【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
無事にコンビニでの買い出しを終えた二人は、家へと帰還していた。
「そーっとですよ、ユウト君!」
「うん……!」
二人は顔を見合わせて、こっそりと玄関の戸を開け、こそこそと中へと入る。
そして、玄関で仁王立ちをしているセナノと目が合った。
「エイ」
玄関の戸が閉まる音は、やけに大きく響いた。
「ひぇ」
「あら、そのレジ袋は何かしら。私、お使いなんて頼んだかしらねぇ?」
セナノの声は低い。
それだけで、空気が一段冷えた。
エイは靴を揃え、手に持ったコンビニのレジ袋をそのまま下げた状態で振り返る。
袋の中で、カサ、と小さく音がした。
「はい!」
「強引に嘘を通そうとしない」
素直な返事だ。
しかしその視線の彷徨い方や冷や汗のかき方は間違いなく悪いことをした側の態度だった。
セナノの視線は、まずエイの顔を見て、次に――レジ袋へ落ちた。
「……でそれ何」
「…………お菓子です」
即答。
ごまかしも、冗談もない。
「エイおねえちゃん……」
「うぅ……バレないと思ったんです……」
つい30分前には涼しい顔で異縁存在を消し去ってくれた憧れのお姉さんは、今や説教されるクソガキと化していた。
セナノは一度、深く息を吸う。
「私、言ったわよね。今日は外に出ないで、家でその子の面倒を見るようにって」
「……言われました」
「それを、どうして無視したの? ねえ、しかもその様子だと……貴女、一日一本の約束を破ってジュースまで飲んでいるわよねぇ?」
問いは静かだが、内容は重い。
監督責任、判断逸脱、想定外行動。
縁者としても、年長者としても、看過できない。
エイは一拍だけ考えてから、正直に答えた。
「……散歩したくなりました」
「……なりましたじゃないでしょう」
「すみませんでしたセナノさぁん!」
セナノは思わず額を押さえる。
「あなたね、自分がどういう立場か分かってる? しかも、ユウトまで連れて」
「はい」
「はいって……」
言葉を強めようとして、ふと止まる。
エイは、怒られているのにその言葉を全て受け止めようとしていた。
反抗もしていない。
ただ背筋を伸ばしてちゃんと聞いている。
「……すみません」
小さく、はっきりした謝罪に、セナノの視線が、また袋に戻る。
透明なビニール越しに、色とりどりの包装が見えた。
(……明らかに買いすぎよ。はしゃいじゃって)
叱る材料としては、これ以上ない。
なのに。
(……なんでこんなに)
胸の奥が、微妙に痛む。
エイは、自分が悪いことをしたと自覚したようにしょんぼりとした顔をしている。
でも、その姿が――どうしようもなく可愛い。
(顔が良いの……!)
肩はすこし落ち、視線は上目遣い。
言い訳をしない。
目に涙が溜まりかけているが、それでも必死にセナノに向き合おうとしていた。
それだけでセナノには愛らしく見えている。
(……私、今)
セナノは自分に問いかける。
(ちゃんと叱ってる? それとも言いすぎちゃってるかしら? 別にあんな顔をさせるつもりはなかったのに。というか、お菓子足らなかったかもしれないわね。それは私の責任よね、うん、そう考えると別にエイって悪くな……いやいや、それは流石に駄目よ! エリートじゃないわ!)
言葉を選んでいるうちに、勢いが削がれていく。
「……外出は、危険なの」
声が、少し柔らぐ。
「判断を誤ったら、取り返しがつかないこともある」
「……はい」
エイは頷くだけだった。
セナノは、その頭に手を置いて落ち着かせるように頭を撫でながら、この説教を終わらせることにした。
「次は私も誘いなさい。ついて行ってあげるから」
そこで、横から刺すような声が入った。
「先輩」
ハカネだった。
腕を組み、半眼でセナノを見ている。
彼女は近づくと、セナノへとこっそり耳打ちした。
「完全に甘くなってません?」
「なってないわ」
「なってます。最初の三割くらいの圧しかありません」
「気のせいよ」
「じゃあ聞きますけど、そのお菓子、没収します?」
セナノは、袋を見る。
きっとエイとユウトが二人ではしゃぎながら選んだのだろう。
そう考えて、セナノは頬を緩めるだけで手を伸ばさない。
「……まあ、買ってきちゃったものは、ねぇ」
「ほら」
ハカネが即座に突っ込む。
「……後で、必要なら私が報告書を書く」
セナノはエイに向き直る。
「とにかく! 外に出る時は、必ず言いなさい。私かハカネに」
「はい」
それ以上は何も言えなかった。
頭の中では理解している。
本当は、もっと厳しくすべきであり、規則を重んじるようにするべきだと。
エリートたる自分の真似をさせるべきであると分かっている。
でも、目の前のエイは、怒られるのを受け止める準備ができている顔をしていて、それがセナノの判断を鈍らせた。
(なんて良い子なのエイ……!)
エリートの価値観は、この数週間で既に破壊されていた。
横目でセナノを見たハカネはムッとして小さくため息をつく。
「先輩、完全に可愛いから許すの領域ですよ」
「……違うわよ」
「じゃあ何ですか」
セナノは答えに詰まる。
「……教育的配慮?」
「曖昧すぎます」
エイは、二人のやり取りを静かに聞いてから、そっとレジ袋を持ち上げた。
「……お菓子、置いておきますね」
怒られた子供のように、エイはそう言って差し出す。
この瞬間、セナノは完全に負けた。
「……今回は、口頭注意で終わり。お菓子も少しなら食べて良し」
「はい!」
即答。
それがまた、腹立たしいほど素直だった。
ハカネは天井を仰ぐ。
「先輩、次も同じこと起きますよ」
「……その時は、ちゃんと叱るわ」
「本当ですか?」
「……たぶん」
曖昧な返事しか返せない。
(私はエリート私はエリート私はエリート私はエリート私はエリート――)
自己暗示を必死にかけながら、セナノは今度こそ厳しくしかろうと心に誓う。
今回は隣に幼い子供がいたから加減したのだと自分に言い聞かせて、セナノはぎりぎりのところで自分の正当性を保った。
「ああ、そうだエイ」
エリートは本来言おうとしていた事を思い出し、エイを手招きする。
素直に近寄ってきたエイの耳元で、セナノはこっそり囁いた。
「今回の依頼、きな臭くなってきたわ。今日の夜から動くから」
「……! わかりました」
エイはキリッとした表情で頷く。
(うんうん、やっぱり根は真面目ね! 今回の事も反省しているだろうし、ヨシ!)
エリートはもう駄目そうであった。
■
地下六層。
地上の民家とは一切の物理的接続を持たない縁理庁管理区画にその施設は存在した。
壁面を埋め尽くすのは無数のモニターと波形、数値、そして人の生活を切り取った断片的な映像である。
リビング、仏間、廊下、玄関。
その他にも多くの映像が、同時進行で映し出されている。
「……流石はS階位。この家の異常性に気が付いたか」
中央卓に肘をついた研究員が、モニターを睨みながら呟く。
白衣の下は縁理庁制式の黒。所属識別は伏せられているが、ここにいる全員が同じ班だ。
モニターには、セナノとハカネが家の中を捜索する姿が映し出されている。
気づかれていないカメラ越しに、二人は部屋の中を探し回っているようだ。
次に、別のモニターが拡大された。
公園でエイとユウトが楽し気に遊んでいる。
しかし、それを見る彼らの眼には困惑と若干の恐怖が浮かんでいた。
「問題は、こっちだ」
声のトーンが変わる。
「空澱大人の疑似媒介体。これがなんで、ここにいる? 上層部からは何も聞いていないぞ」
「縁理学園経由だろ。恐らくセイカが直接依頼した」
「……想定外の要素が多すぎる」
「だが、今更逃げ場はないぞ」
「ああ今の継乃木家は民家型実験場としては、最高の条件だ」
誰かが、静かに言った。
「人間。対異縁存在用異縁存在。さらに、災主級に連なる観測不能存在の疑似媒介体」
指先が、卓上を叩く。
「これで何も起きなければ、それはそれで異常だ」
「――観測継続。介入は行わない」
「ははっ、でしょうね。下手に介入したらどの異縁存在に殺されるか分かったものじゃない」
誰も反対しなかった。
継乃木家のリビングでは、今日も日常が続いている。
彼らはその映像を再び監視し始める。
自分達が一方的に監視する側であるとわかっている為か、彼らの挙動には余裕があった。
だが、彼らは気が付いていない。
一番端の映像が、つい数分前に青空に切り替わっていることに。
今までもそうであったかのように、当然の事として彼らは受け入れる。
『へえ^^』
それが、立場が逆転した合図だと気が付けたものは誰もいなかった。
今年こそ書籍化しますよ!
TSで全員の脳みそをぐっちゃぐちゃにしたりますわ!