どうしても、私をモンスター扱いしたいのですね。裸でも見ますか?――人間だと勘違いしているユニークモンスター、その可愛さにバズってしまう――   作:なーん!

2 / 4
桜花流の門下生

「ユニークシナリオ……桜花流――」

 

 彼の呟きに思わず胸を張っていた。私の技を前にして目を見開き、動けずにいる姿がどこか誇らしかったからだ。

 お父さんから教えられた剣術が、外の世界でも通用するのだと知れたから。

 

 鞘と刀が擦れる音が静かな空間に余韻を残す。腰に刀が納まった瞬間、心の内に落ち着きが広がり、全身が自然と正しい姿勢を取り戻した。

 少しは、お父さんのように威厳を纏えているだろうか……なんて、そう喜んでいたのも束の間、彼が剣を抜いた瞬間にその思いは吹き飛んだ。

 

 

「スキル『桜花流一ノ型・鞘鳴り』!」

 

 それは私とは似ても似つかないほど、とても拙くて遅いものでしたが、それでも桜花流であることは間違いなかった。

 ええ、全然……そう、全く私の足元にも及ばない――それこそ真似事のようなものでしたが、その動きは間違いなく桜花流のそれでした。

 ただ、あくまでも蜂蜜の上にクリームを重ね、更に砂糖を振りかけたような、甘ったるくて未完成なものです。

 

 

「でっ……できた。嘘だろ、あのスキルが貰えるなんて――」

 

 確かに、私の動きを頭の中で理解して、その感覚や呼吸をコピーして実践できたことは評価しましょう。

 ただ、この程度で満足されても困ります。少し悔しいですが、それでも彼のことを見直すべきでしょう。

 

 

「驚きました、君には才能があるようですね」

 

 上手く笑えていればいいですが、あまり自信はありませんでした。

 あくまでも自然に、大人の余裕を失ってはいけません。

 

 彼の方はそんな気持ちを知ってか知らずか、とても嬉しそうにしていましたが、ここは褒めた方がいいでしょう……そう、私がお父さんにされて嬉しかったように、自然な仕草で撫でてあげればいい。

 私はそっと手を伸ばしました。指先が彼の髪に触れると、その温かさに自然と緊張がほぐれる。

 彼の方は驚いていましたが、頭を撫でた際の感覚に、むしろ私の方が照れくさくなりました。

 

 

「どうですか? 君さえよければ、桜花流を覚えてはみませんか?」

 

 その言葉に深い意味はなく、本当にただの気まぐれでした。

 せっかく出会えたのだから、ここで終わらせるのも勿体ない――ただ、その程度の気持ちでしかなかった。

 

 

「本当ですか!? 本当に教えてくれるんですか!?」

 

 予想外だったのは、彼の姿が幼いころの自分に似ていたこと。

 もしも弟がいたらこんな感じなのかな――っと、そんな馬鹿げたことを考えてしまう。

 返事をする間もなく詰め寄ってくるその勢いに、気がつけば笑っている自分がいました。

 

 まるで、小さな(トカゲ)を相手にしているようです。

 違うところいえば、火を噴かずに剣を持っていることでしょうか。

 

 

「ええ。ただし、簡単なことではありませんよ。

 桜花流は剣技だけでなく、体の動きや呼吸すらも学ぶ必要があります」

 

「わかりました! 必ず覚えてみせます!」

 

 私の言葉に彼は迷うことなく頷き、それを見た私も自然と力がはいる。

 その真剣な瞳を見ながら少しだけ離れ、体勢を整えると改めて刀を握りなおす。

 頭を撫でたときの温かさが残っているのか、驚くほど自然に笑みがこぼれた。

 

 

「それじゃあ、基本の型を見せてあげましょう。

 私の動きをよく見て、可能であれば真似してみるといい」

 

 

 桜花流二ノ型『雷桜(らいおう)

 

 次の瞬間、地を蹴る音が爆ぜた。

 一歩……そう、それはただの一歩でしかない。しかし、その衝撃は雷のような轟音を纏い、刀身が青白い稲光を纏っていた。

 斬り払うと同時に雷鳴が轟き、振るわれた刃によって火花が散る。

 

 気がつけば、閃光の軌跡だけが地面に焼きついていた。

 たとえ相手がいなかったとしても、その一撃は地面を抉ることで力を示す。

 私は雷の余韻が残ったまま、ゆっくりと刀を鞘へと納めた。最後に鳴った鯉口の音が、全てが終わったことを教えてくれる。

 

 

「これが雷桜です。形だけは真似できても、この雷までは難しいでしょう」

 

 口を開けたまま呆然とする彼に、私は今度こそ威厳を示せただろう。

 

「スキル『桜花流二ノ型・雷桜』!」

 

 私の技を見た彼が、すぐにそれを真似しようと剣を振るう。

 しかし、そこから雷鳴は聞こえなかった。振るわれた刃に光は現れず、ただ風をきる音だけが虚しく響いている。

 彼の方は納得できないように、何度も同じ動作を行うが、結局その剣からは雷はおろか火花すら散らなかった。

 

 

「そう焦らなくてもいい。ゆっくり、時間をかけて学べばいいんです」

 

 息をきらしながら剣を振るう姿に、私はその肩を掴んで優しく微笑む。

 そして、そのまま彼の両腕を後ろから包むと、そのまま剣を鞘へと戻した。

 

「形だけでは駄目です、雷桜は速さだけの技ではない。

 安心してください。そんなに焦らなくても、きっと君なら使えるようになります」

 

 悔しそうにする彼を尻目に、内心では少しだけホッとしていた。

 さすがに難しいだろうとは思っていたが、雷桜まで出来ていたら本当に焦っていた。

 

 

「来い、ハヤブサ丸」

 

 そう言って私は鷹の召喚獣を呼びだし、彼のそばにいるよう指示を出す。

 突然のことに彼は混乱していたが、たとえ弟子であったとしても、ずっとそのそばにはいられない。

 私にもやりたいことはあるし、なにより彼には一度見せている。

 

 彼は『鞘鳴り』を一度見ただけで使うことができた。それなら、いずれ『雷桜』も使うことができるだろう。

 足りないのは力と経験だけだ。それならば、私がいなくともできるようになる。

 困ったときは『ハヤブサ丸』を通じて連絡すればいい。彼の肩に飛び乗る姿に、私は笑いながら状況を説明する。

 

 

「その……この魔物は?」

 

 

「その子はハヤブサ丸です。そんなに怖がらなくても大丈夫、私に相談したいことがあれば、その子に文を持たせれば運んでくれます。

 餌は自分で取るし、危ないときは助けてくれるでしょう」

 

 どうやら、ハヤブサ丸も彼のことを気に入ったようで、その嘴で彼の頭を突っついていた。

 少し激しくはあるが、その姿はとても楽しそうに見えた。

 

 

「あの……ダメージを受けているのですが」

 

「こら! 昔から、ほどほどにしろって言ってるでしょ!」

 

 私が叱ると、ハヤブサ丸は首を傾げながら小さく鳴いた。

 まるで悪戯を怒られた子供のように、わざとらしく羽を広げる仕草に苦笑いする。

 少し心配ではあったが、この子は見た目よりもかなり賢い。だから、本当に危ないときは助けるだろう。

 

 

「さて、そろそろ私も行くとします」

 

「えっ、もうですか?」

 

「私にも色々とやりたいことがあります。なにかあれば、そこのハヤブサ丸を頼ってください。

 あと、暇なときは手紙でも送ってきなさい、私も弟子がなにをしているかは心配です」

 

 ハヤブサ丸が小さく鳴き、誇らしげ胸を張っていた。

 彼の肩で羽を広げる姿は、頼れる護衛?……っというよりも、友人の方が近いだろう。

 

 

「いいですか、桜花流は一朝一夕で身につくものではありません。

 焦らず、じっくりと学べば、いずれ高みへと至れるでしょう。そのときが来るのを、私も楽しみにしています」

 

 私は微笑みながらその頭に手を置く、きっと彼は想像以上に強くなるだろう。

 それが悔しくもあり、楽しみでもあった。

 

 

「最後に、君の名前を教えていただけますか」

 

 風が吹き抜け木々がざわめく、心の奥に名残惜しさが広がったが、私には私の目的がある。

 そして、彼には彼の目的があるのだ。いずれ、その道が交わうのであれば、一緒に戦うこともあるだろう。

 だが、それは今ではない。私は振り返ることなく歩きだした。これから先の出会いに期待して、彼の名前を小さくつぶやいた。

 

 

【プレイヤー名・兵頭様】

・貴方はユニークモンスター『桃華』に特別な個体として認識されました。

・貴方はユニークシナリオ『桜花の剣鬼・流浪の剣聖』をアンロックしたプレイヤーとして、以下の報酬が授与されます。

①称号『桜花流の門下生』

②スキル『桜花流一ノ型・鞘鳴り』

③スキル『桜花流二ノ型・雷桜』

※現在のステータスでは、この『雷桜』(スキル)を習得する条件を満たしていません。

④召喚獣『ハヤブサ丸』

⑤エクストラアイテム『桃華の想い』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。