【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
死体を囲む封縁五家とS階位と疑似媒介体。
かつてここまで奇妙な組み合わせで黙とうをささげられた死体は存在しないだろう。
手を合わせ、花を添え、あるいはそもそも蘇らせられないかと空を見て悲しそうに顔を歪める。
これはそれぞれの道徳心に基づく人間としての行動だ。
そしてここからが、各陣営の道理に則った行動だった。
「で、アンタ達のどっちが殺した訳?」
セナノは改めて問いかけながら、ギターケースを開ける。
そして迷わずその棺のレバーを降ろした。
「NARROWを使う程の事か?」
「尋問系の異縁存在を材料に使っているのかもしれないよ?」
上からの承認を待たずにNARROWを起動できる条件はシンプルである。
要は、死が目前に迫っていれば良いのだ。
「封縁五家と絡んでまともな結末を迎えた縁者はいないわ。任務の達成率だって10%を切る。だから悪いけれど、最初から本気だから」
「だってよ」
「えぇ……せっかくおめかしして来たのになぁ」
封縁五家は人型の悪意と揶揄されることすらある。
協力関係など結べるはずがない。
新人の縁者であれば絆され、つい手を貸したかもしれないがセナノは違った。
「エイ、こっちに来なさい」
「はい」
エイは二人にぺこりとお辞儀をして、セナノの元へと駆け寄った。
「お辞儀しなくていいのよ」
蒸気を噴き上げ、中から一枚の羽が取り出される。
それを放り投げると辺りに陽炎を生み出しながら、小さな鳥の姿へと形を変えた。
舞を奉納することで真価を発揮する新世代のNARROWだ。
「お、なんか私が前に見たNARROWよりも最新っぽいじゃん! もう玉鋼の殻に流し込んで~とかしないんだ」
「いつの時代の話をしているんだお前は。それはもう30年は前だろう」
「じゃあ昨日の事と変わんないじゃん」
ヒバリの登場は本来であれば状況を一変させ、セナノの勝利を確定させるだけの力を持つ。
しかし揺らぐ陽炎も、肌を焼くような熱気も少女の鋭い眼光も封縁五家からすれば、子供騙しに過ぎない。
「そんなに強がるなよ嬢ちゃん」
眞柴は死体の傍に腰を下ろし、懐からマッチ箱と葉巻を取り出す。
緊張感はなく、まるで自室にいるかのような緩慢な動作で彼は葉巻をセナノに向けた。
「俺と洛永が本気なら、とっくの前に死んでるぜ?」
パチンと、小気味良い音共に葉巻の先端が切り落とされる。
眞柴の体を這い廻っている蟹が、その鋭利な鋏で切り落としたのだ。
必要な事は告げたとでも言いたげに、眞柴はそれ以上は何も言わずに葉巻を口元へと運んだ。
エイはそれを見て恐る恐る問いかける。
「セナノさん、もしかしてこの人達ってセナノさんのお知り合いじゃないんですか……!?」
「……そうよ」
「完全に騙されました! ごめんなさい!」
後ろで素直に反省しているエイに色々と言いたい事はあるのだが、セナノはぐっとこらえて目の前の二人を警戒した。
しかし、相変わらず臨戦態勢に移行したのはセナノのみである。
「ちょっとちょっと、全然話を聞いてくれないじゃん。今の縁者ってこんなに頭固いの? 昔はもっとやり易かったのにー」
「ごめんなさいね、封縁五家だけは関わるなって言われているのよ」
「嫌な時代になったもんだ。まあまあ落ち着いて、まずは自分たちの持っている情報でも交換しようよ」
部屋にあった花瓶に薔薇をさし、クビリは死体を一瞥した。死体自体に興味はないようで、すぐにその視線は薔薇に戻っている。
「私は当主さんに、お使いを頼まれたんだよね。異縁存在を回収して来いってさ」
「殆ど俺と同じだな。こっちは、ここに依頼人がいるが」
死体を葉巻で指しながら眞柴は煙越しに死体を見た。
やはりその目には死体に対する興味は殆ど抱かれていない。
「研究所から逃げだした異縁存在を回収する。それが俺の仕事だった。なんでも文字に残すだけでも効力を発揮する系統らしく、詳しくは明かせないから実際に会って話そうと」
「……確かに、私の依頼文もかなり曖昧だったわね」
「要するに、俺たち二人は確実にソレから依頼を受けている。そして別口で依頼を受けた者が一人。誰が殺したか、もうわかるんじゃないか?」
「…………あっ、流れ的に私かぁ! あはははっ、そんな訳ないじゃん! 私ならもっと綺麗に殺すよ。こうやって」
クビリは跳ねるようにスキップしながら死体に近づくと、一度息を吹きかける。
その瞬間、死体は全てが真っ赤な花びらにかわり、その場に崩れ落ちてしまった。
「っ、あんた何やってんの!」
「え? だって死んでいるしもういらないでしょ。現場検証も終わったし、死体がどんな状態だったかも覚えている。だったら、いらなくない?」
「そういう問題じゃ――」
「それにほら、部屋を満たすフローラルな香り! 腐った鉄屑みたいなあの匂いとは大違いだ! 殺すなら作法を重んじなきゃ!」
困惑よりも先に湧き出たのは未知への恐怖だった。
目の前のソレは、人型ではあるがセナノと同じ感性を全くと言って良い程に持ち合わせていない。
言語こそ同じだが、果たして今までの会話が成立していたのかと疑ってしまう程だった。
「……っ」
「ほら、綺麗な花だよ、笑って笑って!」
クビリの言葉にセナノは何も答えることが出来なかった。
それを見たクビリは、すぐに表情を変える。
死体を見たときのような興味が失せた目だった。
「なーんだ、このS階位は外れか。もういいや、私は私で探しに行こーっと」
クビリはそう言って廊下へと駆けだす。
セナノがハッとして制止をしたが間に合う訳がなかった。
「っ、待ちなさ――」
「嬢ちゃん、間違えるなよ」
追う為に走り出そうとしたセナノを、眞柴は見ることもなく止める。
そして、窓へと近づき空を眺めながら、再び葉巻の煙を揺らした。
「封縁五家を潰すのが任務か? 違うだろう、異縁存在を回収するのが任務だろう?」
「……それは、そうだけれど」
「感情に振り回される奴は弱い。S階位ならそれくらいは言われなくてもわかると思うが」
「っ」
「セナノさん……」
不安そうに名前を呼ぶエイを見て、セナノは申し訳なさそうに頭を撫でる。
辺りに漂う花の香りが、余計に彼女をみじめにさせた。
「それに、あそこで追おうとしても無駄だったろうな。既に鼻がやられている」
眞柴は窓を開け放つ。
心地の良い昼下がりの風が流れ込み、煙も花の香りもなにもかもを流していく。
「鼻?」
「洛永は五感を潰す異縁存在を大量に持っている。あの薔薇だってそうだ」
言われてセナノが見た先では、花瓶に一本だけあった薔薇を今まさに蟹が切り落としたところだった。
根元から切り落とされた薔薇は、そのまま真っ赤な泥のように変化して僅かな蒸気と共に姿を消す。
「異縁存在……! そんな、私が見逃した……!?」
「嬢ちゃん、あれだな。搦め手に弱いな。猪とかペットにどうだ?」
「っ、アンタ!」
「おうおう、またそうやってすぐに釣られる。まったく、若いってのは退屈しなさそうでいいな」
眞柴はそう言うと、窓枠に足を掛ける。
主の移動を察したのか蟹が壁を伝い、その肩へとかしゃかしゃ音を立てて降りたった。
「俺達は同じ依頼主なんだろう。途中までは協力してやるよ。と言っても、嬢ちゃんを狙わないでおいてやるってだけだがな」
風に作業着を揺らしながら、眞柴は帽子をかぶり直す。
いつの間にかその肩にいた筈の蟹は消え失せており、その手には鞄があった。
「この街に異縁存在がいる事は間違いないんだ。さっさと仕事を始めるぞ、ルーキー」
そう言って眞柴は窓から飛び降りた。
セナノが駆け寄って下を見てみるが、そこにあるのはのんきで平和な昼下がりの街の風景だけである。
「……わかってるわよ、やるべき事くらい」
「セナノさん、大丈夫ですか?」
「~っ! 大丈夫! 大丈夫よ! エリートなんだから、余裕に決まっているじゃない! 任せなさい!」
セナノはエイの頭を撫で、それから誤魔化すように胸ポケットからキャラメルを取り出した。
するとつい先ほどまでは不安そうな顔をしていたエイがぱぁっと表情を輝かせる。
「いいんですか!?」
「いいわよ。考え事は糖分を使うんだから」
自分の口にも一つ放り込む。
そして、セナノ達もまたホテルの一室を後にした。
『あのクビリとかいうクソヤバ女がいる間、めっちゃ安心したんだけど俺の体に何かされた?』
『はい! ばっちり精神に干渉されていました! でも、催眠男の娘ってえっちだったので、余裕でコンテンツ後方腕組みです!』
『そっかぁ……できれば、次はそういうの無効化してくれると……』
『ん?^^』
『次回も頑張ります!』
『ヨシ!』