【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第65話 忍び寄るコンテンツの息遣いに耳を澄ませてください

 夜も更けた頃、セナノ達は動き出していた。

 家の明かりは最小限に息をひそめて動くその姿は家主たちとは到底思えない。

 

「先輩、本当にあの子には事情を説明しなくていいんですか?」

 

 支度をしながら、ハカネはこっそりとセナノへ問いかける。

 二人の視線の先では、ユウトがワクワクした様子ではしゃいでた。

 

「むしとり! 寝ないでがんばるよ!」

「私もです! 地元のお山にいたオソラオオクワガタはここにもいるのでしょうか。あれ、青く光って綺麗なんですよね」

「そんなのいるの!? すっげー!」

「ふふん、後で澄目村に招待してあげますよ! おねえちゃんと一緒にいらしてください!」

 

 ユウトに与えられた情報は、夜中に動くという必要最小限のものであった。

 虫取りだと信じ切っている彼は実に軽装であり、ユウトは緑の虫かごと虫網をしっかりと手に持っている。

 相手をしているエイも薄手のワンピースに虫網と、どう見ても真夏の田舎コンビであった。

 

 が、それでよかった。

 

「ユウト君は下手に恐怖を与えれば信罰がまた活性する可能性があるわ。セイカが一時的に構文で鎮静化してはいるけれど、下手に刺激を与えない方が良いでしょうね」

「エイちゃんにも詳しい事は言っていないじゃないですか」

 

 エイもまた、多くの情報を与えられてはいなかった。

 良くないものにユウトが狙われているから、一時的に避難する。

 それだけを伝え、エイは納得したのである。

 

「……あの子は純粋だから」

 

 この場で何よりも警戒するべきイレギュラー。

 それは()()()()の空澱大人の介入である。

 今はまだセナノの想像の域であり、何とかなる範疇だ。

 

 しかし、ここに空澱大人が介入すればどうなるだろうか。

 もしもエイが恐怖を感じた物へと敵意を向けてしまったら。

 

(縁理庁が壊滅なんて、流石に笑えないわ。どれだけいけ好かない組織でもあれは日本に必要よ。それに、あの子にはこの世の暗部をなるべく見て欲しくはない)

 

 エイの純真さは今やセナノの心を支える一つの柱となっている。

 人を疑う事を知らず、困っていれば助ける善性の塊のような子だ。

 

 故にセナノはエイへと全ての真実を伝えない。

 今日は楽しい真夜中の虫取りであり、少し先の山の麓まで足を延ばすのだ。

 

「エイも知らない方が上手く事が進むわ。なんなら、一番知らせてはいけない」

「……エイちゃんの事はやっぱり私には教えて貰えないんですか?」

「かわいい後輩を巻き込みたくはないのよ。私の様にエリートになったらその時は良いわ」

 

 我ながらズルい言い方であるとセナノは自嘲した。

 自分を好いているハカネはこう言えば退くと理解しているのだ。

 

「……約束ですからね!」

「勿論よ」

「はは、良い後輩だ。羨ましいよ」

 

 二人の会話を聞きながら荷物をまとめていたセイカは、リュックを背負い笑う。

 その雰囲気は今から一世一代の作戦を始めるようには思えない。

 

「ん? どうかしたのかな」

「やけに落ち着いていると思って」

「ははは、異縁存在相手に馬鹿みたいな実験を続ける日々のおかげで並大抵の事には動じなくなっているよ」

「はえぇ、こうして聞いていると本当に研究員なんですね。……何歳で女子生徒のふりを?」

「私は17歳だよ。それでいいじゃないか」

 

 真っ黒な目でそう詰められてはハカネは頷くしかない。

 それを見て、セナノはくすりと笑った。

 

 それは作戦開始前とは思えない程に穏やかな時間だった。

 三人がそれぞれ最悪の事態を口にせず、現実を曖昧にしてその時を待つ。

 そうすることで不安を和らげていたのだが、ハカネはまだ如何せんその辺が素人であった。

 

「……それで、結局私達は勝てるんでしょうか」

「難しいわね」

「難しいだろう」

 

 一番答えを聞きたかった問いに、二人はすぐさまそう返した。

 顔を上げて不安そうにするハカネを見て、セナノはしかし笑って頭を撫でる。

 

「大丈夫よ、エリートが付いているわ。まあ、縁理庁を相手にするならNARROWの使用許可が下りないから、ステゴロになるけれどね」

「ヒバリが使えないって相当まずいんじゃ……」

「誰が真正面から戦うと言ったんだ? 逆縁班の責任者は特殊部隊を持っている。おそらくはそれらが出張ってくるだろう。そうなれば命がいくつあっても足りないさ」

「だから今回は全力で逃走するわよ。最終目的地は縁理学園。町の外れに移動用の車を呼んでおいたからそこまで移動するの。流石に家の前に来たらその時点で車がぶっ壊されそうだしね」

 

 セナノはエリートではあるが、自惚れることはない。

 例えS階位であろうとも、この状況では負ける可能性が高い事を十分に理解していた。

 

 故に彼女はこの作戦において最も重要な、セイカとユウトの生存を果たすために動く。

 初めから縁理庁に勝つ必要はないのだ。

 

「でも逃げ切れるんでしょうか……。こういうのって、特殊な通路とかで追ってくると思うんですけれど」

「そうね。でも私達にだって近道があるから大丈夫よ」

 

 そう言って、セナノはエイへと視線を送る。

 その視線に気が付いたのか、エイは笑顔で駆け寄ってきた。

 

「セナノさん、どうかしましたか?」

「いいえ、別に。ただ、山まで道を作ってくれるって話に感謝していたのよ」

「ああ、その事ですか!」

 

 エイは胸をポンと叩いて自信満々に頷く。

 

「御空様も良いと言ってくれました! これで縁者のシークレットミッションは完璧ですね!」

「ふふ、そうね。期待しているわよ」

「はい!」

 

 胸の奥がちくりと痛む。

 全幅の信頼を自分に寄せてくれている無垢な少女を、セナノは体の良い逃亡手段として使おうとしていた。

 

 逃亡手段についてセイカと話し合っていたその時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 本人は全容を理解しておらず、役に立てるからと深く考えずに提案したのだろうとセナノは予想していた。

 

「悪いものからユウト君達を守りますよ!」

 

 自分が活躍できることが嬉しいのだろう。

 エイはいつも以上に浮かれているように見えた。

 

 だからこそ、全ての事情を話していない自分自身に嫌気がさす。

 まるで都合よく道具の様にエイを扱っているように思えて仕方が無い。

 

(これじゃあ、空澱大人を研究するアイツらと何も変わらない……)

 

 それでもこうするしか方法はないとセナノの頭は答えを導き出していた。

 これが異縁存在の処理任務であれば彼女は即刻帰還していただろう。

 そしてエイに頼ることなく、然るべき準備をしたのちに完璧に任務を遂行して見せた筈だ。

 

 しかし、今は違う。

 

(この人達を必ず生かす)

 

 前提となる条件が違う。

 任務の失敗はそのまま死、あるいは尊厳を失う未来へと繋がるであろう。

 選択肢は他にはない。

 

 故に彼女はこの場で罪を背負う事に決めたのだ。

 

(あとでエイには正直に話しましょう。……きっと、あの子は許してくれるんでしょうね)

 

 ならば、それは贖罪として意味をなしていないのではないだろうか。

 そんな事を考えていた時、セイカがセナノの肩を叩く。

 ハッとして顔を上げれば、穏やかで静かな目でセナノを見つめていた。大人の目だった。

 

「何か、つらい決断をさせたようだね、申し訳ない」

「いいえ、別にいいの。これは私の問題だから」

 

 当たり障りのない言葉で返して、セナノは頬を叩く。

 

(集中しましょう。エイは協力してくれると言った。なら後は、その協力を無駄にせずに全てを完璧に全うするのよ!)

 

 意識を切り替え、セナノは腕時計を見やる。

 作戦開始時刻だ。

 

「皆、そろそろ行きましょうか」

「はい、先輩!」

「おねえちゃん、おっきなカブトムシつかまえようね!」

「……うん、そうだね」

 

 ワイワイと騒ぎながら、全員で玄関へと向かう。

 その姿は全てカメラに収められているが、問題はない。

 

 何故なら、もう二度とこの家には帰ってこないからだ。

 

「それじゃあ皆さん、セナノさんの相棒縁者である私の力を見せてあげます!」

 

 靴を履き、扉を開けるだけになったその時エイは手を上げてそう言った。

 それに合わせてセナノは全員にアイマスクを配り始める。

 

「これ、エイが良いって言うまで付けておいて」

「わかった。ほら、ユウトも付けて」

「んー、わかった」

「先輩、これ私もですか……って先輩も付けるんですね」

 

 真っ先に手本としてセナノはアイマスクを装着する。

 それを見て、ハカネは従うように、セイカは視覚から影響する何かであると察して、ユウトは皆が真似をしているからと、各々が別の理由でアイマスクを装着した。

 

「全員付けましたね? よしよし、それじゃあ皆さんで手を繋いでくださーい」

 

 暗闇の中で聞こえるその声に従って皆は手を繋ぐ。

 そして次の瞬間――。

 

「では、行きましょうか」

 

 うだるような暑さと、耳をつんざく蝉の声が聞こえてきた。

 夜の静けさはどこにもない。

 アイマスクをしていても存在が伝わる昼の太陽が、じりじりと肌を焼いていくのがわかった。

 

「!?」

「……ほう、これは」

「えっ、なにこれ? おねえちゃん……!」

「大丈夫ですよ皆さん! 皆さんは安全にお届けしますから!」

「ええ、お願いねエイ」

「~っ! はいっ! お願いされたからには頑張ります!」

 

 セナノの言葉から期待を受け取ったエイは、いつも以上に張り切って先導する。

 彼女達が進むのは夏のあぜ道。

 青空と深い峰が連なるどこかの夏の風景であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こうして初めはちょっとした手段でエイを使ったんですよね。でも、一度使えば、今後あの人間の行動の選択肢には空澱大人が生まれる。宣言しましょう人間、貴女は近い将来に自らエイを苦しめる道を選ぶと……!』

『なんか言ってますけど、マッチポンプするソラ~ってことっすよね?』

 

 

 




新年早々侍がいっぱい集まってきて嬉しいソラ~!
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