副キャプテン 辰馬   作:匿名希望のぽっちゃり

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猛虎決起 ー東邦のキズナー

 

南葛中の放課後

 

「やっぱり最後は東邦かぁー!」

グラウンド脇、南葛中の選手たちは武蔵中との一戦をマネージャーが録画してくれたビデオで見終えると、思わず顔を見合わせた。

 

「何だかんだ言っても、結局勝つのは東邦なんだな…」

石崎が両手を腰に当て、大きくため息をついた。

 

井沢は腕を組んだまま険しい表情を浮かべている。

「でもさ…あの連続ダイレクトパス見たか? 速さと正確さが段違いだって実況が叫んでたじゃないか…実際にその通りだったな。翼と俺で去年は何とか中盤を押さえたけど…今年は沢田まで入ってる。果たしてどうなることか…」

 

「友坂は後半もすごかったよな。」

滝の問いに、井沢は静かにうなずいた。

「うん。あいつはゲームを読む力が抜群だ。去年よりもずっと怖い存在になってる。南葛が勝つには、翼だけじゃダメだ…全員で挑まないと。」

来生も答える「たしかに、後半なんて日向率いるじゃなく友坂の率いる東邦ってかんじだったもんな」

 

皆の会話を聞きながら、翼は黙って空を見上げていた。

(惜しかったね、三杉くん…。でも、やっぱり東邦は強い。しかも…あの連携は本当にすごかった。俺たちのサッカーがどこまで通じるか…勝負だ!)

 

翼の目は、次なる決戦に向けて静かに燃えていた。

 

 

東邦学園の夜

 

一方その頃、東邦学園の寮の一室では、日向小次郎が机の上にカバンを広げ、衣類やトレーニングウェアを手際よく詰め込んでいた。

 

(牙の抜けた虎…)

吉良監督の言葉が、頭から離れない。

 

「昔のお前なら三杉の心臓を蹴破ったとしてもゴールを目指したはずだ!」

「優しくなりすぎた。闘志を失った。」

 

その声が耳にこびりついて、何度も胸を抉った。

 

(翼に負け続ける…そんなのは絶対に嫌だ。このまま終わってたまるか!)

決意を固め、カバンのチャックを閉めようとしたその時――

 

「吉良監督のところに行くのか?」

 

低く、しかし鋭い声。振り返れば、部屋の入り口に友坂辰馬が立っていた。

 

「辰……」

一瞬言葉を詰まらせる日向だったが、すぐに視線を逸らさず答えた。

「ああ。俺はもう翼に負けたくない。俺にも…お前にもな。」

 

「俺に一言も無しで行くなんてね」

友坂の目は細められていたが、怒りよりも諦観に近い静けさがあった。

 

日向は言葉を失い、黙り込む。

その沈黙を破ったのは、再び友坂だった。

「全国大会前にキャプテンが失踪なんて――キャプテン失格だぞ。」

 

「……」

痛いところを突かれた。だが日向は小さく吐き出すように言った。

「辰…お前がいるから、俺は安心して……」

 

「監督はまだ起きてる様だ。行くぞ。」

 

「おい!」

日向が慌てて声を上げるが、友坂は一歩も引かない。

 

「全国大会前にキャプテンがいなくなる以上、筋とケジメはつけるもんだ。」

その有無を言わせぬ迫力に、猛虎と呼ばれた日向ですら口を閉ざすしかなかった。

 

 

北詰監督との対峙

 

トントン。

夜の静寂を破るノックの音に、北詰監督は目を細めた。

 

「誰だ?」

 

「監督。夜分遅くに申し訳ありません、友坂と日向です。至急お話したい事があります。」

 

(こんな夜更けに…? だが、友坂も日向もつまらん事で来る様な奴ではない)

北詰監督は深い溜息をつき、低く答えた。

「入れ。」

 

ドアが開く。

堂々とした友坂と、思いつめた顔をした日向。

監督はすぐに二人の異様な気配を感じ取った。

 

「どうした。こんな夜更けに。明日では駄目なのか?」

 

「はい、今でなければ駄目なんです。」

友坂の声は揺るぎなく響く。

 

「言ってみろ。」

 

一拍の間を置き、友坂は深く頭を下げた。

「全国大会までの暫くの間、小次郎を沖縄に行かせてください!お願いします!」

 

「お願いします!」

日向も同時に頭を下げた。

 

「なっ!? キャプテンである日向が全国大会前の大事な時に沖縄だと!? 旅行にでも行こうってのか!」

北詰監督の怒号が部屋を震わせる。

 

しかし友坂は一歩も退かない。

「今日試合を見ていた明和FC時代の恩師・吉良監督に言われたんです。今の小次郎は牙の抜けた虎だと…おれもそう思います。」

 

日向は口を閉ざしたまま、ただ必死に監督を見据えていた。

 

「吉良だぁ!? どういうことだ! 日向はサッカー特待生としてウチに来たんだぞ! それをキャプテンでありながら出ていこうってのか!」

 

北詰監督の怒りに対し、友坂は落ち着いた声で返す。

「勝つ為です。」

 

その言葉に監督は沈黙する。

日向が続けた。

「お願いします。このまま翼に負けたくないんです。」

 

少し間を置いて、北詰監督は吐き出すように言った。

「サッカーはチームスポーツだ。友坂が考えたフラッシュパスもある。お前個人が大空翼に負けようが、チームとして勝てば良い。そうじゃないか?」

 

だが友坂は即答した。

「負けます。」

 

「なに…?」

 

「確かにサッカーはチームスポーツです。ですが、南葛に…大空翼に勝つにはそれだけではダメなんです。全国制覇には――猛虎の復活しかない!」

 

「お願いします!」

日向も頭を下げ、強い声を上げた。

「大会本番までには必ず帰ってきます!お願いします!」

 

監督は腕を組み、二人をじっと見つめる。

 

(勝てない、か…。ああもはっきり言うとは…だが、事実なのかもしれんな。)

 

「私はチームを疎かにする様な人間を使わない。今回の日向がそうだ……私に信念を曲げろと、そう言う事か?」

 

「うっ…」

日向は答えられなかった。

 

その時、友坂がはっきりと口を開いた。

「はい。曲げてください。」

 

「なっ!」

北詰監督の目が大きく見開かれる。

 

「安心してください。監督に信念を曲げろと言うからには、自分たちも覚悟があります。」

 

「覚悟だと?」

 

「はい。小次郎、全国大会では南葛戦だけ出ろ。三年連続得点王の栄誉は諦めろ。」

 

「……そうだな、分かった。」

日向は拳を握り、頷いた。

「お願いします。南葛戦だけで構いません!」

 

監督は再び黙し、今度は友坂に視線を移す。

 

「俺は監督に信念を曲げさせ…小次郎に栄誉を捨てさせたんです。…俺は優勝出来なかった場合………退部します。」

 

そう言って、友坂は懐から退部届を取り出し、監督に差し出した。

 

「なっ!」

日向が慌てて叫ぶ。

「何考えてんだ!お前がそんな事言うな!退部なら俺がする!」

 

北詰監督は冷静に言い放つ。

「分かっているのか?お前らはサッカー特待生なんだぞ。退部はそのまま退学を意味する。」

 

だが友坂は一歩も引かない。

「退学の覚悟もなく、監督に信念を曲げろと…納得しますか?」

 

監督は目を閉じ、長い沈黙に入った。

 

やがて目を開けた時、その瞳には覚悟の光が宿っていた。

「条件がある。」

 

 

北詰監督の条件

 

「条件がある。」

 

北詰監督の声は低く重かった。

緊張で張り詰めた空気が、一層濃くなる。日向も友坂も、思わず息を呑んだ。

 

「日向。お前は沖縄へ行け。ただし――」

監督は鋭い視線を突きつける。

「全国大会の本番までに戻らなければ、即刻除籍処分とする。仮に戻ってきても、南葛戦には出させん。それ以外の試合にも一切出場を認めん。次に友坂を除く部員全員がお前の出場を認める事、信頼されていない人間をレギュラーに戻すわけにはいかない。あとは実力だ、日向が私に出場を願い出たら若島津、反町、沢田との3対1の勝負をしてもらう。それに勝て。」

 

「……!」

日向の胸に衝撃が走る。しかし、次の瞬間には唇を強く結び、頷いた。

「分かりました。それで構いません。」

 

「そして――」監督の視線は、今度は友坂に向けられた。

 

「お前が今、退部届を差し出す必要はない。だが、もし優勝を逃した時は……お前に全責任を取らせる。チームを背負い、ゲームを支配し、優勝へ導け。出来なければ退部、いや退学だ。それが覚悟だろう。」

 

友坂は一歩も退かず、深々と頭を下げた。

「承知しました。勝ちます。必ず。」

 

監督は長い沈黙ののち、椅子から立ち上がった。

「……いいだろう。だが忘れるな。私は勝利に徹する監督だ。情けで首を縦に振ったわけではない。日向――牙を取り戻して来い。」

 

その言葉に、日向の胸が熱く燃え上がる。

(俺は必ず戻る。翼に、三杉に、辰に……負けてたまるか!)

 

こうして、夜の対峙は終わった。

 

 

 

真夜中の出発

 

真夜中――。

東邦学園の寮の前、まだ夜の闇がグラウンドを包む中、日向小次郎は静かに立っていた。肩にはカバン。普段なら仲間と冗談を交わす時間だが、今は違う。胸の奥には、吉良監督の言葉が熱く残っていた。

 

(牙の抜けた虎――もう一度、あの牙を取り戻す…)

 

日向は深呼吸し、肩のカバンを一度だけぎゅっと握った。その時、背後で足音が止まる。

 

「小次郎…」

振り返ると、友坂辰馬が立っていた。街灯の灯りを背に、表情は真剣そのものだ。

 

「辰……」

日向は言葉を詰まらせる。視線は揺れない。

「俺はもう、翼に負けたくない。俺自身のためにも……お前のためにも。」

 

友坂は小さく頷き、穏やかに一歩前へ出る。

「お前が一人で行こうとしているなら、俺は何があってもついていく。覚悟は見せてもらうぞ、小次郎。」

 

日向の胸が熱くなる。互いの目が、言葉を超えて何かを語り合う。

(これが…俺の道か――)

 

友坂は鞄を肩にかけ、静かに付け加える。

「お前が沖縄に行く間、俺がチームを支える。安心して行け。」

 

日向は少し笑った。笑顔は軽いが、瞳の奥には燃える炎が宿っている。

「辰……頼むぜ。俺が戻るまで、しっかりやれよ。」

 

「任せろ。」

友坂は力強く頷き、日向の横に並ぶ。二人の影が長く伸びる。朝靄の中、まるで新たな戦いの始まりを告げるように、二人は歩き出した。

 

(虎の牙を取り戻す――俺は必ず戻る。翼に、三杉に、そして俺自身に負けるわけにはいかない。)

 

背中に刻まれた覚悟。それを知るのは、二人だけだった。

 

 

 

友坂の覚悟

 

日向を見送った後、グラウンドに戻った友坂は、ただひたすらにボールを蹴り続けた。

 

(小次郎は必ず帰ってくる。だが……その時、俺がチームを導けなければ、すべては水泡に帰す。)

 

額から流れる汗が地面に落ちる。

仲間たちが心配そうに声をかけるが、友坂は首を振るだけだった。

 

 

――退部届。

北詰監督に差し出したあの紙の重みが、まだ手に残っている。

あれは単なる形式ではない。未来を賭けた証。

 

 

 

「……負けられない。」

独り言のように呟く声は、誰に届くわけでもなかった。

 

 

 

北詰監督の独白

 

日向と友坂が部屋を出たあと

監督室で一人、北詰は窓の外を見つめていた。

 

「牙を失った虎、か……。吉良監督め、余計なことを言ってくれる。」

苦笑を浮かべつつも、胸の奥では理解していた。

 

(三杉に翻弄され、確かに日向は焦りを見せた。だが、辰馬は違った。三杉と互角に渡り合い、フラッシュパスでチームを支えた。)

 

ペン先で机を軽く叩きながら、独り言を続ける。

「辰馬は正しい。勝負は個人の力で決まる瞬間がある。だがそれを補うのがチームだ。……奴らの言葉は一見矛盾しているようで、実は一つの真理を示しているのかもしれん。」

 

そして小さく笑った。

「面白い。日向と辰馬、二人の賭け……見届けてやろうじゃないか。」

 

窓の外には、まだ夜の闇が広がっている。

だが、遠くで確かに夜明けを告げる光が差し始めていた。

 

 

沖縄への旅立ち

 

 

羽田空港に立つ日向小次郎の姿があった。

 

空港の喧騒の中でも、彼の心は一点のみに集中している。

(翼、待ってろ。必ずお前を越えてやる。)

 

飛行機が離陸し、東京の街並みが小さくなる。

その瞬間、猛虎再生の物語が本格的に動き始めた。

 

(俺が勝つ。必ず。)

 

それぞれの覚悟が交差し、やがて一つの舞台――全国大会で交わる。

 

 

チェックインカウンターや出発ロビーには、旅行客やビジネスマンのざわめきがある。しかし、日向にはそれらの音は届かず、頭の中は吉良監督の言葉と、自分自身の決意だけで埋め尽くされていた。

 

(牙の抜けた虎…いや、牙を取り戻すんだ。翼に負けるわけにはいかない。俺が戻るまでは、東邦は俺が支えてきた道を信じてくれるはずだ…)

 

荷物をカートに乗せ、彼は窓の外に目を向けた。青空の向こうに飛行機が滑走路を走る。

(あの飛行機に乗れば、新しい俺になる。今の俺を壊して、強くなる…)

 

手元のチケットを握りしめる。指先に汗が滲む。

「絶対に…必ず戻る。」

 

言葉に出してみると、胸の奥が震えた。決意が身体全体に波のように広がる。誰もいない空港で、一人、日向は心を整えた。

 

「行くぞ、小次郎…」

 

搭乗ゲートへ向かう足取りは、重いようでいて、どこか軽やかだった。

新たな猛虎への道――それは孤独で、しかし確かなものだった。

 

 

 

友坂の独白

 

一方、東邦学園の寮。友坂辰馬は部屋の机に向かい、窓の外を見つめていた。

日向が去った後の静寂に、初めて訪れる重さを感じている。

 

(小次郎を行かせる――あいつのためだ。だが…本当に戻ってくるのか? いや、戻るはずだ。あいつなら、必ず牙を取り戻す。)

 

胸の奥が締め付けられるように痛む。

(でも、その間、俺はどうする? チームのことを支え、進める。俺自身も、この期間で一皮剥けなければならない…)

 

机の引き出しを開け、手紙を取り出す。

彼女宛だった。まだ渡していない、何かを伝えたいけれど言葉にできなかった想いを紙に綴る。

 

「突然だけど、しばらく俺は忙しくなる。小次郎の件で、そして自分自身を鍛えるためにも…俺は、もっと強くなる。必ず戻ってくるから、待っていてほしい。」

 

ペンを置き、友坂は深く息をつく。

(あいつのため、チームのため、そして俺自身のために。逃げるわけにはいかない。)

 

手紙を封筒に入れ、机の上に置く。窓の外では朝日が部屋に差し込み、長い影を床に落としている。

友坂は拳を握り、静かに呟いた。

「小次郎…絶対に、戻るんだぞ。そして俺も…強くなる。」

 

 

東邦学園では友坂辰馬が仲間を集め、全国制覇への新たな戦術を模索していた。

日向不在の間、彼が背負うものはあまりに大きい。

だが、その眼差しは決して揺らいでいなかった。 

 

 

 




本作はこの話を書きたくて投稿させて貰いました。
原作でカタツムリ監督が怒るのは無理のない事だったと思います。辰馬がいる事で少しでもみんなが納得するカタチを作れればと思いました。
いよいよ全国大会ですね……果たして辰馬は東邦学園を勝たせる事が出来るのか…
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