【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
『まずはアレのざっくり解説ですが。私の同僚であり、災主級です^^』
『笑って言う事か……?』
バーの床に転がされた俺は、今脳内でソラによる簡単講座を受けていた。
これで「あっ、ここ御空塾でやったとこだ!」となるのである。
知識は大事だ。
知識さえあれば無双もできるし、最強キャラにもなれる。
今の俺に足りないのは知識なので、ぜひともここで補いたいところだ。
まあ他にも色々と足りないんですけどね! 人権とか痛覚とか! わはは!
『私達の役割は災いを御する事です。例えば、私ならお空にナイナイして海の負けヒロインなら海底に沈めます。そうすることで異縁存在から可愛い可愛い人間を守っているんです^^』
『本当に可愛いと思ってる?』
『はい! 一人じゃ何もできないくせに、私を上手く扱えていると思っている辺りが特に可愛いですね。貴方達で言うところのおままごとでしょうか?』
こんなおままごとをした覚えはないんだよなぁ。
『で、あの焔はそのおままごと仲間って事?』
『はい! あれは異縁存在を燃やしてナイナイするタイプですね。私がリサイクルボックスなら、あれは焼却炉。人間の手に負えない異縁存在は燃やしてしまいましょう!』
『成程なぁ』
『
『バカンス……?』
あんなバカンスあるかよ。
じゃあ俺は観光客に火を付けられた地元民ってこと?
『それにしてもあの人間の中から出てきた時には驚きましたね。なんか格が大きそうだなぁとは思っていましたが。本来、アレが降臨するなら恒星の位置とか確認しないと。ただでさえ火の海になるのですから』
『ひえ。やっ、やばいじゃん! じゃあセナノちゃんを早く助けないと』
『エイ、私は今後のコンテンツの方針についての説明もすると言いましたよね?』
頬っぺたをつんつんと突かれる感触がある。
気を失っているので目を開けて確認することはできないが、十中八九ソラがほっぺをつんつんしているのだろう。
封縁五家よ気が付いてくれ。
俺を精神的に責めようが、迷宮を作って空を覆おうが意味がない。
御空様はたぶん、もうそういう次元の存在じゃないんだ。
『エイ、あの人間を助けたいですね?』
『勿論!』
ここで見殺しにしたら俺が悪者になる。
それはよくない。
俺は善人でありたいし、後ろ指さされる生き方はごめんだ。
『あの人間も同じ気持ちですよ。エイを助けたい。だから、あなた達には殺し合いをして欲しいんです』
『……?????』
『殺し合いです!』
『そこは聞こえているんだよ。問題はその内容なんだよ』
今すぐに起き上がって大声でツッコミをしたくなる衝動を抑えながら、俺はソラの戯言を問い詰める。
『エイは空澱大人の力を使ってあの災主級を消し去りたい。あの人間は焔で私を燃やしたい。これって……相思相愛ですよ?』
『そうかなぁ』
『なので、最後には立派に戦えるようにならなければなりません。あの人間には自分の意思で焔を操り、エイを焼いてもらわないと^^』
マズイぞ……ソラが玩具を見つけてしまった……!
同僚とか言いながら完全に自分のコンテンツに利用する気満々じゃねえか。
『という訳で、あの人間には経験と罪悪感が必要ですね。災主級の力を一人の人間が持つ。その意味を自分の身をもって再確認し、エイの悲劇的な運命をより親身に感じて貰わないと^^』
『セナノちゃんの事嫌いなの?』
『いいえ、人間は大好きですよ? エイはもっと好きです^^』
『……あざぁっす!(やけくそ)』
御空様の愛を一身に受けるなんて、誉だなぁ!
『じゃあ、そういう事なのでオソラビーコンでこの場所をあの災主級に知らせますね!』
『待って待って!』
『^^』
『もう手遅れだこれェ!』
『それでは改めて入場して頂きましょう! 遠方よりやって来たお客様とその疑似媒介体になりかけている人間です!』
『ああっ、逃げて! 封縁五家の二人! 俺を持ってより遠くへ!』
『例えどこに移動しても私が場所をお知らせしますよ^^』
お知らせするな!
■
先ほどの戦いが嘘のようにバーは静まり返っていた。
まだ開店時間前なのか、ムカタと眞柴、そして床で意識を失っているエイの他には誰もいない。
「水でいいか?」
「言えば酒でもくれるのか」
「災主級をどっちも得られたなら、その時はくれてやってもいい」
「なら一生、酒は貰えなさそうだ」
眞柴、はカウンター席に座るとエイへと視線をやる。
その首にはいまだに焔が残り、くすぶる様に彼女の肌を焦がしていた。
「呪いか」
通常の現象からは逸脱したその焔の燃え方に、眞柴はポツリと呟く。
「あのクソガキは痛がって気が狂ったが……まあ、マーキングみたいなものだろうな。祝福とかほざいてやがったし」
「祝福ねぇ」
眞柴は何かを思いついたのか、胸ポケットにあったボールペンを取り出す。
そしてエイへ向かって放り投げた。
その瞬間、首の焔はまるで蛇のように動き出しボールペンを一瞬で溶かしつくす。
僅か1秒にも満たないその光景を見て、眞柴は「確かに祝福だ」とうんざりしたように言った。
「恐らくはクソガキの体に危害が加わると反応する自動防御だろう」
「それはつまり、あの焔をどうにかしないと空澱大人の疑似媒介体は手に入らないって事か?」
「ああ、そうだ。だから数百年ぶりに封縁五家同士で共同作戦を――っと、ようやく来たか」
ムカタが視線を向けたのは、カウンターから少し離れた場所にあるテーブルだった。
まだ店内は薄暗く、部屋の隅に置かれた水槽の明かりを受けながらその花瓶の中で一輪の薔薇は揺れている。
先ほどまで、花はおろか花瓶すら無かったのだが、二人は驚くことはない。
それは洛永の人間にとっては当たり前に出来る事なのだから。
「燃やされた気分はどうだ、洛永」
「もー最悪!」
花は揺れながら答えた。
まるで不満を訴えるように揺れるその花から聞こえてくる声は、クビリのものである。
「抵抗する間もなくあの体が灰にされちゃった。せっかく奮発して作った体だったのに。どれだけのお花と種から出来ていたかわかる?」
「知るか。興味が無い」
「そのまま完全にクソガキに燃やされていれば眞柴との一騎打ちだったのだが」
「もー冷たいなぁ。…って、エイちゃんをそんなところに寝かしちゃ駄目でしょ!? ソファかベッドに連れて行きなって! もー、これだから男は」
必死に揺れる薔薇を見ながら二人は鼻で笑う。
「あいつも男だ。男なら、どこでも寝られるだろうよ」
「酷いなぁ。そんなこと言う人にはエイちゃんは任せられないね!」
「じゃあお前が運んだらどうだ?」
「無理。そっち行くのが怖いから。私はぁ、二人があの焔をどうにかしてくれたら姿を見せるね♥」
「クソババアが」
「なんだとクソジジイ。子供の姿でイキりやがってよぉ。様子見とか言ってお前も手が出せないだけでしょ?」
「お前と一緒にするな。一応、お前にも確認を取ろうと思って待っていただけだ」
「何をさ」
「あの災主級は、常染家でもらっても良いか?」
花は少しだけ、動くのをやめた。
数秒の沈黙の後、再び花は揺れ始め、クビリの声が聞こえる。
「当主様がいらないってー」
「そうか。なら、貰うとしよう」
「あ、じゃあさ。アレを上げるからエイちゃんを「その提案は既に断られたぞ」……そっか、残念。じゃあその時は実力行使だね」
「なら一時休戦といこう。少なくともあの災主級をどうにかするまではな」
「おっけい! 一時休戦ね! じゃあ、特別に教えてあげるよ!」
薔薇はまるで笑うようにその葉を揺らしながらこう続けた。
「今、そっちに凄まじい勢いで焔がむかってるよ。位置がバレてるねぇ」
「っ!? それを早く言え洛永!」
「だって休戦になったの今だしー? それに言ったじゃん、そっち行くのが怖いって。これから火事になる家にわざわざお邪魔すると思う?」
「くっ、これだから洛永の人間は」
「眞柴に言われたくないよねー」
言い合う二人を尻目にムカタは顔を顰めエイへと近づく。
そしてその鈴を鳴らそうとしたその時だった。
「――みつけ、た」
「「ッ!?」」
瞬間、天井が崩れ落ちる。
いや、正確には溶け落ちたのだ。
赤熱し、ぼこぼこと泡立ちながら異臭と共に落下した天井。
その上に開いた穴からは夕焼けと、それよりも赤い焔を翼とする大鷲の姿が見える。
そして、その少女はその場に降り立った。
彼女がバーへと侵入したその瞬間、装飾やグラスがゆっくりと溶けていく。
相変わらず焔は見えず、そこには高温により生じた歪みだけがあった。
「来たか、クソガキ……!」
ムカタの言葉にセナノは反応を見せない。
彼女は虚ろな目で辺りを見渡すと、目当てのものを見つけたのか停止する。
その視線の先には、意識を失ったエイの姿。
「え、い」
今の自分がどうなっているのか自覚もしないままに、セナノはエイへと手を伸ばそうとしていた。
『ヨシ!』
『何を見てヨシと言ったんですか……!?』