【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
『エイ、慟哭の準備をしておいてくださいね!』
『変な予約入ったなぁ』
クソ暑い夏の道からこんにちは!
セナノちゃんの相棒(クライアント有り)の縁者であるエイです!
今はセナノちゃんの役に立つために、御空様の能力を使って移動中!
これがあれば監視とか全く怖くないし、安全にバスまで移動できるんだ!
だったんだけど……。
『簡単に事が進んでしまうのはつまらないですからね^^ メリハリがあってこそ、人の感情はより多く観測できるというものです』
『……あの、それはわかったんだけど、慟哭でご予約の件は……?』
『それは暴走するためですよ^^』
『暴走が予定されたものならそれは暴走とは呼ばないのでは?』
『今、野暮を言いました?』
『アッ、スミマセン』
マズイぞ。
ソラが何かを企んでいる。
絶対に『はいっ、ここで暴走! 3,2、1!』みたいに命じられる。
こいつは全てを知っている癖に全部を言わず小分けにして自分の都合が良いように人を導くのが怖いんだよなぁ。これお人形遊びと何が違うの?
『特殊部隊驟雨ですが、今は秘密の通路を使って移動中ですね。このまま見つからずにバスに乗れるでしょうか、ドキドキ!』
何がドキドキだよすっとぼけやがってよぉ。
特殊部隊が送り込まれたっていう情報が、俺には新しいお人形さんがもうすぐ家に届くという報告にしか聞こえない。
特殊部隊の皆さん、ここは一つ強大な敵を前にして手を取り合う方向で手を打ちませんか?
ここにもっと対処すべき邪神がいますよ! 人類を弄ぶ系の一番たちが悪い奴ですよ!
『エイ、楽しみですね!』
『アッハイ』
そして俺はその邪神の先兵です。
でもどうか見逃してください。悪気はないんです。
無害な転生者なんです。
「――エイ、大丈夫?」
ふと、セナノちゃんがそう問いかけてきた。
ちなみに今は俺がセナノちゃんの手を引いて先導をしている。
当然、そうするべきだと判断したからだ。その辺はもう指示される前に動き出している。
「大丈夫ですよ。私に任せてください!」
「……ごめんなさい」
「いいえ、こういうのは……ああ、そう! 適材適所って言うんですよ! セナノさんだけに活躍させるわけにはいきません。私もエリートになるんですから!」
俺は意思を示す様に強く手を握る。
すると、セナノちゃんも応えるように握り返してきた。
それだけでセナノちゃんの思いが伝わってきて、俺は思わず罪悪感を抱きそうになる。
すまねえ……これも村を守るためだっぺ。コンテンツを捧げないと、雨が降らないっぺよ……。
『いいですねぇ。いつか首輪を外す時が楽しみで仕方がありません』
『えっ、これ外れるの!? 嬉しいなぁ』
『はい。楽しみにしておいてください^^』
何故だろう、急に嫌な予感もしてきたぞ。
上位存在プレゼンツなんて絶対に良くない事が起きるに決まってる。
『嬉しくないのですか?』
『わぁい!』
『無邪気な喜び方で大変よろしい! 11天移ポイント!』
毎回そのポイントで追い打ちを掛けられているという事に気が付いて欲しい。
『ポイントたくさんで嬉しいですねぇ^^』
気が付いてやってるかも……。
「ねえねえ、いつまでこの目かくししていればいいのー?」
「もうちょっとだけ我慢だよユウト」
「そうそう。我慢すればたくさんカブトムシがいる場所に案内しますよー!」
「本当!? オソラオオクワガタもいるかな?」
「あー、あれはうちの村にしかいないと思います」
「そっかぁ」
そもそもオソラオオクワガタってなんだよ。
監督に言われるがままに吐いたセリフだけど、夜に蒼く光るクワガタとか怖すぎるわ。田舎の少年でも素手で触るのは躊躇するレベルだよ。
『そもそもオソラオオクワガタって何?』
『私が前に作った異縁存在です! 余ったパーツを組み合わせたら存外良い出来だったので、いつかお披露目したいと思っていたんですよ』
『……それ、絶対に野生に還さないでね』
『どうしてですか!? この子達には帰る場所など無いというのに……』
『作った奴の台詞じゃねえなぁ』
生物作り上げておいて、こっちの感情に訴えかけてくるのは流石にパワープレイが過ぎるぞ御空様。
「でもでも、おっきいカブトムシをいっぱい取りましょうね! 私もがんばりますから!」
「ぼくも!」
うんうん、ユウト君とはいつもパーフェクトなコミュニケーションだな。
親戚のお兄ちゃん♀として接してあげればよいだけだから一番気が楽かもしれんね。
『む、そろそろ着きますよ。楽しい炎天下ツアーもお終いです』
『ありがとうソラ』
『いえいえ。私は皆さんのお役に立ちたいだけですよ。人間は大好きですからね^^』
『流石っす』
その愛が歪んでるって気づいて欲しいっす。
「そろそろ到着しますよ。皆さん大きな声を出さず、静かに、静かにです……!」
「ユウト、カブトムシさんが逃げるかもしれないからそっとだよ」
「わかった」
「先輩……本当にこれで着いたんですよね」
「ええ、凄いでしょう。この子」
皆が後ろでワイワイひそひそしている中、俺達は現実に舞い戻る。
クッソ暑い日差しから解放され、幾分かマシになった夜風が火照った体を静かに撫でていった。
辺りはしんと静まり返っており、先ほどまで聞いていた蝉の声が耳の奥に残響の様にこびりついている。
「もうアイマスクはとっていいですよ」
「はい……うわすっご、マジじゃん。エイちゃん凄いなぁ」
「ふふん、ハカネさんも私を撫でてくれていいんですよ?」
「ハカネさんも? 『も』って事は……」
ハカネちゃんはセナノちゃんに視線を送るが、セナノちゃんはそれに全く気が付くことなく答え合わせの様に俺の頭を撫でてきた。くぅ~ん。
「なっ……!?」
「ありがとう、エイ」
「えへへ……はいっ」
ニッコリ笑ってされるがままの俺、しかしその目は閑静な住宅街の屋根で腕を組んでこちらを見ている監督に向けられている。
『^^』
やれやれ主演を務めるのも楽じゃないぜ。
飴と鞭の割合がとんでもねえ監督だから、ついていくのは並大抵の事じゃない。
これで無双させてくれる割合を増やしてくれればなぁ。
『エイ、もう少しその人間に近づいて下さい。転んだら、受け止めて貰えるように』
『え?』
『時間がありませんよ、迅速に』
『ウィッス』
俺は言われるがままにセナノちゃんにもう一歩近づく。
セナノちゃんが不思議そうに首を傾げたその瞬間であった。
「――ぇ?」
首に突然ちくりと痛みが走り、身体から力が抜けていく。
そして視界が真暗になり、音すらも消えてしまった。
誰かが俺を抱き留める感覚だけが伝わってくる。
一体何が起きた!?
『よしよし。じゃあ、視覚と聴覚はこっちで元に戻しましょうねぇ』
その瞬間、再び俺世界に彩りがもどった。
俺を抱き寄せるセナノちゃん、虫網を持ったユウト君とそれをかばうように立つセイカちゃんとハカネちゃん。
そして。
「予定時刻通りだな。では、さっさと片付けてしまうとしようか」
俺達を囲んで銃を向ける明らかに特殊部隊な方々。
ゴテゴテと特殊な装置が付けられた銃や、高そうなフルフェイスヘルメット、そして殴っても斬っても効かなそうなアーマーは潤沢な予算がある事を示している。
どう考えても、縁理庁の方々だった。
『そんなっ、まさか私達の行動に勘づいていたのですか^^ 真っ先に疑似媒介体がNARROWで無力されるなんて……! これは困りましたねエイ!』
『困ってる人とは思えない程に口角上がってますよ』
屋根の上でソラはニッコニコだった。
俺達を見る特殊部隊を見るソラと、まるで世界の縮図である。
所詮は縁者や特殊部隊の方々も上位存在に遊ばれているだけだという事を世間に訴えかける一枚が撮れそうだ。
推理する必要もないだろう。彼らは間違いなくソラが言っていた特殊部隊【驟雨】だ。
『あー大変大変^^』
くそっ、どうやって嗅ぎつけやがった! 作戦がバレた理由で身内にも思い当たる節があるのが情けねえ!
『ソラ、これどうするの?』
『それは彼らの出方次第ですね。気を付けてください。彼らは汚れ仕事を専門に請け負う手練れの縁者集団です。コードネームR1から始まりR6まで、縁理庁のデータベースに記録されていない秘匿された縁者である彼らの相手は、学園イキりエリートでは流石に厳しいです!』
『セナノちゃんに恨みでもある?』
『ちなみに彼らの本名と住所は――』
『やめてあげよ……』
『わかりました^^ エイは優しいですねぇ』
あまりにも饒舌に語られた特殊部隊の方々の情報に思わず俺はストップをかける。
秘匿されたって言ってんのに個人情報を曝け出そうとしないで上げてよ……。
『エイ、それじゃあ今回の任務のメインディッシュといきましょう^^』
『ウィッス』
と言っても、俺は今セナノちゃんに抱きしめられたままなんですけどね!
情けねえったらありゃしねえよ。