【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
封縁五家は国家の存続に関わる危険な集団である。
倫理を投げ捨て自身の理想にまい進するその狂気じみた生き方は多くの不幸の上に成り立っていた。
しかし、彼らは決して国の支配者ではない。
どれだけの異縁存在を保有していようとも、人間を人間とも思わない残虐非道な行動をしようとも、彼らは影の存在。
何故ならば、影に押しとどめるだけの抑止力があるからだ。
果たしてそれは一体、何者なのだろうか。
そう問いかけたとき、長く生きた縁者程口を揃えてこう言うのだ。
「――S階位」
誰かが告げる、最強の称号。
いかなる異縁存在をも単騎で蒐集可能な、人類最高峰の怪物である証。
それもセナノのような雛鳥ではない。
正真正銘の最強の一人であった。
「セナノ、立てる?」
「……すみ、ません」
「わかった」
ネネは背負っていた筒を地面に放り投げる。
その間もセナノを見ようとはしなかった。
鉄パイプを引き摺りながらムカタ達へと向かって行く最中、言葉だけを投げかけ続ける。
「その様子だと、久しぶりに神様を降ろしたみたいだ。そうせざるを得なかったのか、それとも仕向けられたのか」
ゆっくりと引き摺られる鉄パイプから、妙なまでに火花が舞い散る。
やがてそれを肩に担いだ時、それは全体が黒く変色していた。
「いずれにせよ、よく耐えた。後は任せて」
この場にいる誰もがネネの担ぐそれの異常性を理解している。
最も警戒するべきは彼女ではなく、彼女の担ぐその棒。
それは間違いなく、生きているのだ。
「この程度ならいくらでも殺してきた」
「……お前、東園ネネとか言っていたな」
「そう。だったら何? セナノをこんなにしたんだから、お前らは殺す」
ムカタへとそう力強く宣言した瞬間、最初に動いたのはムカタの生み出したオオサンショウウオだった。
大量の溶解液を吐き出しながらオオサンショウウオはネネへと接近する。
対してネネはその溶解液を、正面から素手で殴り弾いた。
「汚い」
それから向かってきたオオサンショウウオをこれまた素手でつかみ取ると、鉄パイプの先端に無理矢理突き刺す。
その光景は、あまりにも衝撃的であった。
「なっ……嘘!? ねえ、爺さんの異縁存在全然役に立ってないじゃん!」
「よりによって
「その名前は好きじゃない。それに私はガキじゃないよ」
涼しい顔で告げる彼女の担ぐ鉄パイプの先端につるされるオオサンショウウオは暫くもがいていたが、やがてピクリとも動かなくなった。
それから間もなく唐突に鉄パイプが脈打ち始め、表面に大量に切れ込みが入る。
否、それは全てが人間の口であった。
それらは一斉に開くと、先端のオオサンショウウオに歓喜するように歯を噛み合わせガチガチと音を鳴らす。
間もなく、その音に合わせてオオサンショウウオは見えない何かに何度も嚙まれながら姿を消した。
「大して補強にはならなかったか。じゃ、次。出来ればお前達を素材にしたいんだけど……そうか、どいつもこいつも本体は迷宮外か。もしかして、封縁五家?」
「ネネ……これは面倒な奴が来たか」
「眞柴も知ってんの? え、私だけ知らない感じ?」
「お前が山に籠ってた間に出てきたS階位の一人だ。他の眞柴が何人も殺されてる。正真正銘の縁理庁側の切り札だろうよ。チッ、とことん藪蛇だな今回の依頼は」
眞柴はそう言うと、ネネに気が付かれないように蟹の鋏越しに姿を捉える。
そして押しつぶすようにその鋏を閉じた。
途端にネネの両側の地面が鋏の形で持ち上がり一気に彼女を押しつぶす――筈だった。
「それはもう前に見た」
ネネは鉄パイプを地面に勢い良く突き刺す。
そして向かってくる地面に対して両腕を突き出して、己の力のみで押し返したのだ。
「……おいおい、嘘だろ。構文で対処するならともかく、単純な力押しだと……!?」
「お前は眞柴か。処分対象だ」
ネネは何も驚くことはなくそう告げた。
封縁五家が関わっていようがやる事は変わらない。
引き抜いた鉄パイプを引き摺りながら彼女はゆっくりと眞柴へと進んでいく。
そのがら空きの背中に向けて、クビリは動き出した。
袖から青い花を取り出し、その花弁を吐息でネネへと流す。
それは人、異縁存在を問わず死に至らしめる構文性の猛毒であった。
ネネの首にいくつもの花弁が張り付き、身体へと毒が流し込まれる。
本来であれば倒れるであろう状況であるが、ネネは決して止まらなかった。
「なんだこれ。少し痒いな」
「ええ!? これも駄目!?」
「やめておけ洛永。あれはクソガキとは違う
「うっわー、最悪」
それは封縁五家からすれば、新たな災害と言っても過言ではなかった。
自分達だけを狙うあたり、災主級よりも質が悪いと言っても良い。
「お前たちは縁理庁より独断での殺害が許可されている」
「くっ、今日は厄日だな」
眞柴を守る様に蟹が飛び出す。
が、それは鉄パイプによりあっけなく地面へと叩き潰された。
中身が飛び散り甲殻が粉々になった蟹を望むように、再び鉄パイプに口が生まれ、一斉にガチガチと音を鳴らす。
間もなく、蟹だったものに大量の歯形がつき始めみるみるうちにその姿は無くなっていった。
「無駄。私相手に異縁存在の攻撃は通用しない。勝つ気なら――鍛えると良い」
「は?」
「鍛えることが全てだ。私は鍛えた。この刀も鍛えた。だから強い」
「刀って……どう見ても気色悪い鉄パイプじゃねえか!」
ネネは答えない。
いや、答えるよりも先に既に眞柴の胴体が綺麗に二つに分かたれていた。
「……っ」
「切れた。だからこれは刀」
その言葉に眞柴が返すことはもうなかった。
既に彼の体には大量の歯形がつき始めている。
間もなく蟹同様にこの世から姿を消すだろう。
「本体じゃなくても、封縁五家なら多少は補強の役に立つ。次は……そっちの女」
「うっわ、退散!」
「ただ帰すわけない」
花びらになり散ろうとしたクビリの目の前に、気が付けばネネがいた。
白く細い首を握り、ネネは自身の目線と同じ高さにクビリを腕力のみで持ち上げる。
「体が強制的に再構築された……!?」
逃げようとしたはずの体が花弁が集まり一人の少女の体として構築される。
それは長い間生きてきたクビリだからこそ、有り得ないと理解できる異常事態だった。
「既に奉納の儀式は始まってる。私が認めるまでお前達は逃げられない」
鉄パイプをクビリにあてがう。
すると、その体はあっという間に捕食されてしまった。
恨みや怒りの言葉を上げる暇もない。
喉笛を喰らわれ、手足に噛みつかれ、やがて最後には跡形もなく消えた。
そして残るは、ムカタだけとなる。
「……お前は北海道にいるはずだが」
「仕事は終わった」
「っ、あそこには災主級には及ばずとも相当高位の異縁存在がいた筈だが」
「そうだね。でも私の方が鍛えていた」
会話は終わった。
これから喰らう相手にこれ以上の言葉の応酬は必要ない。
「――ッ!」
ムカタが指先を噛み、再び血を吹き出す。
するとそれは地面で膨張し、辺りには複数体の血でできたトカゲが生み出された。
どれも一メートル以上の強力な異縁存在である。
しかしそれを出した張本人は既に半ば敗北を覚悟していた。
「恨むぞ笛吹……!」
「また後でお仕事しようねー」
笛吹はにこにこと笑ってその光景を眺めている。
まるで自分は襲われないと確信しているかのように。
「よそ見をする余裕があると思ってるの?」
「化け物が!」
「どの口が言うんだ」
トカゲが一斉にネネへと飛び掛かる。
対してネネは、再び何もしなかった。
ただ好きなように食らいつかせ、そのままムカタへと接近していく。
焼き付くような高温の牙も、致死性の猛毒も、行動阻害の構文も通用しない。
まるでそよ風に吹かれたかのような涼しい仏頂面でムカタの前まで来たネネは、そのまま鉄パイプで耳についた鈴を軽く小突いた。
「蒐集」
瞬間、街中から何かをかみ砕く音が一斉に響く。
それは当然、ムカタの耳元からも。
「……私なぞいつでも殺せるから、先にこの鈴の蒐集か。クソガキ」
「だから、私はクソガキじゃない」
やがてネネはバットの様に鉄パイプを握り直し、振りかぶる。
今までの二人とは違って、その目には少しばかりの怒りが浮かんでいた。
「お前がセナノを泣かせたのか」
「あれは想定外だ。まあ、奪おうとはしたがな。……次は奪うさ」
「そう。消えろ」
鉄パイプは勢いよく振り下ろされる。
が、ムカタの頭部が派手に飛び散る事はなかった。
目の前でぴたりと止まったからである。
「それ、お前の体じゃない」
「チッ、最後まで嫌なクソガキだ」
こつんと鉄パイプがムカタの額を叩いた。
その瞬間、目の前の女の体の中から何かがかみ砕かれる音が響き、その場に崩れ落ちる。
「終わり。蒐集完了」
涼しい顔で圧倒的に。
彼女は取り戻した青空の下で、平然とそう告げた。
『つっっっよ……アレは無理だっぺよ。村一番の力持ちでも勝てねえっぺよ』
『人間にしては戦えるようです^^ こいつもあの人間の拡張強化キットとして有効活用しましょう!』