【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
気を失ったままのエイの元へと、セナノはおぼつかない足取りで向かって行く。
一歩進むたびに床が焼け落ちていく様は、災害と何も変わらない。
「なんでここがわかった……まさか、あの首の焔か?」
ムカタはエイの首に巻き付いたそれを忌々し気に睨みつける。
焔は主の帰還を歓迎するようにより煌々と燃え盛り、その激しさを増していた。
「おい爺さん、ここで討つのか?」
「いいや、まだ準備が足りない。幸い手持ちにいくつか焔に対して効果がありそうなものがあるからそれらを活性化させる」
「先にやっとけよ」
「誰がこんな事態を想定できると思っているんだ」
ムカタは眞柴を睨みつけると耳元の鈴に手を添える。
それは再び移動をするという合図だった。
察した眞柴は、前と同じようにセナノの足を止めようと動き出す。
そして鋏越しにセナノを見つめた次の瞬間、蟹の鋏がどろりと溶け落ちた。
「っ!?」
いや、それだけではない。
眞柴の体が端からゆっくりと灰になり始めている。
「……既に効果範囲。一度でも攻撃を仕掛ければ対象となるか」
クビリという前例と自身の現状から冷静にそう推測する眞柴を見て、ムカタは吐き捨てる。
「使えない奴らめ」
そう言って鈴を彼は鳴らす。
その瞬間気が付いた。
「……っ!?」
鈴は高温により溶け始め、自身の指は鈴を鳴らすだけで脆く崩れ去ったのである。
それでも幸いな事に、鈴が小さく音を鳴らしエイは姿を消し、間もなくムカタだった入れ物の子供は灰となりその場に崩れ落ちた。
■
封縁五家が忌避される理由は、倫理感の欠如の他に異縁存在を大量に保持していることがあげられる。
それぞれの家が理念に基づきそれらを改造、あるいは配合を続けることで彼らは異縁存在を都合の良い兵器へと変えるのだ。
故にその脅威度は縁者からしてみれば上位の異縁存在と変わらない。
しかしそれでも今回ばかりは相手が悪すぎた。
「……チッ、先に潮哭きの方を獲るべきだったか」
ムカタは舌打ちをしながら裏路地を駆け抜ける。
戦いの場所は既にバーではなくなっていた。
閉所でわざわざ彼女を相手にする理由もないだろう。
(人としての精神が残っているかどうかを調べたかったが……一般人への攻撃は躊躇なしか。折津エイへの執着は思考の残留物か、それともそれを願いとして災主級が受け入れたか)
彼の体は既に子供ではなくなっている。
その体は今頃は灰となり、バーの片隅で風に消えている事だろう。
今のセナノは殺しに対する躊躇はない。
それをムカタはその身をもって実感していた。
(私を殺す時に構文をいくつか焼きやがったなあのクソガキ。おかげで色々と準備したものが台無しだ。さっさと練り合わせなければ)
吐き捨てながら走るムカタの傍らで花が揺れる。
アスファルトに咲いたタンポポからは、薄情な少女の声が聞こえてきた。
「あははっ、一人狙いじゃーん! 頑張れー!」
「笑いに来ただけか?」
「違う違う。鈴で逃げようとした時、たぶん構文焼かれたでしょ? エイちゃん探しているんだけど、クソジジイの傍にはいないんだね。ならお礼をしないと」
「貴様、抜け駆けする気か!?」
「場合によってはね。殺し合いは一時休止だけど、抜け駆けは駄目って言われてないし? じゃ、鬼ごっこ頑張って! 早い者勝ちの宝探しスタート!」
そう言って花は次の瞬間には背後から迫る熱により急速に萎れていき、白く変色し地面に崩れ落ちた。
間もなくそれを踏みつけ、セナノがその場に姿を現す。
「……あのクソガキの方に行かなくて良いのか?」
セナノは答えない。
あるいは、裏路地の溶けた壁そのものが答えだったのかもしれない。
「チッ、災主級を得ようとするといつもこうだ。私はイレギュラーが嫌いなんだよクソガキ」
入念な準備をすればセナノへの対処は容易と言えるだろう。
例えそれが災主級であろうとも、エイに対するアプローチのように多方面から仕掛けていき最後には盤上の支配者として君臨する。
常染の人間の強みはその用意周到さと言えた。
しかし、そんな常染であれど今の状況は予想出来る筈もない。
一体誰が予想できるだろうか。
ただのS階位の内側に新たな災主級が降臨するなど。
それも見たことがない完全に未知の異縁存在。
系統こそすぐに分かったが、それの持つ性質を全て理解できるはずもなかった。
「まさか」
ムカタはふと気が付き、夕焼けの空を見上げる。
「気味が悪い程に協力的だったと思ったが……まさかこれが狙いだったのか?」
絶対にこの場を見ているという確信をもって、ムカタは苛立ちと共にその異名を口にした。
「笛吹……!」
■
あちこちから立ち上る黒煙と焔を見下ろせる一番高いビルの屋上にエイはいた。
吹き付ける風に眉を顰めながら、エイはゆっくりと目を開ける。
横向きの視界に広がるのは橙色の空と黒煙。
それから少しの間ぼうっとしていた彼の首元でじんわりと広がり始めた熱が、急速に意識を浮上させた。
「っ!?」
起き上がりエイはすぐに首元の焔へと手を伸ばす。
焼くような痛みと恐怖はまだ彼の中に健在だった。
しかしその手は、途中で握られ止められてしまう。
ほっそりとした少女の腕だった。
エイは恐る恐る自身を掴む手を伝うように視線を動かし、その姿を見た。
「……だ、誰ですか」
普段の無垢さは鳴りを潜め、怯えるようにエイはその名を問いかける。
それは、どこにでもいる学生のようだった。
ブラウンのブレザーに、チェック柄のスカート。握った手には大人しめのネイルと肩あたりまで伸ばされた茶髪。
綺麗で吸い込まれるような黄金の瞳を除けば、どこにでもいる女子高生のようだ。
「まずは落ち着いて。今日はラッキーデイだから」
「ラッキー……?」
「そう。まだ君は生きているし、新しい災主級もこの世界に顕現した! ここまで強力な災主級だとは予想していなかったけれどね。まあ、ハッピーだよ。久しぶりに頑張ったから神様がご褒美をくれたのかも」
少女はケラケラと笑いながらエイの傍にしゃがみ込む。
顔を覗かれているだけだというのに、全てを見透かされたような気がしてエイは顔を逸らした。
「首、もう痛くない?」
「え? ……あっ」
「そうそう。大丈夫だよ、この焔は君には悪さをしない。少し過激な祝福みたいなものだね」
「祝福……」
「そう、祝福。きっとその焔を君に与えた子は君の事が大切だったんだね。確か……セナノちゃんだっけ?」
「はい。あの私はっ」
言葉の続きを理解しているのか、少女は手で待ったをかける。
その時も焔は決して反応することはない。
エイの首元で静かに燃えているだけであった。
「あの子を助けたいんでしょ?」
「……! はい、そうなんです! セナノさんを助けないと!」
「うんうん。じゃあ、お手伝いをしないとね。私だけは君達の味方だから」
少女はそう言って、ビルの向こうで立ち昇る黒煙を指さす。
「あそこに今セナノちゃんはいるよ。これから一緒に向かおうか」
そう言って少女は屋上のふちへと足を掛ける。
不十分な説明に困惑したエイが慌てて駆け寄り、彼女を呼び止めると彼女は不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの?」
「色々と聞きたい事があるのですが、まずはその……貴女は誰ですか? また封縁五家だったら、その……」
「ああ、そっか。確かに名乗っていなかったね。大丈夫、私はあんなバッドなクソ野郎共とは違うよ」
少女はニカッと人懐っこく笑う。
その爽やかな笑みにエイは安堵し、警戒を解いた。
「そうだなぁ、私は色々と呼び名があるんだよねぇ。今は……そうだ」
少女はエイの手を握り、親し気にその名を告げる。
「
『どこ所属の誰……? 俺の知らないところでどんどん話が進んで大困惑だよ!』
『ほう! コンテンツの編集者かと思えば、現地で実際に手を出す私と同じ製作者だったとは^^ あの人間とエイのずぶずぶ共依存を盛り上げてくれるなら静観しましょうかね!』
『ソラと似た感覚の持ち主なら俺はもっとひどい目に遭うのでは?』
『ん?^^』
『何でもないです! 苦しみながらセナノちゃんと戦う演技頑張ります!』
『ヨシ!』