【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~   作:不破ふわる

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第98話 偽る、姉妹

 御神楽町に到着したのは、昼を過ぎた頃であった。

 これと言った特徴もないありふれた街並みは、誰しもの心の中に存在している景色と大差ない。

 

「着きましたね。まさか、三時間もかかるとは思いませんでした!」

「ここは通常のルートでは到着できないようになっている。ある条件下で入ることが出来る特殊な町なんだ」

「へえ……それにしてはなんだか普通ですね」

 

 エイは辺りをきょろきょろと見渡す。

 見慣れたコンビニに少しだけ年数が経っているであろうアパートや新しめの一軒家など、雑多かつ普遍的な光景は本当に特別なルートを通って来たのかと疑ってしまう程だ。

 

「ここが、そのゾーンの凄い所なんですか?」

「ゾーン93。夜神楽の訓練が出来る特殊な場所だ。と言っても、こちらで作動させるまでは普通の街だがな。少し遅いが、お昼にしよう。……エイ、おつかいを頼めるか」

「お昼! 私、おつかいできますよ師匠!」

「そうか。ではこのカードを持ってコンビニで好きな物を買ってくると良い」

 

 そう言ってネネは何も書かれていない漆黒のカードを渡す。

 受け取ったそれを不思議そうに観察しているエイを見ながら、彼女は刻み込むように言葉を紡いだ。

 

「いいか、それは何でも買える魔法のカードだ」

「異縁存在ですか!?」

「異縁存在ではない。が、それくらいに何でもできる。が、同時にそれを無くしたり、落としたり、盗まれたりしたらミラクに後からすっごく怒られる。私はもう五回怒られた。エイ、六回目があるかどうかはお前に掛かっている。迅速かつ、忘れ物をしないようにおつかいをするんだ。それがお前の最初のミッションだ」

「……! わかりました!」

 

 真剣な表情で情けないやり取りをしている二人を呆れた表情で見ていたセナノはため息をつく。

 ワゴン車が止まった場所には古びた一軒家があった。

 周囲を塀に囲まれ、中には最低限の手入れがされた小さな木が数本と何も植えられていない花壇。

 屋根は瓦がところどころ欠け、壁は日に焼けており、この家での存在しない思い出が浮かび上がってきそうになってしまう程だ。

 

「ここが暫くは私達の家か。師匠、今回の設定は」

「設定……?」

「この家に素性もわからない人間が突然住むわけにはいかないでしょう? だから、こういう時は事前に色々と用意されているのよ。身分とかね」

 

 セナノの説明に納得したエイは、期待を寄せた目でネネを見つめる。

 忘れた様子のネネは暫く唸っていたが、何かを思い出したようにポケットから紙を取り出した。

 

「そうだ。こういう時の為に紙にメモをしておいたんだ。ええっと……私達は東園三姉妹だ。両親は旅行中で、数年前からここで住んでいることになっている」

「成程。長女との年齢差に無理があるけどわかりました。じゃあ、ここに住んでいる間は姉さんと呼んだ方が良いですかね」

「いや」

 

 ネネは首を横に振る。

 

「お前が長女で私が次女、エイが三女だ」

「わあ、お姉さんが二人もできちゃいました!」

「ん??」

 

 あまりにもおかしな設定にセナノは振り返る。

 ネネは相変わらず仏頂面で、堂々とこう言った。

 

「書く欄を間違えた。提出期限が迫っていたから面倒なのでそのまま出した」

「なっ……」

「あの書類、修正テープとか使っちゃ駄目だし、訂正も駄目だから書き直しが面倒だ。だからあれで通した。別に問題はないだろう」

「後でラクちゃんには報告します」

「後生だ、勘弁してくれ」

 

 ネネは表情を変えず、しかし堂々と頭を下げる。

 その姿を真似るようにエイも一緒に並んで頭を下げた。

 

「セナノお姉ちゃん、許してあげてください!」

「……っ、確かにこうして見ると手のかかる妹が二人ね」

 

 色々と言いたい事を飲み込んで、セナノは切り替える。

 例え精神が不安定でも彼女はエリートだ。

 仕事に私情は出来る限り持ち込まないし、与えられた任務はこなす。

 

 故に、少しの時間の後セナノはその設定を受け入れた。

 

「わかったわ。どうせもうその設定が有効処理されているのでしょうから、長女で良い。けど、その代わり敬語は無しよ。次女にだけ敬語ってのはおかしいわ」

「わかった。姉さん」

「姉さんとは呼ばないで……」

「はい、私はどうすれば良いですか!」

「いつも通り」

「わかりました! ちなみに明日は弟でも良いですか?」

「多様性に配慮した妹でいくわ。ずっと妹と名乗りなさい」

「難しい言葉ですが、わかりました!」

「ん……? 明日は弟……?」

「はい!」

「何故だ」

「明日は男だからです!」

「……?」

 

 元気な返事をするエイとただ首を傾げるネネを見ながらセナノはふと考える。

 

(これ、この場所を使うのに師匠一人で許可が下りなかったから、お目付け役で一緒に派遣されたんじゃ……)

 

 ネネという人間をよく知るセナノの脳裏に、ふとそんな考えがよぎる。

 が、これ以上は深く考えない事にした。

 

「じゃ、早速エイにはおつかいをお願いするわね。師しょ……じゃなくて、ネネはこっちで荷物と近隣住民の情報の整理よ」

「ああ。わかったよセナノ」

「じゃあ、私は行ってきます!」

「気を付けてね。それと、ここでは既に数年暮らしているという設定だから、その辺を考慮して振る舞って頂戴」

「はい!」

 

 エイは敬礼をする。

 そしてカードを大事そうに握りしめながら近くのコンビニへと駆けだして行った。

 その姿をセナノはじっと見つめている。

 

「……不安なら、一緒に行ってきても良いぞ。荷物の整理くらいは私でもできる」

「別に」

「セナノ、私を相手に意地を張ってどうする」

 

 ネネはそう言ってセナノの頭を乱暴に撫でる。

 まるで鬼のように大きな手が赤い髪をわしわしとかき混ぜるように動き、セナノはされるがままに少しだけ口をとがらせていた。

 

「……じゃあ、心配なので様子を見てきます。余計な情報でここの住民を混乱させていると面倒ですから」

「ああ、頼んだ」

 

 理由付けをするセナノに微笑みながら、見送る。

 そして同じようにコンビニに入っていった姿を確認して、ネネは玄関扉に手を掛けた。

 

「……あ、鍵」

 

 自分が鍵を持っていないことに気が付いたネネは、コンビニと家を交互に見つめる。

 それから、実は自分が鍵を持っていたという存在しない可能性に賭けてポケットをまさぐるが、出てきたのはメモ帳とちり紙のように丸まったドアノブだけだ。

 

「うーん……これでは私が頼りないみたいだ。もっと鍛えないと」

 

 眉を八の字に曲げ、肩を落としながらネネもまたコンビニへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

【特異ZONE使用申請書類】

書類番号 ENN-089-NN

提出日 令和██年9月██日

提出者 東園ネネ

受理部門 縁理庁封環課ZONE管理室

 

■ 任務区分

・ 夜神楽に向けた実践的訓練

 

 

■ 使用対象者情報

・東園ネネ

 私。鍛えている。

・三鎌セナノ

 弟子。多少は鍛えているがまだ足りない。

・折津エイ

 弟子に出来たら嬉しい。鍛えていない。

 

 

■ 任務目的と理由

・夜神楽に向けてやった方が良いと思ったから

 

 

■使用迷宮

・第93特異管理迷宮【ZONE―神楽―93】

 事前稼働により正常に機能することは確認済みの為、使用者による検査は必要なし。

 

 

■ 備考

 セナノに姉を与えてはいけないと思った。

 だから彼女を長女として姉妹を形成する。

 私の巧みな話術で誤魔化すので、別紙の通りのカバーストーリーでの現地入りを強く希望。

 

 

 

 

 

 

 

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