【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~ 作:不破ふわる
ヤマモトヨシノリは、どこにでもいる高校二年生である。
スポーツや勉学に打ち込むことはなく、ただ日々を過ごしている彼はやはり休日と言っても何かすることはなかった。
「……コンビニ行ってこよ」
精々が、近所のコンビニで昼飯を買うくらいである。
ついでに漫画でも買えば、その休日は彼にとっては充実していたと言って良いだろう。
しかし、その日は違った。
「こんにちは!」
それが自分に掛けられた言葉だとは最初は気が付かなかった。
あまりにも可愛らしく、音符が跳ねているような声を彼は聞いたことが無かったからだ。
しかし、飲み物をかごに入れていたヨシノリの横にはいつの間にか少女が一人立っている。
どうやら、少女はヨシノリをしっかりと見つめているようだった。
「……!?」
それはまるで物語の中から飛び出てきたかのような少女だった。
よく手入れがされているであろう黒く艶のある髪は、少女が首を傾げる動作に合わせてさらりと揺れる。
ぱっちりと開けられた瞳や、幼さの中に美しさが混在する鼻筋の通った綺麗な顔立ちと、どれ一つとっても美少女と言って良い。
そんな少女が、何故か自分に話しかけている事実にヨシノリは一瞬フリーズしてしまった。
「あ、えっと……」
「すみません、私では手が届かなくて。一番上のお茶を取ってくれませんか?」
「お茶……ああ、お茶ね」
ヨシノリは妙な羞恥心に襲われながらお茶を取り、少女に手渡す。
こんな美しい少女が自分に話しかけてくる理由など、現実ではこの程度だとわかっていたが、改めてそれを認識させられると少しばかり恥ずかしい。
無意識の内の期待を自覚してしまったヨシノリがそそくさとその場を去ろうとしたその時だった。
「エイ、何をしているの」
「あ、セナノさ……お姉ちゃん!」
声のする方を見れば、そこにはまた美少女がいた。
赤い髪に意志の強そうな瞳、先ほどエイと呼ばれた少女を花と例えるなら、こちらは炎だろうか。
どちらにせよ、その少女もまたヨシノリから見れば美少女だった。
「この人にお茶を取って貰ったんです」
「そうなのね。エイを助けてくれてありがとうございます」
「い、いえ」
モデル顔負けの美少女と会話で来たという事実に思わず頬が緩みそうになるのを抑え、ヨシノリは今度こそその場を去ろうとする。
が、またもや声が掛けられた。
「む、お前は……ああ、ヤマモトヨシノリか」
「え?」
声に振り返る。
それは、少女と呼ぶにはあまりにも巨躯であり、とにかく全てが大きかった。
幼い頃、父親に連れられて行ったダムと同じ圧倒される印象を持つ薄紅色の髪の女は少し身をかがめてヨシノリへと目線を合わせる。
「私だ。ネネだ」
「ネネ……ああっ!」
その名を告げられてヨシノリは思い出す。
そうだ、この女は自分の同級生ではないか。
それに隣の二人は彼女の姉妹だ。
「寝ぼけていたのかな……最初、ネネだって気が付かなかったよ」
「それは鍛え方が足りないな」
「勘弁してよ。俺は別に運動部じゃないんだから」
会話をしている内に、ヨシノリの脳内で情報が次々と湧き出てくる。
数年前に越してきた東園家の事や、姉妹の事など。
エイが自分に話しかけてきたのだって、顔馴染みだったからだ。
(こんな可愛い子達を一瞬でも忘れていたなんて。……まあ、ご近所さんってだけで何も無いんだけど)
ネネとはたまたま登校時間が重なれば一緒に向かう程度であり、エイはそもそも中学生。そしてセナノは大学生と接点がない。
(にしても、やっぱりネネが次女なの納得いかないなぁ)
違和感は昔からあった。
この落ち着き様と巨体はどう見ても姉、いやそれを越えている。
体育祭でもこの巨体で無双していたネネを彼はよく覚えていた。
「では、私たちはこれで失礼する」
「ありがとうございました! ヨシノリさんっ!」
最後にペコリと頭を下げて、エイが二人に追従する。
その後ろ姿を、ヨシノリは無意識の内に手を振りながら見送った。
そして。
「……いつも仲が良いなぁ」
そんな当たり前の事を口にした。
■
気のせいじゃなかったら、俺の目の前で当然のように記憶の改ざんが行われていなかったか?
ソラに言われた通りにコンビニで若者に声を掛けただけなのに。
『エイ、これがこの街の仕組みです^^』
『まったくわかりません!』
『そうですか。なら、人間に聞いてみると良いですよ』
コンビニを出てすぐ、俺は師匠の隣に移動する。
この人は歩幅がデカいので隣にいるだけでも大変だ。
「ネネお姉ちゃんはさっきの方とお知り合いなのですか?」
「いいや、初対面だ」
「えっ? でもお知り合いのように話していたと思うのですが」
「これがこの御神楽町の特性だ。事前の申請により、私達は昔から存在していたことになり、会話を通してその設定を反映させることが出来る」
「えぇっ。それってあの人を騙すって事ですか?」
「人じゃない」
「え?」
師匠はそう言っていつの間にか買っていたアメリカンドッグを一口齧る。凄い、たった一口で半分以上なくなった。……え、串も食ってる?
相変わらず、凄い食べ方するなぁ。
「あれは異縁存在だ」
「ああ、成程……ええっ!?」
「この街にはいくつかの異縁存在が使用されている。あれは、定期的に身元不明の死体が湧く民家という異縁存在を利用して作り上げた民間人の偽物だ」
「偽物……」
「そうだ。あれらを出来るだけ守り切り、夜神楽を終える。そのための訓練場だからなここは」
そう言い終える頃には既に師匠はアメリカンドッグを食べ終えていた。
「本番では、出来る限り民間人は避難させる。が、それでもこうして守る戦いを経験しておくことは重要だ」
「成程……!」
「だからもしも困ったことがあったら、知り合いのふりをして見ると良い。それはやがて過去を作り、事実になる」
師匠はそう締めくくると、玄関の前に立ち尽くした。
「師匠?」
「セナノ姉さん、私は鍵を持っていない」
「えっ……私も持っていないけど」
「私もです!」
「……成程」
師匠は食べ物でぱんぱんのレジ袋を一度俺に預けると、ゆっくりと扉に手を掛けた。
「これはしょうがない」
手の中でまるで飴細工のようにドアノブが曲がり、何かが割れる音が内部で響く。
ガチャバキリと、明らかに普通ではない音と共にゆっくりと扉が開いた。
「入るぞ」
「……後で、扉の修復を手配しないといけないわね」
「すまない姉さん」
淡々とした謝罪と共に俺達は家の中へと足を踏み入れる。
入ってすぐの日に焼けた階段と、古びた置物や使われなくなって久しい傘など、不思議と俺達を落ち着かせる何かがその景色にはあった。
それに台所やお風呂など、これもまた無いはずの思い出によりノスタルジックな気分になってしまう。
……ん? なんで、入った事もないのに台所とかお風呂の事を知っているんだろう。
「お姉ちゃん達は何を買ったんですか?」
「私はサンドイッチ」
「私は激鬼盛りハンバーグ弁当を六つだ」
またそれそんなに食べるんだ……よく飽きないっすね師匠。
……おやおや、なんだか、変な気がするぞ。
『ソラ、なんかすごいデジャヴを感じるんだけど、何か知らない?』
『^^』
『知ってはいるけど教えないタイプかぁ』
リビングで荷物を広げながら、俺は妙な既視感に襲われ続ける。
確か……この後、師匠のポケットからドアノブと一つになった鍵が出てきたような……。
「あ、鍵があった」
「それもう鍵として機能しないくらい曲がってますよ師匠」
「許してくれ姉さん」
「家の中でもそう呼ぶのは止めてください。なんだかムズムズしちゃうので」
「そうか。わかった……ん、エイどうした」
「い、いえ」
どうしよう。何故だか凄く嫌な予感がする。
具体的には、もう取り返しのつかない地獄コンテンツが始まっている気がする……!
『ソラ、ヒント! ヒント頂戴!』
『5回目^^』
『え?』
『ここから先は、君自身の目で確かめてくれ!^^』
古い攻略本でもラーニングしたのかこの神様は。
頼れる味方が一番愉悦なのがあまりにも質が悪い。
師匠達にも言うべきか……うーん。
いや、辞めておこう。
俺の変な勘違いで場を混乱させたくはない。
『人間も面白い物を作りますねぇ!^^』
何故か嬉しそうなソラを尻目に食べるお弁当は、何故だかもう知っている味がした。