副キャプテン 辰馬   作:匿名希望のぽっちゃり

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最後の夏〜序章〜

 

 

三年の夏序章 ― フラッシュパス練習

 

東邦学園グラウンド。夏の陽射しがじりじりと人工芝を焼きつける中、辰馬の声が響き渡る。

「もう一度だ! パスを受けたら、迷わずワンタッチ! 考えるな、感じろ!」

 

選手たちは指示通りに素早いダイレクトパスを繰り返す。ポンッ、ポンッと軽快に弾むボールの音がリズムを刻み、まるで一筋の閃光が走るようにゴールへと近づいていく。

 

反町が声を上げる。

「よっしゃあ、今の速えぞ!」

 

最後に日向が力強いシュートを叩き込む。

「おおおっ!」

ゴールネットが大きく揺れ、若島津が悔しげに両手を広げる。

「くそっ、止めきれねえ……!素早いダイレクトパスによりディフェンスも追いつかない。」

 

だが辰馬は首を振った。

「まだ遅い。翼なら、この倍の速さで崩してくる。……もう一度!」

 

選手たちはうなずき、再びパス練習に没頭した。

 

チーム全体が汗と熱気に包まれる中、タケシも楽しそうに声を出す。

「辰馬さん、今のパス、もうちょっと鋭く投げても大丈夫ですか?」

「おお、いいぞタケシ! 相手の隙間を突け!」

彼の加入で東邦の連携は一段と鮮明になり、フラッシュパスの完成に向けて練習の熱気はさらに増していく。

 

 

 

 

 

練習後 ― 日向との対話

 

夕暮れ。練習を終えたグラウンドで、辰馬は日向に声をかける。

「おい、今年が最後なんだ。獲物を狩り取る虎に戻れよ」

 

汗をぬぐった日向は、目を伏せたまま応えない。辰馬は一歩踏み込む。

「豪快に点を取っても、昔みたいな迫力が薄れてる。お前の本当の怖さは、相手を食らい尽くすあの獰猛さだろ?」

 

その言葉に日向の眉がぴくりと動いた。

「……辰馬。お前、最近俺のことを見下してないか?」

声は低く、怒気を含んでいた。

「俺は東邦のエースだ。点も取ってる。なのに“迫力が薄い”だと? 勝手なこと言いやがって」

 

辰馬はひるまず睨み返す。

「勝手じゃねえ。チームの誰も気づいてねえかもしれんが……俺はお前と全国制覇するためにここにいる。だから言うんだ」

 

しばし沈黙。日向は唇を噛みしめ、去っていく。

 

夕暮れに染まる横顔は、かつての“飢えた虎”の迫力を確かに欠いていた。

 

 

私生活の陰影 ― 手紙を書く夜

 

夜の寮の一室。窓の外には月明かりが差し込み、静寂が部屋を包む。辰馬は机に向かい、ペンを握って便箋に文字をしたためる。

「……さて、今日も一日が終わったな」

 

深呼吸を一つ。練習で汗をかいた体はまだ熱を帯びているが、心は少し落ち着いていた。ペンを走らせながら、思い浮かぶのは彼女の笑顔だ。

 

【久しぶり、元気にしてた?サッカー部の副キャプテンだなんて、辰馬くんにぴったりね。実は言ってなかったんだけど……私も吹奏楽部の副キャプテンになったの。二人とも副キャプテンだなんて、ちょっと可笑しいよね。ふふっ。明和東中に行った友達から聞いたんだけど、明和FCの元メンバーたちがすごくなってるんだって。東邦学園も追われる立場になるなんて……気をつけてね。大好きだよ♡】

 

微笑みながら辰馬は便箋を丁寧に折り、封筒に入れる。切手を貼り、明日ポストに投函する準備を整えながら、自分の心を静める時間となる。

「……よし、明日も気を抜かずに戦術練習だな」小さく呟く声に、自分自身への覚悟が滲む。

 

 

運命の再会 ― 三杉淳との遭遇

 

翌日、午前の練習を終えた辰馬は、街へ手紙を出すために一人歩く。雑貨店の前でふと目を留めると、同い年くらいの茶髪の青年と、横には彼女のような少女が立っていた。

 

「……三杉、三杉淳」

 

目の前の青年は、元武蔵野FCキャプテンで天才ゲームメーカー《ガラスのエース》。心臓の病により15分しか試合に出られなかったが、その技術は誰もが認めるものだった。

そして春からは30分なら試合に出れるとも噂で聞いていた。

 

「友坂君、やあ。こんなところで何してるんだ?」三杉が笑みを見せる。

 

隣の少女――青葉弥生が軽く笑いながら言う。

「ふふ、あの可愛い便箋でしょ? 彼女さんに書いた手紙じゃない?」

 

辰馬は少し赤面しつつも、頷く。

「ええ……午後から休みでね、ちょうど出そうと思っていたんだ」

 

三杉は真剣な表情に変わる。

「友坂君、君の戦術眼、統率力は日本屈指だと思っている。ぜひ戦いたい」

 

 

弥生が少し困った様子で口を挟む。

「日向くんは……いいの?」

 

理由は分かるだろと言う風に三杉は友坂を見る。

 

辰馬は視線を遠くに向ける。

「今の日向は……わかっている。けど、俺たちは全国制覇を目指している。誰と戦おうと関係ない」

 

一瞬の沈黙の後、三杉たちは颯爽と去っていく。辰馬はポストに手紙を投函し、街を歩きながら思考する。

 

(今の日向には、小学生の頃の恐ろしさはない……人としての成長だと俺は思っていたが、三杉はそう見ていない。小次郎のゴールへの飢えが落ちた、と感じたか……)

 

辰馬は空を見上げる。高く舞う鳥の姿に、己の覚悟を重ねる。

(檻の中で満足している虎では、自由に空を飛ぶ鷹には届かない――大会はすぐそこだ。どうする、小次郎……)

 

 

全国大会直前 ― 緊張の影

 

練習場に戻った東邦学園の選手たちは、疲労の中にも決意を帯びていた。日向は強烈なシュート練習を重ね、反町やタケシもフラッシュパスの精度を上げる。

 

「おい、もっと速く! 仲間の位置を確認しろ!」

辰馬の声は、グラウンドに響きわたり、選手たちの緊張感を高める。

 

それぞれの瞳に映るのは、全国制覇というゴールへの道。だが、同時に南葛中学、翼や井沢の存在が、影となって重くのしかかる。

 

「……くそっ、今年こそ勝つぞ」

日向は拳を握り、己に誓う。

 

チーム全員が心を一つにし、夏の大会へ向けて最終調整を行う。闘志と焦燥、期待と不安――全てが交錯する中、東邦学園の夏が、いま静かに幕を開けようとしていた。

 

 

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