【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
燃え盛る焔と黒炎を背に、少女たちはそれの行く末を見つめていた。
それは、禁忌と禁忌の戦い。
封縁五家同士の殺し合いが今、始まろうとしている。
「ああ、そっちに付くんだ。意外とロリコン? だったら私もそっちの趣味合わせるけど」
「馬鹿を言うな。優先順位があるだけだ。封縁五家とS階位のルーキー。どっちを最初に潰すべきかなんざ、考えずともわかるだろうに」
眞柴の言葉に賛同するように蟹が鋏をカチカチと鳴らす。
タールの様に黒く粘性の高い泡は口から溢れると、落ちるたびにコンクリートを溶かしていった。
「……だよねー」
クビリは眞柴の行動を見て驚きはしなかった。
セナノやエイとの共闘は彼女の中にも選択肢として存在していた。
それでもこうして彼女達を追ったのは、どうにも心が通じなかったからである。
仕方が無い事だ。彼女にとって、友人とは自身に隷属する者達の事を言うのだから。
「うーん……じゃあ、眞柴からしばくかぁ。私、眞柴って苦手なんだよねぇ。倫理感ないし」
「ふっ、それはお互い様だろう」
クビリは花を、眞柴は蟹を動かす準備を始める。
その時、今まで様子見をしていたセナノへと眞柴は顔を向けることなく告げた。
「という訳で、この場だけは味方でいてやる」
「……信用できるの?」
「封縁五家を同時に相手取るよりは賢い選択だと思うが。それに、その体では贅沢など言っていられないだろう」
「……っ、わかった」
一歩歩くたびに、右足の芯から響くように鋭い痛みが脳を突き抜ける。
間違いなく骨折はしているだろうと考えながらも、セナノは構うことなくつま先で地面を鳴らした。
それはヒバリに対する舞を奉納する合図でもある。
そして今は、まだまだ戦えると自分を鼓舞する意味もあった。
「これで二対一ね」
「わぁ、困っちゃうなぁ」
気丈に振る舞うセナノを茶化すように花を持ちながら拍手をするクビリ。
が、次の瞬間には彼女は花を辺りに放り投げていた。
「困っちゃうから、暴れちゃうよぉ!」
放り投げたのは確かに一本の薔薇だった。
しかしそれは空中で花びらとして散ると、更に大量の花々となり空へと高く舞い上がる。
「花の雨って見た事はある?」
花びらは空中で鋭い針のように丸まると一気にセナノと眞柴へと落下を始めた。
「そんなものは興味が無いな」
「奇遇ね、私もよ!」
痛みを無理矢理抑え込みセナノが舞を奉納する。
すると、焔がより猛々しく輝き、ヒバリはセナノとエイの頭上を旋回し焔により針を燃やし尽くした。
眞柴はセナノとは違い、針など意に介さずクビリへと向かって行く。
数えきれないほどの花の針が眞柴へと飛来するが、その意味は全くと言って良い程になかった。
「本物の雨の方がまだ厄介だな」
眞柴の横を通り過ぎた針はアスファルトに深々と突き刺さる。
それほどの威力を持った鋭利な針は、眞柴に当たった瞬間にまるでガラスの様に折れて砕け散っていった。
「香りも効かないし、雨も駄目、うーん」
「降参しても良いんだぞ? この戦いを早々に諦め、山奥にでも帰ればいい」
「まっさか。眞柴の花も持って帰ろうと思っていたんだ。丁度、ひとつ花瓶が空いたしね」
「あの悪趣味な培養器の事か。ごめんだな」
「またフラれた……。私って魅力ない?」
がっくりと項垂れながらも、クビリは新たな花を眞柴を相手するために取り出す。
お互いまだ底は知れない。
しかし、この状況はセナノにとっては幸いだった。
(このまま意識がこっちに向かなければ、大丈夫。もっと舞を奉納してヒバリを最終段階まで強化すれば勝機はあるわ)
未だに彼女は勝利の可能性を追っていた。
これ以上の被害をなくクビリを倒し、出来れば眞柴から逃げ切る。
殆どの縁者であれば諦めてしまうような状況でも、セナノは決してあきらめない。
しかし、それも封縁五家からすれば『少し珍しい』程度の存在だった。
「――ぁぐっ!?」
舞を続けるセナノの足を走る激痛は今までとは比にならないものだった。
骨折を無視して舞を続ければ当然と言えるだろう。
それに今の彼女はあの事故で生きている事すら奇跡に近いのだ。
全身を激しく打ち付け、本当なら今すぐにでも病院に運び込まれるべき重傷。
「セナノさんっ!」
「エイ、だ、大丈夫……!」
崩れ落ちたセナノを見て、エイが今にも泣きそうになりながら駆けよる。
安心させようと、いつもの様に強気な発言をしようとしたセナノだったが、足の痛みがそれを許さなかった。
「っぐ……何よ、これくらいで……!」
「セナノさん、もうやめてください! これ以上はセナノさんが危ないです!」
「でもっ……ぐぁっ……」
更に足へと激痛が走る。
精神力では覆せない程の、本能的に忌避する痛みにセナノは意識が明滅するのを感じた。
同時に痛みの異常性に気が付く。
「なによ、これ……!」
視線を向ければ、彼女の右足からゆっくりと芽が生え始めていた。
脹脛から無数に姿を現す青々とした芽は、その双葉を広げる。
「まさか、痛みの理由が事故だけだと思った?」
蟹と眞柴からひらりひらりと逃げながらクビリは笑う。
その笑みに悪意はない。
「その足さえ封じれば邪魔な鳥も使えないと思ってさ。一応、ホテルで種を植えておいて良かったよー」
「っ、そんな……!」
「大丈夫だよ、セナノちゃん。それは貴女を仮死状態にするだけ。本当に死んだら、勿体ないからね。少しだけお休み」
「ヒバ「させないよー」――っ!?」
霞み始めた視界の奥で、燃えながらもヒバリを絡めとり始めた太い蔓が見えた。
ヒバリはもがいてその焔をより激しくしているが、到底主の助けには間に合わないだろう。
聡明なセナノは悟る。
今、現状を打破する手立ては自分には無いと。
「エイ……に、げ……」
言い切る前に彼女は痛みと虚脱感により地面に倒れ伏す。
エイが縋り付きその名を呼ぶが、返事はなかった。
「セナノさん! セナノさん!」
「大丈夫だよ、エイちゃん。ほら、こっちに来て」
クビリがホウセンカの小さな花をエイへと放り投げる。
瞬間その手が鋏で切り落とされた。
しかしその顔は絶えず笑っている。
「あっ、やべ。眞柴に集中しないと」
エイの前に落ちたホウセンカの花はその香りを彼女の鼻まで届けようとする。
しかし、残った火の粉が香りを焼却して最後にエイを守った。
エイにはそれが、セナノの最後の抵抗だとわかっていた。
「……こんなに傷ついてまで私を」
セナノの頭を撫で、エイはゆっくりと立ち上がる。
その目には、既に慈悲はなかった。
「どうして、こんなに酷い事ばかりするんですか?」
「どうしてってそりゃ勿論君が「黙ってください!」――おおっと」
肩で息をしているのは、必死に怒りを抑えようとしているからだった。
冷静に思考しながらも、エイはその力を使う事を決める。
セナノを救い、彼女をこんな目に遭わせたあの女を殺す為に。
エイは祈る様に手を合わせ、夕日の空を見上げた。
「お願いします、御空様。私に力を貸してください」
「やめておけ、嬢ちゃん。この迷宮では空澱大人の力は使えない」
「いいえ」
エイははっきりとした口調で否定し、空を指さした。
「今も、御空様はあそこで私達を見てくれていますよ」
「……っおいおいどうなってんだ」
「うわー、これ前任者より強力でしょ」
二人は思わず足を止め、空を見上げる。
欺瞞に満ちた空は、今まさに裂けようとしていた。
何かが強引に手を入れたように夕日が歪に歪み、小さく裂け目を生み出す。
その向こうには真なる青があった。
「迷宮を力ずくで破壊しているのか。上書きでも侵食でもなく。自身の格だけで……?」
「ちょっと運営ー!」
辺りに蝉しぐれが満ち、息苦しい程に熱い風が吹きすさぶ。
「貴女は、絶対に許しません」
エイはそう言って、クビリを指さす。
それが照準を意味する事など、彼女は知らない。
いや、知っていたとしてもどうすることも出来ないだろう。
空が広がる場所が射程距離ならば、逃れる術などあるだろうか。
「御空様、どうかあの女をころし――」
「待てよクソガキ」
子供の声が聞こえると同時に、今までエイの周囲に存在していた異変が一気に霧散した。
ハッとしてエイは空を見上げるが、そこには既に青空はない。
先ほどまでと同じような夕日が広がっているだけだ。
「……御空様? 嘘、どうして」
「迷宮をもう一度閉じた。それだけだ」
「っ、貴方は」
エイは声が聞こえた方を見て、忌々しく睨む。
道路の真ん中に、気が付けばその少年は立っていた。
否、見た目こそ子供だがその中身はれっきとした封縁五家の人間。
この殺し合いの場を作り上げた張本人である、常染ムカタであった。
「60年前のようにはいかねえよクソガキ。準備は出来ているに決まってるだろ」
そう言ってムカタは街を指さした。
正確には、そこで今もなお騒ぎを気にせず生活している人々だ。
「一度でも迷宮を破れば、この街の人間が一人死に、代わりの人間が迷宮になる仕組みだ」
「……え?」
「言っている意味がわかるだろうクソガキ。迷宮はこの場にいる人間の数だけ存在している。そして、たった今お前はどこかの誰かを殺した」
「……ぁ、え、ぃいや、ち、違う。私はセナノさんを――」
「それは目的の話だろう。私が言っているのは過程だ。その過程でお前は殺人を許容したんだ。……果たして今のお前はまともな人間と言えるか?」
「ぅ、うあ、ああ……あ」
ムカタの、正確には常染家の考案した空澱大人の攻略法はあまりにも効果的であった。
空を覆うよりも何よりも重要なのは、それを使役するのは人間であるという事である。
それをかつての戦いから学んだムカタからすれば、これは答えの分かりきったテストと同じであった。
「動くな、抵抗するな、思考するな。クソガキ、お前は人殺しだ」
「……ぅ」
怒りに満ちていた筈の顔はいつの間にか青くなり、目にいっぱいの涙を溜め込んでいた。
エイは歪んだ視界でセナノを見つめる。
しかし、もうその名を呼ぶ権利すらなかった。
「そうだ、それでいい。お前は景品なんだから」
災主級への対抗策ではなく、単純かつ効果的な人心掌握により、ムカタはあっけなくエイを無力化して見せた。
『めっちゃ人質がいるよソラ! やばいよぉ!』
『うーん、別に街の人間を皆殺しにするのもやぶさかでないのですがね』
『それは駄目だよ! 俺の倫理感がぱぁになっちゃう!』
『もうだいぶなってますよ』
『えっ』
『まあまあ。それよりも嬉しい誤算ですよ。どうやら、あの人間がこの状況を面白くしてくれそうです^^』
『セナノちゃんの事!? もうやめたげてよぉ! 足から草生えてるし、そもそもボロボロだし!』
『さて、オソラポップコーンでも用意して、見物と行きましょうか^^』
■
聞こえるのは、誰かが怯える声。
そして、パチパチと音を立てる焔だった。
(え、い……)
今にも暗闇の中に落ちていきそうな意識の中、セナノはその声に応えようとする。
指先一つ動かせず、瞼も開きはしない。
それでも足掻こうとする彼女の体は、こうしている間にも仮死へと近づいている。
(た、すけ)
本来はあり得ない状況がいくつも重なっている。
故にそれはただの偶然だった。
焔により焼かれ蒸発する三鎌の血。
既に十分に奉納された舞。
そして何よりも、自身を捧げる至上の行為である死。
全てが揃ったその瞬間、ただの一度ではあるが迷宮がこじ開けられた。
それは空の向こうにある宇宙の煌々とした瞬きへと確かに捧げられ、少女の記憶の奥底に封じてあった祈りと共に始まりを迎える。
(か、ぐと、あ様)
故に、偶然であろうとも。
そこに小さく火は灯った。
気丈に振る舞っている自信満々な女の子が薄暗い過去やトラウマを持っているの好き好き委員会のみなさーん!
定例会議だから集まれー^^