【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
「つぎのぎゆうとです。ご、五歳ですっ」
顔をほんのり朱色に染めながら、ユウト君はそう名乗った。
パジャマの裾をぎゅっと握って、俺達へとチラチラ視線を送る姿は愛らしい。
頭をわしゃわしゃと撫でてでっけえハンバーグと玩具でもくれてやりたい気分だ。
『ふむ、男の娘×ショタですか。中々この夏に相応しい趣深さですね』
『ソラってそっちもいけるんだね……』
『この数年で何度かコンテンツの祭典に足を運びましたからね。ある程度は人間のコンテンツ価値観を理解できているつもりですよ。なので、貴方にはこれからあの子の初恋のお姉さん♂になって貰います』
『人の心とか無いんですか!?』
『私は人ではありませんよ^^』
『そっかぁ』
じゃあしょうがないな!
じゃねえのよ。
「しっかり自己紹介出来て偉いね~! 私はハカネお姉さんだよー。こっちはセナノお姉さんで、あっちはエイお姉さん」
「よろしくね、ユウト君」
「ユウト君も一緒にお菓子食べますか? こっちにおいでー」
俺達の言葉にユウト君は再びモジモジしてしまった。
わかる、わかるよユウト君。
お姉さんのお友達なんて、ちょっと緊張しちゃうよね。
俺だってそっち側だったらドキドキだもん。それに全員の面が良いんだから、なおさらだよ。
むしろここで遠慮なく来てたら俺は君を異縁存在かと疑っているところだ。
「……おねえちゃん」
「はいはい。もう、照れちゃったの? ……ごめんなさい、皆さん。この子、照れちゃってるみたいで」
「ふっふっふ、セナノ先輩が美しくて照れちゃったのかな? セナノ先輩、こんな幼気な少年の初恋も奪っちゃうなんて罪な女ですねぇ」
「えっ私!? そんなこと言ったらハカネやエイだって……うーん、いやエイは、うーん……」
「どうかしましたかセナノさん。……あ、というかお菓子食べてもいいですか! 私、ずっとこのポテトチップス? っていうの食べたかったんです!」
そう言って俺はお菓子を取り出す。
少年、ここは俺と一緒に男同士仲良くしようや。
「まあしょうがないわね」
「やったぁ! セナノさーん!」
「ちょ、抱き着かないで! ちっちゃな子も見ているのよ!」
「見ていない場所ならいいんですかセナノ先輩!? 同棲しているって言ってたけど、もしかして……あ、あぁ……」
ハカネちゃんが絶望した顔で崩れ落ちる。
その姿があまりにも可哀そうなので、俺はハカネちゃんにも内心で謝罪をしつつ抱きしめることにした。
「ハカネさんも寂しいんですか? じゃあぎゅってしてあげます!」
「セナノ先輩っ、エイちゃんって誰にでもこうなんですか!?」
「誰にでもって訳じゃないけれど、大体こうよ」
驚くハカネちゃんを無視して俺は優しく抱きしめる。
その時監督の方を見たが笑顔だったのでたぶん大丈夫だ。
『成程、その組み合わせもありですね。エイが相手に嫌味を言えるキャラ付けだったなら、喧嘩百合ップル(可変)も可能だったのですが……』
大丈夫じゃないかも……。
『か、監督! そんな事よりも、このままだとユウト少年がいつまで経っても恥ずかしがって俺に近づかないです! どうすれば良いでしょうか!』
『焦らない焦らない。その辺は私に任せてください。それにあの年頃はまだこちら側を感じ取りやすいので、認識をちょいといじれば好感度が上がりやすくなりますよ!』
ここまで不安になる任せてくれが過去に存在しただろうか。
上位存在初恋ブーストがユウト君へ迫る――。
「ふふっ、なんだか愉快な人達だねユウト」
「うん。ねえ、おかしって僕も食べていいの?」
「いいよ。今日だけ特別ね」
「……うん! お母さんには内緒ね?」
「…………勿論。内緒に決まってるじゃん」
セイカちゃんはそう言ってユウト君の頭を撫でる。
一瞬泣きそうになったようだが、姉としての矜持があるのかぐっとこらえていた。
依頼書を見たが両親を含めた家族は既に死んでおり、残されたのはこの二人だけ。
きっと幼い弟の為に嘘をついたのだろう。
明るく振る舞っているのも、きっと弟を不安にさせないためだ。
「ただし、きちんと歯磨きするのよ?」
「わかった! じゃあねじゃあね、僕はこのおかしが食べたい!」
そう言ってユウト君は無邪気にテーブルいっぱいに並べられたお菓子を指さす。
その顔は完全にお菓子に興味が向けられていた。
お姉さん軍団、敗北の瞬間である。
くそっ、相手が中坊だったら感情が手に取る様にわかるってのに!
「あ、私もそれ食べます。というか、全種類食べます。セナノさん、私も歯ブラシセット持ってきたので好きに食べていいですよね!」
「報告書……ええ、勿論!」
一瞬、すごく面倒くさそうな顔をしたがセナノちゃんはこの空気を壊したくないのか笑顔で承諾した。
俺は礼を言ってお菓子が並んだテーブルに向かう。
そしてユウト君と並んでお菓子を選ぶことにした。
先ほどまで照れていたというのに、今のユウト君はお菓子の喜びに完全に感情を支配され俺が隣にいても何も思わないようだ。
「こっちのあじがおいしいよ!」
「わあ、ありがとうございます!」
それどころかオススメまで紹介してくれやがった。
これが好感度ブーストの力か……?
『ここで伏せ札オープン!』
その言葉と共に何故か紙パックのオレンジジュースが爆発する。
明らかに指向性を持って液体が飛び散った先には、俺とユウト君がいた。
「うわっ」
「きゃぁっ(演技◎)」
顔と服にべったりオレンジジュースが飛び散り、俺は咄嗟に可愛い悲鳴を上げる。
『監督! 信罰が攻撃してきたよぉ! 花嫁だして! 花嫁!』
『同じやつばっかり使うのはちょっと……。というか、そもそもこの爆発は私の仕業ですよ』
『え? なんで……?』
『だって、こうすれば出来るでしょう? ――お風呂タイムが』
「っ、けほっ、けほっ」
「エイ大丈夫!?」
「ユウトっ!」
「うぅ、おねえちゃんびちょびちょになっちゃった……」
すぐに二名の保護者が駆け付け、怪我がないか見る。
セナノは俺の姿を見て神妙な顔でこう言った。
「最初は嫌がらせからって事かしらね、信罰」
「セナノ先輩、今回は想像以上にアグレッシブなようですね……」
冤罪である。
まさかもっとやべえ奴が下らねえ私情の為に始めたとは思わないだろう。
『さ、これで貴方はシャワーを浴びるしかなくなりましたね^^ きっとあちらから提案してくることでしょう』
「う、セナノさぁん、お洋服がベトベトです……」
「大丈夫よ。ほら、とりあえず顔を拭きなさい。それから……貴方の御空様はどうかしら」
「? 特に何も言ってこないですね」
セナノちゃんはホッと胸を撫でおろす。
まあ、彼女からすれば災主級の疑似媒介体がちょっかいを掛けられたように見えているので、場合によっては空澱大人がここに介入してくると思っているのだろう。本当にごめんね! 俺のせいで仕事が余計に面倒になっているよね!
罪悪感に駆られている中、セイカちゃんは俺を見て提案をしてきた。
「あの、よければうちのお風呂を使いませんか。夏場とはいえ、このままだと風邪を引いてしまうかもしれません。せっかく来ていただいたのにそんなの……」
「あ、私は大丈夫です! 代わりに、近くの川とか教えていただければ」
「絶対に止めなさい。……ごめんなさい、じゃあお借りするわね」
セナノちゃんが止めてくれることに全幅の信頼をおいた俺の発言により、華麗にシャワーを借りることが決定する。
『今が好機です!』
『はいっ、監督!』
俺は無邪気な笑顔を浮かべてユウト君を見た。
「せっかくなら、一緒にどうですか?」
瞬間、この場の空気が止まる。
わかるぞ、ここは今俺と監督が支配した……!
「うぇっ!?」
ユウト君が顔を真っ赤にして固まった。
大丈夫大丈夫。君くらいの年なら従妹のお姉ちゃんとお風呂に入っても何もおかしくないよ。
「で、でも……その……」
再びモジモジし始めたユウト君を見て、俺は安心させるように同じ目線になる様にしゃがみ込む。
「大丈夫ですよ。ここは――」
俺が何を言おうとしているのか理解したのか、セナノちゃんが「あっ、ヤベッ」とう顔をした。
「エイ、ちょっと待っ――」
「男の子同士、お風呂で洗いっこしましょう!」
再び空気が停止する。
監督はそれを見て、腕組みしながら何度も頷いていた。
「えっ、エイちゃんって男の子だったんですか!?」
「セナノ先輩! 同棲しているって言ってましたけど、これって……あ、あぁ」
純粋に驚くセイカちゃんと何かを想像して崩れ落ちるハカネちゃん。
そして事情を説明せざるを得なくなり、天を仰ぐセナノちゃんと色々な情報が小さな脳みそに入り込んで情報処理の限界を迎えたユウト君。
俺はそれらをニコニコと見つめていた。
でも俺は悪くねぇ!
監督がやれって……!
俺だってこんな事はしたくなかったんだ! 真面目に異縁存在を処理したかったんだ!