【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
春目ルウと名乗った少女は明らかに異常だった。
風貌こそどこにでもいる女子高生ではあるが、その言動は異縁存在を知る側の人間である。
そして何よりもエイを認識していた。
民間人はこの迷宮内ではエイを始めとした異縁存在に関わる者たちを認識できないが、ルウは違う。
エイの目を見て、手を握り、そして友好的に笑いかけた。
普段であればなんてことのない動作一つ一つが彼女の異常性を浮き彫りにする。
それでもなお、その提案はエイには魅力的に聞こえた。
「セナノちゃんを助ける方法はあるよ。付いてきて」
まるで内緒話でもするように囁いて、ルウは駆け出した。
エイは手を引かれるままに追従する。
そして屋上のふちへと足を掛け、一気に跳躍をした。
「うわあああ!」
「大丈夫。疑似媒介体の肉体は超人だ。君もいつか自力でこれくらいは出来るようになるよ」
ルウはエイを抱き寄せると、そのまま屋上から屋上へと移動を続ける。
黒煙は目前に迫っており、破砕音が響いていた。それでもなお、人々は騒ぎに何も反応を示さずそれぞれの日常を謳歌している。
それを見るのが何故だか辛くなったエイはそっと目を逸らした。
「はい、ここで一旦ストップ」
ルウはそう言ってエイを黒煙が目の前で立ち昇る屋上へと下ろす。
そしてちょいちょいと手招きをして、下を覗き込むようにジェスチャーをして見せた。
「エイちゃん、アレが見える?」
「! セナノさん……!」
そこはかつてビルとビルの隙間にあるただの細い道だった。
しかし辺りは熱により溶け落ちており、地面にはセナノを中心としてマグマのような何かが煮えたぎっている。
辺りにはもう誰もいなかった。
「結構派手にやるねぇ。あの災主級は中々の格を持っているようだね。私とエイちゃんと同じくらいかな?」
「え?」
「さ、エイちゃんには今からあそこに行って止めて貰いたいんだけれど」
人差し指をエイへと突き出してルウは再び凡庸に笑う。
「空澱大人にこの迷宮を割ってもらっても良いかな? 一瞬でも隙があれば、収納している異縁存在をいくつか召喚できるでしょ?」
「……そ、それは」
躊躇うように視線を背ける姿を見てルウはエイの傍に寄り、肩を組んだ。
それから悪戯でも相談するかのように軽い調子で問いかける。
「もしかして――人が死ぬのを怖がってるの?」
「っ!? 知っていたんですか!」
「なんでも知ってるよぉ、この迷宮の事は。エイちゃん、この迷宮をこじ開けられるのは君だけ。君だけがあの子を救えるんだよ?」
「っ、で、でも」
「救いたい人を救える力がある。こんなにハッピーでラッキーな事はある? エイちゃんにとって、今日はラッキーデイなんだよ?」
どこまでいっても軽薄な言葉だった。
まるでゲームをしているかのように、あるいは漫画の感想を言うように、ルウはエイに親し気に言葉を連ねていく。
「この街にいる誰かがエイちゃんを助けてくれた? 一人の人間として見てくれた?」
まるで脳の奥へと染み込むように言葉がエイの中へと溶けていく。
「あの子だけでしょ。エイちゃんを一人の人間として見てくれたのは。村での生贄扱いでも、縁理庁の化け物扱いでもない。一緒にご飯を食べて、寝て、楽しく暮らしてこれたのは、誰のおかげ?」
「……セナノさん、です」
「そう! セナノちゃん! じゃあ迷う必要なんてないじゃん。今まで助けられた分、ここはかっこよくエイちゃんが助けようぜ」
再びルウが顔を覗き込む。
金色の目はエイの心の奥底にあった覚悟を無理矢理掴み上げ、引きずり出しているかのようだ。
それがたまらなく恐ろしくなり顔を逸らそうとするが、ルウは唐突に顔を両手でつかむと自身と無理やり向き合わせる。
「逃げるな。相棒だろ」
「……っ」
「セナノちゃんは今、苦しんでいるんだよ? 急に強大な力を流し込まれて、身体はきっと焼けるように熱いだろうね」
焔に焼かれる辛さは先ほど身を以て体験したばかりだ。
故にその苦しみを理解できるエイは、否応なしに向き合ってしまう。
今のセナノを助けることが出来る唯一の人間は誰なのか。
誰であるべきなのか。
「私は……」
「別に人殺しを望んでする訳じゃない。それは必要な犠牲で、忘れても良い過程だ。重要なのは、あの子を助けたいかどうか。君が願えばそれだけであの子は助かる」
ルウは夕焼けのその更に向こうを指さして言った。
「君が願う事ならきっとそれは叶う。なのに、何を躊躇っているの?」
「わ、たしは……!」
吐き出された言葉は葛藤に満ちていた。
エイは空とセナノを何度も見て、ぎゅっと目を瞑る。
しかし、それでもその耳には焔が燃える音が入り込んできた。
やがて、エイは決心をしたようにゆっくりと目を開く。
そして恐る恐るその言葉を口にした。
「私が……セナノさんを救います」
「うん」
ルウはサムズアップをして快活な笑みを返す。
「いいね!」
その称賛と肯定に、人殺しへの躊躇いや忌避感は存在していなかった。
■
という訳で人を殺す事になりました。
どうにか勘弁してほしい所でヤンス!
ご近所から人殺しと後ろ指を指される暮らしはごめんでヤンスよ!
『ソラ、オラは人を殺したくねえっぺ』
『? こんなにいるんだから一人くらい良いじゃないですか』
『良いわけないだろ!』
久しぶりの上位存在の感性をひしひしと感じた。
こちとらどこにでもいる無双系美少女♂なので、そういう倫理観の押し付けは止めていただきたい。
『でも流石に人殺しはさぁ……』
『もう、臆病ですねぇ。わかりました』
『おっ』
『では、後でエイが体調を崩してあの人間に看病してもらうイベントを対価として要求しましょうか』
『成程、等価交換か』
……いや等価交換か?
『そもそもここにソラがいるのに、わざわざこの迷宮をぺりってする意味はないじゃん。そんなことせずに犠牲者ゼロで現れてよぉ!』
『我儘ばかりだと、おしおきですよ?』
『ひぇっ』
『人を殺さないという要求を呑んであげるのですから、大人しく看病されてください^^』
『……ウィッス』
『ヨシ! では、後で地獄の苦しみといくつかの五感をナイナイした状態のMAX体調不良モードで看病されてくださいね!』
『怒涛の条件後付け。しかし、隙を見せた俺が悪いな』
これは武士の間合いで気を抜いた俺が悪い。
反省は次に生かすとしよう。
地獄の苦しみについては後で考えようか。
『では、犠牲者を出したことにして降臨してあげましょう。うーん、今回は糸と鏡と窓、どれにしましょうかねぇ』
『針金は?』
『アレは対象を惨殺するので駄目です』
『そんなもんを君は過去に二択で迫ったのか』
結局鏡と針金がどっちも恐ろしい存在だったことに震える俺の事など気にしていない様子で、ソラは元気いっぱいに言った。
『今回は窓で頑張ってみましょうか! 初お披露目ですから、頑張ってくださいね!』
『窓……ああ、鏡のやつで倒したやつかぁ』
俺、結局中で何が起きているかわからないまま、マンションの外から使役していたのでよくわかっていない。
けれどまあ、ソラが大丈夫というのだから負けることはないだろう。
『じゃ、かっこよく使役するかぁ』
『あ、今回は辛勝ですからね? 火傷は首だけで良いですが、数週間で治る程度の傷は負っていた方が美しいです』
『美しいかなぁ』