【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第76話 疑え! 友人の知り合いを名乗る奴!

 その部屋は何の変哲もないホテルの一室であった。

 しかし充満していたのは、錆びた鉄のような血の香り。死の香りだ。

 

「さて」

 

 セナノは至って冷静だった。

 縁者を続ければ死など数ある結末の一つでしかない。

 特に、依頼主が死んでいるなんてことはあまりにも前例がありすぎて縁者同士の話題にすら上がらない程だ。

 

(血が出ているって事は、死因は人間らしいものかしら)

 

 屈んだセナノは手を合わせて、名も知らぬ者に祈りを捧げフードを外す。

 そしてそこにあった凄惨な光景を眉一つ動かさずに観察し始めた。

 

 短く切り揃えた髪や最低限の化粧などは、合理性を突き詰めた結果だろう。

 縁理庁の研究部門ではよく目にする特徴だ。

 が、何よりもセナノが注目していたのは死因であろう両耳からの出血の跡であった。

 いや、元は耳があった場所とでも言った方が良いだろうか。

 

「千切られている……」

 

 まるで子供が無造作に画用紙を破り捨てたかのように、その女の耳は千切られていた。

 赤黒く染まった両方の側頭部を見て耳をちぎられたとわかったのは、そこに耳が無かったからというよりも、かろうじて残り青紫色に変色した耳たぶの残骸が理由だった。

 

(耳の上を掴んで一気に引き裂く……死因はともかくどう見ても異縁存在の仕業ねこれ)

 

 耳を裂いて殺す事を好む殺人鬼でもない限りは、異縁存在の仕業と見て良いだろう。

 死を悼むことは忘れず、しかしその現場をセナノは異縁存在に繋がる貴重な手掛かりと認識していた。

 

(それにしても……どうしてこんな殺し方を――)

 

 死体を見ながら更に考え込もうとしたその時、扉が音を立てて開く。

 エイの姿を想像して顔を上げたセナノは、振り返ると同時に固まった。

 

「ひっ、人が死んで……!?」

 

 作業着と『青空クリーニング』と銘打たれた帽子を装着した男は、目の前の死体を見るとすぐに顔を青くして口をパクパクとさせた。

 取り乱しているのか彼は震える手で掃除用具の入ったカバンを抱えるといつでも逃げ出せるようにして、セナノの方へと視線をやる。

 それから震えながら問いかけた。

 

「あ、貴女が、こっ、この人を――」

「そういうのいらないから」

 

 男の動作の全てを無視して、セナノは懐から銃型の兵装を取り出す。

 装飾を一切無くし造形を更に簡素にしたリボルバーのようなそれを笑顔で男に突き付けながら、セナノは睨みつける。

 

「前の戦いで学んでね、こういうのが一つあると便利だと思ったのよ。これ、拘束構文が刻印された杭が発射されるから、人間でも異縁存在でもその場で行動不能にできる代物ってわけ。かなり高かったんだから」

 

 ヒバリと己の肉体以外の防衛手段をセナノはこの3週間の報酬の一部を使用して入手済みであった。

 鉄の重みはまだ少女の手には馴染んでいないが、この距離で引き金を引く程度は訳ない。

 使えるものは積極的に自身のプランに組み込んでいくその前のめりな姿勢が、今まさに役に立っていた。

 

「銃!?」

「……もういいわよ、それ。次その変な演技をしたら眉間にぶち込むから」

 

 セナノは変わらず冷たい声色でそう言い放つ。

 すると、今まで震えていた筈の男はまるで人が変わったかのように表情を落とした。

 

「ああ、そうか。無駄だったか」

「そうね、無駄な演技ご苦労様。そして、どう見ても怪しいから捕縛よ捕縛!」

 

 セナノは躊躇なく引き金を引いた。

 狙うのは確実に当たる胴体で良い。構文は当たりさえすれば対象を確実に行動不能にできるのだから。

 しかし、不意を突き簡潔な動作で完了したはずのセナノの行動に男は間に合って見せた。

 

「子供には過ぎた玩具だ」

 

 持っていたバッグが膨張し、中から鋏が飛び出す。

 黄土色の装甲で銃弾を軽々と弾き返したそれは、一メートルはあろうかという巨大な蟹であった。

 それも生物というよりは機械に近く、廃材で作り上げた上等なアート作品に見える。

 鋏を鳴らし、口からタールのような何かを吐き出すそれの本質が何かをすぐに理解したセナノは距離を取った。

 

「異縁存在!?」

「完全に人工のな。ああ、嬢ちゃん安心しろ、少なくともここで殺し合う気はねえよ」

 

 両手を上げ、無害を主張する彼の体を蟹はまるで自分の庭の様にしがみついたまま動き回っている。

 その光景を見て果たして誰が言葉を信じることが出来るだろうか。

 

「……っ」

「まあ待てよ、俺はそこでくたばってる奴に依頼されてきたんだ。異縁存在を回収して欲しいってな。それに……」

 

 男は扉を指さしてこう続ける。

 

「嬢ちゃんの敵なら、とっくの前に扉の前にいた嬢ちゃんも殺してるだろ」

「っ、エイ!?」

「はーい?」

 

 名前を呼ばれたエイは扉の影からひょっこりと顔を出す。

 そして、蟹と死体とセナノをそれぞれ見た後、顔を顰めて首を傾げた。

 

「どうしたんですか、これ……?」

「色々と言いたい事はあるけれど……私、外で誰も来ないように見張ってなさいって言ったわよね?」

「はい! ですけど、この人がセナノさんの知り合いだって言うんで通しました!」

「……おぉ、そういう……」

 

 その無邪気さに、セナノは思わず天を仰ぐ。

 

「物分かりが良くて助かるよ、嬢ちゃん」

「ありがとうございます! でも、今の私は男ですよ?」

「えっ……ま、まあそういうこともある時代か」

 

 初めて本心から表情を崩した男とエイのやり取りを見て、セナノは今のところは無害であると認識しギターケースに伸ばされていた手を引く。

 そして、改めて男の正体を問いかけようとしたその時だった。

 

「セナノさんセナノさん、この人もセナノさんの知り合いみたいなんです」

「あ、どもっす」

 

 そう言って平然と部屋の中に一人の少女が入り込む。

 黒いセーラー服に赤いリボンを付けた黒髪でおかっぱの少女。

 

 そんな特徴的な容姿をセナノが出会っていたら忘れる筈がない。

 つまり、その少女も完全に他人であった。

 

「話が早くて助かったよ、ありがとうねカワイイお嬢さん」

「もう、また間違えられました。私は男ですよ」

「!?」

 

 入って早々同じ反応をする少女を見て、セナノは思わずため息をつく。

 そして、今度こそこう問いかけた。

 

「はぁ、取り敢えず名前と所属と目的を教えなさい」

「人に聞くならまずは自分から、でしょ?」

「チッ」

 

 少女にくだらない戯言で返されたセナノは、言い返す気も失せたのか舌打ちをして半ギレ気味にこう言った。

 

「縁理学園所属縁者三鎌セナノ。目的はこの街にあるっていう異縁存在の回収よ。ちなみにS階位だから、少しでもふざけた真似をしたらどうなるなわかるわよね?」

「S階位……!?」

「ほう、それなりの人材を寄こしてきたか。では、次は俺だな」

 

 男は、頼りなさそうな顔つきでしかし妙に威圧感のある声で続ける。

 

「目的は同じく異縁存在の回収。そして、所属と名前だが……」

 

 セナノ達を一瞥して男は少しの間もったいぶってからこう告げた。

 

「――眞柴、そう言えば縁者なら嫌でもわかるだろう」

「封縁五家……!? やっぱり貴方、敵じゃ――」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

 再びNARROWに手を掛けたセナノとそれに対抗しようとした眞柴を止めるように少女が手を上げ二人の間に割り込む。

 制止するように両人に突き出されたそれぞれの手には、やけに発色の良い紫色の薔薇が握られていた。

 

「眞柴にS階位って……その言い辛いんだけどさ」

 

 少女は次の瞬間には手品のように薔薇を消し、一本の雛菊を手にこう告げた。

 

「私、洛永クビリって言うんだよね」

「洛永……!? また封縁五家!?」

「洛永か、久しぶりに見たな。山奥に引きこもっているものだと思ったが」

「あはは、久しぶりの人里でーす」

 

 一人は動作に細心の注意を払うように視線をせわしなく動かし、また一人は自己紹介の後も変わらず平然としている。

 そして残る一人も、へらへらと軽薄な笑みを浮かべているだけだった。

 

 その光景を見て、エイは首を傾げる。

 

「……仲良し?」

「どこ見てそう思ったのよ」

 

 封縁五家の二人とS階位と疑似媒介体。

 そんな奇妙な者達の出会いは、この状況をより混沌としたものにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『エイ、ご覧ください! あれが封縁五家です! 怖くて悪くて強い奴らですよ!』

『ひぇ……どうして通したの!?』

『その方が面白いからです! けれどまあ、まだ開始はしなさそうですね。揃ってないですもんね』

『え、何が?』

『楽しみだなぁ^^』

『ねえ何が始まるの!? 教えてよ! ねえったら――』




お気軽アンケートのつもりが、いつの間にか轟々と理論や信念が飛び交う学会の場になってた……

どうして……オイラはただ、男の娘をリョナりたいだけなのに……
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