【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
貼り付けたような夕焼けは、まるで空が落ちてくるかのようだ。
風に揺れる木々に紛れて鳴る鈴の音は子供の笑い声のように軽快で不規則に跳ねまわっている。
セナノとエイを包んだのは、そんな誰もの過去に存在する哀愁そのものであった。
「なんでこんな所に迷宮を……!」
街ゆく人々は決して空を見上げず、まるでそれが普通であると言わんばかりだった。
現に、大通りをエイの手を引き駆けていくセナノ達を見ようともしない。
まるでセナノ自身が一陣の風になったようだ。
「エイ、絶対に私から離れちゃ駄目よ!」
「は、はい……!」
手を握り、ペースの配分も考えずにセナノは街を駆け抜ける。
時折エイが間に合わずに躓きそうになっていることにも気が付けず、彼女は必死に大通りを駆け抜けた。
やがて彼女達が戻ってきたのは、死体があったホテルである。
息を切らし、ホテルの中に入りそのまま客室がある階層まで向かって行くセナノ達だったが、やはりここでも彼女達はいないものとされていたようだ。
「取り敢えず、一度休みましょう」
「ここって、あの死体があった場所ですよね?」
「ええ、そうよ。元々、ここを行動拠点にするために念のため防護用の構文を展開していたわ」
窓下の壁に針ほどの大きさの何かが刺さっている。
それは今まさに、セナノ達を保護するために機能しているようだ。
「これで安心なんですか?」
「封縁五家なら簡単に破るでしょうね」
「ええっ!?」
「でも、1秒でも稼げるなら儲けものよ。重要なのは、これがこの場にまだあるという事実」
セナノは針を指さし、それから夕焼け空へと目をやった。
「迷宮には大きく分けて二つあるわ。一つは、自分の世界に引きずり込むもの。そしてもう一つは世界そのものを自分で覆ってしまうものね。今回は、後者。だから教本通りなら迷宮の端まで行って構築する壁を壊せばよい」
迷宮そのものは構造としては難しい物ではない。
むしろ簡単と言って良いだろう。
少なくとも、迷宮の専門研究をしているわけではないセナノですら、それがどの系統であるかを判別できる程だ。
「成程……! 流石セナノさん!」
「ざっとこんなもんよ! ……と言いたいところだけれど、現状は少しマズいわね」
「……封縁五家ですか?」
セナノは苦虫を嚙み潰したような顔で頷く。
彼女はそれからエイをじっと見つめた。
対してエイも不思議そうに首を傾げるもセナノから視線は外さない。
そんな彼女を見て、セナノはようやく言葉を絞り出す。
「あいつらは、貴方を奪うための殺し合いを始めると言っていたわ。エイ、狙われているのは貴方よ」
「……ごめんなさい」
最初に出た言葉は、あまりにも想定外のものだった。
困惑でも能天気な言葉でも助けを求めるでもない。
エイは綺麗な仕草で頭を下げ、セナノに謝罪をして見せたのである。
「やめてっ! なんで貴方が謝るの!?」
言葉だけではエイが頭を上げることはなかった。
セナノが無理矢理上げさせることでようやく、エイは謝罪をやめる。
しかし、その顔は罪悪感や後悔で塗りつぶされていた。
少し前、笑顔でアイスを頬張っていたとは到底思えない。
「私と御空様を求めているんですよね? セナノさんはそれに巻き込まれてしまった……相棒なのに、足を引っ張っちゃいました」
「エイ……」
「ごめんなさい。役に立たないだけじゃなくて、こんな事に巻き込ん――」
言い終わるよりも先にエイは抱きしめられていた。
強く、まるで己を刻みつけるようにセナノは体を押し付ける。
「馬鹿な事言ってんじゃないわよ。貴方は見習いの縁者なの! どれだけ迷惑を掛けてもいいし、そもそも貴方の事で迷惑だと思った事なんて一つもない!」
「セナノさん……」
「いいかしら、エイ。これだけは覚えておきなさい。私の相棒なら、遠慮は止めなさい! 助け合って迷惑を掛け合って良いの!」
「でも、封縁五家ってすっごく手ごわいんですよね? 一人でも大変なのに三人も……」
「私はS階位縁者、三鎌セナノよ」
言い聞かせるように告げた言葉は、一体誰に向けてのものだったのだろうか。
丹念に脳に刷り込むように、彼女は一言一句をはっきりと丁寧に口にした。
「エリートが、負けるわけがないわ。最年少で縁者のトップに上り詰めた実力舐めないで。それに、今は頼もしい相棒もいるんだから」
「セナノさん……!」
安堵したのか、エイはそこでようやくいつものような優しい笑顔を取り戻した。
彼女の笑顔を見て、セナノも焦燥感が和らいでいく。
(そう、私がいるんだから絶対にこんな事でエイを奪わせない!)
しかし決して覚悟は失うことなく、セナノは迅速に次の行動を打ち立てた。
「それじゃあ、早速この世界の果てに行きましょうか」
「……はい!」
エイがいつも通りの笑顔で頷く。
それが今の彼女には数少ない救いであった。
■
『まあ、この人間はズタボロに負けるんですけどね!』
『えぇ……』
ホテルであっちいあっちいハグをされた後、こんな事を言われて俺はどうすれば良いのだろうか。
というか、争奪戦ってなんだよ。
俺の意思はどうなるんだよそれ。
『だって、他の三人が強すぎますから! 特に、あのムカタとかいう人間もどき……あれは特に強くて、気に入らないんですよねぇ^^』
珍しいな。
ソラが名前を覚えるなんて中々ある事じゃない。
『あの子供知ってるの?』
『はい! 奴はちょっと昔の疑似媒介体争奪戦にいましたから。あの時はヨイと共に激戦を駆け抜けましたねぇ』
『そ、そんな事が』
聞きたいような聞きたくないような……。
御空様の過去編ってだけで怖いんだよなぁ。
『あの時色々あったので奴の末路はもう決まっています。天移で一番青が深い所に落してあげましょう^^』
『ひぇっ……き、キレてる?』
『いいえ。私は怒りは宵越しませんよ! ただ、コンテンツとして最大限利用した後に、ヨイにしたことを全部返して地獄に落そうと思ってはいます』
『(絶句)』
『楽しみですねぇ。未だに自分は管理する側だと思っている塵芥を掌の上で踊らせるのは^^ エイも楽しみですよね?』
『タノシミデス!』
『ヨシ!』
今回のコンテンツは熱が入っているんだなぁ。
俺はいつもの様に監督の指示に従うだけだが、なるべく怪我無く終わらせたいもんだ。
『そう言えば、セナノちゃんが負けるって言ってたけど、それって俺はどうなるの? 封縁五家で人体解剖ENDとか奴隷ENDは嫌だよ?』
『二つ、ルートを用意しています!』
ソラはそう言って、ホテルのベッドの上から飛び降りた。
そして部屋を後にするセナノの後ろをついて行く。
俺はそれが見えていないふりをしながら、後を追った。
『一つはあの人間が覚醒して、かっこよく大逆転! まあ、望みは薄いでしょうが』
『じゃあ、二つ目は』
『それは勿論決まっていますよ。目の前でエイの大切な相棒が傷ついているんですよ? 許せますか?』
『自分、許せないっす!』
そう言わないと俺まで青が深い所に落されそうなので即答した。
『ですよね。なのでエイにもしっかりと活躍の場を与えましょう。そろそろ、欲しくなってきた頃じゃないですか? 私の愉快な仲間たちが』
『愉快……?』
いかれた花嫁とか狂った鏡のことを愉快な仲間だと思ってる?
しかもこの前、がびがびなる電子の化け物もお空にしまっちゃったので、更に仲間が増えている事だろう。
『という事でエイ、今回は私から答えを提示します』
ソラは振り返り、今や空から奪われた青色の髪を可憐に揺らしながら笑った。
『針金を使いましょう』
『……はい!』
うーん、名前からして嫌な予感しかしない。