8月、夏に咲く花火と見つめる夜空。   作: 龍也/星河琉

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このページに飛んでいただきありがとうございます。イキヅライブ! の短編です。よろしくお願いいたします。
※原作キャラの駒形花火ちゃんが中学2年生の時系列で物語が始まります。


#1 私の好きなもの

 

『生きづらい世の中になった』と、周りは口を揃えてそう言う。その意味が、少しずつわかった気がした。

 

 好きな人や大切な人、真っ当に生きている人ばかりが踏みつけにされ、傷付けられる。自分が心から生きていてほしいと願う人でさえ、等しく虐げられる。苦しい思いをする。

 

 そんな世界でも、綺麗なものは綺麗。好きなものは好き。それは決して変わることはない。だから私は、暗い夜空に咲く花火のように、誰かを照らす光になりたい。

 

 不特定多数の他人よりも、まずはあなたを照らしたい。

 

 たった1人、代わりなんて居ない……私の特別な人なのだから。

 

 

 

 

 

 8月、夏に咲く花火(きぼう)と見つめる夜空(みらい)

 

 

 

 

「お客様は上背がありますので、こちらの紺色もお似合いだと思います。試着してみますか?」

 

「あら。良いじゃない! ねぇ、これも来てみましょ!」

 

「わかったって。もう、お母さんはしゃぎすぎ〜」

 

「良いじゃない、浴衣なんて滅多に着ることないんだから!」

 

 8月。蝉の鳴き声が絶え間なく聞こえる昼中、私はいつものように実家の呉服屋の手伝いをしていた。

 

 この時期は夏祭りがあるから、浴衣を借りにたくさんのお客さんが来てくれる。その1人1人に、似合う浴衣をおすすめして喜んでもらえるのが嬉しい。和服はいつだって心を豊かにする。和服も、このお店も、着物に袖を通して少し気恥ずかしそうにはにかむお客さんも、私は大好きだ。

 

 私が勧めた紺色の浴衣や帯、小物と下駄を受け取ったお客さんを見送り、店内に戻ってから試着用に取り出した浴衣を片付ける。あのお客さんと母は笑顔で帰って行ったけれど、接客中に耳にした言葉が心の中でこだまする。

 

『浴衣なんて滅多に着ることないんだから!』

 

 きっと、何気なく口から出た言葉なのだろう。悪意があって言った訳ではないのは分かっている。けれど、和服が普段の生活に馴染みがないものという現状を嫌でも思い知る。

 

 幼い頃から、私は和服が好き。それが身近にあるのが当たり前の環境だったのもあるんだろうけど、綺麗で美しくて、身に着けた人を明るく照らす煌びやかなその服に、私は心を奪われた。四六時中和服のことばかり考えるくらい、愛してる。

 

 だから将来はこのお店を継いで、事業を拡大させて和服文化を世界に広めたい。着物、浴衣、甚平。色んな和服が今よりもっと身近で、日常に根付くように。大変な道なのはわかってるけど、それでも叶えたい。和服の魅力を、たくさんの人に伝えたい。そのために今はお店の手伝いを頑張って、この呉服屋を周りに知ってもらうのだ。まだ14歳の自分に何ができるって言う人もいるけど、負けない。他の人がどう思おうと、私にできることを精一杯頑張るだけだから。

 

「ふぅ。これで全部ね」

 

 着物を片付け終えて受付に戻ると、お母さんがレジに両替用の小銭を補充していた。何も言わずに椅子に座ると、小銭を入れる音が止まる。

 

花火(はなび)、もうお手伝いは良いから。お見舞いに行ってあげて?」

 

 そう言ったお母さんに対し、思わず『えっ?』と聞き返してしまう。

 

「もうすぐ夏祭りだし、お客さんいっぱい来るでしょ? 手伝わなくて大丈夫?」

 

「大丈夫よ。今は落ち着いてるし、手が足りなかったら夕方にまた手伝ってもらうわ。さ、空いてるうちに行ってらっしゃい?」

 

 そう言ってお母さんは目を細める。お店が混んでてんてこまいになっちゃわないか心配だけど、早くお見舞いに行って顔を見せたい気持ちもある。()に、寂しい思いをしてほしくないから。

 

「わかった。じゃあお言葉に甘えて……行ってくるね。夕方までには戻るけど、手が足りなくなったらすぐ電話してね!」

 

「ふふっ、わかったわ。『具合が良くなったら店に遊びに来て』って、()()()()()に伝えてちょうだいね?」

 

「うん。そう伝えておく! 行ってきます!」

 

「気を付けてね〜!」

 

 和柄の鞄を持って、お母さんに手を振られながらお店を出た。お母さんは病院に居る彼をとても気に入っている。なんなら、彼の母よりもお見舞いに足を運んだ回数が多い気がする。そのくらいお母さんにとっても、もちろん私にとっても大切な人。その人に、私はほぼ毎日会いに行っている。1年前の夏から、ずっと。

 

 

 

 

 

 

 病院のロビーで手続きを済ませて、独特の匂いが漂う廊下を歩く。何度も来ているから、もう何も見なくても病室にたどり着けるようになった。

 

 今日は、昨日より元気だと良いな。お見舞いに行く度にそう思いながらいつも病室の戸を開ける。今日は、戸を開ける前から咳き込む声が聞こえた。1人部屋だから、ここで咳をするのは彼しか居ない。咳の音が聞こえなくなってから、そっと戸を引く。

 

 色白の肌に細い腕と脚、男の子にしては珍しい長いまつ毛、さらりとした墨色の髪。あまり外に出歩かなくなったからか去年より痩せてしまったけれど、人形のように綺麗な顔立ちは今も変わらない。

 

 咳き込んで肩で息をしている途中、病室に足を踏み入れた私に気が付いた彼は、胸に当てていた手を毛布の上に置いて、優しげに笑った。

 

「……花ちゃん。昨日ぶりだね」

 

 少し掠れた声で、私の名前を呼ぶ。

 

 玉井(たまい)夏輝(なつき)。なっちゃん。私の大切な幼馴染。

 

 そして……この世界で、1番に好きな男の子だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続きます。次回もよろしくお願いいたします。
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