副キャプテン 辰馬   作:匿名希望のぽっちゃり

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東邦学園ー名門への道ー

 

全国大会開会前日ーーー

 

放課後のグラウンドには、まだ夕陽が赤く差し込んでいた。セミの声と、ボールを蹴る乾いた音が交じり合う。

キャプテン不在のチームをまとめるのは容易ではない。しかし友坂辰馬は、そんな迷いを一切見せなかった。

 

「おい!反町、沢田!パスをもっと速く、ワンタッチでつなげ!」

鋭い声が響き、仲間たちが緊張感をもって動き出す。

 

日向が不在となった今、東邦学園は全国制覇を狙ううえで大きな穴を抱えていた。だが、それを補おうとするかのように、全員の目はいつも以上に真剣だ。

 

 

■フラッシュパスの練習

 

東邦の伝統とも言える高速連続ダイレクトパス――いわゆる「フラッシュパス」。

この戦術を完成度高く磨き上げることこそが、日向抜きで全国を戦い抜く唯一の道だった。

 

「沢田、今のは遅い!俺に預ける時はボールの勢いを落とすな!」

「は、はいっ!」

 

一年生の沢田タケシは額に汗をにじませながら、必死にボールを追った。

彼にとってはこの練習のテンポはまだ速すぎる。しかし、友坂も反町も妥協を許さない。

 

「よし、もう一度! 反町、サイドから入ってこい!」

「任せろ、辰馬!」

 

反町の鋭い動き出しに合わせ、友坂がワンタッチでボールをさばく。そのボールは滑らかに沢田へ、そして再び友坂へと戻ってきた。

一瞬の間もなく繋がるパス。見ているだけで目が回るようなスピード感。

 

しかし、まだ完璧ではない。

パスがわずかにずれる。

受け手の足元に収まらない。

リズムが崩れる。

 

「だめだ、止まってるようじゃ南葛には勝てん!」

友坂の叱咤がグラウンドに響いた。

 

それでも、チームメイトたちの表情は引き締まっている。日向がいなくても、この男が東邦を引っ張っていく。その事実を、全員が理解していた。

 

 

■友坂の個人練習

 

全体練習が終わり、夜の帳が下りる。

他の部員たちが引き上げた後、友坂は一人グラウンドに残った。

 

「……まだ足りん。」

 

ボールを前に置き、深く息を吸う。

彼が取り組んでいるのは二つ――

 

ひとつは、無回転のパワーシュート。

足の甲で強烈に蹴り出すことで、無回転のままブレを生み出すシュート。しかし威力を増すほど、ボールは制御不能のように大きく揺れる。まだ試合で使えるレベルではなかった。

 

「ぐっ……また外れた。」

 

照明の下で蹴られたボールはゴール枠を外れ、フェンスに当たって虚しい音を立てた。

 

もうひとつはヒールリフト。

翼も得意とした技だが、辰馬はそこに新しい発想を加えようとしていた。

 

「ただ浮かせるだけじゃ、読まれる……もっと意外性を……。」

 

彼はヒールでボールを跳ね上げると同時に、体のひねりやフェイントを組み合わせる。

だが、思うようにいかない。ボールは変な回転がかかり、思った方向へ飛んでくれない。

 

「まだだ……。もっと工夫しなきゃ、翼にも、日向にも勝てん。」

 

額の汗をぬぐいながら、彼は何度もトライを繰り返した。夜風に吹かれ、ボールを追う姿はまるで孤独な戦士だった。

 

 

■夜の寮にて

 

その頃、寮の一室では三人の選手が語り合っていた。

若島津健、反町一樹、そして一年生の沢田タケシ。

 

「なぁ、辰馬さん……すげぇよな。」

反町が口火を切った。

「日向キャプテンがいねぇってのに、あんなに堂々とチームをまとめやがる。」

 

「……ああ。」

若島津が頷く。ゴールキーパーとしてチームを後方から支える彼もまた、友坂の存在感をひしひしと感じていた。

「キャプテン(日向)さんの代わりなんて、本当はいねぇ。でも辰馬さんは、それを背負おうとしてる。」

 

沢田が少し緊張気味に言葉を挟む。

「ぼ、僕なんか、まだまだ練習についていくのがやっとで……でも、辰馬さんの声を聞くと……なんていうか、ついていきたいって思えるんです。」

 

反町は苦笑しながら肩をすくめた。

「一年生にまでそう思わせるんだ。やっぱ大したもんだな。」

 

しばし沈黙が流れた。

やがて若島津が真剣な眼差しで二人を見る。

 

「だが……俺は信じてる。」

「え?」と沢田。

 

「日向キャプテンは必ず戻ってくる。どんな事情があろうと、あの人が俺たちを見捨てるわけがねぇ。」

 

その言葉に、反町も力強く頷く。

「そうだな。沖縄に行ったって話は聞いたが……吉良監督に何か仕込まれてんだろう。帰ってきたら、とんでもねぇ怪物になってるかもしれねぇな。」

 

沢田も小さく拳を握った。

「……はい。僕も信じます。キャプテンが帰ってくるって。」

 

部屋の空気は、少しずつ前向きなものへと変わっていった。

最後に若島津が口を開いた。

 

「だからこそ、俺たちはキャプテンがいねぇ間、絶対に崩れちゃならん。俺はゴールを死んでも守る。反町、お前は点を取れ。沢田、お前は走れ。辰馬さんが導いてくれる。キャプテンが戻るその時まで――俺たちは全力で戦うんだ。」

 

三人の目が輝いた。

小さな誓いが、この夜確かに結ばれたのだった。

 

 

 

夜……東京の東邦学園サッカー部宿舎でもまた静かに一つのドラマが動いていた。

 

夜の寮は遠征前らしくどこか高揚感に包まれている。

明日の開会式と初戦を前に、選手たちはそれぞれの部屋で気持ちを整えていた。

 

キャプテン代理を務める友坂辰馬は、部屋の電気を消す前にもう一つ大事な用事を果たすため、監督室へと向かった。

 

ノックをすると、すぐに「入れ」という低い声が返ってくる。

 

北詰監督は机に広げた対戦表と資料に目を落としていた。

タバコの煙がゆっくりと漂い、いつも以上に険しい顔つきだ。

 

「監督、失礼します」

「……辰馬か。どうした?」

 

監督は鋭い視線を向ける。

 

「日向はまだ帰って来ないのか。何か連絡はないのか?」

 

いきなり核心を突く問い。

辰馬は一瞬言葉を探したが、真っ直ぐに答えた。

 

「はい、連絡はきていません。ただ……沖縄に台風が来ているそうですし、遅れているのではと思います。ですが、あいつは必ず帰って来ます。」

 

北詰は苦い表情を浮かべ、長い吐息を吐いた。

「そうか……。まったく、あの強情者め」

 

「ところで、何か話しがあって来たんじゃないのか?」

 

監督の鋭い視線に、辰馬はうなずいた。

 

「実は選手の起用についてお願いがありまして」

 

「選手起用に?」

北詰は目を細め、机に組んだ腕を組み直す。

それは監督の権限だぞ、という無言の圧。

 

しかし辰馬は引かない。

 

「はい。下級生を含めたリザーブメンバーを積極的に起用してほしいんです。」

 

「リザーブだと?」

「はい。来年、再来年を見据えての戦力強化です。」

 

「来年?再来年?」

北詰の眉間にしわが寄る。

「今年優勝すらしていないのに、気の早い話だな」

 

辰馬は姿勢を正し、真剣な瞳で監督を見据えた。

 

「今年、俺たちは必ず優勝します。その上で、来年・再来年も二連覇、三連覇を狙うために、今のうちから実戦経験を積ませたいんです」

 

監督の表情がさらに険しくなる。

「友坂、それは油断ではないか? トーナメントは一度でも負ければ終わりなんだぞ」

 

「もちろん承知しています。ですが、今回のトーナメントの山を見ても、強豪は多くが南葛側に集まりました」

 

「強豪だと? ふらの中や花輪中のことか?他にも隠れた強豪、ダークホースが出てくるだろう。」

 

辰馬「そうですね。後は中西のいる難波中を破った東一中、長崎の強豪・西海中を大差で破った平良戸中、四国No.1の南宇和中は南葛の山にいます……」

少し間を置き、辰馬は真剣な声で言葉を続けた。

「ただ、俺や日向、若島津、タケシと同じ明和FCのOBが主力の明和東中は同じ山にいます。。同じ山にいる以上、必ず当たる手強い相手です。」

 

スラスラと自分が分析した強豪校を言い当てられ、北詰監督は戸惑う。

 

辰馬「俺たちは必ず勝ち続けます…南葛に勝って優勝します。ですがそれは俺たち一代限りではありません。来年以降はタケシ達を中心に東邦サッカー部はやっていくんです。今のうちに東邦の精神を…戦術を…強さを伝えたいんです。よろしくお願いします。」

真剣に語ったあと、頭を下げる辰馬。

 

辰馬の言葉に考える北詰監督(名門となるには必要な事か…)

「わかった。ただしトーナメントは入り方が重要だ。前半で優位だった場合は積極的に使っていこう。」

 

「ありがとうございます。」

 

「うむ、明日は開会式だけじゃない試合もある…今日は戻って明日に備えて休め。」

「はい、失礼しました。」

 

出ていく辰馬…その背中を見送りながら、北詰はふっと口元を緩める。

 

「……日向の代わりにチームを背負うかと思えば、もう先を見据えているとはな。友坂、お前は本当に頼れる男になった」

 

 

■翌朝、友坂の決意

 

翌朝。

まだ陽も昇らぬ時間に、友坂は再びグラウンドに立っていた。

 

彼は空を仰ぎ、ボールを胸に抱える。

「日向……お前がいなくても、俺たちは戦う。だが俺は信じてる。必ず戻ってくるってな。」

 

ボールを地面に置き、力強く蹴り出す。

乾いた音が、朝の静寂に響き渡った。

 

「それまで俺が、東邦を守る!」

 

彼の声はグラウンドいっぱいに響き、昇り始めた太陽に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

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