TS転生パルゥムがダンジョンで冒険する 作:とある社畜
魔法のスロット数がステイタス用紙に書かれているか問題ですが、最終的にアニメ準拠でステイタス用紙には記載なしという方向でいかせていただくことに決定しました。
魔法のスロット数は神様からの口頭という解釈で行かせていただきたく思います。まあ、多分ヒダルガミ様は主人公から聞かれなければ教えてくれないかとは思いますが、疑問を一応解決できてすっきりできました。重ねてありがとうございました。
ウォーシャドウと戦った日から、一週間が経過していた。ウォーシャドウとの戦闘ではかなり善戦できたものの、それは一対一だったから何とかなっただけ。実際、ウォーシャドウの刃は俺の肌を難なく切り裂いたのだ。複数体出てきたら、恐らく簡単に殺されていたことだろう。
つまり次のステージ…6階層以上に進むにはステイタスが足りない。そう思った俺は、とりあえずステイタス上げと金稼ぎもかねてこの一週間、5階層を周回していたのだ。
で、とりあえず最低限のステイタスは用意できた。それがこちら。
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ノア
Lv.1
力 I52→→→H188
耐久 I33→→→H163
敏捷 I55→→→H190
器用 I29→→→H136
魔力 I68→→→G222
《魔法》
《スキル》
【天輪】
・常時発動
・ステイタスに高域補正、この補正による経験値取得阻害を緩和
・任意発動:魔力を消費して発動可
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結構上がったように思えるがこれが一週間と数日の成果だ。最初のうちは上がりやすいと聞いていたがそれは事実だったようで、4日前からガクッと成長速度が落ちて、昨日なんてトータル20くらいしか上がらなかった。
成長も止まってきたし、そろそろ6階層に進出してみるかねー…そんなことをステイタス用紙を見ながら考えていると、ヒダルガミ様が急に俺に視線を向けてきた。
「ノア、本当に6階層に行くの?」
「んー?…おう、行くつもりだけど」
ダンジョン攻略についてヒダルガミ様が話題に出したのはこれが初めてだったので、俺は思わず一瞬目をぱちくりとさせてしまった。
ちなみに今は朝食中。見てみるとベッドに寝転がったままのヒダルガミ様が、仰向けになってベッドの淵から頭だけはみ出させ、イナバウアーみたいにしながら俺のことをじっと見つめていた。その口には朝食で食べたパンの欠片がくっついている。
「うへぇ、結構がつがつ進むねぇ~」
「そうか?比較対象がいないからよく分からんが」
ヒダルガミ様はごろん、と転がって両肘をついて正面を見せてきた。
「たぶん、普通の冒険者は一週間で6階層まではいかないと思うなぁ」
「…まあ、流石にそうか」
「ノア、5階層でも普通に1万ヴァリス稼いでこれてたじゃん。お金が欲しいだけならそれくらいでいいと思うんだけどなぁ」
確かに、金稼ぎという面で言えば、日給一万というのは十分な額と言えるかもしれない。
だが俺は腐っても元日本人。それじゃあ安心できないのだ。
「あのな、貯蓄がないんだよほとんど。それに、オラリオ(こっちの世界)には保険屋も病院もないんだ。稼げるときに稼いどかないでどうするんだよ」
「うへ~、でも今死んじゃったら意味なくない?」
「いや、俺冒険者だし…今更だろそんなの」
俺が一体どうやってゴミ漁りから日給一万へ進化できたと思っているのだろうか。命を懸けるからこその収入だ。
「進めば進むほどリスクは増えていくもん。だったら、安定したところで安定した稼ぎをした方がよくない?」
「おお…ヒダルガミ様、そんな長いセリフ言えたのか」
「うへぇ、あたしのことなんだと思ってるんだこら~」
ヒダルガミ様は体を揺らしながら俺に聞いてくる。
「ノア、もしかして他にダンジョンに潜る理由でもある?強くなりたいとか?」
「…まあ、それも間違っちゃいないな。強くなくちゃ好きなこともできない」
こっちに転生してからオラリオに到達するまでの3年間、骨の髄まで味わった真実だ。街の中でコソ泥扱いされ逃げ回り、山野で野盗相手に逃げ回り、ゴミ漁りをして生きてきた。一生ロリ体形のこの身体じゃ、マジで生きていくだけで精いっぱいだった。
「でもそれだけじゃない?」
「…そうだなぁ」
思えば俺はなんで先に進もうとしているのだろうか。少し考えて、俺はふと思い出したことを口にした。
「…最初はわくわくしたんだよ」
「んぇ?」
「そういやヒダルガミ様には言ったことなかったけど、俺は転生者でな。3年前までは、こことは全く違う世界に住んでた」
「おお~、そうだったんだ~?」
結構重大な秘密をカミングアウトしたつもりだったんだけど、反応薄いな…。
「で、一回死んで、気づけば今の身体で目を覚ましたんだけど…この世界に来た当初は、俺はそりゃもうわくわくしたもんだよ。剣と魔法の世界で冒険なんてそれこそ創作物の話だけでさ。主人公になれた気分だった。『この世界には一体どんな光景があるんだろう!』って胸を膨らませたもんだ」
でも、それが続いたのは最初の数日だけ、すぐに現実を知ることになりましたとさ。
ボコボコにされて、逃げ回って、ゴミ漁りして…気が付けば、俺はすっかりそんな気持ちを忘れてしまっていた。
「ダンジョンに潜る理由は、多分それだ。あの時の感覚を思い出しちまったんだろうな。このダンジョンの奥には何があるんだろう、それを見てみたい、って無意識のうちに思ったのかもしれん」
自覚はなかったけどな。じゃないと痛い目見ながらダンジョンに積極的に潜ったりしない。
「うへー、そっかぁ…」
ヒダルガミ様はまたごろんと転がって仰向けになった。
「ふーん…本格的にダンジョン攻略するつもりなんだ…なら、いつか死んじゃうかもねぇ」
「縁起でもないな。俺は死ぬつもりはないぞ?」
「ダンジョンじゃ何が起こるか分からないからね~」
「まあ、それはそうだけど」
「ねえ、ノア~、神命があるんだけど~」
「んー?しんめい…神命?急だな…お菓子でも買ってこいとかか?」
「ちーがーうーよ~」
首を横に振るヒダルガミ様に俺は笑みをこぼしながら椅子から立ち上がって近づいた。
「我が主神よ、唯一の眷属が神命を承りましょう」
ヒダルガミ様が起き上がって、俺に両手を広げてきた。
「これから毎日、朝は必ず、いってらっしゃいのぎゅーをさせて?」
「…お、おう…」
なんか、想像してたのと違って反応に困るな…。俺はてっきり飯かおやつを買ってこいと言われるもんかと思っていたからなおさらだ。
その後初の神命をこなし、俺は今日も今日とてダンジョンに潜るのであった。
「…っし、余裕!」
ダンジョン、6階層。足を踏み入れた途端当たり前のように現れるようになったウォーシャドウ相手に、俺は連戦連勝を重ねていた。
もとより単体なら何とかなっていた一週間前からステイタスがトータル500も上昇しているのだ。あれだけ速かった斬撃も余裕で避けられるようになり、2、3匹程度の群れなら軽く倒せるようになっていた。
「これなら7階層もいけるか…?」
何度目かの群れを掃討し、気が付けば早くも7階層が見え始めていた。
ここから先はウォーシャドウに続く『新米殺し』、キラーアントが出現する階層だ。
強固な装甲に強靭な顎。さらにピンチになると仲間を呼ぶ狡猾さ。同じ『新米殺し』に分類されるが、脅威度で言えばまず間違いなくこちらの方が上だ。
流石に武器を買ったほうがいい気もするが…。
「…いや、行こう」
もし無理でもたぶん逃げ切れるはずだ。
俺は7階層へと足を踏み入れた。
しばらく歩いていると、早速キシキシと聞き馴染みのない音が奥の方からし始める。
「来たか」
壁を伝って現れたのは巨大な蟻のモンスター、件のキラーアントだった。数は3体。初手から群れを引いてしまったらしい。
俺はすぐに戦闘態勢を取って集中する。拳を構え、先頭のキラーアントに先制攻撃を仕掛けた。
「ドラァ!」
魔力も込めて全力で拳を振りぬく。バキンッ!と頭部の装甲を貫き、俺の小さな拳がキラーアントの頭を潰して地面に汚い花を咲かせていた。
「よし、いける!」
この調子で、俺は拳を引き抜いて、俺は一旦後ろに飛び退いて迫ってきていた2体目のキラーアントとの間合いを調整し同じように拳で頭を潰した。
「キシャーッ!」
そして最後。3体目のキラーアントのとびかかり攻撃をジャンプでかわし、魔力で強化した蹴りを一発胴体に食らわせて、壁へと吹っ飛ばした。
「ふぃー、全然いけるな…ん?」
さて、魔石を拾おうと思って振り返ると、よく見たら1体目だけ身体が霧になっておらず、足がぴくぴくと動いているではないか。
そしてなにやら嗅いだことのない匂いが漂い始める。これは…キラーアントのフェロモンか。
「あー…やったわ…」
キシキシキシ、と周囲から大量の音が響き始め、俺は退路を確認しながら拳を握った。
「動きは遅いし装甲も思った以上に硬くなかった…油断しなきゃやれる相手だとは思うけど…っと、何だ?」
部屋に続々と入ってくるキラーアントの群れ…の中に、さらに見慣れないシルエットのモンスターが舞い込んできた。
ふわふわと浮かぶそれは巨大蛾のモンスター、パープル・モスだった。
「ちっ、雑魚に構ってる余裕はないんだけど…なぁ!」
近くに寄ってきたキラーアントを殴り飛ばし、ダッシュ。まず厄介な毒攻撃を持つパープルモスを狙う。
「ハアッ!」
地面を蹴って拳を構え、そして降りぬく。魔力強化を施した俺の拳は、パープルモスに届かずに宙を切った。
「って、届かねえー!?」
ジャンプ高度…というよりも、そもそも身長と手足が短すぎてリーチが足りない。
攻撃をスカしてしまい体勢を崩しながら落下してしまう。さらにキラーアントに着地狩りされそうになり、俺は慌てて猫のように身をひねって素早く再度ジャンプし、スタンプ攻撃をお見舞い、頭を踏みつぶした。
そして頭上を見上げる。
キラキラと鱗粉が舞い始めた。頭上にはパープルモスが優雅に飛んでいた。即効性はないものの吸い続ければ毒になる毒の鱗粉である。俺は舌打ちをしながら走り出し、部屋の中のキラーアントを倒しまわって、そして隙を見て再度挑戦。
ジャンプして攻撃を…としようとしたところで、地面の確認が甘かったのか、キラーアントが落とした魔石を踏んづけてしまいそもそもジャンプを失敗。俺の遥か頭上をパープルモスが通過する。
「だー!くそっ!」
予想だにしなかった思わぬ強敵の登場に、俺は毒づきながら前転着地。
「そうだ、これなら!」
俺はとっさに地面に転がる魔石を拾い上げて、そして思いっきりパープルモスにぶん投げた。パープルモスの広げた翅に当たり、当然のように貫通して穴をあける。これなら流石に落ちてくるだろ、と思っていたら。
「…ギリギリ飛べてる!なんかもう全部うまくいかねえ!」
どうやら小さな穴程度なら、多少体勢が崩れるくらいで飛べはするらしい。ふらふらと上空を漂うパープルモスに思わず歯ぎしりする。
おかしい、俺は苦戦するならキラーアントしかいないと思っていた。むしろほかのモンスターは目もくれていなかったのに、どうしてこうなった。
などと思っていると、身体が怠くなってきた。どうやら無事毒状態になってしまったらしい。
ちなみに今の俺には普通のポーションすら高級品だが、毒消しポーションは普通のポーションの二倍以上の値段がする。
「くそーっ、降りてこい、卑怯者!」
最終的にパープルモスを倒すまでキラーアントの群れを4、5ダース分ぶっ飛ばし、俺は毒の効果で息も絶え絶えになりながら魔石を投げまくりパープルモスを何とか倒すことに成功したのだった。
「ぜえ、ぜえ…予想外の強敵だった…」
雑魚などとんでもない。今の俺にとっては間違いなく天敵であった。背丈の低い俺では届かない高所に陣取り、俺の高い耐久を無視する毒攻撃で継続ダメージを与えてくるのだ。考えてみれば見るからに相性が悪すぎる。これに気づかないとか俺は馬鹿だ。
ダンジョンに潜り始めてからこっち、思えば初の大苦戦。
理由は明白。素手だったからだ。ここから先、武器は必須なんだと強く感じた出来事だった。
俺は武器の購入を強く心に決めて、それまではおとなしく6階層で活動しようと反省したのであった。