【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第57話 このコンテンツは後日お受け取りいただけます

 朝の光は、ちゃんと差し込んでいた。

 危機を乗り越えたという事実をこの家の人間に証明しているように眩しい。

 

 カーテンの隙間から薄い金色が伸び、フローリングの木目に沿ってゆっくりと広がっていく。

 昨夜、あれほど黒が積み重なっていた場所が、同じ部屋とは思えないほど穏やかに見えた。

 

 ユウトは起きてきたものの、まだ顔色が悪かった。

 眠りが浅かったのだろう。まばたきの回数が多く、音に敏感で、どこか遠い。

 ついでに、時折エイへと視線を向けては不思議そうに首を傾げていた。

 

 その様子を見たセイカが、深く頭を下げる。

 

「……本当に、ありがとうございました」

 

 礼は丁寧で、声も落ち着いている。

 深く感謝をしているようで、その肩は僅かに震えていた。

 もしかすると、最悪の想定をしていたのかもしれない。

 

 その横では、寝癖を付けたハカネが固まっていた

 

「……え、私、も、もしかして」

 

 セナノが頷くより早く、ハカネは顔面蒼白になり、その場で畳に頭を擦りつけた。

 

「すみません!! 平謝りします!! 自分、五体投地いきます!」

「いかなくていいから」

「でも! そもそも私の任務なのに……。守るって言ったのに、私、寝てて……!」

「謝るなら、今夜から起きなさい」

 

 セナノは淡々と返し、すぐに話を切り替える。

 何よりも優先するべきことがあった。

 

「セイカ。貴女は学校に行きなさい」

 

 セイカの肩が、ほんのわずかに跳ねた。

 それから遠慮がちに視線を彷徨わせて、恐る恐ると言った風にセナノに告げる。

 

「……今日は、休みたいです。その、最近はクラスメイトも流行りの風邪で休んでいる子が多いので。先生も信じてくれると思います。」

「もしかして、ここ最近はずっとそうだったの?」

「はい。……ユウトを一人にもできませんから」

 

 セナノは一拍置く。

 彼女の考えは変わらなかった。

 

「行きなさい。短時間でもいい」

「……」

 

 セイカの視線が、窓の方へ一度だけ流れた。

 そこには朝の光がある。

 なのに、その光を見た瞬間だけ、セイカの瞳が焦点を失ったように見えた。

 

 それでも彼女はすぐに笑う。

 

「すみません。……行きます」

 

 謝罪が先に出る。

 行きたくないより先に、迷惑をかけたくないが来るのだろう。

 セナノは若干の罪悪感に苛まれそうになった思考を振り切って、誰よりも明るく強気でつげる。

 

「それじゃあ、朝ご飯にしましょう!」

「あ、じゃあ私作りますよ!」

「貴女は座ってなさい。食べる専門よ」

「わぁい! ……あ、そうでした」

 

 エイは立ち上がり、注目を集めるように手を上げる。

 そして、咳払いを一つしてからはきはきとこう言った。

 

「昨日みたいに驚かせたくないので先に言っておきます! 今日の私は女の子なので、ユウト君とはお風呂に入れません!」

「あぁっ」

「「「ん!?」」」

 

 ハカネ、セイカ、ユウトの思考が吹き飛び、セナノは危うく卵パックを落としそうになる。

 彼女のカミングアウトの衝撃は、この家に巣食う異縁存在よりも強いものだった。

 

「……あ、でもどうしてもって言うなら要相談です!」

「しなくていいから。ほら、味見係としてこっち来なさい」

「はーい」

「セナノ先輩、どういうことですか!? 私は既に冷静さを、こう、どっかに、欠いて……!」

「はいはい落ち着いて。後で詳しく説明はするけれど、今はそうね……」

 

 セナノは持参した新品同然のフライパンを構えて、こう言った。

 

「体質よ」

 

 

 

 

 

 

 朝食を終えてからのセイカの支度は早かった。

 制服を着て、髪を整え、鞄を持つ。

 鏡を見ない。

 髪の乱れを確認しない。

 身だしなみというより、制服という外殻を被るだけの動作だ。

 それでも体が覚えてくれていたのか、不思議といつも通りの朝に近い。

 母が急かす様に声を掛け、廊下で祖母とすれ違い、既に出社しており父の靴がなくなっていることを確認する。

 

 そんな家族との交流が消えただけで、それ以外は殆どが同じだった。

 

「ユウト、いい子にしててね」

 

 優しい声。姉らしい言葉。

 ユウトは小さく頷いたが、セイカはその反応を確かめない。

 

 玄関へ向かう途中、セイカは廊下の途中で一度だけ立ち止まり、仏間の戸に視線を置いた。

 

 ほんの一瞬。

 祈るでもなく、怯えるでもなく、ただ「そこにある」と確認するように。

 

「行ってきます」

「お姉ちゃんいってらっしゃい」

「家は私達に任せなさい」

 

 振り返らずに出ていく。

 扉が閉まる音が、やけに綺麗だった。

 

 少しして、セナノは小さく息を吐く。

 

「……さて。ハカネ、家の中を当たるわよ」

「はい……! 今度こそ役に立ちます!」

「やる気を出すのは良いけれど、家の物を壊さないでよ? 許可を貰っているとは言え、人様の家だから」

「はい!」

 

 セナノとハカネが廊下の奥へ消えると、リビングにはエイとユウトが残った。

 エイに課せられた仕事、それはユウトの遊び相手である。

 

 一緒にお風呂に入った事や、昨晩抱きしめて寝ていたことから問題ないと判断したセナノにより、エイが最適だと判断されたのだ。

 

「ユウト君、怖かったですね」

 

 エイがそう言うと、ユウトは少しだけ口を結ぶ。

 その際も、視線はエイをチラチラと見ていた。

 昨日と同じ、大きめのサイズのシャツの隙間から覗く胸元は大きく意味を変える。

 その事にドキリとしながらも、ユウトは頑張って悟られないように頷いた。

 

「……うん」

 

 エイは無理に掘り返さず、テレビをつけ、玩具を出し、できるだけ普通の朝の形を整えた。

 しばらくして、ユウトがぽつりと呟く。

 

「……そと、いきたい」

「外ですか?」

「おねえちゃん、だめって」

 

 ユウトの声には、諦めが混じっていた。

 禁じられていた理由も知らないのに、禁じられて当然だと思っている。

 

「いつから?」

「……ずっと。おねえちゃん、外がきらい。おにいちゃんもお出掛けする前は、おへやにずっといたの」

 

 エイは黙って窓の方を見る。

 外は明るく、いたって普通だ。

 異縁存在が存在する家の中よりもずっと安全だと言っていいだろう。

 

「うーん、ユウト君を一人にしたくなかったんですかね?」

 

 考えたところで、答えは出ない。

 エイに出来ることは、セナノに言われた通りにユウトと仲良くする事だけだった。

 

「じゃあ」

 

 エイは声を少し明るくした。

 

「私とちょっとだけ、お散歩しましょうか」

 

 ユウトの目が見開かれる。

 

「……いいの?」

 

 エイは辺りを見渡して、人差し指を突き出す。

 そしていたずらっ子のように笑った。

 

「内緒ですよ? 二人でコンビニでお菓子買いましょう。あの、色が変わる練るやつがいいです」

「おかし……!」

 

 ユウトの顔がぱっと明るくなる。

 その光が、家の中ではなく外の方へ向くのを見て、エイは決めた。

 

「じゃあ、セナノさんにバレないようにこっそり。怒るとキャラメルが一個減るので」

「キャラメル……?」

 

 ふたりは靴を履き、音を立てないように玄関へ向かう。

 扉に手をかけたところで、エイは一度だけ振り返った。

 

「行ってきまーす」

 

 耳を澄まさなければ聞こえない程に小さな声でエイは家へと告げる。

 そしてゆっくりと扉を開けた。

 

 外の空気が流れ込む。

 ユウトが小さく息を呑むのが聞こえた。

 青々とした草木や、車の排気、遠くから漂ってくる朝餉の香り。

 世界が、ここにあることを思い出させる匂いだった。

 

 

 

 

 

 

 俺は悪くねえ!

 ユウト君を外に連れ出せって監督が行ったんだ!

 お出かけして淡い思い出を作れって……そして青空の下の方がよく見えるからって……!

 

『よくやりましたねエイ。この人間はまだ遊べますし、ねじ切れます』

『何を……?』

『性癖を』

『そんなご無体なぁ!』

『その分、あのクソザコ異縁存在から守ってやるんです。エイ、守ってあげるのだから対価を求めるのは当然では? じゃあ、あの家でこの人間が死ぬのを見過ごせと!? あの家で一人寂しく生き残っていたこの人間を!?』

『情熱の当たり屋だぁ』

 

 これならまだあの異縁存在の方が安全なんだよなぁ。

 灯らぬ社の時とは違って、イレギュラーもなくセナノちゃんで対処できそうだし。

 

『お散歩だって、後でセナノちゃんに怒られるの俺なんだよ?』

『ナイス』

『何がだよ』

 

 コンテンツ越しに世界を見るのをやめてくれよ。

 

「エイおに……おねえちゃん。こうえん」

「公園に行きたいんですか?」

「……うん」

 

 俺の服の裾を遠慮がちにつまんだユウト君はそう頷いた。

 そんなユウト君の視線は、やはり俺へと定期的に向けられている。

 

 そりゃそうだよ。

 大きめのサイズのTシャツに、太ももが大胆にでた部屋着のハーフパンツ。

 ごめんね、上位存在同伴のおねえちゃん(可変)が一緒でごめんね……。

 

『この人間、エイに興味津々ですね。うーん面白い! もっともっとねじ切ってあげますよ!』

 

 こいつと家の異縁存在、どっちがこの子にとってよかったのだろうか。

 そう考えずにはいられない。

 

『共に無邪気に遊んで、その無邪気さと年上の色気のギャップで脳を焼いてください』

『仰せのままに』

 

 ごめんよユウト君。

 俺は我が主(強制)の命令で君の性癖を完全に終わらせなければならない。

 いずれ君は、年上の無邪気可変式お姉ちゃん君でしか興奮できなくなるだろう……!

 せめて確実に性癖をぶっ壊してやるのが情けってもんだ!

 

「……あ、おねえちゃん?」

「え?」

 

 俺が性癖ぶっ壊しチャートを考えていると、隣でユウト君が声を上げた。

 見れば、公園のベンチに見覚えのある少女。

 制服のセイカちゃんであった。

 

 彼女は今、スマホを片手にぼーっとしている。

 学校に行くと言って出て行ったのに、何故……?

 

『おや、先にあっちの人間の曇らせコンテンツですか』

『どっちの人間だよ』

『エイと泣きながら戦う運命にある方のエリートです』

『ああ、セナノちゃんね。……え、俺戦うのぉ!?』

『互いに守りたいが故に傷つけあうのですよ^^ 大丈夫ですよ、その時には既にエイは五感の殆どを失っている予定ですから』

『何が大丈夫なんだろう……』

 

 未来ですんごい悲惨なマッチポンプがある事をネタバレされた俺は、誰よりも深く内心でため息をつきながらセイカちゃんの元へと向かった。

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