【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
第97話 向かう、地獄
大変たいへーん!
私、折津エイ15歳。どこにでもいる災主級疑似媒介体!
空澱大人の力を使役した代償で体がボロボロだった私だけど、実は今日退院できたんだ。
だけど……これから、セナノちゃんのお師匠様に連れられて特訓に行くみたい!
突然現れた特殊加工のワゴン車に乗せられた私とセナノちゃん……これからどうなっちゃうのぉ~!?
…………マジでどうなるの?
『おっけーソラ。これから起きる悲劇を教えて』
『エイが……ふふふ^^』
『被害者は教えてくれるんだねぇ』
『おやおや、エイが被害者だとは言っていませんよ? そんな無粋なネタバレはしません。楽しみが減ってしまうでしょう?』
『今のところ不安しかないんだよ! 明らかに俺より強い縁者に鍛えるって言われてワゴン車に担ぎ込まれたんだよ!? 見た? ドアノブを紙みたいにクシャってしたんだよあの人!』
『流石に手をクシャっとされるエイのコンテンツは唐突にはちょっと……準備が無いとあまりにも制作者の願望が強すぎますよ』
『必死の訴えがコンテンツの提案だと思われてる?』
というかなんだよそのコンテンツ。
準備さえしていればコンテンツとして通すのかよ。
ここの出版社はどうなってんだ!
御空文庫にNGはないのか!
『……流石に手をクシャッとするのは今後のコンテンツに支障が出るので、ここは右腕の感覚を日ごとにナイナイしていく方針でどうでしょうか? そちらの要望に最大限より沿ったと思いますが』
『心からのSOSをコンテンツとして受理されて妥協案を提案された俺の気持ちがわかるかい?』
『……安堵?』
『完敗だ。俺には勝てねえや』
『そもそも勝負にすらなっていませんよ^^』
おまけに心もへし折ってくれるなんて、アフターサービスも手厚いね。本当、嫌になっちゃう。
『それよりもエイ、これから行く場所が気になりませんか? 聞いてみればそこの人間が教えてくれるかもしれませんよ?』
聞いて欲しいという事だろう。
つまり、厄ネタという事だ。
今、俺は後部座席にきっちりとシートベルトをして背筋を伸ばして座っている。
折津エイは緊張しているという演技を続けている最中だった。
そして隣にはセナノちゃん。退院から今至るまで空気は最悪かつ一方的にこちらが悪いのだが、まだまだこのコンテンツは続くらしいので本当にごめん。
彼女は今、何も言わずに窓の外の他愛もない街並みを眺めていた。
いつもなら、楽しいお喋りタイムでもあるんだけどなぁ。セナノちゃんの、いかにもかませ役な自信満々の言葉が今回は聞けないだなんて少し寂しい。
「セナノさん! 今回はどこに行くのでしょうか? 任務とは違うようですが」
「……私よりも、師匠の方がずっと詳しいわよ」
セナノちゃんはそれだけ言って、俺の顔を見ようともしない。
俺は困惑してセナノちゃんと助手席のネネさんを交互に見る。
それから、恐る恐る話しかけた。
「あ、あの……ネネさん」
「師匠」
「え?」
「私は今からお前を鍛える。だから師匠と呼んでくれると、すごくうれしい」
「し、師匠?」
「どうした、エイ……!」
なんだこの人。
「私、鍛えるとだけ説明をされていたのでこれから何をするのかも、どこに行くのかもわかりません。せめて、目的だけでも教えていただけますか?」
「ああ、わかった」
師匠は身を乗り出して俺達の方を向く。
その時、運転手の黒服さんに軽く注意されていたのが少し情けない。
「私達はこれからゾーン御神楽町に向かう」
「っ!?」
「御神楽町? そこで何をするんですか」
セナノちゃんも今知ったのか、今までで一番大きな反応を示す。
が、俺は気が付かないふりをして首をこてんと傾げた。
「実戦に限りなく近い訓練だ。一か月後に本番があるからな」
「本番……?」
「ああ」
会話はここで終わった。
師匠は説明するべきことは全て終えたと言わんばかりに頷く。
これを素でやっているとしたらそうとうなコンテンツ人間である。
……まて、コンテンツ人間とはなんだ? 俺は一体、なぜそんな評価を……!?
『ソラ、マズいよ。俺もコンテンツで物事を見始めるようになっちゃった』
『ですが、まだ守破離なら守ですよ。慢心は駄目です。目に見えるコンテンツだけではなく、その先あるいはその奥にあるコンテンツも見極めるのですよ』
師匠面がここにもいたな。
師事した覚えは無いんだけど。
「あ、あの……」
「どうした」
「本番とは、なんでしょうか」
「ああ、それは当然、夜神楽だ」
「夜神楽ですか?」
「ああ、夜神楽だ」
「「……?」」
俺と師匠は同時に首を傾げる。
俺は夜神楽とはなんぞや、と。
師匠はまだわからないのか、と。
そんな俺達のやり取りに呆れたのか、セナノちゃんがようやく会話にまともに参加をしてくれた。
「ああ、もうっ! 夜神楽ってのは窓を見つけていない異縁存在が一斉に世界の外側から侵攻してくる災害よ! 定期的に起きる地獄ってわけ!」
「そうなんですか……!?」
異縁存在が一斉に来るってやばくね?
「師匠、どうしてそんな大切な事をもっと先に言わなかったんですか!」
「ああミラクにも上層部にも同じことを言われた。特にミラクには眠りに落ちるその瞬間までずっと言われ続けて大変、精神と鼓膜が鍛えられた。5日ほど報告を忘れていただけだというのに」
そんな大事な事を報告しないのもやばくね?
『エイ、聞きましたか?』
『うん。どうやら大きな戦いが目前に迫っているようだね』
『この人間は、オペレーターと一緒に眠ったようです。しかも最近……! エイ、見習いなさい』
『ちょっとそっちはよく聞いてませんでしたねぇ』
俺の師匠が変なのしかいないよぉ……。
「っていうか御神楽町はZONEの90番台ですよね? つまり、S階位の実戦用に作られた特殊な迷宮」
「そうだ。そこでお前達を鍛える」
「っ、私はS階位だから構いません! けど、エイは――」
「それは敵にも通用する理屈か?」
「え?」
師匠は変わらず仏頂面で言葉を続ける。
「S階位の私だけを攻撃してくださいとお前は敵に懇願するのか?」
「……いいえ。ですが、まだエイには……」
「下らん。そんな事を考える暇があるなら鍛えろ。守る必要が無いくらいにエイを鍛え、もしもに備え自身も鍛えろ。そうして互いに鍛えれば不足はない。いいか、戦いで最も信用できるのは己の力だ」
師匠は力強く宣言する。
怒っているわけではないのだろうが、その言葉には随分と迫力がある。
「……でも、事前に言うくらいは良いじゃないですか。ラクちゃんにもそう言われた筈でしょう」
「…………それは……えっと、すまない」
この短時間で立場が逆転した……?
「そもそも夜神楽なんて縁者にとって一番重要と言っても良い事なんだから何よりも先に伝えるべきでしょう? S階位はスケジュール管理が大変なんですから、数日の遅れがそのまま当日の戦力の大幅な減少につながるんですよ?」
「……ミラクにも全く同じことを言われた。本当に申し訳ない」
「ふんっ、もういいですから。次からきちんと報告してください!」
「あぁ……」
師匠、しょんぼりしちゃった。
あれだけ力がどうとか自信満々に言っていたのに、仏頂面のまま落ち込んでいる。
「エイ」
「は、はい」
師匠は俺を手招きすると、耳を寄せて全然声を潜めず車内に響く声で告げた。
「今日のセナノは機嫌が悪い。気を付けろ」
「は……はい」
その後、現場に到着するまで車内の空気がお終いだった事は言うまでもないだろう。