【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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四章 童鳴らし編
第72話 眠いぞ! でもコンテンツは絶やすな!!


 縁者に決まった休みはない。

 縁者見習いの学生でさえ、時には縁者の仕事に呼び出されるほどであった。

 何もない休日などという物は、もはやA級の異縁存在と同等以上に珍しい。

 

 それがS階位ともなればその忙しさは更に増していた。

 

「今日もお疲れさまでした!」

「ええ、お疲れさま」

 

 とある市街地の外れ、今となっては誰も足踏み入れていない廃工場にセナノとエイはいた。

 丹念に燃えカスを掃除する特別業者を尻目に、セナノはバスに乗り込む。

 NARROWヒバリにより灰燼に帰した異縁存在はあと数分もすれば完全に除去が終わる。そうすればこの廃工場は何事もなかったかのようにいつもの朝を迎えるだろう。

 

「今回の異縁存在は強敵でしたね……! まさか、落書きから飛び出してくるなんて」

「落書きであっても、信仰と認識が噛み合えば異縁存在の窓として成立するわ。今回のは良い経験になったわね、エイ」

「ふふっ、はい! セナノ先生!」

「ちょっとやめてよ。先生なんて柄じゃないわ」

 

 そうは言いつつも、セナノは無意識の内に胸を張り頬をほころばせていた。

 彼女とかかわりのない第三者が見ても、それが喜んでいるが故だとすぐに気が付けるだろう。

 

 バスの車内は広々としていたが、二人は当然の様に並んで座った。

 後ろから二番目の席を定位置としている彼女達は、まるで周囲に自分たちの世界の邪魔をされたくないかのようだった。

 

 やがてバスが発車し、心地の良い揺れと熱が車内を満たしていく。

 初めは楽し気に談笑をしていたエイとセナノだったが、それも次第に瞼が下がり始めたエイが、中身のない返事をし始めたころに緩やかに終わりを迎えた。

 

「ふぁ……」

「眠いなら寝てなさい。着いたら起こしてあげるから」

 

 頭を撫でられながら心地よさそうに目を細めた彼女は、もにょもにょと小さく口を動かし辛うじて返事をする。

 

「本当ですか? じゃあお言葉に甘えて……んぅ」

 

 首がかくんと落ちてあっという間に眠りについたエイを自分の方へと抱き寄せ、肩を枕代わりに差し出す。

 もう慣れたものであり、セナノの顔には躊躇や照れが一切存在しない

 

「相変わらず寝つきが良いわね……」

 

 羨ましそうに呟く彼女の方はと言うとまだ眠る必要すらなさそうだった。

 セナノはエイの眠りを妨げないように最小限の動作でスマホを取り出す。

 

(次の予定は……あ、久しぶりの休みね!)

 

 がびがびの件から既に2週間が経過していた。

 空澱大人の力を解放したエイのおかげで、事態は最悪かつ最適な終わりを迎えたと言って良いだろう。

 集団パニックや一時的な自失状態に陥った者達の事に目を瞑れば、がびがびという処理も蒐集も不可能だった異縁存在を完全に処理できたのは成果として大きい。

 

 同時にそれは、エイの存在を日本全土に知らしめることとなった。

 その結果が、今のセナノの多忙に繋がっているのである。

 毎日のように縁理庁からの依頼を受け、東奔西走を続けていたのだ。

 

(まさかここまで露骨に依頼が増えるなんてね。しかも全部縁理庁名義で民間からの依頼はない)

 

 空澱大人の疑似媒介体は、言ってしまえば人類が使役できる最強の異縁存在だ。

 ならばこそその主導権は誰もが持ちたがる。

 たかだか最年少でS階位になった程度の縁者には手に余る代物なのだ。

 

(依頼を達成できなければエイのお目付け役から外されるってあの人は言っていたけれど、エリートな私ならまだまだ余裕ね!)

 

 審縁導師の助言と忠告を胸に、セナノはより一層気を引き締めて任務に臨んでいた。

 結果叩きだしたのは、3週間で12体の異縁存在を蒐集、6体の異縁存在を処理という二人では到底考えられない驚異的な成果であった。

 

 セナノでなくともこの結果には自信を付けるだろう。

 その全てが一歩間違えれば死もあり得る危険な任務である。

 

 しかしセナノはそれを全て完璧にこなして見せたのだ。

 

(ハッ、S階位を舐めるからこうなるのよ。縁理庁の任務なんて楽勝だわ!)

 

 自分の肩でスヤスヤ眠るエイに配慮して、セナノは心の中で高笑いをする。

 エリートと疑似媒介体を乗せたバスは、夜の街へとゆっくりと溶けていくように消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 バスが廻縁都市に到着したのは、既に深夜3時を回ったころだった。

 心地の良い揺れが収まっていき、バスの扉が開いた事を知らせる古臭いブザー音が響く。

 

 セナノはその音で自分がいつの間にか眠っていたことに気が付いた。

 

「……エイ、おきなさい。着いたわよ」

「んみゅ……」

 

 エイはまだ寝ぼけているのか、揺するセナノにしっかりと抱き着いた。

 その瞬間、セナノは目をカッと開く。

 

「男……!」

 

 バスの中でミラクル性転換をひとりでに完了させていた今のエイは可憐な美少女♂であった。

 抱き着いたのにエイの胸部からは柔らかさを感じない。

 それどころか、華奢なその体に僅かではあるが力強さを感じた。

 

 一緒に暮らしているエイソムリエのセナノには目視も本人への確認もなくともわかる。

 今のエイは――男だ。

 

「え、えい……降りるから起きて頂戴?」

「ふぁ、はぁい」

 

 多くの任務をこなしたスーパーエリートなセナノに不可能はない。

 例え顔が洒落にならない程に好みで、かつ自分にべったり抱き着いてきていたとしても彼女の固い意志は揺るがなかった。

 彼女はエイを誘導して、静かに立ち上がる。

 そして、ショボショボの目を擦りながら歩くエイの手を引いてバスを降りた。

 

「――ふぅ」

「ねむ……」

 

 二人を降ろしたバスは、まるで労うように一度軽くクラクションを鳴らし都市の中心へと消えて行く。

 夜の廻縁都市は、まるで二人だけが取り残されたように静かだった。

 廻縁都市は相変わらずごった返すように建造物が多く存在しており、塔が蒸気を噴き出し辺りを白く染めたり、構文維持のために路面脇に埋め込まれた歯車が回り続けたりなど、都市自体はせわしなく生きてはいる。

 

 まるで機械仕掛けの巨大な化け物に丸呑みにされたような感覚だ、とセナノはエイへの邪な感情を誤魔化す様に思考を回す。

 

「じゃ、帰るわよ」

「……はぃ」

 

 声は小さく、たどたどしい。

 無理もないだろう。

 S階位に合わせたスケジュールを3週間もこなしたのだから。

 縁者としては値千金の経験ではあるが、それにしても少し前まで村で蝶よ花よと暮らしてきたエイにとっては何よりも辛い三週間だっただろう。

 

「帰ったらそのまま寝ていいから、もう少し頑張りなさい」

「……はぁい」

「あ、そうそう。貴方を送ったら私、コンビニでちょっと買い出ししてくるから。食べたいお菓子とかあるかしら」

「……ちょこぉ」

「ふふ、わかったわ。とびきり甘いのにしてあげる」

「……ぅ、あり、がと……ござ……い」

 

 セナノに手を引かれ歩いていたエイだったが、次第にその歩幅は短く、そして歩み自体が遅くなっていく。

 任務を全て達成した安心感から疲労が一気に押し寄せたのだろう。

 もはや自分の意思ではどうにもできない程に今のエイは睡魔に完敗寸前だった。

 

「エイ?」

「……すぅ……すぅ」

「立ったまま寝てる……!?」

 

 セナノに迷惑はかけたくないという意思でここまで頑張ってきたエイだったが、遂に限界を迎えたようだった。

 手を繋がれたまま、直立した状態で頭は舟を漕ぐように揺れ始める。

 

 その姿を見て、セナノは呆れたように笑った。

 

「本当にお疲れ様」

 

 セナノはエイの手を引いて、自分の背中に誘導する。

 そして、されるがままのエイを一気に背負いあげた。

 

「よし」

 

 エリートなら、自分よりもずっと小柄な相棒を背負うなど訳ない。

 例え自分の耳元で寝息が聞こえてきたとしても、平常心を保つことが出来た。

 

「私はエリート私はエリート私はエリート――」

 

 この三週間で最も厳しい任務と言っても過言ではない相棒おんぶ帰宅。

 それをセナノはS階位としての意地を総動員し望んだ。

 

 例え耳元で寝息に混じって自分を呼ぶ声が聞こえて来ても理性までは失わない。

 必死に任務や異縁存在への戦闘シミュレーションなどを脳を余すことなく思考し続ける事10分。

 

「――着いた」

 

 セナノはマンションの前まで無事に到達していた。

 エイは気持ちよさそうにセナノに体を預けて、完全に眠っている。

 熱を持ったエイの体が、まるで自分が背徳的かつ淫靡なものを背負っているのではないかとセナノに想像させた。

 

 理性が崩壊しそうな中、彼女はそのままエントランスへと足を踏み入れ――。

 

「お待ちしていました、三鎌縁者」

「……うん、最悪ね!」

 

 黒いスーツに身を包んだ、血色の悪い瘦せぎすの男がセナノとエイが入ってきたことを確認してソファから立ち上がる。

 

 縁理庁の一般職員兼審縁導師の便利な部下、鏑矢。

 

「その多忙さには同情しますが……また仕事です」

 

 彼の登場は、どう考えても吉報ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねむ……』

『眠りながらもしっかりコンテンツは生産できる。腕を上げましたね、エイ!』

 

 

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