魔道具屋店主は異世界で道楽を極めたい 作:かてぃーな
俺は、とある地方都市の役人の息子として生まれた。
母は俺を産んで少ししてから病気でなくなったそうで、顔を見たことはない。
役人といっても、別に貴族というわけではなくあくまで普通の庶民のこどもだ。
それでも、普通の家よりは稼ぎが良く、幼い頃は何不自由ない生活を送っていた。
その頃の俺には特に人生の展望とかそういうものはなく、手に入れたチートスキルである【鑑定EX】の検証で手一杯だった。
これがアレば食いっぱぐれることはないだろうな、なんて能天気に考えていたものだ。
そんな生活が一変したのは、俺が八歳になった頃のことだ。
父親が汚職で捕まった。
とはいえこれは冤罪で、領主の汚職の罪を押し付けられたのである。
というのも父はとにかく厳格で頑固、融通の効かない人だ。
領主の汚職を見つけた時、それを馬鹿正直に領主へ直談判。
更には職場でも疎まれていたのか、庇うものは誰もおらず。
父は処刑されてしまった。
無論、父の死は俺の人生にも大きな影響を与える。
言うまでもなく、悪い意味で、だ。
父親が汚職で殺されれば、息子の俺も追われる身となってしまうのは中世風異世界ならそこまでおかしなことではないと思う。
結果として俺は、髪を染めて名前を変え、ルイトとして生きることになった。
この名前は前世の名前だ。
異世界でもそこまで違和感のない名前だから、こうして名乗らせて貰っている。
そこからはもう大変で、親の居ない子どもが一人で生きていくには、異世界はなかなかに過酷である。
特に俺は【鑑定】スキル以外は普通の凡人としか言いようがないスペックだ。
盗賊とかに襲われたら、正直言って対抗のしようがない。
ただ俺の鑑定は本当に便利極まりなく、相手の悪意を見抜くことすら使い方によっては可能だ。
更には鑑定の使い方を逸脱したチートな能力もあり、なんとか生き延びることができた。
冒険者になり、少しずつ力をつけ。
本体が貧弱なら外付けで強化すればいい、と魔道具を頼り始めた。
生活が安定する頃には冒険者としてそこそこ知られるようになり、最終的には結構強くなれたと思う。
そうして、これからの人生にもなんとか目処が立った時、俺は思ったのだ。
ああ、もうこれ以上無茶な人生は送りたくない。
明日の生活がわからないなんて、まっぴらごめんだ。
そして何より、父のように朝から晩まで働いて、その報いが処刑だなんていう末路はたどりたくない。
――結局、父は何を思って、何を楽しみに生きてきたのだろう。
親としては躾が厳しく、テーブルマナーを一つミスするだけで手が出るような人だった。
仕事人としては、仕事はできるのだろうが真面目過ぎて周囲と軋轢を生むタイプだった。
不器用な人だ。
決して悪人ではないと思うが、周囲から好かれるタイプではなかっただろう。
休日を満喫している姿なんて、ついぞ見たことがなかった。
そして最後には冤罪を押し付けられて、処刑されてしまう。
果たして父の人生に、楽しみというものはあったのだろうか。
少なくとも俺は、仕事をする父の様子を楽しそうだと思ったことは一度もなかった。
俺は転生者だから、そんな父を俯瞰して「不器用な人」と評価することができる。
けれど、同じような人生を送りたいとは思わないし、むしろその末路を見て俺はより一層「道楽に生きたい」という思いを強くした。
そうして、俺は資金をためて魔道具屋を開いた。
儲けなんて考えていない、店主としてゆったりとした時間を過ごせればそれでいい。
集めた魔道具を自慢したり、やってきた友人と雑談したり。
魔道具を鑑定して遊んだり、そんな毎日を送るのだ。
正直、道楽の真髄とか俺にはいまのところさっぱりわからないけれど。
一応、今の生活は楽しく、不満のないものである。
◯
「――なるほど、お母さんが病気で、ね」
「……はい」
その日、俺の店にやってきた客は、普段とは一風変わった客だった。
リカと名乗ったその少女は、手入れされていない癖のある黒髪と、ボロボロのワンピースが特徴だ。
明らかに、俺の店がある地区とは正反対の場所にある、スラム街の出身。
何でもシスター――おそらく俺の知り合いだ――の紹介で、この店にやってきたのだという。
当然ながら、薬を買えるお金はなく、少女は困った様子で俺を見ていた。
「リカは、お母さんがどんな病気かわかるか?」
「い、いえ……ごめんなさい」
「いや、いいさ。……んー、なら、何かお母さんに関係するものは持ってるか? お母さんから送ってもらったもの……とか」
「あ、じゃあこの……リボンを」
そう言って、リカは自分の髪を一房だけまとめているリボンを取り、俺の前に差し出した。
俺はそれに対して、【鑑定】を発動させる。
本来なら、表示される内容はそのリボンに関するものだけだ。
しかし俺の【鑑定EX】は特別。
結果、現れたリカのお母さんのステータス。
状態異常の欄に、それは記載されていた。
魔力循環異常。
本来なら魔力は体内を循環するものだが、それがうまく行っていないという状態。
……だそうだ、医学に明るくない俺は、鑑定によって現れた説明をそのまま読むことしかできない。
だが、何が起きているかさえわかってしまえば、後は店の中にある医療系の魔道具を片っ端から鑑定すればいい。
「ありがとう、リボンは戻して貰って構わないよ」
「は、はい」
そう言って立ち上がると、俺はカウンターの奥へと引っ込む。
数分かけて倉庫の中から魔力循環異常に効果のある治療薬と
「興味深い?」
「え、あ、は、はい! す、すいません」
「いや、いいよ。そうやって見てもらえると俺としても嬉しい」
言いながら、俺は治療薬をカウンターに置いた。
これを使えば、お母さんを治療できると簡単にリカへ説明する。
「あ、あの、えっと……」
「お代はいらないよ、このまま持っていくと良い」
「えっ!?」
そこで、リカはこれまでにないほど驚いた様子で目を見開いた。
それから、自分でもこんな大声が出ると思わなかったのか、恥ずかしそうに手で口をふさぐ。
「で、でも」
「……別に、俺は誰にでも親切にするわけじゃないよ」
スラム街には、リカのような人間は山ほどいる。
一人ひとりを救っていたら、お金がいくらあっても足らないし、時間もない。
俺がリカを助けるのは――
「俺の店に来て、店の商品に興味を持ってくれたからね」
「そ、それだけのことで、……ですか?」
「それだけ
「あ……」
お金を持たないスラムの子なら、それをお金に変えたいと思うのが当然なのだ。
それを否定するつもりはない。
加えてこれは、俺の押し付けがましい同情なのだけど。
親を失いかけている子どもを、俺は放っておけないのだ。
「それに、リカは本気でお母さんを救うために、この店にやってきた。その誠意を俺は買うよ」
「は、はい……」
店にある魔道具は高額だ。
なので、俺はいくつか防犯用の仕掛けを店に施している。
リカが魔道具を盗むつもりで店にやってきていたら、その仕掛けが作動していた。
そうではないからこそ、俺はリカに親切にするんだ。
「そうだ、これも持っていくと良い」
そう言って、俺はあるものをリカにわたす。
具体的に何かといえば――
「……ぼ、木剣、ですか?」
「ああ。なんてことはないただの木剣さ。治療薬はそこそこ高額だからね。盗まれると行けない」
「え、えと……わ、わかりましたっ」
そうして、リカは最後に大きく頭を下げて「ありがとうございますっ!」と叫び、去っていく。
多分普通に返したら、治療薬をチンピラに巻き上げられかねないが、木剣があれば大丈夫だろう。
あの木剣も、一応魔道具の一種。
【不壊】のスキルが付与された木剣で、頑丈さだけならそこらのオリハルコンの剣を軽く上回っている。
ただ、それで切れ味が上がるわけでもないし、重くないから威力も出ない。
貴重なものでは在るけど、値段がつかないという倉庫の肥やしにしかならないような剣だが――
そう、俺はリカが店にやってきた時、彼女を鑑定してリカに【剣術S】があることを見抜いていた。
シスターがリカをここに寄越したのも、そういう理由だろう。
スキルにはランクがあってEからA、そしてAの上にSがある。
俺のEXはそういった枠組みから逸脱したスキル、という意味。
なので、Sランクはスキルのランクとしては最上位だ。
すなわち、リカは剣の天才なのである。
だからあの木剣を始めて握っても、大人顔負けの剣士として振る舞えるだろうし、不壊の木剣というのは鍛錬に向いているのだ。
――俺は、ときに人に施しのようなことをすることがある。
これもまた、道楽といえば道楽で。
しかし決して、誰かのために施すわけではない。
今回の場合は、
情けは人の為ならず。
それは、道楽を極めるうえでも非常に重要なことと言えるだろう。