【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第84話 来たれ! 遥か彼方のお客様!

 縁理学園の中に存在する第一指令室に休みはない。

 オペレーターが常駐し、縁者の支援を行っている。

 卒業後も彼らを信頼しそのオペレーションを任せる縁者は数多く存在した。

 

 中でも彼女は長年の経験と実績から来る信頼とその柔和な態度からわざわざ指名されることも多い。

 楽楽ミラク。

 縁理学園の非常勤講師であり、縁理学園が誇る最優のオペレーターであった。

 

「――A班の構文起動を確認しました。縁波密度も安定しているのでこのまま始めてください。こちらも電子構文にて随時蒐集支援を行います」

 

 少しばかり舌足らずで甲高い、小鳥のような声ではあるが紡ぎ出される言葉は淀みない。

 つらつらとまるで詩を読み上げるように言葉を吐き出し続ける彼女の眼は、目の前に広がる六つのモニターと四つの任務を同時に処理していた。

 

「事前の報告書と差異はないです。このまま疑似深母構文による海相差鎮圧を開始してください」

 

 一つ一つがB級以上の異縁存在を扱う重要な任務。

 それをミラクは、間違いが決して起きないように余裕をもった上で、四つもこなしているのだ。

 

 手元のキーボードはせわしなく動き続け、必要であればその場にいながら電子構文による支援も行う。

 それ程の芸当が出来るのは、数多くのオペレーターがいる縁理学園と言えど彼女一人だろう。

 

 そしてそんなミラクは今、四つの任務とは別の事に思考のリソースを割いていた。

 

(一瞬ですが、ヒバリから異常な信号がありましたね。あれは特別製ですから、こういう些細な異変も見逃さないようにしないと)

 

 現在、ミラクはセナノ達のオペレーターではない。

 あくまで彼女は手のかかる可愛い教え子としてセナノを常に気に掛け、私用モニターでヒバリを観測していた。

 

(まるで一瞬だけ電源が入った機械のようにおかしな信号。……いえ、迷宮から一瞬だけ飛び出した?)

 

 奇妙な信号一つとっても、種類や原因は多岐に渡る。

 ミラクはその全てを把握し、その場にいながらおおよその今のセナノの状況を把握していた。

 空澱大人による力づくの迷宮の破壊などは流石に思いつかないが『隔絶された迷宮を焼却し一瞬元の世界に戻った』程度の事は容易に推測できる。

 その可能性をミラクは考慮した上で、最悪の状況も考えていた。

 

(うーん、張り切って焔が増しただけなら良いんですが、もしもアレが解き放たれたなら厄介ですね。セナノさんには害はないでしょうが……空澱大人と反応を起こした場合にどうなるか)

 

 セナノという少女を幼い頃から知っているミラクは、その用心が特に重要であることを知っている。

 彼女を相手にするならば、本来は疑似媒介体と同じ扱いをするべきなのだから。

 

 故にミラクは、一番頼れる人間へと自身のスマホから特別な回線で呼びかける。

 彼女との取り決めで、コールは二回と半分。

 これはとある神にまつわる案件の時の合図だった。

 

「お、来ましたね」

 

 そしてスマホを机の上に置くと、きっちり10秒後にバイブレーションで着信を知らせた。

 

「ネネ先輩お久しぶりです」

『要件を』

 

 半年ぶりだというのに簡素なその問いかけに、ミラクは相変わらずだと笑う。

 彼女はいつもそうなのだ。

 

「ヒバリから異常な信号を感知しました」

『縁波密度』

「1秒に満たない信号だったため、観測値は一つもありません。恐らくは、迷宮を構文により焼却し、一瞬だけ外に出た際のものかと」

 

 この言葉を聞けば、多くの者はそれをただの偶然、あるいは一考に値しないものだと投げ捨てるだろう。

 しかし、電話の向こうの縁者は違った。

 

『セナノの任務の場所』

「■■県、軽鳴市です。今日の10時に現地に到着しています」

『わかった。向かう』

 

 当然のことのように、縁者ははっきりと答える。

 その言葉を聞いてミラクは安堵しながらも申し訳なさそうに問いかけた。

 

「良いんですか? そちらもS級の異縁存在をいくつも依頼で掛け持ちしていた筈では」

『もう終わった。今日と明日の午前は休み。だから行ける。特にセナノなら行く』

「……ありがとうございます」

『構わない。もしもあの神が顕現したなら、私が蒐集するのが一番妥当』

 

 ただでさえ固かったその口調が、何かを思い出したようにより重く固くなる。

 だからこそ彼女は頼もしかった。

 

『鎮縁課副補佐官、東園(とうえん)ネネ。縁理学園からの要請により三鎌縁者の支援任務を開始する。現地での即時判断による構文刃型NARROWの解刀(かいとう)許可を要請』

 

 旧友とは思えない程に堅苦しく、そして必要最低限の要請。

 しかしそれはミラクにとって慣れ親しんだものである。

 

「解刀を承認します」

『わかった。現地に到着したらこちらから連絡する』

 

 一方的にそう告げると、通話は終了した。

 ミラクは新たに七つ目のモニターを起動し、いつでも動けるように準備を整える。

 それはセナノという教え子が大切であるというのも当然であるが、ヒバリというNARROWの特殊性が大きな理由だった。

 

「どうか、ご無事で……」

 

 今の彼女には祈る事しか出来そうもない。

 

 

 

 

 

 

 ムカタによる疑似媒介体への精神的アプローチは完璧だったと言って良いだろう。

 現にエイはその場に呆然と立ち尽くし「ちがう……私は……」とぶつぶつと小さく呟いている。

 

「難儀なものだな。疑似媒介体に選ばれるのは清い心を持った巫女だったか? いっそ、私利私欲で空澱大人を扱える人間であればこの窮地も脱したものを。クソガキ、モラルってのは役に立たねえなぁ」

 

 そう言ってムカタはただの物になったエイへと軽蔑するように声を掛け、眞柴とクビリの方を向く。

 

「さて、これで邪魔は入らないだろう。存分に殺し合うぞ老骨共が」

「あー言っちゃいけないこと言ったー。そんなこと言うなら、ムカタお兄さんから咲かせちゃおうかな」

「来いよ。私も生け花は得意でね」

 

 封縁五家同士が手を組むはずもない。

 二対一ではなく、一対一対一の構図が出来上がるだけだ。

 

 ムカタは耳につけた鈴をしゃんと鳴らす。

 その瞬間、彼の姿はクビリの真横にあった。

 

「この迷宮内なら音の響く位置は私の移動範囲だ」

「あははっ自分だけ有利とか無しでしょ!」

 

 そうは言いつつも、クビリは笑っていた。

 その袖口からは、花が絶えず流れ落ち続けている。

 花は意思を持ち、触手の様にムカタへと向かって行く。

 

「私もその能力欲しいなぁ」

「今回持ってきた花の中にはないのか?」

「実はあるよー」

 

 彼女はムカタに向けて花を放り投げながら、距離を取るように後退する。

 その間も甘く脳を揺さぶるような香りが辺りには充満していた。

 

「エイちゃん、一緒に逃げようよぉ」

「ぁ、う……」

 

 今まで棒立ちだったエイがふらふらと歩き出す。

 既に守る者がいなくなった今のエイは無力な子供であった。

 

 何の疑問も抱かずにエイはクビリの傍に寄ろうとするが、それを他二人が許すはずもない。

 

「戦う気もないか。私が場を整えてやったのだから敬意を表しても良いと思うのだが」

「抜け駆けはさせん」

「もう、男っていやだなぁ。……あ、この子も男か」

 

 クビリは笑いエイへと手を伸ばす。

 エイはその手を見て、安堵した表情を浮かべた。

 まるで母親の庇護の元に戻って来たかのように今にも泣きだしそうな顔でエイは手を伸ばす。

 

「さ、お花は用意しているからここからさっさとおさらばしよう」

 

 隔絶された迷宮は、封縁五家の人間にとっては障害にならない。

 それぞれが独自の脱出ルートを持っているが故に、彼女達はこの争奪戦に参加したのだ。

 

 片手に紫陽花を乗せて、クビリはエイがその手を取るのを待つ。

 

「クビリちゃん」

「うん、こっちだよエイちゃん」

 

 そうしてエイが手を握ろうとしたその時、手の中にあった紫陽花が一瞬にして灰となった。

 燃えたのではない。

 その先の結果として、突然灰と化したのだ。

 

「熱っ!?」

「はっ、わ、私はまた……!」

 

 それと同時にエイは正気を取り戻し、クビリから一歩二歩と下がっていく。

 そんな彼を守る様に、気が付けば頭上を大鷲のように変化したヒバリが旋回していた。

 煌々と燃えるその姿は、まさに舞を奉納された後のヒバリである。

 

 その光景が意味するものを理解したエイは、喜びと共に振り返った。

 

「セナノさ――え?」

 

 しかし、そこにいたのはセナノではなかった。

 容姿こそ同じではあるが、傷や痛みなど存在しないかのように感情の抜け落ちた表情で呆然と立ち尽くすその姿はエイの知るセナノではない。

 

「あれ、セナノちゃんまだ立てるの? おかしいなぁ、死んだはずなのに」

 

 そう言ってクビリが初めに攻撃を仕掛けようと花を取り出す。

 しかし取り出した花は、その腕ごと灰へと変わった。

 

「っ!? ……これはこれは」

 

 右肩から先を無くしながら、クビリは驚きと共に更に距離を取ろうとして、自身の足が既に灰になっていることに気が付いた。

 辺りが陽炎により揺らめき、熱波が花畑を灰の海へと変えていく。

 

「やば」

 

 短い驚嘆の言葉を最後に、クビリを構成する体は一瞬にして灰の山となり崩れ落ちた。

 

 それは誰も想定していなかった第三の敵であった。

 封縁五家のいずれかではなく、その外より来たる刺客。

 疑似媒介体の監視役でしかなかったただのS階位の内側に灯った焔。

 

「かぐとあ様、とおき、かのほしより、われらを――」

 

 掠れた声で単調に刻まれるそれは、懇願であり祝詞。

 この場に一柱を顕現するための簡易的な呪文であった。

 

「せ、セナノさん……?」

 

 恐る恐る名を呼ぶエイにもセナノは反応を示さない。

 彼女はただ静かにその場に佇んでいる。

 

 少なくとも、それがエイが望んだ救いの手ではないことだけは確かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『成程! どうやら外側から来た同僚みたいですね^^ エイ、曇る準備。あなたのせいであの人間はああなってしまったのですよ』

『俺のせいというのは横暴では???』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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