【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第90話 救い出せ! 友情を信じて焔に飛び込むんだ!

 セナノと戦う少し前、エイはルウよりいくつかの知恵を授かっていた。

 

「――要するに、今のセナノちゃんは体の中にある力を出し切らないと元に戻らないんだ。力が漲るー! って感じで」

「災主級の力ですね」

「そう。幸い、力を受け取ったのは空が割れた一瞬だけ。常に力が供給されているわけじゃない。もしもそうなら、この街はとっくの昔に火の海だ」

 

 ルウは屋上に腰を下ろし、パタパタと足を振る。

 そして街並みを微笑みながら眺め「いい街だ」と呟く。

 

「力を出し切る……なら、沢山数を増やせる異縁存在を使役すれば!」

「そう言う事。エイちゃん、蛇のやつ持ってるでしょ」

「……え?」

「あれ、持ってない? おかしいなぁ……てっきり空澱大人が天移したと思ったんだけど」

 

 当てが外れた様子でルウはうんうんと唸っている。

 その背中に向けてエイは訝しげにしながら答えた。

 

「確かにアレは御空様が天に堕としてくれましたけれど……どうして貴女がそれを知っているんですか……?」

「あ、やっぱり持ってたんだ! 良かった良かった。結構、自信作だったからなくなったらどうしようと思ったよ」

「自信作……」

「うん、だって」

 

 ルウは顔だけ軽く振り返って、得意げな笑みを橙色に染めながら言った。

 

「あれ作ったの、私だし」

「っ!?」

「ああ、そんな警戒しないで」

「あの事件で、亡くなった人がいるんですよ!」

「そうだねぇ。残念だね。でもまあ、次があるよ」

 

 ルウはそう言ってバタバタと遊ばせていた足に勢いをつけると、そのまま屋上から飛び降りた。

 

「えっ!?」

「ばあ」

 

 背後からルウの声が聞こえ、エイはその場で小さく悲鳴を上げ飛び上がる。

 

「きゃっ!」

「あっははは、ごめんごめん。ヨイちゃんよりピュアそうだったからつい。で、蛇の窓だっけ? アレはね、疑似媒介体を作る実験用の異縁存在だったんだ。実際、良い所までいった縁者がいたんだけどね、精神がもたなかったなぁ、あの子は」

 

 その言葉に命に対する敬意はなかった。

 ゲームで失敗したように、あるいは演劇上での死を目撃した観客の様にルウは軽い調子でそう答える。

 あまりにも命を軽く扱うその態度はセナノとは真逆に近い。

 故にエイはムッとして言い返そうとしたのだが、それを読んでいたかのようにルウは顔を寄せた。

 後ずさったエイを相手に更に一歩前に踏み出し、ルウは変わらず笑顔で指を鳴らした。

 

「さ、今日のお話はここまで。蛇の窓でどう戦うかは君次第だよ」

「っ……貴女、一体何者なんですか」

「うーん、貴女の事を応援している旅人かな。って、私の事は良いんだよ! それよりも早くセナノちゃんを助けてあげなくちゃ。ハッピーエンドが一番でしょ?」

 

 そう言ってルウは黒煙の向こうにいる人影を指さす。

 煙でほとんど見えていないというのに、エイには不思議とそれがセナノであるという事が分かった。

 

「じゃ、頑張って」

「……はい」

 

 決心したエイはやがて黒煙へと向かって走り出し――。

 

 

 

 

 

 

 実力は拮抗していた。

 そう、完全に同じだったのである。

 

 災主級の力を注がれ理性を失ったセナノと、有効札を教えられたエイ。

 一方的に終わるかに思われたその戦いは、エイの予想以上に長引いていた。

 

「っ、蛇の窓、もっと数を増やしてください」

 

 既に辺り一面は歪なガラスで覆われていた。

 それら全てが蛇を生み出す源であり、異縁存在の窓。

 いくら構文を焼き尽くすと言えど、対処が間に合う訳がなかった。

 ヒバリは空より蛇を何体も焼き尽くしているが、そうして焼かれた蛇は新たなガラスとなりより多くの蛇を生み出す。

  

 焼却が追い付かない程の増殖は、確かに有効打と言って良いだろう。

 しかし、それでも場が拮抗している理由はただ一つ。

 エイのそもそもの経験の無さであった。

 異縁存在を使役する経験が殆どないエイの脳は、通常の何倍もの負荷に耐え続けている。

 今まで空澱大人という管理者がいたが故に容易に操作出来ていたそれを、今エイは個人の力のみで操作しなければならないのだ。

 

「っ……絶対に助けますから」

 

 既に息は上がり、額には汗が浮かんでいる。

 常に蛇の上にいてもなおそれだけの疲労を感じるエイにとって、これは何よりも辛い持久戦だ。

 

「負けませんよ! 蛇の窓、もっともっとです!」

 

 主の命令により、蛇の窓はさらに数を増やしていく。

 エイの勝利条件はただ一つ。

 セナノの力を全て使い切らせる事。

 

 その為ならば、自分の命すらも投げ出す覚悟だった。

 

「セナノさん!」

 

 何度も何度も彼女はその名を呼ぶ。

 いつか必ず届くと信じて。

 

 

 

 

 

 

 熱と痛みと喪失感がそこに在るすべてだった。

 見渡す限りが全て焔で覆われた世界には、天も地も存在しない。

 いや、かつては存在したが燃やされてしまったのだろうか。

 

 焔以外の何かは仮に顔を見せたとしてもすぐさま焔により燃やし尽くされるだろう。

 

 今のセナノがいるのは、そんな焔の世界だった。

 外界全てを遮断してしまうそれはまさに檻。

 同時にそれはセナノを守る壁でもあった。

 

「……かぐとあ様、助けてください」

 

 焔の中でうずくまり、セナノはただひたすらに祈る。

 かつて祈りを捨て信仰心など朽ちた筈のその神に対してセナノは子供の様に祈ることしか出来なかった。

 

 そうしなければ、失ってしまうものがあるのだ。

 

「どうかエイを助けて……」

 

 何よりも願うのは、唯一無二の友の無事である。

 その為なら、この業火の中でどれだけ祈りをささげたってかまわない。

 元より、自分はそのために生かされたのだから。

 

「あの子は何も悪くないんです。……私が弱いのが悪いんです。だから、あの子だけはお家に帰してあげてください……!」

 

 そこにS階位としての誇りも、エリートとしての矜持もなかった。

 縋るように焔へと祈る様は、親に赦しや助けを乞う子供と何も変わらない。

 それでもセナノは構わず願い続ける。

 

 時間や状況など、今の彼女は思考するだけの余裕が無かった。

 目の前の焔に祈るその様は本能に刻み込まれたものであるが故に、死の間際から変わらず彼女は祈っているのである。

 

「どうか、どうか」

『――セナノさん』

「エイ!?」

 

 不意に声が聞こえた。

 顔を上げた先にはやはり焔しか存在しない。

 

 先ほどの声は幻聴であるとでも言いたげに焔は更に激しさを増す。

 

「……そうだ、きっとエイは泣いている。かぐとあ様にもっと祈らないと。じゃないと、おねえちゃんみたいにいなくなっちゃう……!」

 

 二度のあのような喪失を経験してはならない。

 二度と自分の弱さにより大切な人を失ってはならない。

 二度と、二度と、二度と――。

 

「かぐとあ様……」

 

 そうして再びセナノが祈りを捧げようとしたその時だった。

 

『セナノさん!!』

 

 途端に、身体へと凄まじい衝撃が走る。

 焔が周囲から吹きとばされ、辺りの景色が脳内へ飛び込むように広がっていった。

 

 辺りに散るガラスに、溶けたビルの壁、そして花びらの様に散る火の粉。

 何よりも、自分の胸に覆いかぶさるようにして一緒に倒れている見知った顔。

 

「え、い……?」

「セナノさん! セナノさん! 私がわかりますか!?」

「え、ぁ、あ。わかる、わ」

「! よかった、よかった……本当に良かった……!」

 

 そんな訳ない。

 そう言おうとしてセナノは口を動かすが、喉はとうの昔に枯れてうまく声を出せない。

 今すぐにでもエイの言葉を否定をしなければならない。

 何故ならば、今の彼はひどく傷ついているのだから。

 

「セナノさん、今すぐ病院に行きましょう。私が背負いますから……!」

 

 笑っている。

 煤だらけの顔で、傷だらけの肌を露出して、そして何よりも、首に大きな火傷を負って。

 

「……ぁ」

「セナノさん、大丈夫ですか? どこか痛みますか!」

 

 必死にセナノの頬を叩き、返事を求めるエイの姿は何よりも痛々しかった。

 辛いのは自分も同じである筈なのに、エイはセナノを見て泣きそうになっている。

 

「え、ぃ」

「はい! 私はここにいますよ! だから安心して――けほっ」

 

 不意にエイが小さくむせる。

 口元を抑えた傷ついた手から僅かに漏れ出した血をセナノは見逃さなかった。

 

「あれ、なんです、か。これ……」

 

 手のひらに広がる血を見て、エイは呆然としながらそう呟きゆっくりとセナノに覆いかぶさるように倒れる。

 抱き留めようとしたが、手が動かない。

 それどころか、指先一つ彼女は自由に動かすことが出来なかった。

 

(一体、何がどうなったの……!? 早く、エイを病院に……)

 

 何があったのかセナノには理解が出来ない。

 それでも自分の上で倒れたエイを助けようと彼女は必死に体を動かそうとする。

 

 と、その時だった。

 

「――ようやく終わったか、クソガキ」

 

 聞き覚えの無い女の声。

 しかしその台詞には、よく聞き覚えがあった。

 

 封縁五家。

 人であることを捨てた彼らに、倫理など存在していない。

 セナノはそれを、今この瞬間に自身の身をもって思い知らされようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こ、こんな感じの相打ちでどうっすか。あと、血を吐いてみました』

『良いアドリブです……!』

 

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