【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第59話 祝福のコンテンツですよ

 公園は、昼前のやわらかな光に包まれていた。

 ブランコの鎖がきしむ音や砂場でスコップを鳴らす乾いた音が響く。

 エイとユウトの他には不思議なくらいに誰もないようで、彼らはまるで自分たちの庭であるかのように公園で楽しんでいた。

 

 遠くでボールが跳ね、笑い声が風に溶けていく。

 

「いきますよー」

 

 エイが声をかけると、ユウトは一瞬だけ身構えて、それから思い切り笑った。

 滑り台の上から、ころん、と転がるように滑り降りる。

 着地は少し不格好で、砂が舞った。

 

「もう一回!」

「はーい!」

 

 エイはユウトの背中に軽く手を添える。

 今の二人は本当の姉弟であるかのようだった。

 

 ユウトはブランコに乗ると、足を前後に振りながら、空を見上げた。

 雲がゆっくり流れていく。

 昨日まで、窓越しにしか見られなかった空だ。

 

「たかいね」

「高いですね。あ、押しますよ」

 

 エイが軽く背中を押すと、ユウトは足を振ってより高く上昇しようとしていた。

 風が顔に当たり、ユウトの声が弾む。

 

「こわくないですか?」

「うん。だいじょうぶ!」

 

 それは、昨日まで言えなかった言葉だった。

 エイは何も言わず、同じリズムで押し続ける。

 

 ブランコから降りると、今度は追いかけっこだ。

 ユウトは全力で走る。

 足はまだ短く、すぐに息が上がるけれど、止まらない。

 

「まてー!」

「はいはい、捕まりました」

 

 エイがわざと捕まると、ユウトは満足そうに胸を張った。

 勝ったというより、楽しかったという顔だ。

 

 ベンチに並んで座り、エイが買ったジュースを飲む。

 ペットボトルの冷たさに、ユウトは目を丸くした。

 

「つめたい!」

「夏ですからねー。……あ、ジュースを買ったことは内緒ですよ? セナノさんに一日一本と言われているので。ここで飲んだのがバレたなら家で飲めなくなります」

「エイおねえちゃんって、こどもだよね!」

 

 少しの沈黙。

 それでも気まずさはなく、ただ時間が流れる。

 

 次にユウトは砂場に駆けていき、黙々と山を作り始めた。

 エイはその隣で、壊さないように小さな溝を掘る。

 

「ここ、かわ、ね」

「いいですね。じゃあ、橋を作りましょう」

 

 二人で木の枝を並べ、砂を固める。

 不器用だけれど、完成したそれはちゃんと橋だった。

 

 ユウトは満足そうに頷く。

 

「また、あそびにこよう!」

「ええ。いつでも」

 

 約束の言葉は、軽く、でも確かだった。

 公園の真ん中で、子どもと子どもみたいな二人が笑っている。

 それだけの光景が、今日は何よりも大切だった。

 

 

 

 

 

 

『と言う訳で、これからこの人間に縁者の素質を埋め込みます^^』

『勘弁してやってください』

 

 遊んでいる裏で、俺は必死に懇願していた。

 性癖をぶっ壊すだけならまだしも、我らが上位存在様はそのコンテンツ性が気に入ったようで突然恐ろしい事を言い始めたのだ。

 

『性癖を壊し、趣味趣向をねじ切り、私は随分と楽しませて貰いました。なので私から祝福を送りたいと思います。ほんのお礼ですよ』

 

 それ人間の間では呪いって言うんだよ。

 上位存在の価値観で一方的な善意を向けられるなんて碌な未来が待ってねえからな!

 現に! 俺が! そうだから!

 

『でもまだこの子は未就学児なんだよ? それなのにそんなのあんまりじゃない?』

『私の祝福がまるで悪いものであるかのような言い方ですね。大丈夫ですよ、見えないものが見えるようになり、触れないものに触れるようになるだけですから』

『それが駄目だって言って『ん?^^』……御空様の祝福があれば、この子供も幸せである事に間違いはありません!』

 

 一秒だけ蝉の声が耳元で聞こえてきた俺は条件反射的にその意見を肯定してしまっていた。

 砂場で無邪気に遊んでいるちびっ子には申し訳ないが、君には今から上位存在の祝福があるだろう。

 どうか、君のこれからに青空の祝福があらんことを……。

 本当はない方が良いんだけどね……。

 

『じゃ、今からその辺の異縁存在を引っ張ってくるんで。後は行間を読んで良い感じに処理してください』

『ウィッス』

 

 これじゃあ俺も悪の片棒を担いでいるみたいだよぉ!

 

 

 

 

 

 

 砂場に残った山の影が、ふと歪んだ。

 

 昼の公園は変わらず賑やかだった。

 ブランコの軋む音、遠くの親子の笑い声、木々を渡る風。

 けれどその中に、ひとつだけ場違いな沈黙が落ちた。

 

 ユウトが最初に気づいたのは、音ではなかった。

 

「……?」

 

 胸の奥が水をぶちまけられたかのように冷える。

 さっきまで暖かかった空気が、そこだけ薄くなったように思えて、ユウトは大きく口を開けて深呼吸をした。

 

 やがて、それが現れたのは砂場の縁。

 影の溜まる場所から、滲み出すようにユウトの視界の中に入り込んできた。

 

『■■■』

 

 人の形に似ているが、似ているだけだ。

 輪郭は不安定で、皮膚のようなものは貼り付けただけ。

 目は合っていないのに、見ているという感触だけが突き刺さる。

 

 仮にそれをセナノが見ていたとしたら、顔色一つ変えることはなかっただろう。

 迷宮を生むことはおろか、窓が無くこの世界に長く存在出来ない異縁存在。

 名も、役割も、意味もない。

 ただ、何かが間違って生まれてしまったばかりの下級。

 

 それは一瞬だけ周囲を見回し、そしてエイの背後に何かがいることを理解できないまま、判断を下した。

 

 ――あれらは殺せそうだ。

 

 次の瞬間、ユウトの喉から声にならない息が漏れた。

 

「……ぁ」

 

 足が動かない。

 怖い、という言葉より先に、世界が壊れる前触れだけが来る。

 冷や汗が流れ、妙に音や目の前のソレがはっきりと感じ取れた。

 口の中はあっという間に乾ききっており、助けを呼ぼうとするが声はまともに出なかった。

 

 瞬間、脳がスパークを起こしたように明滅し、脳裏に映像が浮かび上がる。

 

『逃げてっ■■■■!』

 

 燃えるどこかで見たこともない女が、自分へと向かって叫んでいる。

 それは随分と懐かしい気がして、同時に恐ろしかった。

 部屋の片隅では、人が倒れ伏したような形で灰が固まっており、まるで灰になる前まではユウトを庇おうとしていたようにも見える。

 

(だれ……?)

 

 わからない。

 しかし、とても大好きだった人だったように思える。

 温かく、優しくて、まるで母のような――。

 

「ユウト君」

 

 そんなときに聞こえてきたエイの声は、驚くほど穏やかだった。

 彼女は一歩、前に出ると、ユウトと異縁存在の間に自然に立つ。

 

「大丈夫です。動かなくていいですよ」

 

 その言葉は、命令ではなく約束だった。

 

 自ら死にに来たのだと勘違いした下級の異縁存在が、跳ねるように距離を詰める。

 刹那、空がその青さを増し一度だけ明滅した。

 

「はい。おしまいです」

 

 エイが何かをした、という認識が生まれる前に、異縁存在はもういなかった。

 

 音はない。

 光もない。

 ただ、最初からそこに存在しなかったかのように、影ごと消えている。

 

 後には、砂がさらりと崩れただけだった。

 

「……え?」

 

 ユウトの声が震える。

 エイは振り返り、膝を折って目線を合わせた。

 

「もう、終わりましたよ」

 

 表情は変わらない。

 怒りも、恐怖も、優越もない。

 ただ、事後処理を終えた人の顔だった。

 

 その顔を見たユウトの頭からは、先ほどの炎に包まれた光景はすっかりと消えてしまったようだ。

 

「さっきのは、迷子みたいなものです。考える力も、選ぶ理由も、ほとんどなかった」

 

 ユウトはそれを思い出してまた震える。

 

「……また、くる?」

 

 エイは一瞬だけ考え、それからポケットに手を入れた。

 

 取り出したのは、小さな青いイチジクだった。

 

 熟していないのに、不思議と瑞々しい。

 昼の光を受けて、深い青が静かに揺れる。

 

「これを食べましょうか」

 

 その言葉に、ユウトは一瞬だけ目を丸くする。

 

「たべて、だいじょうぶ?」

「とっても美味しいですよ」

 

 エイはそう言って、イチジクの表皮を親指でなぞった。

 薄い皮は指先の熱に反応するように、すっと色を深める。

 青だったはずの実が、わずかに紫を帯びた。

 

 ぱき、と小さな音が鳴り、裂け目から蜜のような果肉が覗く。

 甘い匂いが、ほんのりと立った。

 

 公園の昼の匂いの中に、どこか場違いなほど濃い甘さが混じる。

 

「……あまいにおいだね」

「でしょう?」

 

 エイは半分に割り、片方をユウトに差し出す。

 もう片方は自分の手に残した。

 

「ゆっくりでいいですよ」

 

 ユウトは恐る恐る口を近づける。

 一瞬ためらってから、かじった。

 ――じゅわりと、うまみが広がっていく。

 思っていたよりも柔らかく、思っていたよりも、ずっと甘い。

 

「……!」

 

 驚いたように目を見開き、すぐにもう一口。

 

「おいしい……」

 

 声に出した瞬間、胸の奥で何かがほどけた。

 

 怖さでも、緊張でもない。

 昨夜からずっと張りついていた説明できない重さが、少しだけ溶けた感覚だ。

 

 エイも自分の分を口にする。

 咀嚼は静かで、品がありまるで名家のお嬢様の様だ。

 

「どうですか」

「……すごくおいしいよ」

 

 イチジクの甘さが喉を通るたび、胸の奥にあった恐怖が、薄い膜のように剥がれていく。

 

「……これでだいじょうぶなの?」

「ええ」

 

 エイは頷く。

 

「食べることで、ちゃんと自分の中に入ります。外から貼り付けるより、ずっと確実です」

「……こわいの、こなくなる?」

「全部、ではありません」

 

 エイは正直に言った。

 

「でも、理由のないものは来ません。今日みたいなのは、もう大丈夫です」

 

 ユウトは最後の一口を食べ、指についた蜜をぺろりと舐めた。

 その仕草が、あまりにも子どもらしくて、エイは少しだけ目を細める。

 

 やがてイチジクの皮だけが手のひらに残ったが、それもほどなく乾いて、風に散った。

 

「……また、こわくなったら?」

「その時は」

 

 エイはユウトの頭に、軽く手を置いた。

 それから片手で上を指さす。

 そこには恐ろしさを感じてしまう程に青い空が広がっていた。

 

「空を見てください。空もまた、貴方を見てくれますから」

 

 ユウトは頷く。

 

「……うん」

 

 胸の奥で、何かが宿る。

 それは護符ではなく、呪いでもなく、ただ今日を生きるための甘さだったのだろう。

 

「じゃあ、次は何して遊びます?」

 

 エイの問いに、ユウトは少し考え、空を見上げてから言った。

 

「またブランコ」

「いいですね」

 

 二人は並んで立ち上がる。

 公園の昼は、まだ続いていた。

 

 

 

 

 

『運営からあの人間に関する上方修正のお知らせです!』

『ごめんよユウト君……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【縁理庁内部処理報告書】

 

文書番号:EN-MEM-TSG-0217

処理区分:記憶処理/身分再編

機密等級:対外秘(A-3)

作成日:XXXX年XX月XX日

担当部局:縁理庁・記憶再構成管理課

協力部局:異縁被害者保護室/逆縁班

 

■ 対象者情報

 

氏名:■■■■(秘匿)

年齢:当時 3 歳

性別:男性

 

居住地:■■県■■市

家族構成:両親・妹(※全員死亡)

 

■ 発生事案概要

 

XXXX年XX月XX日、対象者居住区において炎信仰型異縁存在による突発的侵襲事案が発生。

住宅一棟が全焼し、同居家族全員が死亡。

 

対象者のみ、現場に急行した縁者(所属非公開)により救出。

対象者は救出時、重度のショック状態であり、断続的な記憶混濁と自責的言動を確認。

 

■ 初期判断

 

対象者は異縁存在を明確に視認、縁者の戦闘行為を直接観測、家族喪失の因果を正確に理解しており、通常の心理ケアのみでは異縁関連記憶の固定化・再発リスクが高いと判断。

 

■ 処理方針決定

 

対象者を単独保護施設に収容するのではなく既存の「疑似家族再編モデル」に組み込むことが、長期的安定に資すると結論。

 

編入先として、以下の条件を満たす家系が選定された――




幼少期におねえちゃんに不思議な力を授けられたいもんですわな
そんでもって、それがTS魔法少女パワーだったらもう言う事はないですわ!

では、良いお年を^^
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