どうしても、私をモンスター扱いしたいのですね。裸でも見ますか?――人間だと勘違いしているユニークモンスター、その可愛さにバズってしまう―― 作:なーん!
「ユニークシナリオ……桜花流――」
彼の呟きに思わず胸を張っていた。私の技を前にして目を見開き、動けずにいる姿がどこか誇らしかったからだ。
お父さんから教えられた剣術が、外の世界でも通用するのだと知れたから。
鞘と刀が擦れる音が静かな空間に余韻を残す。腰に刀が納まった瞬間、心の内に落ち着きが広がり、全身が自然と正しい姿勢を取り戻した。
少しは、お父さんのように威厳を纏えているだろうか……なんて、そう喜んでいたのも束の間、彼が剣を抜いた瞬間にその思いは吹き飛んだ。
「スキル『桜花流一ノ型・鞘鳴り』!」
それは私とは似ても似つかないほど、とても拙くて遅いものでしたが、それでも桜花流であることは間違いなかった。
ええ、全然……そう、全く私の足元にも及ばない――それこそ真似事のようなものでしたが、その動きは間違いなく桜花流のそれでした。
ただ、あくまでも蜂蜜の上にクリームを重ね、更に砂糖を振りかけたような、甘ったるくて未完成なものです。
「でっ……できた。嘘だろ、あのスキルが貰えるなんて――」
確かに、私の動きを頭の中で理解して、その感覚や呼吸をコピーして実践できたことは評価しましょう。
ただ、この程度で満足されても困ります。少し悔しいですが、それでも彼のことを見直すべきでしょう。
「驚きました、君には才能があるようですね」
上手く笑えていればいいですが、あまり自信はありませんでした。
あくまでも自然に、大人の余裕を失ってはいけません。
彼の方はそんな気持ちを知ってか知らずか、とても嬉しそうにしていましたが、ここは褒めた方がいいでしょう……そう、私がお父さんにされて嬉しかったように、自然な仕草で撫でてあげればいい。
私はそっと手を伸ばしました。指先が彼の髪に触れると、その温かさに自然と緊張がほぐれる。
彼の方は驚いていましたが、頭を撫でた際の感覚に、むしろ私の方が照れくさくなりました。
「どうですか? 君さえよければ、桜花流を覚えてはみませんか?」
その言葉に深い意味はなく、本当にただの気まぐれでした。
せっかく出会えたのだから、ここで終わらせるのも勿体ない――ただ、その程度の気持ちでしかなかった。
「本当ですか!? 本当に教えてくれるんですか!?」
予想外だったのは、彼の姿が幼いころの自分に似ていたこと。
もしも弟がいたらこんな感じなのかな――っと、そんな馬鹿げたことを考えてしまう。
返事をする間もなく詰め寄ってくるその勢いに、気がつけば笑っている自分がいました。
まるで、小さな
違うところいえば、火を噴かずに剣を持っていることでしょうか。
「ええ。ただし、簡単なことではありませんよ。
桜花流は剣技だけでなく、体の動きや呼吸すらも学ぶ必要があります」
「わかりました! 必ず覚えてみせます!」
私の言葉に彼は迷うことなく頷き、それを見た私も自然と力がはいる。
その真剣な瞳を見ながら少しだけ離れ、体勢を整えると改めて刀を握りなおす。
頭を撫でたときの温かさが残っているのか、驚くほど自然に笑みがこぼれた。
「それじゃあ、基本の型を見せてあげましょう。
私の動きをよく見て、可能であれば真似してみるといい」
桜花流二ノ型『
次の瞬間、地を蹴る音が爆ぜた。
一歩……そう、それはただの一歩でしかない。しかし、その衝撃は雷のような轟音を纏い、刀身が青白い稲光を纏っていた。
斬り払うと同時に雷鳴が轟き、振るわれた刃によって火花が散る。
気がつけば、閃光の軌跡だけが地面に焼きついていた。
たとえ相手がいなかったとしても、その一撃は地面を抉ることで力を示す。
私は雷の余韻が残ったまま、ゆっくりと刀を鞘へと納めた。最後に鳴った鯉口の音が、全てが終わったことを教えてくれる。
「これが雷桜です。形だけは真似できても、この雷までは難しいでしょう」
口を開けたまま呆然とする彼に、私は今度こそ威厳を示せただろう。
「スキル『桜花流二ノ型・雷桜』!」
私の技を見た彼が、すぐにそれを真似しようと剣を振るう。
しかし、そこから雷鳴は聞こえなかった。振るわれた刃に光は現れず、ただ風をきる音だけが虚しく響いている。
彼の方は納得できないように、何度も同じ動作を行うが、結局その剣からは雷はおろか火花すら散らなかった。
「そう焦らなくてもいい。ゆっくり、時間をかけて学べばいいんです」
息をきらしながら剣を振るう姿に、私はその肩を掴んで優しく微笑む。
そして、そのまま彼の両腕を後ろから包むと、そのまま剣を鞘へと戻した。
「形だけでは駄目です、雷桜は速さだけの技ではない。
安心してください。そんなに焦らなくても、きっと君なら使えるようになります」
悔しそうにする彼を尻目に、内心では少しだけホッとしていた。
さすがに難しいだろうとは思っていたが、雷桜まで出来ていたら本当に焦っていた。
「来い、ハヤブサ丸」
そう言って私は鷹の召喚獣を呼びだし、彼のそばにいるよう指示を出す。
突然のことに彼は混乱していたが、たとえ弟子であったとしても、ずっとそのそばにはいられない。
私にもやりたいことはあるし、なにより彼には一度見せている。
彼は『鞘鳴り』を一度見ただけで使うことができた。それなら、いずれ『雷桜』も使うことができるだろう。
足りないのは力と経験だけだ。それならば、私がいなくともできるようになる。
困ったときは『ハヤブサ丸』を通じて連絡すればいい。彼の肩に飛び乗る姿に、私は笑いながら状況を説明する。
「その……この魔物は?」
「その子はハヤブサ丸です。そんなに怖がらなくても大丈夫、私に相談したいことがあれば、その子に文を持たせれば運んでくれます。
餌は自分で取るし、危ないときは助けてくれるでしょう」
どうやら、ハヤブサ丸も彼のことを気に入ったようで、その嘴で彼の頭を突っついていた。
少し激しくはあるが、その姿はとても楽しそうに見えた。
「あの……ダメージを受けているのですが」
「こら! 昔から、ほどほどにしろって言ってるでしょ!」
私が叱ると、ハヤブサ丸は首を傾げながら小さく鳴いた。
まるで悪戯を怒られた子供のように、わざとらしく羽を広げる仕草に苦笑いする。
少し心配ではあったが、この子は見た目よりもかなり賢い。だから、本当に危ないときは助けるだろう。
「さて、そろそろ私も行くとします」
「えっ、もうですか?」
「私にも色々とやりたいことがあります。なにかあれば、そこのハヤブサ丸を頼ってください。
あと、暇なときは手紙でも送ってきなさい、私も弟子がなにをしているかは心配です」
ハヤブサ丸が小さく鳴き、誇らしげ胸を張っていた。
彼の肩で羽を広げる姿は、頼れる護衛?……っというよりも、友人の方が近いだろう。
「いいですか、桜花流は一朝一夕で身につくものではありません。
焦らず、じっくりと学べば、いずれ高みへと至れるでしょう。そのときが来るのを、私も楽しみにしています」
私は微笑みながらその頭に手を置く、きっと彼は想像以上に強くなるだろう。
それが悔しくもあり、楽しみでもあった。
「最後に、君の名前を教えていただけますか」
風が吹き抜け木々がざわめく、心の奥に名残惜しさが広がったが、私には私の目的がある。
そして、彼には彼の目的があるのだ。いずれ、その道が交わうのであれば、一緒に戦うこともあるだろう。
だが、それは今ではない。私は振り返ることなく歩きだした。これから先の出会いに期待して、彼の名前を小さくつぶやいた。
【プレイヤー名・兵頭様】
・貴方はユニークモンスター『桃華』に特別な個体として認識されました。
・貴方はユニークシナリオ『桜花の剣鬼・流浪の剣聖』をアンロックしたプレイヤーとして、以下の報酬が授与されます。
①称号『桜花流の門下生』
②スキル『桜花流一ノ型・鞘鳴り』
③スキル『桜花流二ノ型・雷桜』
※現在のステータスでは、この
④召喚獣『ハヤブサ丸』
⑤エクストラアイテム『桃華の想い』