魔道具屋店主は異世界で道楽を極めたい 作:かてぃーな
道楽に生きることが、前世の頃からの夢だった。
しかし、好きなことだけをして生きていくには、どうしても力か金が必要だ。
前世の環境ではそれが難しく、俺の夢は夢のまま終わった。
そうして気がつけば、俺は異世界に転生していたのである。
機会が来たと思った。
幸いにも俺には、他者にはないチートがあり、前世の記憶がある。
色々と苦労も会ったけど、冒険者になり、金を稼ぎ。
俺はようやく、店を開くことができた。
魔道具屋ルイト。
自分の名前を店につけるのはなんとも気恥ずかしいところはあるけれど、わかりやすさを重視してこの名前にした。
店の商品は、俺が鑑定のスキルで集めた魔道具の数々だ。
中には世界を変えかねない一品もあるが、値段は全て俺の独断で決めている。
時には気に入った相手に、格安で譲るのもいいかもしれない。
ただ、そうやって環境を整えると、なおさら思うことがある。
道楽とは、一体何なのだろう。
ただ好き勝手生きる……というのもそれはそれで正しいのだけど。
なんとなく、それだけでは行けない……という気持ちも、なくはないのだ。
◯
俺の魔道具屋は開店時間も閉店時間も決まっていない。
俺が開店しようと思えば開店するし、もう閉店でいいと思えば閉店するのである。
ある意味で、これこそ究極の道楽だ。
そんな適当極まりない俺の店は、今日は開店の札が掲げられていた。
しかし、その割に店には俺以外の姿がない。
立地も知名度も最悪一歩手前なのだから当然と言えば当然なのだが。
店内は、俺が集めた魔道具をそれなりに綺麗に飾っている。
店の壁一面に色々な魔道具が飾られ、中央にはショーケースが幾つか。
そして入口とは反対側に俺が居座るカウンター、と言った内装をしている。
んで、俺はそのカウンターである魔道具を【鑑定】していた。
なぜそんなことをしているかというと、暇だからだ。
異世界は娯楽が少ないから、自分から娯楽を見つけないといけない。
娯楽を見つけるために時間を潰すのも、ある意味道楽と言えるだろう。
「鑑定」
さて、スキルを行使するためにスキル名を口にして、スキルを有効にする。
この世界のスキルには持っているだけで効果のあるスキルと、スキル名を口に出すことで魔力を消費して効果をアクティブにするスキルがあるが、【鑑定】は後者だ。
そして俺がスキルを使用すると、視界は一気に青に染まる。
青い視界にはゲームのステータス画面のようなものが出現した。
俺の手前には、俺自身のステータスが記されている。
この世界にHPの概念はないので、表示されるのは魔力残量、スキル、習得魔術だけ。
簡素なステータス画面の中に俺はあるものを確認して頷いてから、手元に視線を移す。
【鑑定EX】、そんな俺だけのユニークスキルを。
何が特別なのかは……まあここでは一旦置いておこう。
さて、俺がこれから鑑定するのは硬貨だ。
なんでそんなものを……と思うかもしれないが、理由は単純で硬貨も魔道具の一種だからである。
この世界における魔道具の定義は非常に曖昧で、魔術的な効果を持つもの、魔術を発動するための道具、そして魔術で作られた道具すら魔道具に分類される。
言うまでもなく、硬貨は魔術で作られたアイテムだ。
有史以来魔術と共に発展して来たこの世界は、ほとんどのものが魔術によって作られている。
そう言うアイテムを幅広く扱うから、魔道具屋はこの世界ではそこまで珍しい商店ではない。
だからこそ、俺みたいに道楽でやってると全く店に客がやって来なかったりするんだが。
「さーて、何か面白い硬貨はあるかな……っと」
今回俺が鑑定する硬貨は、現行俺が暮らす国や大陸で流通しているものではない。
数百年前に存在していた王国で流通していたものだ。
いわゆる古銭というやつで、金銭的な価値はそこそこ程度。
素材として売っぱらった方が金になるだろう。
中には金貨とか混じってるしな。
金はこの世界でも優秀な換金アイテムだ。
しかし中には、面白い物も混じっていたりする。
「……偽造金貨だ!」
鑑定画面には、こう表示されている。
【コルパシル金貨(偽造)】
七百年前に存在していた「バシル王国」の金貨を、五百年前の「コルパシル帝国」の技術で再現されたもの。その再現性は非常に高く、通常の鑑定で見抜くことは不可能。
ふーむ、七百年前の王国の金貨を、五百年前の帝国が、ねぇ。
偽造とはいうが、その精巧さは一目みた程度では全く見分けがつかない。
鑑定スキルを使っても、よっぽどレベルが高くない限り見抜けないだろう。
俺みたいにな?
そもそも鑑定を使用した時の文面は、その時本人が必要だと想っている情報によって内容が変わる。
今回は俺が面白い硬貨がないかと探したから、見つけられたのだ。
「……なんで偽造する必要があったんだ?」
それにしてもこの硬貨は謎の多い硬貨だ。
すでに滅んでいる国の金貨を偽造する。
さっぱり偽造する意味がわからんぞ。
なんて、硬貨を相手にうんうん唸っていると、
「失礼致します」
不意に、お客さんが入って来た。
扉が開き、連動してなるようになっている鈴がカランカランとなる。
入って来たのは、二十歳くらいの女性だった。
小柄な背丈に凛とした顔立ち。
美しい銀髪に、戦少女と評するのが相応しい鎧を身につけている。
無骨な騎士鎧ではなく、スカート姿のりんとした感じのものだ。
彼女は俺の知り合いで、名前は……
「シェレナ、いらっしゃい」
「お久しぶりです。ルイト様」
「相変わらず硬いね」
「性分ですので」
なんて軽く言葉を交わしてから、彼女の用を聞く。
「それで、シェレナは今回も征伐の戦利品を鑑定が目的かな」
「はい、今回もお世話になります」
シェレナは俺たちが暮らす王国の騎士様だ。
女性だけで構成されたワルキューレ部隊の隊長で、征伐とは国に騎士団がダンジョンに潜ることを指す。
そう呼ばれるようになった経緯は長くなるので割愛するとして、ダンジョンを攻略すると戦利品が手に入るのは異世界に鉄則だ。
それはこの世界も変わらない。
ただ、中には効果がわからないものもあるから、それを鑑定するのが俺の役目。
魔道具屋のすることではないが、ある程度余裕のある納期で自分のペースで仕事ができるから、俺は結構好きな依頼だ。
単純に鑑定をして魔道具を漁るだけでも楽しいしな。
やることがないからって古銭を鑑定しているのもそれが理由だ。
「ところでルイト様、そちらは何を?」
「お、シェレナが俺の遊びに興味を持つとは、成長だね」
「それは……ルイト様が、人生には余裕が大事とおっしゃっていましたし」
「わざわざシェレナが直々にここへ来るのも、それを理由に羽を休めるため、だものね」
シェレナは昔から堅物で、融通が効かない。
もっと自由に生きていいのに、とは常々俺が言っているのだけど、今回みたいな雑談が今のシェレナの限界のようだ。
さて、俺は簡単に今やっていることを説明した。
すると、
「……この金貨を偽造した国家……コルパシル帝国は、700年前の国家、バシル王国を前身としておりました」
「700年前の国家の硬貨をそのまま使えた、と?」
「いえ、700年前の国家のアイテムは権威の象徴だったのです」
「……なるほど、権威を偽装するために作られたのか」
シェレナは王国の騎士だけあって、歴史に詳しいようだ。
一発でこの硬貨の意味を察してみせたほう
ただ説明した本人も、なぜか意外そうに硬貨を見ている。
「……今まで、偽造硬貨の存在は仮説としてささやかれていました。しかし、あまりにも偽造技術が高すぎて、仮説を証明することができていなかったのです」
「歴史的新事実ってことか。そりゃあすごい」
どうやら、かなり価値のあるもののようだ。
こういうものを見つけるのも、俺の鑑定遊びの楽しいところである。
「こちら……買い取らせていただくことは可能でしょうか」
「別にお代はいらないんだけど……信頼できる学者に渡してくれるなら。アドカとか」
「そういうわけには行きません!」
「真面目だねえ」
俺にしてみれば、この硬貨は文字通り一山いくらで買い取った福袋みたいなものだ。
ちょっとくらい当たりが入ってたって、ラッキーと思う程度である。
探せば、他にも出て来そうだしね。
「じゃあこうしよう、これは俺がシェレナにプレゼントする。硬貨のことを教えてくれたお礼としてね」
「それは……ですが……」
「俺はね、道楽を極めたいんだ。それは、自分のやりたいと思ったことを心のままにするってことだと、今のところ思ってる」
後はまぁ、こう言って渡しても、最終的に鑑定の報酬にシェレナは色をつけるだろう。
流石にそれを拒否するのは失礼なので、そうなったらその時だ。
なんにせよ、俺にとって道楽とは、自分が楽しいと思う生き方だ。
そしてそれは、他人に幸福であって欲しいというおもいも含まれる。
ただし……
「見つけたのを俺であると公言しないこと、いつもの戦利品鑑定と同じように、シェレナの個人的な伝手ってことで」
「…………かしこまりました。ルイト様にご迷惑をお掛けしないため、と理解しておきます」
「頼んだよ」
俺は自分が目立つことを好まない。
周囲の人間から認められ、自由に自分の意思で生き方を選ぶことを第一としている。
その上で、好きなことを追求したいのだ。
「本当に……変わっていらっしゃいますね、ルイト様は」
「道楽ってそんなもんだろ?」
なんて返すと、シェレナは本気で不思議そうな顔をしていた。
けれども俺は、こういう生き方をしていきたいと思ってるんだ。
道楽を極めるためにな。