副キャプテン 辰馬 作:匿名希望のぽっちゃり
明和FC vs 南葛SC 決勝戦・前半
決勝戦の笛が鳴った瞬間、会場の空気は一変した。観客席からどよめきが走り、ピッチに立つ二十二人の選手に視線が集中する。
その中で、明和FC副キャプテン・友坂辰馬は冷静な眼差しを光らせていた。背番号は「7」。チームの要として、そして「軍師」と呼ばれる頭脳派ボランチとしての役割を胸に刻んでいる。
試合開始早々、南葛が攻撃の構えを見せる前に――辰馬は動いた。
「行くぞ、小次郎!」
右サイドからのパスを受けた辰馬は、マークに入る岬太郎を背負ったまま軽やかにボールを浮かせる。ヒールでボールをすくい上げる――得意のヒールリフトだ。観客が思わず声を上げる。
「出た! 軍師のヒールリフト!」
ボールは頭上を越え、背後へ抜ける。すかさず日向小次郎が走り込む。辰馬は振り向きざまに声を張り上げた。
「虎の牙を剥け!」
「おうっ!!」
日向はノートラップのまま豪快に右足を振り抜いた。ボールは地響きのような轟音を立てながら一直線にゴールへ。若林源三が反応するも、間に合わない。ネットが激しく揺れ、明和が先制点を挙げた。
開始直後の一撃に、スタンドは大歓声で揺れる。
日向がガッツポーズを突き上げ、辰馬は無言で彼の肩を叩いた。二人の目が合う。言葉はいらなかった。
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だが南葛も黙ってはいない。すぐさま翼と太郎が中心となって攻勢を仕掛けてくる。
「翼くん、行こう!」
「ああ、岬くん!」
黄金コンビと称される二人の連携。ワンツーで右サイドを切り裂く。だが、その動きを辰馬は読んでいた。
「そこだ!」
パスの受け手へ素早く寄せ、鋭いタックルでボールを奪い取る。観客から再びどよめきが起きる。
「軍師だ! やっぱり読んでる!」
辰馬は冷静に前線へ繋ぎ、攻撃へ転じた。吉良監督がベンチから頷く。彼の信頼は絶対だ。
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前半はその後も、南葛の猛攻を辰馬が幾度も防ぐ展開が続いた。
翼のキープ力、岬のスルーパス。どれもが脅威だが、辰馬の戦術眼は一歩先を行っていた。
「翼、太郎……何度でも止める!」
その声に呼応するように、日向や沢田、若島津が身体を張る。まるで軍師に率いられる兵のごとく、明和は一丸となって南葛を封じ込めていく。
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しかし前半終了間際、試合は劇的な展開を迎える。
再び翼と岬のコンビ。今度は中央突破。辰馬は冷静にパスコースを遮断し、動きを封じる構えを取る。
「また同じパターンだ……翼、太郎、通さない!」
だがその瞬間。
「まだだ、翼くん!」
「うん、岬くん!」
二人は同時にシュートへ踏み込んだ。互いの意思が重なり、執念が爆発する。
二本の足が、同じ瞬間にボールを叩いた。
――ズガァァンッ!!
雷鳴のごとき轟音。弾丸のようなシュートがゴールへ一直線に突き刺さる。若島津が渾身のセーブに飛ぶも、その威力に押し込まれる形でネットが大きく膨らんだ。
「なっ……ツインシュート!?」
辰馬の目が大きく見開かれる。
それは練習で作り上げられた連携技ではない。ただ二人の「どうしても決めたい」という強い思いが、奇跡のように噛み合った産物だった。
辰馬は息を呑む。
そしてふと、ボールを追って汗に濡れる太郎の顔を見た。かつて明和FCで共にボールを追いかけた仲間。その太郎が今、南葛の一員として自分に挑んでいる。
「……やるな、太郎」
小さく呟くと、心の奥で熱い炎が灯った。
スコアは1対1。前半は互角のまま終了を迎える。