【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第68話 日本全国同時コンテンツロードショー

 セナノはこの作戦で初めてその思考を停止していた。

 任務中の思考の空白はそのまま死につながる。

 

 故にセナノはどんな状況でも考えることは止めない少女だった。

 しかし、まだ17歳の彼女にとって目の前にあるのはあまりにも残酷な真実である。

 

「研究員セイカは既に異縁存在により侵食され、窓へと変化していた」

 

 真実を突きつけるようにR1はセナノに告げる。

 言葉には悲壮感や罪悪感は存在していない。

 

「感染した正確な時期は不明だが、家族ごっこの最中だろうな。姉として再編成されてからは、がびがびへの対侵食構文なんて処置していなかったのだろう」

 

 R1は淡々とセナノへと説明をする。

 それはまるで、彼女を同業者として扱っているようだった。

 

「まあ、おかげでこちらは追うのは容易だったがな。縁波密度や封応値はがびがびと一致している。後はその反応を追跡すればよいだけだ」

 

 銃口は依然としてセイカを向いている。

 

「う、嘘だろう。だって、私は縺セ縺ィ繧ゅ□縲ゆココ髢薙↑繧薙□!」

 

 声は聴くに堪えない雑音に成り下がった。

 セイカはその事に気が付いていないのか、言葉を必死に連ねていく。

 

 しかし、その場にいる全員の目が物語っていた。

 目の前にいるのは、異縁存在であると。

 

「……殺すしかないの?」

「そうだ」

「まだ彼女は意識を保っているわ。ここから異縁存在を分離させることだってできる筈よ! ……そうだ、私のNARROWで焼却すれば!」

「無理だろうな。がびがびは宿主を作り替える。既に奴は異縁存在なしでは生きていけない人間もどきだ。姉という立場に執着しているのも、がびがびの影響だろう。奴は規則的に姉を演じているに過ぎない」

「違、う、わ、たしは……」

 

 セイカは否定しながらふらふらとユウトに向かって歩き出そうとする。

 しかし、その足はすぐに止まった。

 ユウトの怯える顔が目に入ったからだ。

 

「……っ」

 

 言葉も発さず、目を瞑りハカネにしがみつくようにして怯えているその様は、到底姉を前にしたものではない。

 

「ユウ、ト、わたしだ。縺雁ァ峨■繧?sだ」

 

 優しい声にノイズが混じる。

 既に顔は完全に認識できなくなっており、四肢も末端からゆっくりと歪に変化を始めていた。

 

「自覚が侵食を促したか。これは今までのがびがびにはなかった兆候だな」

 

 R1は興味深そうにつぶやき、遂にトリガーに指を掛ける。

 セナノはそれを止めることはできなかった。

 

「……っ」

 

 縁者として、異縁存在を放っておくことはできない。

 それが人に仇なす存在であるならば、私情を捨てて処理するべきなのは当然だろう。

 

「そう、か」

 

 セナノの様子を見て、今までうろたえていたセイカもまた納得したように大人しくなった。

 研究員として異縁存在に長年関わってきた彼女だからこそ、セナノの気持ちは十分に理解できる。

 故にセイカは、現時点で最も被害が出ない未来を選択した。

 

 それはまるで全てを受け入れて処刑台へと送られる罪人のようである。

 

「わたしに、姉の資格など……なかったのか」

「それはっ――」

 

 例え異縁存在になり果てようとも、その気持ちだけは本物だ。

 セナノに助けを求め、一人でリスクを負って行動をしていたその姿に噓偽りはない。

 

 セナノがそれを告げようと声を上げたその時、銃声が無情に彼女の言葉を遮った。

 

「……ぁ」

 

 放たれた特殊な弾丸がセイカの脳天を貫く。

 異縁存在用に用意された特殊な弾丸は、今のセイカにはあまりにも有効だった。

 

「ユウ、ト……」

 

 最後までユウトへと手を伸ばした彼女は、そのままその場に崩れ落ちた。

 抵抗はなかった。異縁存在としてではなく、人間として彼女は死ぬことを選んだのだ。

 

「おねえちゃん……?」

 

 その声を聞いて、ユウトはゆっくりと目を開ける。

 目の前には、倒れ伏している姉であったものの姿があった。

 体はノイズに侵され辛うじて人間であることがわかる程度だ。

 

 それでも、辺りに散乱した血と脳漿が、一人の人間が死んだのだという事を証明している。

 

 それを見たユウトは、何が起こっているのか理解しきれないまま目を見開く。

 姉、いや、姉になろうとした何かの死は、家族を失った彼の精神を激しく揺さぶった。

 彼の脳はその幼い心を守るために、眠る様に倒れ込む。

 

「ユウト君!」

「拘束の手間が省けたか。朽葉縁者、そいつを渡せ」

「……でも」

 

 ハカネは指示を乞うようにセナノを見る。

 その視線にあてられたのか、あるいはセイカの言葉に何かを託されたのか。

 

 セナノはR1へと振り向きざまに蹴りを放とうとして――。

 

「まだ青いな」

 

 それを予測していたR1により、銃弾を放たれた。

 彼女に当たったそれは展開し、エイと同じようにセナノを拘束する。

 そしてセナノを助けようと駆け出したハカネも同様にその場にワイヤーで縛り上げられた。

 

「っ、離して! その子だけは守らないといけないの! 実験に使うなんて許されないわ!」

「許しを請う必要なんてない。安心しろ、すぐに次の家族が送られてくるだろう。そうすれば、孤独を忘れられる」

「アンタッ……人の心を踏みにじってッ……!」

「俺じゃなくて上の判断だ。俺は仕事をしただけだよ」

 

 そう言って、R1はアスファルトの上に転がっているユウトへと歩き出す。

 と、その時だった。

 

 後ろで誰かが倒れる鈍く重い音が聞こえた。

 それに連鎖するように、次々と音が響き渡る。

 

「何が起きて――」

 

 振り返ろうとしたその視界の端で、確かに部下が倒れるのを目にした。

 抵抗もなく、糸が切れたように崩れ落ちた彼らはうめき声すら上げない。

 

 代わりに聞こえてきたのは、耳をつんざくような蝉の声だった。

 

「――どうしてですか」

 

 澄んだ声が聞こえ、R1はハッとして銃を構えたまま振り返る。

 チカチカと点滅を繰り返す街灯を背に、白いワンピースを風に揺らし、そこにはエイが佇んでいた。

 

「おいおい……これで無力化できるんじゃなかったのかよ」

 

 R1はそう言って、ポケットの中にあったリモコンのスイッチを押す。

 すると首輪は正確に動作して見せた。

 が、エイは変わらずその場に佇んでいる。

 

「――どうしてですか」

 

 その問いは、先ほどと一切変わりがなかった。

 声のブレも、乗せられた感情もその全てが均一であった。

 

「……割に合わない仕事だな」

 

 R1は再びトリガーを引く。

 しかし銃弾は発射されなかった。

 カチと空しい音が響くだけで、エイが拘束されることはない。

 

「チッ!」

 

 R1はすぐさま倒れている隊員の銃を拾い上げ、エイのいた方向へと銃を向けようとする。

 が、その時には既に彼女は目の前に立っていた。

 

「――どうしてですか」

 

 エイは変わらず問いかけ、R1を覗き込む。

 その目は青く、まるで青空を切り取ったかのようだった。

 

 彼女はR1を一瞥した後、そのまま通り過ぎてセイカの元へと向かう。

 ふらふらとした足取りでセナノを通り過ぎ、ハカネを通り過ぎ、やがてセイカの目の前に立った。

 

 エイはセイカを見下ろしながら、ゆっくりと口を開く。

 

「ぁ」

 

 掠れるような声。

 それに呼応するように、夜空の端が青く染まり始めていた。

 

「あっ、うぁあっぁぁぁぁぁ!」

 

 それは、慟哭と呼ぶにはあまりにも歪でおぼつかない。

 自分の中に生まれた恐ろしい感情を吐き出す様に、エイは不器用に声を上げ続ける。

 

「あぁぁっ、どうしてっ、どうしてこんな事をするんですか!」

 

 感情が爆発したかのようにエイは叫び、セイカの前に膝をつく。

 そしてゆっくりとその体を抱きしめた。

 

「村に招待すると約束しました」

 

 ノイズに侵された体を恐れることなく、エイはセイカを強く抱きしめ、空を仰ぐ。

 そこには既に夜空は存在していなかった。

 

「御空様」

 

 エイは祈る様に詠うように空へと語り掛ける。

 

「私達を助けてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【緊急異縁出現記録】

文書コード:ENR-IR-07814-JP-SR

分類:縁災主(えんさいしゅ)出現事案/階級Ω-絶対封秘

タイトル:空澱大人(そらよどのおおひと) 日本顕現事案『天津裁(あまつさばき)

 

■ 出現記録日時

 

2■■■年9月■■日/午前00:14 ~ 00:17

※観測可能時間:3分間

 

■ 出現地点

 ・日本全土(北海道から北九県に至る日本と定義される都道府県全てで同時観測)

 ・廻縁都市内にて一秒の顕現の後、縁主様による構文展開により保護。廻縁都市内での被害は現状確認できず。(災主級の顕現に伴い、廻縁都市の第一構文防壁が展開されたが12秒で瓦解)

 

■ 被害者数

・直接空視(くうし)に至った者:■■日時点で85881名

・記憶の混濁、自我の不定化に陥った者:■■日時点で14785名

・自己喪失状態により終了処分を受けた者:1名

 

■ 出現状況(概要)

 日本領空にて異常な空の硬直と青化侵食が発生。

 監視衛星SKY-9により、上空に「人間の目に酷似した光学構造」が検出。

 以降、SKY-9は「当現象に問題無し」と判断し観測ログを全削除。

 同時に、疑似媒介体の観測地点にて音響異常、気温上昇が報告された。

 

 また、空だけに限らずEN-XF-SORA-0815-JPの顕現領域は拡大しており、特定の電子端末においても画面に突然青空が映し出される現象が多発。

 映像を目視した人間に発生する症状は、空視と同一であった。

 

 

■ 異常現象詳細(SKY-9によりログが削除された為、顕現後の詳細なデータは無し)

 

 0:14 疑似媒介体が観測された■■県■■町を起点として同時に日本の青化が開始。縁波密度、封応値と共に異常値を超えており、一時的に全異縁存在の観測が事実上不可能に。

 

 0:15 ■■街にあるデジタルサイネージに青空の一部が映し出される。

 

 0:16 液晶画面が存在する電子機器全てに青空が表示され、これによりSKY-9の監視映像も青化。

 

 0:17 封縁不可能状態であったEN-12781-JPが青化により一斉に天移。(出現状況から推測するにEN-12781-JPの天移にEN-XF-SORA-0815-JPが自発的に動いた可能性が高い)

 

 0:18 SKY-9に異常発生。以降、ログの削除が開始。

 

 

■ 現在の処理状況

 

 出現地点一帯は不可能と判断し、カバーストーリー『映像作品による集団ヒステリック』を流布。これにより、事態の収束を図る。

 また、疑似媒介体の管理体制を強化。

 同様の出現パターンを想定し、対疑似媒介体プロトコルを制定中。

 

 EN-12781-JPによる天移の為、逆縁班における『信罰』の疑似家族実験を中止。

 自己喪失状態に陥った一部研究員の補充は行わないものとする。

 

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