副キャプテン 辰馬   作:匿名希望のぽっちゃり

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色々と間違えた…反省してます


幕間・約束のデート

 

七月末、夏休みが始まったばかりの土曜。

真っ青な空に入道雲が大きくせり上がり、駅前のアスファルトは朝から熱気を帯びていた。

 

大会が終わってから初めてのオフ。

友坂辰馬は噴水のそばに立ち、久しぶりのデートのためか待ち合わせの時間より少し早く着いてしまった自分に苦笑する。

(試合前より緊張してるかもな……)

 

「辰馬ぁ!」

聞き慣れた声に顔を上げると、宗像尚美が軽やかに歩いてくる。

白いブラウスに淡いブルーのスカート。麦わら帽子が夏の名残を映していた。

「待った?」

「いや、今来たとこ」

「ふふ、顔が早く来たって言ってる」

「やっぱりバレるか」

二人は笑い合い、朝の緊張が少しずつ溶けていった。

 

まず向かったのは駅ビル奥のCDショップ。

冷たい空調が火照った肌を撫で、クラシック、ジャズ、ロック……棚にぎっしり並ぶディスクを眺める。

宗像はクラシックの試聴機にイヤホンを差し、片方を辰馬に差し出した。

「この曲、涼しくて好き。聴いてみて」

澄んだピアノが耳に広がる。

「いいな、夏の終わりって感じだ」

「試合前に聴いたら集中できそう」

「俺はロックでテンション上げる派だけど」

「辰馬らしい」

宗像が微笑むと、心臓が軽く跳ねた。

 

雑貨屋では音符モチーフの小物に足を止める。

「これ、かわいいね」宗像が小さな音符のブレスレットを指差す。

「尚美がつけたら似合うな」

「えっ、そ、そうかな」

彼女の頬が少し赤くなる。

「このキーホルダー、おそろいにする?」

「うん、いいね」

手が触れ合った瞬間、外の熱気とは違う温もりが指先に残った。

 

ランチは宗像の提案でハンバーガーショップへ。

「意外とこういうの好きでしょ?」

「バレた?」

窓際の席でポテトをつまみながら、学校や将来の話に花が咲く。

「へぇ〜三杉が全日本Jr.ユースチームのコーチにねぇ」

「驚きよね、私たちと同い年なのに大人からそんなに評価されてるなんてね…」

「まぁ三杉は指導者の適正は昔から高そうだったからなぁ」

友坂は小学生時代から優れた統率力と指導力、戦術眼を併せ持っていた三杉を思い出していた。

「辰馬、サッカー以外にやってみたいことある?」

「世界を見たい。尚美にも見せたい景色がある」

宗像は少し驚いたように笑う。

「それって……デートの誘い?」

「その通り」

二人は声を立てて笑った。

 

「ねぇ、辰馬。……進路、決めた?」

 

辰馬は少しだけ視線を落とした。

「正直、まだ迷ってる。海外に行ってサッカーを学びたい気持ちもあるし、日本で鍛え直したい気持ちもある。」

 

「うん……だと思った。」

尚美の声は穏やかだった。

「私ね、末賀高校に行くことにしたの。吹奏楽部が強いし、指導者の先生も良い人だから。」

 

「そうか……。やっぱ音楽、続けるんだな。」

「うん。小さい頃からの夢だから。」

 

少し照れながら、尚美は海を見つめた。

「でもね、私、辰馬には――」

その瞳が、真っすぐに彼を見た。

「自分のことより、世界を見てほしいの。」

 

「……世界を?」

 

「うん。広い世界でサッカーをしてほしい。

 私と一緒にいる時間が減ってもいい。

 だって――辰馬が世界で戦ってる姿を見られるなら、それが一番うれしいから。」

 

潮風が二人の間をすり抜けた。

辰馬は何も言えず、しばらく海を見ていた。

 

「……俺、尚美と同じ町で生まれて、同じ小学校で育って中学では離れ離れになったのに…お前のほうが、よっぽど強いな。」

 

尚美は首を振った。

「強いんじゃないよ。ただ、好きだから信じてるの。」

 

その言葉に、辰馬の胸が熱くなった。

言葉にしようとしても、喉がつまる。

代わりに、そっと尚美の手を握った。

 

「ありがとう、尚美。……俺、行くよ。世界に。」

「うん。」

「でも、帰ってくる。いつか必ず。」

尚美は静かに微笑んだ。

 

 

昼食後は中央公園へ。木漏れ日の小道を並んで歩く。

「大会の時、遠くを見てる顔が好き」

「ゴールの先を見てるんだろうな。でも今日は……尚美だけ」

宗像は一歩立ち止まり、視線を落とした。

「……そう言われると、照れる」

 

 

午後は美術館でガーギー展を鑑賞。

鮮烈な色彩の抽象画に二人とも息をのむ。

「これ、サッカーのパスみたいな流れがあるね」

「リズムが試合と似てる。面白いな」

静かな時間が心地よく流れた。

 

 

帰り際、クレープの屋台に足を止める。

「チョコバナナにしよう」

「俺も」

夕暮れのベンチで頬張ると、宗像の唇に生クリームがついていた。

辰馬がそっと指で拭う。

「尚美、ここ」

宗像も笑いながら彼の唇についたクリームを取る。

一瞬、言葉が消え、蝉の声と心臓の鼓動だけが残った。

 

 

駅へ戻る道、空は茜色に染まっていた。

「今日はほんとに楽しかった」

「俺も。次はもっと遠くまで行こう」

「うん、でもすぐヨーロッパ遠征の選抜合宿だからまた忙しくなるね」

「ああ、すまないな。デートも満足にしてやれなくて…」

「いいの。世界への夢のために頑張らないとね」

「うん、頑張るよ」

そう言って腕を組む二人…二人の距離は、朝よりぐっと近づいていた。

 

 




Jrユース編もやりたいですがストックがある程度たまったらかと思います。
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