【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
【祝】退院!
おかげさまで、無事に退院することが出来ました!
内臓が半分ナイナイされたり、唐突に仮病調整で高熱をプレゼントされたりしましたが、それもぜーんぶ御空様の加護なので実質健康でしたね!
地獄のような苦しみも、コンテンツ制作の為と思えば我慢できます。
これが俺が求めていたやりがいなんですねぇ。
……そんな訳ないんだよなぁ。
『エイ、久しぶりのお家の気分はどうですか?』
『やっと苦痛から解放されて、これから平穏な日常を送れるとわかって安心です』
『ふふふ、それはどうですかね^^ 一コンテンツ去ってまた一コンテンツと言うでしょう?』
『言わないですねぇ』
『言いなさい』
『言います(服従)』
下手するとまた内臓を持っていかれる可能性があるので逆らえない。
返却時に色々とクリーニングされてより健康な内臓になるのだが、ない時の苦痛が別に耐えられるようになるわけではないのだ。
『さて、ここからは良い共依存が待っていますよ。首の仲良し痕はばっちりですね?』
『火傷のことそんな呼び方するのソラだけだよ……』
俺の首には巻き付くような火傷の痕が残っている。
ちなみに消そうと思えばいつでも消せるので、これはもはやおしゃれでしかない。
が、これをおしゃれと捉えられない常識人もいた。
「……傷は、痛む?」
恐る恐る俺へと問いかけてくるのはセナノちゃんである。
退院してマンションに戻ってきた俺を出迎えたのは意気消沈したセナノちゃんだった。
彼女は傷ついて欲しくないのか、ずっと俺の一挙手一投足に注視しているようである。
俺がリビングにある椅子に何気なく腰を降ろせば、セナノちゃんは俺を監視するようにテーブルを挟んで椅子に腰かけた。
「痛かったら、遠慮なく言って頂戴。……本当に大丈夫?」
まるで俺に怒られるのを怯えているように彼女は表情を窺いながら問いかけてきた。
『あ~^^』
ソラはこれが好きらしい。
「ふふ、大丈夫ですよセナノさん。というか、今日だけでもう五回目じゃないですかその質問」
「そ、そうだったかしら。ごめんなさい」
「いえいえ。あ、そうだセナノさん!」
俺が身を乗り出してテーブル越しにセナノちゃんに顔を寄せると、セナノちゃんは驚いた様子で体を震わせる。
その視線は火傷痕に釘付けであった。
わかるよ、これすっごくグロテスクだもんね。
でもねセナノちゃん、これはうちの村の共依存傷跡師(子供に憧れの職種)がよりグロテスクにしたからであって、元は割とそんなでもないのよ?
だから、あんまり気にしないでね。でも気にしなさすぎも御空様が余計な事をするから、適度に気にしてね。
『さ、後は人間が火傷痕を隠すようにと首輪を渡すだけですね! いつ渡すのでしょうか。楽しみですねぇ!』
『前の首輪は焼け落ちちゃったからね』
あんなものは焼け落ちてしまって構わない。
俺の体を好きなタイミングで無力化できる装置なんてあってたまるか。
「ネネさんと言う方がお見舞いに来てくれたのですが、あの人はすっごくすごい人なんですね!」
「え、ええ。そうね」
「セナノさんのお師匠様だと言っていましたが、本当ですか?」
「……そうよ。私の目標にしている人」
ネネさんは俺が退院する前日にやって来た。
改めてしっかりその姿を観察すると、あまりにも巨漢過ぎる。人造人間かと思う程の威圧感は、ソラとは別種の怖さがあった。
まあ、ソラからすればそれもコンテンツらしいが。
「気絶しちゃった私も助けてくれたらしくて、カッコいい人でしたね。鍛える? という行為自体が趣味のようでして、私ももっと頑張らないとと思いました!」
「……大丈夫よ。私が守るから、そんなに無理をしなくても」
「いつまでも、セナノさんに頼りっぱなしではいけませんから! ……実は私、もっと背を伸ばしたいんです。セナノさんやハカネさんよりももーっと大きくなりたいです」
体を大げさに使って、俺は能天気に話題を紡ぐ。
セナノちゃんがそんな事を聞いている余裕など無いとわかっていても、構わない。
ですよね、監督。
『^^』
ソファで足をパタパタとしながらこちらを見ている監督もご満悦だ。
さて、ではここからメインディッシュに移らせていただこう。セナノちゃん、ごめんね。
「ふう、久しぶりにたくさんお話してたら喉が渇いてしまいました。お水お水」
俺はパタパタと台所へ駆けていく。
そしてコップを取り上げようとして――。
「あっ」
手からコップがすり抜け、床で甲高い音共に割れる。
コップを持ち上げた筈の俺の右手は感覚がなくなった様な違和感に包まれ、小さく震えていた。
「エイ!」
音に気が付いてセナノちゃんが血相を変えてすぐに台所に飛び込んでくる。
そして割れたコップと右腕を見つめる俺を交互に見て駆け寄ってきた。
『見てください! 人間の今にも泣きそうな顔を! こっちで手の筋肉をナイナイしているだけなのに、気が付いていませんよ!』
『普通は気が付かないのでは?』
セナノちゃんの接近に今まさに気が付いたという風に俺は顔を上げ、誤魔化すように笑う。
「え、えへへ……手が滑っちゃいました。ごめんなさい、今片付けますね」
「エイ」
「箒ってどこにありましたかね。あ、セナノさん近づいたら危な――」
「エイ!」
割れたコップなど気にせずセナノちゃんは一歩踏み出し、俺の右手を掴む。
そして、怒っているような泣いているような声で問いかけてきた。
「いつからなの?」
「え?」
「手、震えてるわ」
流石の洞察力だ!
後で天移ポイントをおすそ分けしてあげようねぇ。
『他者へのポイントの譲渡は禁止されていますよ』
『あ、そうなんだ。……ん? 今思考を読んだ?』
『いえいえ。うっかり心に声が漏れていたんですよぉ』
『そっかぁ!』
ポイントの譲渡禁止という厳しいルールに震えながら、俺は右腕を背中に回し隠そうとする。
が、それよりも早くセナノちゃんが腕を掴んだ。
「あっ」
「腕、きちんと動かせるの?」
「……日常的な動作であれば可能です。お医者さんにもそれくらいなら大丈夫だと言われました」
『言わせました^^』
『言わせてたっすねぇ』
急に医者が一度大きく震えたときは流石に怖かったっぺ。
ジャパニーズホラーの真骨頂みてえな演出だったっぺよ。
間が、間が凄かったっぺ。
「なので、安心してください! これも、私は片付けできますよ!」
「駄目、座ってて」
「セナノさん、でも「いいから!」……っ」
俺は肩を震わせ一歩引く。
するとセナノちゃんは、ハッとした表情をすると気まずそうに俺から顔を逸らした。
「……退院したばかりで疲れているでしょうから、私がやるわ。リビングで休んでなさい」
「……ごめんなさい」
「私も、急に大きな声を出してごめん」
俺はその言葉に何も返さず、小走りでセナノちゃんの横を通り過ぎる。
その時、横目でソファのソラを確認した。
『★★★★☆』
なんか高評価貰ったっぽいなこれ。
ソラの頭上にぼんやりと青い星が四つと白い星が一つ見える。
オソラ式レビュー?
『互いを思い合う故に傷つけてしまう。結局、相手越しに自分を見ているだけであって本質的にはまだ愛し合っていない未熟さゆえのすれ違いが非常に爽やかで香り高く調理されていました! この時期限定のメニューという事で、わざわざ人間の俗世に足を運んでよかったと思える一品です』
『どこに書き込んでいるの?』
ソラは俺とセナノちゃんがこうしてすれ違うのが好物だ。
だから、こういう時は大変喜んでくれる。
ほら、今もふわふわソファの上でポヨンポヨンと跳ねて小躍りしているよ。可愛いね! でも可愛さに騙されて近づいたら最後だよ。
夜とか暗闇が関係ないタイプの怪異だから、一瞬でバッドエンドだよ。
「……」
「……」
俺は落ち込んでうつむいたままテーブルを見つめる。
会話は当然ない。
気まずいよぉ……。
『あの、一応オーダー通りにしたんだけど気まず過ぎない?』
『ふふふ、大丈夫。そろそろですから』
『何が?』
『では、私は少しばかり隠れますね! 間もなく彼女が来ますので』
『また情報を小出しに……』
今度はどんな冒険(即死ルートあり)が待っているのだろうか。
たまには普通の温泉旅行とか待ってて欲しいのだが。
「……あ、お客様」
インターホンが廊下に響く。
俺は顔を上げ、気まずさから逃げるようにセナノちゃんよりも早く廊下へと出た。
後ろでセナノちゃんも慌てて後を追う音が聞こえる。
「――二日ぶりだな、エイ」
見れば玄関には、長身の女性が立っていた。
相変わらず、黒いコートを羽織っている姿は威圧感しか感じない。
俺はその名前を首を傾げて可愛らしく呼んだ。
「ネネさん?」
「連絡をしようと思ったのが、どちらの連絡先も知らなかったので直接来た」
それは良いのだが、俺は確かに鍵を閉めた筈。
……あっ、歪んだドアノブを手に持ってる!
「その……右手のそれは」
「ああ、これは……その……すまなかった。うっかりだ。明日には直っているように手配する。それよりも、今は重要な事がある」
ネネさんは誤魔化すようにドアノブをくしゃっとしてからポケットに入れ、こう続けた。
「鍛えに行くぞ」
何故だろう、過去一に嫌な予感がする。
『よーし^^』
たった今、予感が確信に変わったわ。