【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
それは闇に溶け込むようにして現れた。
縁理庁の中でも限られた者しか詳細を知らない、暗部専門の縁者部隊【驟雨】。
音もなく、初めからその場にいたように銃を構えた彼らは、まるで『待て』をされている猟犬の様にも見えた。
「……どうしてここがわかったのかしら」
セナノはエイをそっと地面に降ろしながら、いつでも動き出せる体勢に移行する。
その目には、確かにバスを捉えていた。
前方の坂道、街灯を避けるようにして停車している黒いバスだ。
(エイが倒れてしまった以上、放っておくことはできない。こいつら全員を相手にしないと)
真っ先にエイが倒れるという緊急事態に、場は混乱し始めていた。
「発信機を付けられていた……? いや、そんな筈はない。私は特に入念に調べたんだ。ユウトだって」
原因を探りながら、二人は状況を打開する方法を模索する。
特にセナノは自身が最も動ける者としての自覚から、既にNARROWを取り出す選択肢すら用意していた。
(報告書どころじゃすまないし、もっと面倒になるかもしれないけれど……)
縁者は基本的に異縁存在を相手にすることを前提として多くを組み上げる。
身体能力や精神、その思考に至るまでを人外であるそれら向けにチューニングしているのだ。
故に、人間を相手にした基本戦術など縁者向けに在る訳がなかった。
しかし、その例外こそがS階位である。
(やるしかないわね)
あらゆる状況に対応できるからこそ、一人で異縁存在を処理する許可が下りる唯一の存在であるからこそS階位は万能であった。
それは勿論、セナノも例外ではない。
(この場に4人……狙撃手も考慮した方がいいわね。エイが無力化されたことから考えるに拘束符とNARROWを持っている可能性も高い。この子を最初に処理したのは危険性を考慮している他にも私達に自分たちの力を誇示する目的もある筈)
分析し、思考し、答えを導き出す。
(強引にでも私達を拘束しないのは縁理学園との大事にしたくないからかしら)
ハカネを見ながら、セナノはその存在に感謝をした。
縁理学園の生徒を強引に拘束すれば、それは縁理学園が口を出す理由になってしまう。
故にハカネはその場にいるだけである種の牽制となっていた。
(できれば交渉したいわね。そうして時間を稼いで――)
「その疑似媒介体が復活するのを待つ。そうだろう?」
「っ!?」
黙っていた4人の背後から、もう一人が姿を現す。
声と体格から男性であろうか。
「手荒な挨拶ですまない。この部隊を率いているR1だ」
他の4人とは違い、僅かに重装備な彼はその手に拳銃のようなものを構えながら一歩前に踏み出した。
「これは拘束符だ。撃たれれば最後、お前達はこの場に特殊なワイヤーで縛り上げられる。B級すら拘束可能な構文織り込み製だ」
「丁寧な脅しどうもありがとう」
「威勢が良いな。若いのに感心だ。だが、俺はお前とはやり合う気はない。三鎌縁者、君は縁理庁にとっても貴重な人材だ。最年少S階位様を無様に地面に転がすのは気が引ける」
「言ってくれるじゃない。私のNARROWを前にしてもそんな事が言えるかしら」
「やめてくれ三鎌縁者。このままだと俺は君を撃たなければいけない。今後一緒に仕事をするかもしれないんだ。ここは一つ、目を瞑ってくれないか」
飲めるわけがない要求だった。
それをR1は平然とした顔で、まるで子供を諭す様に落ち着いた声色で語り掛ける。
それが余計にセナノのプライドを傷つけた。
「っ、アンタ私を馬鹿にして――」
「おっと」
踏み込みR1を蹴り上げようとしたセナノを見て、彼は銃口をすぐに下へと向ける。
そして、倒れ伏すエイへと弾丸が放たれた。
弾丸はエイに接触したその瞬間に展開し、まるで蜘蛛の巣に絡めとる様に特殊な灰色のワイヤーで彼女を縛り上げる。
「うぅ……」
「エイ!?」
苦悶の表情を浮かべながら声を上げるエイへと、セナノは先ほどまでの思考を全て投げ捨てて駆け寄った。
「エイ、大丈夫!? 返事をして!」
「無駄だ。少なくとも半日はそのままだろうよ。そいつの首に仕掛けてるNARROWはそういうもんだ」
「首……」
エイの白く細い首には、まるで首輪の様なNARROWが取り付けてあった。
その存在をセナノは知っていた。が、これほどまでに一方的に作動する物であるとは聞かされていない。
「人間につけていい物じゃないわ! そもそもあのNARROWは安全のための観測装置の筈よ!」
「……そんな言葉を信じるのは、まだこちら側に染まっていないからか。俺達からすればそれはもう人間じゃねえ。ただの異縁存在だ」
「っ、アンタ絶対にボコボコにする……!」
「そうか、期待しないで待ってるよ」
R1はセナノに睨まれながらも平然と銃口を今度はセナノへと向ける。
が、その指は引き金に掛かっていなかった。
「そんな目で睨むなよ、三鎌縁者。お前はVIP対応で縁理学園まで送ってやるから安心しろ。そっちの可愛い後輩もな」
「っ、セナノ先輩……!」
「大丈夫だから落ち着きなさい。アンタはユウト君とセイカを守って」
力強くそう告げ、セナノが再び状況を打開しようと考え出したその時だった。
「……はぁ、駄目だな。まだわかってねえのか三鎌縁者。俺達はお前達の助っ人でもあるんだが」
「これだけの事をしておいてよく言うわね」
「仕方が無いだろう。こうでもしないとお前達は俺らが悪だと決めつけて動く。……騙されてんだよ、後ろの異縁存在に」
銃口がズレる。
それに合わせて四人の銃口もまた、一人へと集中した。
セナノはそれをゆっくりと追いかけ、視線がぶつかる。
「……嘘、だろう? そ、そんな訳がない」
そこにいたのは、セイカであった。
セイカであった筈だったのだ。
「意味の分からない戯言を……! 縁者、それの言葉に耳を貸すな!」
うろたえながら、セイカはユウトをさらに抱き寄せようとする。
しかし、彼から聞こえてきた息を呑むような悲鳴に体がこわばった。
「おねえ、ちゃん……!?」
「ユウト、縺ゥ縺?°縺励◆縺ョ?」
直後、その音がノイズとなり響き渡る。
腕の中にいたユウトは咄嗟に手を引いたハカネにより、庇われるように後ろへ下げられる。
セイカを凝視して手を広げる姿は、まるでセイカからユウトを守ろうとしているようにも見えた。
「な、縺ェ繧薙□。……なんで、何が……縺ゥ縺?@縺ヲ……」
「セイカ……貴女まさか……」
動揺する声すらも、まるで不愉快な電子音であった。
自分の存在を確かめるようにセイカは頬の輪郭を両手で確かめていく。
そして、次に顔を上げたその時。
「わた、しは……正常……だ」
その顔は、輪郭を捉えることがやっとなほどに歪められていた。
まるで映像が乱れたように、モザイク処理を為されたように、彼女の顔は見えない。
「信じ、て」
ただ、伸ばされた手だけが悲しく空を切っていた。
【縁理庁提出資料】
文書番号:EN-12781-JP
異縁存在名:がびがび
危険階級:A級
分類:電子漂流自己研磨型
■ 概要
EN-12781-JPは動画投稿サイト■■■■(以降EN-12781-YB)に突如として発生したノイズ型異縁存在である。
その特性から当初は視覚に対し影響を及ぼすC級相当の視野侵食型の信仰系統異縁存在と考えられたが観測から一週間が経過した■月■■日に突如として変異、人間へ直接的危害を及ぼした。
EN-12781-YBから始まり、SNSや他電子コミュニケーションツール全てへと感染を広げたため、実質的な封印不可能状態である。
これに対し、縁理庁は逆縁班による信仰型異縁存在のワクチン生成を指示、現在研究中。
■ 外観・形態・確認現象
EN-12781-JPの外見は感染初期は動画内に映る小さな黒点型の映像ノイズである。
これを確認、認識した人間の数により自己の増殖を始め、一定数の視線を集めると対象の網膜内に転移する。
これにより拡散期へと移行。感染者が撮影した映像媒体に自身の一部を植え付け、上記のように自己の拡散を促す。
■ 異常性・影響
段階Ⅰ:種子期
サイトの映像内に定着し、視線を浴びるのを待つ。
ただ見られるだけではなく、映像内のノイズとして認識される必要があると予測。
段階Ⅱ: 拡散期
映像から見た者の網膜へと移動し、脳内での自己増殖を始める。
その際、対象は映像に対する自己介入欲求に襲われ、積極的に撮影をはじめる傾向あり。なお、感染は人間に限り、他動物への感染は確認できない。
段階III:研磨期
撮影による自己の拡散をある程度終えた個体は、やがて宿主の改造へと移行する。
EN-12781-JPに感染した者は例外なくその体を現実干渉型電子体へと変化させられ、生物としての機能を停止、与えられた情報により規則的な行動を始める。
■ 現地発生経緯(確認事案)
■■月■■日
配信者■■■によるEN-12781-YBでの配信にて。
23:11 ゲームの配信中に映像ノイズをコメントにより指摘。
23:15 指摘数が増加、コメントが一時的ヒステリック状態になり配信者■■■は配信を一時中止。
23:58 配信者■■■は配信を再開。その時点で既に頭部に現実でありながら映像的ノイズが走りはじめ、言動に異常な規則性が見られ始める。
00:04 配信者■■■の肉体は完全な現実干渉型電子体へと変化。それから15分間、規則的な会話のみを繰り返し、縁理庁依頼で配信を停止。
00:15 縁者部隊により拘束。抵抗は見られなかった。
以降、【ZONE-歪-223】へと収容、治療中。
■ 縁理庁による封縁・処理方針
出現配信サイトEN-12781-YBは凍結封縁。
同様のデータをコピーしたセカンドサイトの運営によりEN-12781-JPの存在を隠蔽。
有効な封縁方法が確立されるまではノイズに気が付かせない、またはノイズが存在する映像を全て削除する対処を続けるしか方法がない。
現在、信罰によるEN-12781-JPの封縁効果実験を稼働中。
■■■■による■■がEN-12781-JPのような電子型に有効か否かを調べるための実験も提案されたが、■■■■は現在疑似媒介体による特殊な状況下にある為却下された。