TS転生パルゥムがダンジョンで冒険する 作:とある社畜
案の定廃墟だったヒダルガミ様の家は置いておいて、一応拠点とステイタスが手に入ったのでギルドに申請をしに来た。
ダンジョンに入る為にはギルドに登録する必要があるからだ。
「はい、無事ヒダルガミ・ファミリアを探索系ファミリアとして登録できました」
「それじゃ、今日からダンジョン潜ってもいいんすかね?」
「ギルドとしては止める義務はありませんが、事前知識がないと死にますよ?」
「あー、確かに。勉強できるところってあります?」
「一応、ギルドで教本を貸し出ししてますね。ダンジョンの基本的な知識と、序盤に出てくるモンスターの種類が載っています」
「あ、それ今から借りれますか?」
「あちらのソファでどうぞ。こちらが教本です。…あの、共通語くらい読めますよね?」
というわけでお勉強タイム…と思ったのだが。意外と耳がいいパルゥムイヤーがカウンター奥に移動していた俺の担当アドバイザー含むギルド職員たちのひそひそ声を拾った。朝一番でまだ喧噪がなかったっていうのもある。
「…ねえ、あのパルゥムどれくらいで死ぬと思う?」
「一週間に1000ヴァリス」
「意外と長生きするに500ヴァリス」
「すぐ死ぬでしょ、あの感じだと。2000ヴァリス」
なんか胸糞悪くなる遊びやってるなギルドのやつら。冒険者って結構人死にが出るらしいし仕方のない事なのかね?
ギルドへの信頼度を多少下方修正しつつ、俺は必要最低限と思われる知識を頭に詰め込んで早速ダンジョンへと向かったのだった。
というわけで人生初のダンジョンだ。
天を衝くバベルの塔の足元に蓋のようなものがあり、そこの螺旋階段を降りると洞窟へ出る。
ダンジョン1階層。ここが数多の冒険者の始まりの地であり、同時に最も人が死んでいる階層でもある。初心者はそれくらい死にやすいのだ。ギルドの奴らにとっては初心者など賭けの対象でしかないくらい安い命なのである。
ここから先がモンスターの蔓延る超危険地帯だ。自然とつばを飲み込む…とはいえ俺に足踏みしている暇はない。とにもかくにも金がないのだ。
ひとまず試運転がてらゴブリン相手に慣らしと行きたいところだが…洞窟の中を進み、他の冒険者から離れるように人の少ない場所へと進む。
適当にうろうろ洞窟内を歩いていると、ついにボコリ、と壁からゴブリンが生み出され始めた。
まずは一体。初戦としてはちょうどいい。俺は天輪を発動させ、攻撃に備える。
「ぎ、ぎぎぎ…ガアアア!」
生まれたばかりだというのに、本能で俺という敵を見つけたかと思うと一気に攻撃を仕掛けてきた。
単純なひっかき攻撃。とはいえあの薄汚い爪で傷をつけられたらあっという間に化膿しそうだ。
さて、敵の攻撃は…遅い。普通によけられる。身体能力が素の状態と比べて数倍以上に跳ね上がっているようで、ロリ体形でも問題なく、当たり前のようにひょいひょいと攻撃をよけられる。
これなら試しに食らってみてもよさそうだ。俺は利き腕とは反対の左腕でゴブリンの爪を受け止めた。
「…いったい」
普通に痛かった。でも薄皮一枚に薄く傷ができたくらいで、致命傷とは程遠い。
「お返し…だっ!」
「ぐぎゃっ…」
そして攻撃。拳を作ってゴブリンに叩きつけてみると、一撃でひしゃげてしまった。
「うん、これならしばらく武器を買わなくても問題なさそうだ」
武器防具を買う金なんて無いし、それらがなくても戦えるようになるこのスキルはまさしく俺が今欲しかったスキルそのものだった。
そして、ゴブリンを倒したことで魔石がドロップした。
これが冒険者の主な収入源となる。つまりこれをいかに集めるかで稼ぎが変わってくるわけだ。
「奥に進めば出現するモンスターの数も増えるわけだけど…その分リスクも増えるか」
一階層をめぐるだけでもゴミ漁り以上の利益が狙えるとはいえ…悩ましいところだな。
ひとまず、もうちょっと戦って感覚をつかむとしよう。
というわけで数十秒後、またもやゴブリンとエンカウント。今度は徘徊していたところに鉢合わせた。
そういえば、天輪にはもう一個能力があったな。
「お前で試してみるか」
「ギイイイ!」
叫ぶゴブリンに対して、俺はスキルのもう一つの効果を発動させる。
やり方が分からないのでとりあえず感覚に従ってみる。
意識を集中させると天輪がキュィィィン…と静か目なPCファンのような音を出して回転しはじめ、魔力が俺の身体を覆っていくのが分かった。
その魔力は体中のどこにでも自由に移動させることができて、移動させた場所はポカポカと力が湧き始める。
なるほど、追加の強化か!これが天輪の二つ目の効果。常時発動するパッシブバフに、自由に任意発動できるバフの合わせ技。
とりあえず目の前のサンドバック君に対して、俺は片手を魔力で包んで強化して拳を叩きつけてみた。
ボグッ!と、ゴブリンの身体を景気良く吹っ飛ばし、壁にめり込ませることに成功した。
「す、すげえ…ん?」
自分の身体が信じられないような膂力を発揮したことに対して驚愕していたら、ふと左手が視界に映り、違和感を覚える。
…傷が消えてるな。
「再生効果もあるのか?」
最初見た時も思ったんだけど、この世界のステイタスって若干分かりづらい…っていうか明らかに説明不足だよな。任意発動の能力に至ってはどんな効果かすら書いてなかったし。
それにしてもだ。
「うーん、思った以上に強いな、このスキル」
まさに攻防一体。転生特典と言われても納得するほど効果がてんこ盛りであった。
商売道具としては十分すぎるほどの性能だ。
…コレ、やっぱ2階層目も余裕なのでは?
1階層目よりかは稼げるだろうし…行ってみるか。
「よぉし、どんどん稼ぐぞ」
俺はがぜんやる気を出して次の獲物を求めて歩き出した。
「…一体どんな手を使ったんですか?」
「普通にダンジョンで稼いできただけですが?」
結局あれから3階層まで降りて、魔石を持てるだけ持って帰ってきた。
ギルドの換金での収入、締めて8千ヴァリスとなった。
なった…のだが、担当アドバイザーに見つかって不審げな目で見られた。どうやら初日の冒険者…というかソロのロリパルゥムにしては稼ぎすぎだったらしい。
とはいえこちらの死を賭け事の対象にしている相手が何を考えてようが俺には関係のない話だ。
「それよりも、教本借りたいんですけど、家で読んでもいいんですかね?」
「いいえ、基本的にギルドからの持ち出しは禁止となっています」
「あ、そっすか。お疲れ様でーす」
何か言いたそうにしていた担当に背を向けて、俺はギルドを後にした。
さて、もう時刻は夕方だ。
拠点に向かう道中、市場に顔を出して適当に飯と生活必需品をピックアップする。後ついでにヒダルガミ様用の安酒。
廃墟街に戻って廃墟同然の家の中に入ると、ボロいベッドでヒダルガミ様が寝ていた。
「帰ったぞ、ヒダルガミ様」
「ふがっ…うへー、お帰り、ノアー」
「ほれ、飯」
「わーい」
ヒダルガミ様に飯をやって、自分も適当に済ませる。
後は風呂の準備だ。ボロボロの桶に井戸の水を汲んで、火にかけて温める。後はそれをボロボロのタオルにしみこませて身体を拭くのだ。
風呂の環境としてはゴミすぎる。金に余裕ができたらもっと大きな湯桶を買う予定だ。
とりあえずヒダルガミ様と一緒に身体を拭く。ヒダルガミ様は嫌がっているし、昨日今日の間柄で風呂はちょっと距離の詰め方がヤバいが、流石に同居人…ではなく同居神が風呂キャン界隈なのは許容できん。
「んー、あたしはいいよー、神は不変なんだぞぉ」
「はいはい、目瞑ってな」
「うへ~…」
ざばー、とな。安いシャンプーで髪を洗えば、あら不思議。昨日まであれほどぼさぼさだった埃っぽい髪が、艶やかな絹髪に大変身である。
後は服さえマシにできれば、見た目に関しては最低限揃うんだけどなー。主神と唯一の眷属がそろって襤褸では、ファミリアとしての体裁すら保てない。
まあ、ヒダルガミ様本神は特に気にしないんだろうが…俺は気にする。最低限の清潔感くらいは欲しいもんだ。俺も、同居神も含めてな。
後は家。流石に雨風はしのげるとはいえ、廃墟同然の平屋に住み続けるのは非常に厳しい。不変であるヒダルガミ様だけならまだしも、俺もいるわけだし。後地味にトイレ問題もキツイ。汲み取り式はちょっと…。虫も多いし、何より匂いがね…。
諸々の問題を解決するにも、とにかく金が必要。明日は今日以上に稼ぎを増やそう。
そのためにもステイタス更新だ。
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ノア
Lv.1
力 I0→I52
耐久 I0→I33
敏捷 I0→I55
器用 I0→I29
魔力 I0→I68
《魔法》
《スキル》
【天輪】
・常時発動
・ステイタスに高域補正、この補正による経験値取得阻害を緩和
・任意発動:魔力を消費して発動可
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おお…これは結構伸びてる…のか?最初は伸びやすいと聞くが、こうして成長した分が数字で分かるのは便利だな。
後はスキルの『この補正による~』云々の効果が関係してそうだ。バフをかけて戦闘を行うと生ぬるい経験判定になって経験値があまり入ってこなくなるらしいのだが、それを緩和してくれるっていうのは地味にありがたい。これも一応成長チートと言えるのだろうか。地味だけど。
レベリングが金稼ぎになると考えたらモチベーションも上がるというもの。やっぱり明日はもっと深くに潜ってみるとしよう。
今日はとっとと寝るか。スキル更新の際背中に乗ってきていたヒダルガミ様がそのまま俺の背中で寝ていてうっとうしいが、まあ眠れないこともない。すやぁ…。