【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
そこに燃え盛る焔はなかった。
しかしまるで太陽を目の前にしているかのように身を焦がす怖ろしい程の熱量が辺りを支配していた。
熱により歪む景色と溶けだすコンクリートと廃車となった車。
その中心に佇んだ少女を、果たして人間と言って良い物だろうか。
少なくとも、それはエイが知る三鎌セナノではない。
「眞柴、お前はどう見る」
セナノを見るムカタの目は、先ほどとは打って変わって興味深そうなものだった。
クビリの灰化後に誰も動かないのを良い事に、彼はつぶさに観察を始めている。
と言っても正確には誰も下手に動けないだけなのだが。
「窓が窓足り得ぬが故、あの嬢ちゃんも窓にしてようやっと顕現をしているってところか」
「あの……セナノさんは、どうなってしまったんですか……?」
恐る恐るエイは尋ねる。
ありもしない希望に縋るような言葉を向けられた眞柴は、平然とその答えを口にする。
「異縁存在ってのはな、必ずその器が必要なんだ。お前も知っているだろう、窓を」
「……セナノさんに教えてもらいました」
異縁存在は窓が無ければこの世界には現れることが出来ない。
しかし、と眞柴は言葉を続けた。
「中には強力すぎるあまり窓が見つからない異縁存在もいる。例えば、お前のいう御空様。こいつだって、その強大さ故にこの星の空を全て窓としてようやく存在を維持できるんだ。そして、肝心のあの嬢ちゃんの中にある化け物だが……」
眞柴は明らかに面倒くさそうに顔を顰めた。
「ありゃ今まで窓が無くて外側をうろついていた災主級だな。恐らくは、火にまつわる何かだ。嬢ちゃんが上手く疑似媒介体になりかけているのを見るに……過去に嬢ちゃんの家で
「お前と同じだ。これ以上を探るなら、もっと時間が欲しい。まさか、今回はどっちのクソガキも当たりだったとはな」
「……おいおい、まさかあの嬢ちゃんも攫う気か?」
眞柴は依頼に忠実な男である。
故に、例え目の前に新たな獲物が吊り下げられたとしても下手に飛びつくような真似はしない。
対してムカタは違った。
その貪欲さこそが、この瞬間まで彼を生かし続けてきたのだから。
「当然だ。もしかすると、私が外に向かうための足掛かりになるかもしれない」
「相変わらずハイリスクハイリターンが好きだな。じゃあよ、爺さん。俺がこっちで、アンタはそっちで分けるって訳にはいかねえか?」
「ハッ、冗談だろう。それに、洛永無しで話を付けるわけにはいかない。大方、この迷宮内で蘇っているだろうから、さっさと顔を合わせて殺し合いと行こう」
セナノの異常な変化に対して、二人は冷静に言葉を交わす。
先ほどまでは警戒態勢だったが、棒立ちのセナノを見てその警戒も徐々に解かれようとしていた。
つまるところが、二人にとっては新たな獲物が転がって来ただけに過ぎないという事だ。
それを理解したエイは、隙を突いて駆けだす。
当然、セナノの方に。
「セナノさん! 一緒に逃げましょう!」
「…………え、い」
「はい!」
棒立ちだったセナノが僅かに顔を上げ、その名を呼ぶ。
何よりもその事に安堵したエイが手を伸ばしたその時だった。
「っ!? うあぁっ!?」
エイを襲ったのは、赤い焔であった。
それは突如としてエイの側面から現れ、左肩に燃え移るとまるで蛇のように這いまわり、その首へと巻き付く。
「熱いっ!? い、いぁ……」
その焔は奇妙であった。
確かに高温で触れればあっという間に死んでしまいそうなものだが、じりじりと針で刺していくような浅く鋭い痛みが連続して襲い、エイの首へと食い込んでいく。
それはやがて、彼女の首に巻かれたNARROWだけを溶かし落とすと、代わりとでも言わんばかりに首に巻き付いた。
「せ、セナノさん。これ……外して……! くる、し……」
「あなたにも、かぐとあ様の、しゅく、ふくを」
エイはそこでようやく悟る。
今のセナノはおよそ正気ではない。
エリートだと胸を張るかつての彼女はそこにはいなかった。
今の彼女は、何かを崇拝し、その言葉や威光を届ける巫女。
初めからエイの言葉など届いていない。
「マズイな、せっかくの貴重な疑似媒介体が傷つく。眞柴、移動するぞ」
「ああ」
眞柴は頷くと同時に、肩に乗った蟹がゆっくりと大きな鋏を開く。
そしてその鋏越しにセナノを見つめた。
「一瞬相手をしてやる。だから、俺もきちんと連れて行けよ爺さん」
「わかっている。この殺し合いはフェアでなくては」
「ならいい」
そう言って眞柴が僅かに笑みを浮かべた次の瞬間、蟹の鋏が勢い良く閉じられた。
その瞬間セナノの両側のコンクリートが盛り上がり鋏のような形となり、一瞬にしてセナノを挟み込む。
「今だ」
「災主級相手に良くやる」
鈴が一つなると、ムカタはエイの傍に立っていた。
エイは未だに首元を両手で掴み、その焔をどうにかしようともがき苦しんでいる。
その姿を見ながらムカタは、返事など期待もせずに告げた。
「一度引くぞ、クソガキ。これ以上お前を置いておくと、下手すれば燃えカスになってしまいそうだ」
「あぁぁぁぁっ! く、くびがぁっ!?」
「はぁ、クソガキ故の未熟な精神か。この程度で狂気に落ちるとは」
失望と共にため息を吐きだすと、ムカタは耳の鈴を鳴らす。
この場には相応しくない程に軽く澄んだ音色が響くと同時に、三人の姿は消えていた。
「…………しゅく、ふくを」
セナノは感情が抜け落ちた声で呟き、空を見上げる。
橙色の空には、狂った様子で旋回を続ける燃え盛る赤い鳥の姿があった。
■
んぎゃああああああああ!?
首っ!?
首が熱いよおおおおおおおお!
『大丈夫ですよ、エイ。オソラバリアがあれば決して傷などつきませんから』
『本当!?』
『ですが、今回だけは特別に……首にまるで巻き付くような火傷の跡を残してあげます!』
『うわああああん! ソラのばかああああああ!』
首に巻きついた焔が想像を絶する程に熱い。
本能がその熱さを忌避し、無意識の内に手が焔を掴み外そうとする。
しかしそうして手を伸ばせば今度は指先が焼け、地獄の痛みが増すのだ。
「さて、移動は完了した」
気が付けば、俺はどこかのバーらしき場所に転がされていた。
見下ろす形で封縁五家のお二人は観察している。
俺はと言えば、もはや首のあっちぃあっちぃ焔で演技やコンテンツどころではない。
本物の焔を使った撮影なんて、聞いてないよ監督!
『熱さで我を失うエイも可愛いですねぇ。そのうち、痛覚なんて空にナイナイしちゃうんですから、今の内に堪能しておくんですよ』
『こんな形式で堪能したくなかった! もっとマッサージとか痛気持ちいやつがよかったぁ!』
『もう、わがままですねぇ。……はぁ、いつも演技をよく頑張ってくれていますし、では少しだけサポートしてあげましょう! 痛覚をナイナイしてあげますねェ^^』
突如として俺の体を浮遊感が襲う。
そして次の瞬間には、痛みがパタリと感じられなくなった。
じんわりと首が温かいと思う程度である。
『ではエイ、一度気を失ってください』
『わかった。ありがとう』
俺はすぐに監督の演技に従い、がくりと意識を失う演技をして見せた。
そうでもしないと、また痛覚が空の向こうからやってきそうだからである。
「おや、意識を失ったか。まあ、静かになっただけマシと考えるか」
「子供相手にも容赦ないな」
「お前も必要であればそうするだろうに」
二人の会話が少し遠ざかり、椅子に腰かけるような音が聞こえた。
えっ、意識を失った美少女♂を床に放置するんですか!?
『よし、では少しだけ時間が出来たのでアレについての軽い説明と今後のコンテンツ方針について説明しましょうかね』
封縁五家には放置され、監督にはこれ幸いとコンテンツを叩きこまれようとしている俺に人権はあるのだろうか。
……ない? そんなぁ。