【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第91話 割り込め! バッドエンドを許すな!

 それは最適かつ最悪なタイミングで訪れた悪夢であった。

 

「むか、た……!」

「こっちのクソガキはまだ意識があるのか。無駄に頑丈だなぁ」

 

 今のムカタは女の姿をしていた。

 仕事から抜け出してきたかのようなパンツスーツできっちりと髪をまとめた彼女は、二人に対して嘲り笑うような視線を向ける。

 

「眠っておいた方が幸せだったろうに」

 

 蛇の窓と災主級との大規模な戦闘に封縁五家が気が付かない筈もない。

 それでもなお放置しておいたのは、その方が効率が良いからである。

 

 少女たちの決意や愛など、彼らには些末事。

 これから目的を果たすうえで何の障害にもならない。

 

 故にムカタは一番安全なタイミングで悠々と姿を現したのである。

 

「妙な異縁存在を扱っていたなぁ。個体一つ一つが構文を保持している上で増殖も可能。使い方さえ間違えなければ確実に人類を滅ぼせるだろう」

 

 エイが先ほどまで使役していた蛇の窓に対するムカタの感想は自身の欲にまみれたものだった。

 辺りに残されたガラス片をヒールで砕きながら、ムカタはゆっくりとセナノ達に近づく。

 

「さて、まずは解析だな。クソガキの体の中にいる災主級が一体どれ程のものか。知る必要があるだろう。無力化された以上、停戦協定も無効だ」

 

 今のセナノ達は格好の獲物にしか映っていないのだろう。

 ムカタは確信の笑みと共に近づいてくる。

 だというのに、セナノは少しも動けずにいた。

 

「……っ」

 

 力を込めようすれば全身に痛みが走り、まともに立ち上がる事すらできない。

 ハードな訓練後のような疲労感とは訳が違う。

 自分の持てる力全てを出し切った後のような虚脱感に襲われている今のセナノには立ち上がる事はおろか手足を動かすことも難しいだろう。

 

 僅かに視線を動かし、自分へと向かってくるムカタを見る。

 今の彼女に出来るのはただそれだけだった。

 

「さて、後は眞柴と洛永をどうするかだが……」

 

 ムカタの脳内では既に封縁五家による争いの構図が完成しているようだ。

 当然、既にエイとセナノは脅威ではないと判断されている。

 

 精一杯にセナノは睨むが、ムカタは鼻で笑いその威圧を一蹴する。

 所詮は子供の敵意だ。捨て置いて問題はない。

 

「賞品は賞品らしく初めから大人しくしていればよかったのだ」

 

 彼女の口調は傲慢でありながら穏やかなものであり、賞品の状態を確かめるようにセナノへと手を伸ばした。

 その時、セナノの視界の端でスカートがひらりと舞った。

 

「ちょっと待ってよー」

「なっ貴様……!?」

 

 今までから一変してムカタの表情が固まる。

 封縁五家や災主級と相対した時とは別の驚愕が、その顔には色濃く浮かんでいた。

 

「何故ここに来たのだ、笛吹……!」

 

 その名前にセナノは聞き覚えがあった。

 

(笛吹……!確か、審縁導師様が警戒するようにと言っていた組織の名前!)

 

 セナノは最後の力を振り絞って僅かに顔を動かし、笛吹と呼ばれた少女を見る。

 そこにいたのは、なんてことの無い普通の少女だった。

 放課後遊びに出かけるように軽い足取りでセナノ達とムカタの間に立った彼女は、一度セナノへと振り返ると、まるで旧友の様に手を振る。

 

「ナイスファイト!」

「な、に者……なの」

「味方だよ、君達の」

 

 笛吹はそう答えてムカタへと黄金に輝く目を向けた。

 

「ねえムカタ、これは駄目だよ可哀そう。ハッピーエンドじゃないよね。貴方もそう思うでしょ?」

「笛吹、貴様一体何がしたい? そもそもこの迷宮を私に授けたのは――」

 

 瞬間、ムカタの体はひとりでに後方へと跳躍していた。

 彼女がそう命じた訳ではない。体が勝手に動いたのだ。

 

「質問しているのは私なんだけどなー」

 

 黄金の目は相変わらずムカタの体を捉えている。

 笛吹が笑ったまま「まあ、座ってよ」と言うと、ムカタの体はまるで人形の様に無理矢理関節を曲げられその場にゆっくりと座り始める。

 

「くっ……借り物の体では真っ向からの抵抗は不可能か。なら――」

 

 地面に腰を下ろす寸前でムカタは自身の指先を噛んだ。

 血が滲み、その一滴が地面に落ちる。

 するとそれは膨張し引き延ばされ、サンショウウオに近い形へと変化を遂げた。

 赤黒く、表皮が腐り落ちたかのような姿のソレは姿を現したかと思えばすぐさま笛吹へと向けて何か液体のようなものを吐き出す。

 

「うわ、汚っ!? 折角のおべべが汚れたらどうするのさー! この辺、コインランドリー無いんですけどー! そもそも日帰りの予定だったから着替えもないんですけどー!」

 

 口先をとがらせ文句を重ねる笛吹の目の前で、赤黒い液体は停止していた。

 透明な何かに阻まれるように地面へとべちゃりと落ちた液体は、ガラスとコンクリートを蒸気を上げながら溶かしていく。

 

 笛吹の視線が逸れた瞬間、ムカタは体を取り戻しすぐさま立ち上がった。

 そして再び、自分の口元へと親指をあてがう。

 いつでも噛み血を出せるようにしながら、ムカタは笛吹を睨みつけていた。

 

「なんの真似だ!」

「だーかーら、ハッピーエンドが良いんだって。折角この子たちが互いの為に傷ついて頑張ったんだから、ここはその頑張りに心を打たれて迷宮を解除して解放してあげるべきじゃないの?」

「ふざけるな!」

「ふざけては無いんだけどねー。困ったなぁ、別に怒らせに来たわけじゃないんだけど。セナノちゃん、立てる? あの鳥さんを使えるなら嬉しいんだけど」

「……無理、よ……から、だが」

「あーだよね。おっけい」

 

 軽い口調とは裏腹に、彼女は常にセナノ達を守れる位置にいた。

 だというのに、セナノの胸の中に残る妙な不安は一体なんなのだろうか。

 

(笛吹がどうして私とエイを守るの……? 一体何が目的で……)

 

 動けない分更にセナノは思考を回す。

 笛吹と呼ばれた少女の正体と目的。

 

 そのヒントを少しでも得ようと観察を続ける彼女の視線の向こうで、笛吹はムカタを指さした。

 

「もう! どーしてわかってくれないの? 」

「こちらのセリフだ」

「そんなに我儘言うなら、かっこよく倒しちゃうよ?」

「おいおい、ここは既に私の迷宮なんだぞ? アドバンテージは依然としてこちらに在る。 それに、この場にいる封縁五家は私だけではない」

 

 そう言うとムカタは周囲を見渡して声を張り上げた。

 

「いつまで見物をしているつもりだ! このままだと笛吹に台無しにされるぞ!」

「――もう、わかったよ。クビリちゃん、エントリーしまーす」

 

 声に合わせて、ビルの下で咲いていた花が少女の形へと変化した。

 クビリは自身のセーラー服と笛吹の制服を見比べて、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 

 同時に、別のビルの屋上から蟹と共に眞柴が飛び降りてきた。

 地面に僅かなひびを残して、平然と立っている彼は至極面倒くさそうな顔で笛吹を見ている。

 

「まさか笛吹が関わっていたとはな。ムカタの爺さんの隠し事をする癖には本当に振り回される。他の眞柴がこの争奪戦に名乗りを上げなかった訳だ」

「制服の可愛さなら既に私の勝ちだね」

 

 三人は囲むような位置取りで笛吹と対峙する。

 当の本人はというと、未だにニコニコと笑っていた。

 

「わあ、囲まれちゃったよ。これってバッドエンド確定かな? セナノちゃんはどう思う? ああっと、言わなくても大丈夫! セナノちゃんの熱い思いは伝わったよ!」

 

 笛吹は言葉をまくしたてると一人で満足して頷いていた。

 

「笛吹、まさか封縁五家を同時に相手取るつもりか?」

「君達三人を相手にしないとハッピーエンドはなさそうだからね」

「ふーん。やる気なんだ。じゃあ遊んであげようかな。アイツからどんな花が咲くか気になるし」

「……できれば遠慮したいが仕方が無い」

 

 封縁五家の三人はそれぞれいつでも動き出せるように構える。

 しかし笛吹は違った。

 

「まあ、相手にするとは言ったけど」

 

 彼女は無防備なまま急に空を見上げる。

 そして、何かを迎え入れるように腕を大きく広げた。

 

「私が戦うとは言ってないよねー」

「何をほざいて――っ、上か!?」

 

 それは、この迷宮を支配するムカタだからこそ気が付いたことだった。

 街一つを半球状に覆う迷宮。

 その上空に、いつの間にかヘリコプターが存在していたのだ。

 

 

 

 

  

 

 軽鳴市の上空、約二万フィート。

 逆さにした鳥居を特徴とする縁理庁のエンブレムが刻まれた漆黒のヘリより、今まさに一人飛び降りた女がいた。

 

 薄紅色の髪を風に強くはためかせ、重力に従い迷宮へとそれは急速に接近し――。

 

「解刀」

『認識接続、オース・リンク開示。確認しました』

 

 電子音と共に、背負っていた長い筒から蒸気が噴き出し一本の鉄パイプのようなものが射出される。

 それを掴んだ女は、まるで刀の様に構え迷宮の壁へと向けて力いっぱい殴りつける。

 

 その瞬間、迷宮が力ずくで割られた。

 

 辺りの景色が青空から夕焼けへと切り替わり、女は容易く迷宮へと侵入する。

 否、それだけではない。

 自由落下を続けながらも位置を調整していた彼女は、目的の場所へと一ミリのずれもなく完璧に着地したのだ。

 

 辺りに響くのは、人が落ちたというよりは大砲が放たれたような轟音。そして巻き上がる砂塵。

 それらを鉄パイプが裂き、中から一人の女が姿を現す。

 

 地上に立ってようやく、その大きさが理解できるだろう。

 二メートルに迫る巨躯に、背中で一つに結ばれた薄紅色の髪。

 

「迷宮内部に潜入完了」

 

 縁理庁の男性職員用のスーツの上から季節外れの黒いロングコートを羽織った彼女は、鉄パイプを引き摺りながらこの戦いに強引に己の存在を刻みつけた。 

 

「目視にて迷宮の主と思しき異縁存在を複数体確認」 

 

 その無茶苦茶な登場に誰もが困惑する中、セナノだけは違った。

 まるで親が迎えに来たと知った子供の時のような安堵した目で彼女を見つめている。

 

「し、しょう……」

「東園ネネ。これより緊急蒐集に移行する」

 

 彼女を救う為、希望は再び空より訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今度は何!? ねえなんなのぉ!?』

『コンテンツです』

『答えになってないよぉ!』

 

 

 

 

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