【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
圧倒的を超えて、それはもはや異常であった。
S階位と疑似媒介体を弄ぶように追い詰めていた三人の封縁五家が、ただ一人の介入により打倒されたのである。
それも、迷宮を創り出していた異縁存在も無事に蒐集するというオマケ付きだ。
「……あ、そうだった」
青空の下、ネネは思い出したかのように声を上げる。
そしてスマホを取り出し、どこかへと連絡をした。
「ミラク、終わった」
『そうだと思いましたよ。カミキリの解刀信号をこちらで捉えましたからね。……次からはきちんと事前に連絡を下さいね』
「わかった。善処する。今回はセナノが心配だった」
『わかっていますよ。それで……肝心のセナノさんはどうでしたか』
ミラクの問いにネネは、ちらりと足元のセナノを見る。
意識はあるようで、今も必死に言葉を紡ごうとしている様子だ。
「意識はあるし、しっかり生きてる。災主級を降ろしたから、少しだけ疲れているようだけど」
『成程』
ミラクはその言葉を全て鵜呑みにはしなかった。
何故ならば、ネネという存在の異常性をよく理解していたからである。
『貴女がそう言うという事は、殆んど瀕死ですね。回収班をすぐに派遣します』
「? このまま五分くらい休めば大丈夫。徒歩で帰れる」
『派遣します!』
「……わかった。セナノ、迎えが来るらしいからもう少しそのままで」
「わ、かりま……」
セナノは僅かに頭を動かし頷く。
「ちなみにセナノと一緒にいた災主級の疑似媒介体は意識がない。……そこで本体が見守っているから大丈夫だとは思う」
視線の先には誰もいない。
積み上がった瓦礫の上を、ネネは鋭い目で暫く見つめていた。
空は相変わらず青く、どこからか蝉の声が響いている。
『成程……エイさんが封縁五家に奪われる最悪のケースは避けられたのですね』
「そこはセナノが頑張ったんだと思う。流石だ。鍛えているね。……で、ミラクに質問」
『はい、なんでしょうか』
「――笛吹は処分していいの?」
『……え?』
「今、私の前には笛吹がいる」
ゆっくりと鉄パイプを持ち上げ、ネネは笛吹と思しき少女へと先端を向ける。
鉄パイプの表面は新たな贄を求めるようにガチガチと歯を鳴らしていた。
「笛吹? 私はどこにでもいる女子高生だよ?」
手を後ろで組み、身を乗り出す様にしてわざとらしく可愛らしい動作をする少女に対してネネが出した答えは彼女の真横のコンクリートを鉄パイプで砕くことだった。
回避の隙も与えず、少女の隣のコンクリートが木っ端みじんになり深い亀裂だけが残る。
片手にスマホを持ちながらも、ネネは先ほどと一切変わらぬ速さで笛吹の命を握っていた。
「一度、
「……成程、君は目もいいんだね。グッドだよ、S階位」
笛吹は笑って手を叩く。
そして一歩前に踏み出し、ネネへと更に顔を寄せた。
「私はむしろセナノちゃん達を守ってあげたんだから感謝して欲しいな」
「ミラク、どうする。縁理庁から許可が下りれば、ここで私が始末するけど」
『待ってください! 流石にネネ一人では……!』
「鍛えてるから大丈夫」
『ですが――っ、待ってください。今、縁理庁よりメッセージを受信しました。……これは、し、審縁導師様!?』
聞こえてくる困惑の声に、ネネは目を細める。
対して笛吹は穏やかに笑っているどころか、ネネを相手に余裕そうに背中を向け、スマホで自分とネネを同じ画角に収めようとしていた。
「S階位ちゃん、ピースサイン貰っていい?」
「両手がふさがっている」
「そっかぁ。じゃあ、撮っちゃうねー」
そう言って好き勝手写真を撮り始めた笛吹に眉を顰めていると、ようやくミラクから答えが返ってきた。
『笛吹の処分や捕縛は
「なんで?」
『審縁導師様が、そう仰られたそうなので』
「……わかった。ありがとう」
ネネは不服そうしながらも、素直に従い通話を終了する。。
忠実な猟犬の様に、彼女は笛吹を射殺さんばかりの眼力で睨みつけるも決して手を掛けようとはしない。
笛吹の肉を求めてガチガチと歯を鳴らす鉄パイプを筒の中にしまいこむと、背負い込み、笛吹を無視してセナノの前にしゃがみ込んだ。
「セナノ、帰るよ。どっちも背負って良い?」
「すみ、ません」
「大丈夫。私は鍛えているから」
セナノとエイを軽々と担いだネネを見て、笛吹はやや不服そうである。
「え、もう帰っちゃうの?」
「帰る。お前を殺せないなら意味はない」
「残念だねえ。でもまあ、いいや。君とは仲良く旅が出来なさそうだし」
立ち去ろうとするその背中へとスマホを向けて、笛吹は相変わらずそれでも笑っていた。
「面白いものを見せてくれたお礼に一つ教えてあげる。……もうすぐ、嵐が来るよ。君達の言葉で言うなら、
夜神楽、その言葉を聞いた途端にネネは足を止める。
そしてゆっくりと笛吹に振り返った。
「それは本当?」
「うん。本当だよ。私、嘘はつかないからさ。夜神楽が始まるから疑似媒介体が生まれたのか、疑似媒介体が生まれたから夜神楽が引き起こされたのか。どっちにしろ、ハッピーなお祭りが始まるから、準備をしておくと良い」
「……情報提供、感謝する」
「いいって事よ!」
サムズアップをして笛吹は最後にもう一度写真を撮る。
それから満足したようにネネから背を向け、その場を去っていった。
暫くは警戒してその背中を見つめていたネネだったが、間もなく遠くに停車した黒いワゴン車に気が付くとそれに向けて歩き出す。
「セナノ、聞いていたでしょ」
「は、い」
「鍛えるよ。君も、この子も」
「はい……!」
力を振り絞り、セナノは強く返事をする。
それが今の彼女に出来る精一杯だった。
『え、俺はこれからこの鬼強い人に鍛えられるの? 最悪じゃない? 走り込みとか嫌なんだけど』
『この人間、私の輪郭を掴んでいましたね。面白いです^^ エイ、私は少し席を外しますので、頼みましたよ』
『うぃっす』
【縁理庁提出報告書】
文書番号:EN-RPT-94762
提出者:東園ネネ(S階位縁者)
■任務概要
S階位三鎌縁者の救援。
つまり弟子が困っていたから助ける事にした。
■発生状況
13:23 縁理学園より救援依頼を受諾
13:45 解決
■観測結果および推定
特になし。
■被害および影響
縁者負傷者数:0
一般人被害:詳細は治安修正部隊より報告済み
■考察
封縁五家が悪さをしていた。
使用した異縁存在は蒐集完了。
別途報告書を提出済み。
■提言
封縁五家が三家も集まる異常事態だった。
空澱大人の疑似媒介体を狙った計画的な犯行と推測。
しかしこれは鍛えていれば防げた事件であった。
兼ねてより縁理学園の縁者育成の過程には必要以上の甘さが垣間見える。
これを機に一から育成カリキュラムの再構築をするべきと進言する。
■補記
笛吹の処分許可が欲しい。
私なら勝てた。
■補遺
これは再々提出前の報告書の写しです。
後に詳細を記した報告書は縁理学園及び縁理庁へと無事提出されました。
なお、正規報告書の記載は楽楽ミラクが行った為、本事件のより詳細な情報を求める場合には第一指令室宛に任務情報開示申請をする必要があります。