また、本作には名探偵コナンの要素が出てきますが、知らなくても問題ありません。
カーラとしての最初の記憶は、すでに亡き母とのひとときであった。
カーラ・アッカーマンは、地下の遊興街──通称「地下街」で生まれた。そこは本来、巨人から逃れるために造られた避難場所だったが、いまでは無法地帯と化している。地上の人々は地下の住人を見下し、さらに「アッカーマン」という名は、別の理由で迫害の対象となっていた。母は、病で倒れる直前まで、うわごとのように繰り返していた。
「絶対に言ってはいけない、アッカーマンだって。」
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カーラには前世の記憶がある。現代日本を知る私の目から見れば、地下街は信じられないほど不衛生な場所だ。赤子の頃に死んでいてもおかしくなかっただろう。それでも、私は生きている。それは、まるで奇跡のように感じられた。
カーラが前世を思い出したのは、母が息を引き取った時。
前世の記憶は膨大な情報となって、まるで洪水のようにカーラに襲いかかった。前世の記憶が迫るたび、世界の音は異様に鮮明になった。ネズミの足音も、壁の向こうの囁きも、自身の心音も──すべてが輪郭を帯び、鋭くカーラの内側へ突き刺さる。
これまで「当たり前」だった音は、突然、脳を圧迫する異常な負荷へと変わった。もう何がどんな音なのか判別できない。頭蓋の内側は焼けるように熱く、呼吸は浅く乱れ、視界も揺らぐ。
ふと、体の奥底から力が湧き上がる感覚があった。
耳に入るすべての音が、突然整理され始めた。足音、囁き、心音──混沌としていた音たちが、ひとつずつ輪郭を持ち、必要なものだけが鮮明に浮かび上がる。
脳の中の圧迫感がスッと消え、呼吸が整った。私は、自分の聴覚を意図的に制御できる力を手に入れたことを実感した。
それ以降、カーラは私になった。私は、カーラになった。
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私の最後の記憶は、無機質なパソコンに表示される「転送完了」の文字だった。
私は両親共に警察官という家庭に生まれた。とはいえ、普通の警察官ではなかった。両親ともに裏の顔を持ち、秘密裏に公安で特殊な任務に従事していた。家内は厳格で、教育やしつけは徹底されていた。それでも両親を嫌いにならなかったのは、警察官という職業に尊敬と憧れの念を抱いていたからかもしれない。
習い事も多かった。大抵は両親の意向であったが、合気道やパルクールなど、自分の意思で始めた習い事もあった。
警察庁に入庁した際には、公安部門を志望。調査課で経験を積んだのち、警部補に昇格、警視庁公安部に出向することになった。そうして出会ったのが、私の裏の顔の上司となる人物であった。無茶振りも多かったが、ずば抜けて優秀な人であるのは確かだった。(同僚は日々、胃を痛めていたが)
そう、その人のためなら、任務のためなら、死も些細なことだと思えるくらい。
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パソコンには、この国に蔓延る犯罪組織の根幹に関わるデータが入っていた。侵入したビルには人1人おらず、物も散乱していた。慌てて人が出ていったようだった。案の定、部屋の隅には時限爆弾が仕掛けられていた。私には爆弾を解体する技術はない。しかし、素早くデータを抜き取る技術はあった。
爆弾から聞こえるわずかな電子音は、まさしく地獄へのカウントダウン。それでも、データは決して早くはない速度で転送されていく。
爆発まで、残り30秒。パソコンには転送完了の文字が浮かび上がった。
勝った。私は賭けに勝ったのだ。しかし、もう逃げることはできない。7階から飛び降りても助からない。
爆発まで、残り15秒。ポケットのスマホが振動する。上司からの電話だ。
「今すぐそこを離れろ!爆弾が設置されて──」
「データは全て本部に。あとはよろしくお願いします、降谷さん。」
「──どういうことだ!今すぐそこを……」
刹那、爆音と共にガラスの窓が粉々に砕け、部屋中に閃光が走った。
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そんなこんなで死にはしたが、前世に未練はない。あ、同僚には負担をかけるかもな。
〈補足〉
カーラは生まれつき、つまり前世の記憶を思い出す前から聴覚が異様に発達していた。
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前世の記憶という全く異なる情報処理システムが入っていきたことで、これまで「普通」だと思っていた聴力が、実は「異常なほど優れている」と自覚。これまで無意識で行っていた聴覚情報の処理機能がバグを起こす。
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前世と違う異様な聴覚による音を処理できず、パニックを起こす。
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アッカーマンの力の覚醒。