【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第95話 閉幕! 振り返ってみれば散々な一日だった!

 セナノ達が廻縁都市に戻る頃には辺りはすっかり陽が落ちていた。

 構文式の街灯がぼんやりと照らす都市は蒸気と夏の日差しが残した暑さのせいで、歩くだけで汗ばんでしまう。

 空を覆い隠そうとも、夏の暑さまでは逃れることが出来なかった。

 

「良いトレーニングだった」

 

 二人を病院に自ら担ぎこんだネネは、満足げにベンチに腰を下ろす。

 異縁存在に関わる都市の病院で、夜中に外のベンチへ腰掛けることが出来る者はそういない。

 しかし、ネネは敢えてそういった事をする。

 そうした方が鍛えられる場合があるからだ。

 

 しかし、今回彼女の元へと現れたのは異縁存在などではなかった。

 

「ネネ先輩、お疲れ様です」

「ああ、ミラクか」

 

 ベンチに座ったまま、ネネは片手を上げて挨拶をした。

 ミラクはペコリと頭を下げてから、ネネの隣に座る。

 

「今日はもうお仕事終わり?」

「はい。セナノさん達の仕事も終わったので、私もお仕事完了です」

「そっか」

「ありがとうございます。あの子達を助けてくれて」

「セナノは私の弟子だから。それに、あっちの疑似媒介体も鍛え甲斐がありそう。今度の屋久島ムキムキツアーに誘っても良いかも」

「絶対にやめてくださいね? あんな異常地帯に学生を放り込まないでください」

「駄目か。そうか……」

 

 本気で提案していたのだろう。

 ネネはがっくりと項垂れる。

 そんな彼女の目の前に小さな小包が差し出された。

 

「どうぞ」

「おぉ……嬉しい」

 

 中身が何かは聞かずともわかる。

 ミラクがネネの前にこうして差し出す物は決まっていた。

 それを見た瞬間にネネの体は枷が外れたように空腹を訴えかけ腹を鳴らす。

 それはまるで洞窟の奥から恐ろしい怪物が唸りを上げているかのようにおどろおどろしい音だった。

 

 が、ネネ本人はそんな事は気にせずいそいそとそれを開く。

 

「相変わらず、ミラクのお弁当は美味しそうだ」

「朝作った物なので、もう時間経っちゃいましたけどね」

「でも、嬉しい。……ミラクは良いの?」

 

 ネネは不安そうに問いかける。

 しかし、その箸は既に弁当へとまっすぐに向かっていた。

 

「私は今日、緊張しっぱなしでご飯を食べる気にはなれませんでした。今も、セナノさん達が生きて帰ってきてくれただけで満足です」

「……見送る側は辛いって、前に言っていたな」

「はい。だから、これはそのお礼でもあります。後でもっと美味しい物を作ってあげますよ」

「!」

 

 ピンと背筋を伸ばしてミラクの顔を見るくらいには、その言葉が嬉しかったのだろう。

 ネネは弁当からミートボールを一つつまむと逡巡の後にミラクへと差し出した。

 

「食べて。肉は絶対に毎日食べないと。体が弱くなる。これは美味しいから、きっと食べられる」

「美味しいも何も、私のお弁当ですからね。……ん、ありがとうございます。元気が出ました」

「うん」

 

 ミートボールをミラクに食べさせたネネは満足げに頷く。

 そして、一心不乱に弁当を食べ始めた。

 その光景を微笑みながらミラクは見つめる。

 

 それからネネが食べ終わるまで、二人は無言だった。

 静寂の中に響く箸が容器に当たる音が心地よく辺りを満たしていく。

 

「――ふう、ごちそうさま。美味しかったよ、ミラク」

「はい。喜んでくれて良かったです」

 

 ミラクは容器を受け取った時、ネネの視線に気が付いた。

 

「……どうかしたのですか?」

「ここまではどうやって来たの?」

「えっと……」

「まさか、歩いてきた?」

 

 ミラクはバツが悪そうに頷く。

 腕を組んでネネはため息をつきながら、もう何度目になるかわからない警告をした。

 

「駄目だよミラク。廻縁都市は異縁存在と一緒に生きてる。縁者もたくさんいるけど、異縁存在も沢山いる。貴女は戦えないのだから、夜道は気を付けて」

「でも、私はネネ先輩の食べかけでしょう? 大丈夫ですよ」

「それはそうだけど……むう、心配だ」

 

 まだ何かを言いかけていたネネを手で制して、ミラクは「それよりも」と話題を変えた。

 

「問題はセナノさんの中にいる災主級ですよ。暫く休眠状態で、ヒバリによる外部からの構文制御も完璧でした。それなのにどうして」

「疑似媒介体に共鳴して目覚めたんだと思う。いずれにせよ、どこかであの力と向き合う必要があるから、今回は丁度良かった」

「丁度良いというには少し危険な任務でしたけどね」

「縁者の任務に安全なものなんてないよ」

 

 ネネははっきりとそう言い切った。

 その言葉には、経験者としての重みが宿っている。

「低級の異縁存在だと聞かされていても、現地に行けばA級なんて事は割とある。それに、S階位ならなおさらだ」

「だから、これから鍛えるのですか?」

「うん。私みたいにはなれなくても、セナノはセナノとして強くなれる。そのためにはやはり、鍛えないと。生き残るには鍛えないと。兎にも角にも鍛えないと」

「成程……」

 

 ミラクは静かに目を閉じて、穏やかな笑みを浮かべる。

 そして笑みとは裏腹に淡々とした声で告げた。

 

「それを理由に報告書を後回しにするつもりですね?」

「…………ちがう」

「今なら怒りませんし手伝いますよ」

「明日にはセナノと疑似媒介体を連れて鍛錬に逃げるつもりだった」

「それは流石にセナノさんとエイさんが可哀そうすぎる……はあ、二人は先輩とは違うんですから、一週間は安静ですよ」

「そうか……」

「報告書も書けるように鍛えましょうね」

「…………うん」

 

 拳でどうにもならないものが、ネネはすこぶるに苦手だった。

 

「じゃあ、セナノさん達に顔を見せに行きましょうかね。無事であることをこの目で確認したいです」

「私も行く」

 

 そうしてネネはミラクの後に続いて立ち上がった。

 自分よりもずっと小さな背を追って、ネネはのっそのっそと追従する。

 

(あれ……何か忘れている? なんだろう……お弁当のリクエストかな)

 

 重要なことを忘れている気がして、ネネは小さな背中へと声をかける。

 

「明日はしょうが焼きが食べたい」

「はいはい。山盛りにしてあげますから報告書頑張りましょうね」

「頑張る」

 

 明日の献立に心を躍らせながらネネは満足して頷く。

 

 彼女が夜神楽について思い出すまで、あと四日。

 

 

 

 

 

 

 S階位としての強靭な肉体と、災主級の驚異的な力。

 そして何よりも、自分を傷つけないようにと最大限気を使って救い出してくれた相棒の存在。

 

 これらが合わさった事で、セナノは比較軽傷であった。

 病院についてすぐに簡易的な処置を終え、余った時間は体の検査。

 災主級を体に宿した事による後遺症や、異縁存在的痕跡を探すために隅々まであらゆる分野から検査をしたのである。

 

 それでも彼女は随分とマシだ。

 問題は、今まさにベッドで眠り続けているエイの方である。

 

「…………エイ、ごめんなさい」

 

 規則的に響く電子音は、彼女の命の鼓動だった。

 繋がれた管に額に浮かんだ汗。

 それはこの任務がいかに過酷であったかを物語っている。

 体の至る所に巻かれた包帯も、腕に繋がれたチューブも、全てがあの戦いの激しさの証明だった。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 そこに眠っているべきは本来自分だ。

 苦しむべきは、戦うべきは自分だ。

 救う者は、自分だ。

 

 そうでなければ、三鎌セナノという存在は成立しない。

 

「エイ、おねえちゃん……ごめんなさい……」

 

 漏れ出す声は半ば嗚咽に近い。

 それは、ミラク達が来るまで懺悔のように続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうです? これがオソラ式仮病です。内臓を適度にナイナイすることで、本当に体調を悪くできるんですよ』 

『戻ってきて早々人の臓器を勝手に空に仕舞わないで欲しいっすねぇ。苦しいんすけど、というかそろそろ寝ていい? もうセナノちゃん落ち込みミッションもクリアしたし』

『ヨシ!^^』

『わぁい! おやすみ!』

 

 









オソラ豆知識:ミラクの首と肩には大きめの歯形がついているらしい。
       どうやら学生時代につけられたようだ。
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