魔道具屋店主は異世界で道楽を極めたい 作:かてぃーな
食道楽なんて言葉があるように、食はこの世で最もわかりやすい道楽だ。
凝ろうと思えばいくらでも凝れて、上を見れば果がない。
前世ではコンビニの惣菜とインスタント食品くらいしか食べてこなかった俺だが、今は可能な限りいろいろなものを食べることにしている。
異世界だと食文化が前世と比べて微妙じゃないか、と思うかも知れないが侮ってはいけない。
実はこの世界は、前世とそう変わらない食文化を誇っている。
その要因は――【鑑定】だ。
「大量大量っと」
俺は森から採ってきたキノコを店舗兼住宅の厨房に並べる。
多種多様なキノコは、それら一つ一つが食欲をそそり実に美味しそうだ。
特に食欲をそそるのが、その鑑定内容。
一つのキノコを例に採ってみよう。
それは一見、何の変哲もない椎茸だ。
この椎茸を鑑定してみると、こうなる。
【ソレルシイタケ】
美味しさ:A
ダンジョン外「ソレル」近郊で採取できるシイタケ。ソレル近郊の森林は魔力が豊富で、植物はそれを浴びてとても良く育つ。ソレルシイタケは特に焼いた時の香りが芳醇で、それを好む料理人は多い。
とのこと。
ようするに、
【鑑定】スキルは、一般的なスキルである。
俺みたいな特別なEXランクのスキルを持たなくとも、Bランクくらいのスキルがあれば美味しさのランクまで図ることが可能。
特に美味しさのランクを図れるってのが、農業とか畜産をするうえでめっちゃくちゃ手間が省ける要素。
鮮度維持用の治癒魔術なんてものもあり、この世界の人間の食に対する執着は前世日本人にも負けていないのだ。
「よーし、じゃあ早速」
俺はまず、採ってきたキノコを適当なサイズに切り分けていく。
基本的に自分だけで食べる想定をしているので、形は適当だ。
結構な量になったので、それを一旦まとめてからフライパンを用意。
そこにバターを溶かして火で温める。
俺の利用するキッチンは当然魔道具で、料理をするために前世のそれに近づけて作ってもらったオーダーメイド品だ。
見た目だけなら、ちょっとファンタジーっぽい日本の一般家庭にあるキッチンである。
そうしてフライパンが温まったらキノコを投入。
濃厚な香りが、室内に広がっていく。
「おおー、うまそ」
そして、ある意味今回の主役である食材の登場だ。
なんとそれは醤油である。
異大陸から入ってきたというこの調味料は、今から百年ほど前に爆発的に流行したという。
この世界の食に対する執着は凄まじく、西洋風文化が広がるこの大陸ですら醤油を自由に使えるのだ。
「醤油とキノコの香りがいい感じにまざって……すごいな」
醤油が少し焦げて甘辛く、鼻をくすぐるいい匂いだ。
やがてそれらをいい感じのところまで焼き上げると、俺は火を止めて皿に料理を盛り付け始めた。
さて、メインディッシュはキノコのバター醤油焼きだが、他にも食べ物は色々とある。
適当にみじん切りにして、保存用の魔道具の中に取り分けておいたサラダと、キノコといっしょに採ってきた薬草にはちみつを入れて作る甘い薬草茶。
そして――
「炊きたてだ」
――白米。
この世界にも、米は存在する。
ただ俺が住む大陸だと麦が主食として育てられており、米は貴重だ。
それでも俺は、米を自由に何時でも食べれるよう備蓄している。
先ほど言った「保存用の魔道具」、一般的に保存庫って呼ばれるそれは、前世の冷蔵庫以上の性能だ。
切って用意しておいたサラダを、数日以上新鮮なまま放置できるのはもちろん、米だって長期間保存が可能。
性能がいいものは高価で、俺ですら一般的な家庭用保存庫しか手に入れられなかったが、手に入れる価値は間違いなくあった。
んで帰ってきた直後に、保存庫から米を取り出して釜で炊いたものが、出来上がったのが今。
ほっこりと白い湯気を上げる中に、新鮮な白米がみずみずしく鎮座している。
それを茶碗によそって、最後にサラダへドレッシングをかけたら完成だ。
森のきのこのバター醤油炒めと、サラダ、そして白米に薬草茶。
なんともごきげんな夕食ではないか。
「いっただきます」
そう言って俺は箸を手に、夕飯を食べようとすると――
カランコロン。
店の入口が、開けられる音がした。
この時間は鍵こそシメていないものの、店はやっていない。
やってくるとしたら、それは俺の知り合いということで――
「夜分遅くに申し訳ありません、シェレナです」
――シェレナの声を聞いた俺は、更に盛り付けられたキノコと釜の中にある白米に視線を向ける。
……2人分あるな、うん。
そう判断すると、二イっと若干胡散臭い笑みを浮かべて、店の方へと足を向けた。
◯
「あの、私もいただいてしまっていいのでしょうか」
「この時間に来るってことは、なんだかんだ若干期待してたところはあるだろ?」
「それは……扉を開けた瞬間から、キノコの香ばしい香りはしておりましたが……」
二人で席に座って、なんとなく申し訳無さそうにしているシェレナにご飯を食べるよう促す。
俺の知り合いは俺が食道楽だと知っているので、たまに夜頃にやってきて夕飯を集ったりする。
それを見越して――来なかった場合は翌日の朝食べるつもりで――俺の夕飯は基本多めに作られているのだ。
シェレナは今回、先日鑑定を依頼した戦利品の回収に来ただけなのだが、俺が食卓まで連れ込んだ。
見知った仲でなければ、なかなかどうして俺もやり手だな、とか周囲から思われそうである。
「ルイト様は、昔から料理がお好きですよね」
「昔から好きだったわけじゃないよ、少しずつ好きになっていったんだ。俗な話だけど、料理の腕が上達すればするほど、楽しくなるんだよ」
「なるほど……」
俺が料理をするようになったのは転生してからで、さらに言えば孤児になった後に生活が安定してからだ。
父が健在だった頃は使用人が料理を用意してくれていたし、孤児だった頃は食べれればなんでもよかった。
料理を作ることに目覚めたのも、店を持って自由に料理ができるようになったことも無関係じゃない。
一番の理由は、別にあるんだけど。
「まぁ、せっかくだしいただこうか、冷めちゃうともったいない」
「……し、失礼いたします」
そうして俺は、シェレナと二人で夕飯をいただく。
まずはキノコを一切れつまんで食べる、食べるのは先程鑑定したソレルシイタケだ。
「んん、ソレルシイタケの肉厚な食感がたまらない……」
「バターと醤油が、キノコの美味しさを引き立てていますね……」
口の中からあふれる、バターと醤油の香ばしさ。
一口噛むたびに、旨味が口の中に広がっていく。
ひとしきり食べた後に飛び出した感想は、俺もシェレナも絶賛だった。
「さて、それじゃあお楽しみの鑑定タイムだ」
「お楽しみ……ですか?」
「料理のランクを図るんだよ。今日こそはA++の評価をいただきたい」
そう言って、俺は【鑑定】を起動する。
そこには――
【キノコのバター醤油炒め】
美味しさ:A+
ソレル近郊で取れるキノコを集めてバターと醤油で炒めた料理。キノコの芳醇な香りと食感に、バターと醤油が絡んで絶品である。
「んー、だめかぁ」
これでもダメなのかぁ、と俺は少しだけ残念そうに肩を竦める。
そう、【鑑定】は料理の美味しさすら図ることが可能なのだ。
『A+』とランクは表記されている。
大事なのは『+』の数だ。
基本的に、ランクはEからA、そしてSがあると言ったけど、これは基礎値だ。
この世界のランクは鍛えることが可能で、鍛えた量によって『+』の数が増えていく。
あくまでランクは才能の基礎値とでも思ってもらえばいいだろう。
一人前といえる練度になれば『+』が一つ。
達人級の腕前になれば『++』。
料理で言えば、『A++』の料理を作れるようになれば、一流のシェフと言って差し支えない。
『+』の数はかなり大事で、たとえ基礎がBランクでも『B++』になれば、鍛えていないSランクよりもずっと強い。
だからこそ人々はこの『+』を増やす行為――レベルアップに執着しているわけで。
「なかなかうまくはいかないな」
「残念ですね……」
「とはいえ、料理の美味しさが落ちるわけじゃない。キノコは美味しくいただこうか」
「はいっ」
そう言って、俺はシェレナと二人で出来上がったキノコ料理に舌鼓をうつのだった。