副キャプテン 辰馬 作:匿名希望のぽっちゃり
後半の笛が鳴り響いた瞬間、スタジアムの空気はさらに熱を帯びた。
南葛と明和、互いに一歩も譲らぬ前半を終え、スコアは1対1。
選手たちは汗と泥にまみれ、呼吸は荒く、それでも瞳の奥には燃える炎が宿っていた。
■SGGK・若林の壁
明和のキックオフ。
辰馬がボールを受けると、一瞬のヒールリフトでマーカーをかわし、前へとボールを進める。日向が吠えるように走り込む。
「行くぞ、辰ッ!」
「任せろ、小次郎!」
二人の動きに呼応して沢田や他の仲間が次々と走り込み、波状攻撃を仕掛ける。
シュート――若林の手が弾き出す。
こぼれ球――再びシュート――またも若林が飛びつき防ぐ。
観客席からどよめきが起こった。
「すごい…!全部止めたぞ!」
「さすがSGGK(スーパーグレートゴールキーパー)若林源三!」
まるでゴール前に鉄壁の壁が築かれたかのように、若林はことごとくシュートを阻んだ。
■翼のカウンター
守り切った南葛はすかさずカウンター。
ボールを奪った井沢がサイドを駆け上がり、中央の岬へ。岬が華麗にワンタッチで翼へ繋ぐ。
「翼くん、行け!」
「おうっ!」
翼のスピードは増す一方だった。
ドリブルで二人、三人とかわし、最後は若島津との一対一。
若島津が前に飛び出す。
「止めるぞっ!」
だが翼は冷静だった。鋭いタッチでボールを浮かせると、右足で強烈なシュートを叩き込む。
若島津の指先がわずかに触れるも、ボールはネットを揺らした。
「ゴオオオル!南葛逆転ッ!」
スコアは1対2。翼が大きくガッツポーズを取る。
■明和ゴールデンコンビの誕生
追いかける明和。
辰馬が最前線でボールをキープ。そこへ日向が一直線に駆け上がる。
縦に並び、入れ替わるようにドリブル突破。
奪われても即座に取り返し、再び突破。
その動きを繰り返すうちに、スタンドから声が上がった。
「まるでゴールデンコンビだ…!」
「いや、これは明和ゴールデンコンビだ!」
ついにペナルティエリア前。辰馬がドリブルを止め、後方へ振り返る。
そこに飛び出したのは相棒・日向。
「行け、小次郎ッ!」
「おうッ!」
鋭いパスが通り、日向がノートラップで右足を振り抜く。
弾丸のようなシュートが若林を襲う――
若林は反応した。だが右肩に痛みが走る。
ボールの勢いに押され、ネットへと突き刺さった。
「ゴール!日向小次郎ッ!これで2対2!」
しかし同時に、若林が肩を押さえ苦悶の表情を浮かべる。
スタンドが騒然とした。
■辰馬の秘策 ― 若島津の覚醒
「……見切ったな」
辰馬の瞳が鋭く光る。
若林の負傷を見抜いた辰馬は、すぐに次の一手を描いていた。
「タケシ、左へ寄れ。…若島津に渡せ」
「えっ、でも若島津さんはキーパーで…」
「いいから行け。小次郎と俺は囮だ」
短い言葉に込められた確信。
タケシは頷き、左サイドへボールを送る――と思わせておいて、逆サイドから飛び込む若島津へとクロスを放った。
観客が息を呑む。
若島津が空中で身体をひねり、強烈なボレーを叩き込んだ。
「ゴオオオル!若島津健、衝撃の一撃ッ!」
明和、ついに勝ち越し!スコアは3対2!
ベンチの吉良監督が腕を組み、静かに呟く。
「…やはり気づいたか、辰馬。奴の戦術眼は常人の域を超えておる」
■南葛の執念 ― 翼と仲間たち
だが南葛は沈まない。
修哲トリオ――来生、滝、井沢が中盤で必死に走り回り、パスコースを作る。
石崎は身を挺してブロック。翼のシュートに合わせ、敵の弾丸シュートを顔面で受け止め、グラウンドに倒れ込む。
「い、石崎ィ!」
「だ、大丈夫だ!俺は…俺は翼を守る壁だ!」
スタジアムに響く喝采。
そして最後は翼。空中に舞い、オーバーヘッドキック!
ボールは一直線にゴールへ突き刺さり、3対3の同点。
■辰馬の秘密 ― 両利きの軍師
再び振り出しに戻る。
だがここで辰馬が見せた。
左足でパスを出したかと思えば、次の瞬間には右足でシュートを放つ。
完璧なフォーム、違和感のない両足の使い分け。
吉良監督が解説する。
「辰馬は生まれながらの利き足を両側に持つ稀有な選手。生まれ落ちた瞬間に宝くじを引き当てたようなものよ」
南葛も驚きを隠せなかった。
翼が思わず口にする。
「辰馬…君、本当にすごい選手だ」
「ブラジルに行くんだってな、翼。俺たちに負けてから行けよ」
岬とも目を合わせる。
「久しぶりだな、太郎。いい相棒ができたみたいだな」
「うん。でも負けないよ。僕らも辰馬と小次郎に負けないコンビだから」
■ボロボロの両軍
時間が進むにつれ、両チームの選手は疲労で動きが鈍る。
日向も辰馬も、南葛の翼や岬も、そして若林までもが傷だらけで立っていた。
それでも誰一人として諦めようとはしない。
終了間際、再び明和の攻撃。
辰馬がボールをキープし、左足で放ったミドルシュートがポストに弾かれ、日向が押し込む。
「ゴール!4対3、明和再びリード!」
歓声が響き渡る。
だが、まだ終わらなかった。
南葛最後の攻撃。翼と岬が再び連携。岬のクロスを翼が渾身のダイビングヘッド。
「ゴオオル!またも同点ッ!」
スコアは4対4。後半終了の笛が鳴る。
■家族と仲間の支え
選手たちはその場に倒れ込んだ。
ピッチの外から走り寄ってきたのは、辰馬と日向の家族たちだった。
手にはレモンの砂糖漬け、梅干し、水筒。
「辰馬!小次郎!これを食べて元気出しな!」
「ありがとう…母ちゃん…!」
サブメンバーも総出でマッサージやストレッチを施す。
南葛も同じだ。ロベルトや三上、岬の父が手伝い、選手たちを支える。
戦場のようなグラウンドに、家族と仲間の温もりが流れ込む。
それでも、まだ決着はついていない。
両軍ともボロボロ。それでも目は死んでいない。
次は延長戦――最後の死闘が、待っていた。