒んでいる沈黙だった。

 

 丘の上。

 少女がふたり、向かい合っていた。

 

 一人は、幼い少女の姿をしている。

 だがその瞳と髪は深く、空の亀裂と同じ高次元の青を宿している。

 

 空澱大人の疑似形態。

 人の姿をしているだけで、そこに人間が宿っている気配はない。

 

 もう一人は、潮風に焼けた肌の大柄な少女。

 名を、海原ミナコ。

 しかし、その中に宿るものはミナコではない。

 

 海の底の古層が生み出した、涙と潮と祈りの神――潮哭ノ巫女。

 

 彼女の周囲には、静かな水が存在していた。

 何もない空間に、濡れてもいないのに湿った匂いと海鳴りが同時に生まれる。

 

 少女の姿でありながら、どちらも災主級。

 世界そのものを変質させる階位に位置する存在。

 

 ふたつの存在が対峙した瞬間、世界はわずかに傾いた。

 

 重力が狂ったのではない。

 均衡が破られたのだ。

 

 空澱大人の足元には、いつのまにか影がなかった。

 影という概念そのものが拒絶され、彼女の立つ地面はまるで青空を映したように薄い青。

 

 彼女がまばたいた瞬間、空の色が一瞬だけ変わった。

 朝を迎えるはずの空が、深海のような暗い青と裂け目の白に染まったのである。

 

 一方、潮哭ノ巫女は波紋のように空気を揺らす。

 彼女の周囲にだけ見えない水がある。

 滴りもせず、流れもせず、ただ揺らぎとして世界に刻みつけられている。

 

 彼女が拳を握ると、丘の草が一斉に海風に押し倒された。

 

 その中心で、空澱大人は微笑むでもなく、無表情で巫女を見つめている。

 

「「――ッ」」

 

 二人の間に、いつのまにか迷宮が生まれていた。

 

 空澱大人が生み出した迷宮は、色のない空間。

 世界と言う名の紙を破ったように、現実が青の世界で途切れている。

 

 潮哭ノ巫女が生み出した迷宮は、沈んだ光の海。

 浅瀬なのに底が見えず、水が存在しないのに深海の音が響いている。

 

 ふたつの迷宮は決して混ざらない。

 互いの境界が触れようとした瞬間、空気がみしり、と軋んだ。

 

 世界が限界だと訴えているような悲鳴。

 その中で、ふたりの少女だけが平然としていた。

 

 ミナコ――潮哭ノ巫女が低く言う。

 

「私に喧嘩を売っているって事でいいんだよね?」

 

 ソラは、ゆっくりと首を傾げた。

 

「最初に喧嘩を売ったのはお前だろう、潮哭ノ巫女」

 

 その声は無邪気で柔らかいのに、問答無用の観測圧が込められていた。

 

 ミナコの足元の海が静かに波立った。

 空の迷宮が無音で裂け目を広げた。

 

 世界が二つに引き裂かれようとしている。

 

 夏の夜明けの空がふたりの存在を前に震え、色を失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




急に変なお侍さん達が押し寄せてきてオイラこわいよぉ……!
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