【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
一つ気が付いたことがある。
それは我らが御空様は絶対に俺を守ってくれるわけではないって事だ。
精神干渉を許した理由は、気が付かなかったとか警戒されないためとかではなく、そっちの方がえっちだからである。
この上位存在はコンテンツを優先したのだ。怖いね。
『ソラ』
『はい、なんですか?』
『またあの催眠がきたら俺は受け入れるの?』
『はい。そしてそこの人間に襲い掛かって貰います^^』
『えぇ……』
ホテルを出て一緒に街を歩いているセナノちゃんは気づいているだろうか。
貴女の後ろにいるほんわかお清楚女の子♂が催眠を受け入れ、襲い掛かるという事に。
『有象無象の人間共は皆、こう考えています。疑似媒介体が命令をしてこそ、空澱大人はその力を行使すると。これまでの事件を思い出してください。空澱大人が動いた時は全て、貴女が引き金になっていますよね?』
『いや……』
『ん?^^』
『なってます』
『ヨシ!』
これが濡れ衣ってやつかぁ。思ったよりも濡れ衣って重いんだなぁ。
『故に縁理庁を始めとした各組織は、疑似媒介体である貴女を手中に収めれば空澱大人も手に入ると思っています! そんな訳ないんですけどね! あははっ』
『ひぇ』
『なぜ怯えるんです? ここは頼もしいと喜ぶところですよ?』
ソラは俺の前にスキップで躍り出ると、振り返り青い青い目で俺を見た。
まるでガラス玉越しに青空を覗いているような、あるいは双眸を通して空がこちらを見ているのか。
いずれにせよ、澄んだ瞳は混じりけなしの脅迫に違いはない。
そうなれば、聡明な俺に選べる選択肢は一つだった。
『わぁい! 嬉しいなぁ! さっすが御空様!』
『ふふふ、そうでしょうそうでしょう! 海と陸よりも頼もしいでしょう?』
『……っすねー!』
陸……?
え、陸にも君みたいなのいるの? それ俺からすると新しい地雷の存在を示唆されたも同然なんだけど。
『エイ、今回はシャイニングソラアタックはおやすみです』
『名前変わったんすね』
『か弱い体で、必死に人間をぽかぽか殴りながら泣いてください。意思は少しだけ残っているとエッチですので! それからあの人間が良い感じに力を覚醒させてくれれば良いのですが……』
他人の覚醒にまで口出し始めたらもう、お終いだね。
あ、もうとっくの前に終わってたか! わはは!
『私ではあふれ出るオソラパワーが強すぎて、あの人間がパンッってなっちゃいます』
『なっちゃうんですね(恐怖)』
まるで何かが弾けるようにちっちゃなおててをひらひらさせてソラは笑う。
花火の再現かな?
『世界中の雨水を小さなコップに全て注ぐなど不可能ですから。あの鳥をもう少しうまく使えれば、多少は戦えるようになるのに。もったいないですねぇ^^』
『え、ヒバリについて知っているの? 俺から伝えるから教えてよ!』
『次回以降verアップデートのネタバレになるので駄目です。リークを探しても無駄ですよ^^』
『現実世界のリークなんてあってたまるかよ』
善意とかないからこういう時に普通に教えてくれないの厄介だな……。
具体的な覚醒方法がわからないから、俺からアドバイスも出来ない。
すまないセナノちゃん。これから先の運営の気まぐれ上方修正を待ってくれ。
『あ、そう言えば、催眠時は目の光は消してください。出来ます?』
『えぇ……』
出来るわけない。
『ちょっと今やってみてください!』
『凄い無茶ぶり来た』
洗脳時の目をそんな簡単にお出しできる訳ないのだが、すぐに断ったらまた何かされそうなので、少し頑張ることにした。
……んー、こうかな。
『お、出来てます出来てます! 流石エイですね! 後でオソラオオクワガタをプレゼントします!』
『丁重にお断りします』
『えぇっ、高圧電力に耐えるし鉄骨は裂くし、必ず対象を追い詰め臓物を引きずり出して啜り喰うのに!?』
『尚更いらないねぇ』
それ本当にクワガタ?
高性能のバケモン渡そうとしてない? 俺はちょっとだけ欲しいけど、セナノちゃんの負担になりそうだからいらないよ。
『むぅ、エイはわがままですねぇ。ですが、それも愛しますよ^^』
『あざっす』
セナノちゃんに気が付かれないように、俺はぺこりと頭を下げる。
俺の前ではセナノちゃんが何か手掛かりを探そうとキョロキョロと見渡していた。
ごめんよセナノちゃん。俺だけ真面目じゃなくて。
『さて、それじゃあ頑張ってください! 前座をさっさと終わらせて疑似媒介体争奪せ……おっと』
『え? 今、疑似媒介体争奪戦って言わなかった? ねえ、俺が狙われるの!? ねえソラ『天移^^』――あれ? 何の話をしていたっけ?』
『もう、忘れちゃったんですか? これから異縁存在を探すんですよ。でも、デートっぽくしてかけがえのない日常ポイントを加算していくんです! 頑張ってくださいね!』
そのポイントが最後に碌な事に使われないってのはわかるぞ。
本当の意味での安寧などある筈もないのだ。
だって、空はこんなにも青いのだから。
『じゃ、頑張ってくださいね。よーい、ドン!』
『頑張るぞぉ(適当)』
同士討ちも頑張るぞぉ。
■
青々とした峰を一つ二つ越えれば、ひと夏を過ごすには十分すぎる自然が視界いっぱいに飛び込んでくるだろう。
四方を山に囲まれたこの街は、近郊の人々にとっては都会も同然。
少しばかりさびれたショッピングモールもあるし、数軒の飲食店もある。
故に平日と言えどもその街はこの辺りでは珍しく人で溢れていた。
昼下がりの夏の太陽は決して穏やかとは言えず、生暖かい風をはらみながら道行く人々を見下ろす。
無意識の内に日陰を探し歩く人々とは違い、セナノはエイを連れて道の真ん中を歩いていた。
「エイ、異変があったらすぐに言ってちょうだい。どんな違和感でもいいわ」
「わかりました! むむむ……!」
エイは張り切って辺りを見渡す。
そしてすぐにハッとした表情でセナノの肩を叩いた。
「セナノさん! あそこ、ランチは500円らしいです!」
「それは異変じゃないでしょ。それに、貴女は500円じゃ収まらないじゃない」
「えへへ、そうですかね……外の世界のものって美味しくて」
「もう、エイったら。異縁存在を回収出来たら、何でも食べていいから」
「! わかりました!では御空様に――セナノさん?」
「だ、駄目だから。それはその……最終手段だから。一旦、私達で調べましょう?」
危うく小さな街に災主級を顕現されそうになったセナノは、夏だというのに顔を青くして必死に笑顔を取り繕っている。
エイはそんな彼女を見ながら首を傾げるも、すぐに頷いた。
「わかりました! セナノさんがそう言うならそうします!」
「ありがとう、エイ」
(そうよ。エイの力に頼っちゃいけない。私はあの力の為にこの子といるわけじゃないんだから……!)
空澱大人の力の利便性と恐ろしさは十分に理解している。
セナノは常にそれに救われてきた側なのだから当然だ。
故に彼女も最初に思いついてはいた。
(手掛かりがない今、空から見れるならどれ程頼もしい事か)
それでも決してその力を頼りにしないのは、エイと対等でいたいというセナノの願いとS階位としてのプライドがあるからだ。
(耳をちぎる程の残虐性は持ちながらも、あの一室以外には何も手掛かりがない。こういう時、広範囲探知系のNARROWだったらすぐなんでしょうけど……!)
少しでも行き詰まる度に焦燥感が胸を襲う。
予期せぬ形で始まった封縁五家との競争は、自分の思っていた以上に精神に負担をかけていたようだった。
「セナノさん、それでどうやって探すのでしょうか?」
「それは……」
混じりけの無い純粋な疑問は、まるでセナノを責め立ているかのようだ。
滲むように流れ出る汗は果たして暑さだけが理由だろうか。
「取り敢えず、歩くわよ! 縁者は現地調査も大事なんだから!」
「はい!」
「あと、暑いからジュースならOK!」
「やったぁ!」
俗物的なもので注意を逸らしながら、セナノは必死に考えていた。
(手掛かり……手掛かり……)
弾ける様な笑顔でジュースへの想いを語るエイに笑顔を向けながらも、セナノはその思考を高速で回転させる。
封縁五家よりも早く任務を完了させるために。
そして何より、相棒に失望されないために。