副キャプテン 辰馬 作:匿名希望のぽっちゃり
日本Jrユース代表選抜合宿 ①
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日本Jr.ユース合宿 初日
東邦学園から選ばれた代表候補たち――日向小次郎、友坂辰馬、若島津健、反町一樹、沢田タケシ。
彼らはそれぞれ大きなバッグを肩にかけ、夏の光を浴びながら合宿所へと歩いていた。
日向は荷物を片手で抱えたまま空を見上げる。
「日本代表か……どんなチームになるか楽しみだな」
隣を歩く友坂が頷いた。
「ああ。ただ翼は今回は来てないらしいぞ」
その一言に日向は振り返った。
「なに!? 翼が来ないだと?」
沢田が不安そうに声を挟む。
「やっぱり全国大会での怪我が治らないんでしょうか……?」
友坂は肩をすくめる。
「だろうな。まぁ、夢のV3を達成したんだ。翼にとっちゃ本望だろうさ。……若島津、お前は肩の怪我は大丈夫なのか?」
若島津は真っ直ぐに答えた。
「ええ、だいぶ良くなりました。ただ、初日はランニングまでって医師や北詰監督から言われています。おそらく見上監督にも伝わっているはずです。……辰馬さんは足、大丈夫なんですか?」
友坂は不敵に笑って答えた。
「ああ。俺は昔から回復力が高いからな。もうバッチリよ」
日向が苦笑いを浮かべる。
「辰は昔から怪我も体力も回復するのが早いからな〜」
沢田が思い出したように声をあげる。
「ホントですよ! スプリントした後でもすぐに回復してまた走り出すんですもん」
若島津もうなずいた。
「確かに。自陣ゴールから敵陣ゴールまでのスピードも回数もすごいですからね」
反町も口を開いた。
「それにパスの精度は長短問わず、最後までブレないしな」
友坂は照れ笑いを浮かべ、頭をかく。
「はは、ありがとよ。……ん、あれは松山じゃないか? おーい!」
前方を歩く影に声をかける。そこにいたのはふらの中のキャプテン・松山光とFWの小田。
松山が振り向き、笑顔を見せた。
「ん? おおー、友坂たち東邦学園じゃないか。遅れたが初優勝、おめでとう」
小田も手を振りながら。
「おめでとう!」
日向が短く応じる。
「おう、ありがとよ」
友坂は松山を見据え、ニヤリと笑った。
「やっぱりお前たちも呼ばれたんだな。……なぁ松山、準決勝の後に彼女さんに会えたのか?」
途端に松山の顔が赤く染まる。隣の小田はニヤニヤしている。
「あ、ああ……まぁな。それとお前に借りたお金、返さないとな。夜にでも渡す時に話すわ」
「そうか。わかった。その時じっくり聞くわ」友坂が笑って肩を叩く。
事情を知らない日向や若島津、反町、沢田は顔を見合わせて首を傾げた。
「何の話してんだ?」と日向。
「ああ、大会中にちょっとな」と友坂。
松山もまだ赤い顔のまま、「そう……ちょっとな」とごまかす。
話題を切り替えるように松山は前を見た。
「しかし今度は同じチームになるとはなぁ」
友坂も感慨深く頷く。
「そうだな……しかもヨーロッパ遠征だぜ。海外の、それも同年代の実力者との出会いがあると思うとワクワクするよな」
「俺は世界のGKたちからゴールを奪うのが楽しみだぜ」日向が自信満々に言い放つ。
「さすが日向さんですね!」と沢田。
「タイガーショットは世界に通じますよ!」若島津も力強く言い切った。
「俺も負けませんよ!」反町も続く。
そんな話をしているうちに、合宿所の門が見えてきた。
――合宿所に入ると、すでにロビーには全国大会で戦ったライバルたちが集まっていた。
立花兄弟が真っ先に声をかけてきた。
「おっ、優勝チーム東邦学園のお出ましだ!」
「決勝戦、テレビで見てたぞ。すごかったな」
その瞬間、周囲の選手たちが一斉に声を上げた。
「おめでとう!」
「すげぇよ、タイガーショット!」
「友坂! フラッシュパスってどうやるんだ?」
「いやいや、ダブルヒールの方だろ?」
友坂は苦笑して手を振る。
「ありがとう。ところで、受付はどこでやるんだ?」
「こっちだよ。サッカー協会の人がやってる」立花政夫が案内してくれる。
無事に受付を済ませた頃、合宿所の入り口が再び騒がしくなった。南葛中のメンバーが到着したのだ。
会場全体の空気が一段とざわめく。全国大会三連覇を果たしたチームの存在感は別格だった。
全員が揃ったことで、会議室へと移動する。すでに緊張した面持ちの選手もいれば、顔見知りと肩を叩き合う者もいる。
やがて見上監督、住友コーチをはじめとしたスタッフ陣が入室する。その後ろに一人、同年代ほどの青年が続いた。
「おい、あれって……」石崎が目を見開いた。
「まさか……」日向が声を潜める。
その時、松山と友坂は互いに視線を交わす。
(やっぱり……)
宗像から聞いていた話を思い出す。
――決勝戦の日、三杉淳が代表コーチとして打診を受けていたことを。
見上監督が口を開く。
「もう気づいているようだから先に紹介しよう。新しくコーチに就任した三杉淳だ」
三杉は一歩前に出て、丁寧に一礼した。
「本日からコーチとして参加します。武蔵中の三杉淳です。今回は選手でなく、コーチとしてみんなを支えます」
会場に静寂が広がった。驚きと戸惑いが交錯する。
その沈黙を破ったのは、松山と友坂の拍手だった。
「待ってたぞ!」松山の声。
「よろしく頼むぜ、三杉コーチ!」友坂も力強く言った。
やがて拍手が波紋のように広がり、場は温かい空気に包まれる。三杉はわずかに目を潤ませ、微笑んだ。
その後、見上監督は合宿の予定を伝える。
数日のチーム練習を経て、高校生との練習試合を三試合行い、その後ヨーロッパ遠征の選抜メンバーを発表するという。
選手たちは気持ちを新たに、施設見学へと向かった。
――ここから始まるのだ。
日本代表を背負い、世界へ挑む少年たちの新たな戦いが。
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「では、今後の予定を伝える。本日より数日間、チーム練習を行った後に高校生との練習試合を三試合予定している。そしてヨーロッパ遠征の選抜メンバーを発表する。今日は軽く汗を流す程度のつもりだ。住友コーチの案内に従ったのちに部屋で着替えてグラウンドに集合だ。」
見上監督の低く通る声に、整列した代表候補たちが声を揃える。
「はい!」
一糸乱れぬ返事の中に、緊張と高揚が混ざり合っているのがわかる。
住友コーチが前に出て、口調を少し和らげた。
「ではこれから歩きながら、この施設について軽く紹介していくからなぁ。着いてきてくれ。」
バタバタと荷物を持ち上げ、列を組んで歩き出す代表候補たち。普段は画面や雑誌でしか見られない「特別な空間」に足を踏み入れると、誰もが押さえられない興奮を覚えていた。
「うおーすげぇぜ!こんな所でトップ選手たちが練習してんのかぁ!」
石崎が思わず大声をあげる。
「こら石崎、声が大きいぞ!」
住友コーチの叱責に、石崎は肩をすくめた。
「す、すいません…」
その姿に周りのメンバーがクスクス笑う。場が少し和らいだ。
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ぐるりと施設を一巡したあと、選手たちは部屋割りを告げられ、それぞれの部屋へと向かった。今回の割り振りは、同じ学校同士を避けた組み合わせ。普段は交わることの少ない者同士が、一つ屋根の下で寝食を共にする。
辰馬は松山と同室になった。
「松山、同じ部屋だな。よろしくな。」
「おう、よろしく。お前で良かったよ。話しやすいしな」
辰馬が軽く笑みを浮かべる。
「彼女さんか?今度じっくり聞かせてもらうぜ」
「ははっ、まぁ今は着替えていこうぜ」
緊張が解けたように二人で笑い合う。
辰馬は荷物を置きながらふと思いついたように言った。
「なあ、今日の夜は時間がありそうだし、交流を深めるためにもレクリエーションでもやらないか?」
松山は驚きつつも頷いた。
「いいなぁ。けどみんなでやれるものや時間があるのか?」
「さっき、談話室の隅に色々置いてあったぞ。監督たちが考えてなくても、俺たちで動けばいいだろ」
松山は心底感心したように辰馬を見た。
「お前、ほんとよく見てるなぁ…そうだな。話すだけでも全然違う」
二人は着替えを済ませ、他の選手と共にグラウンドへ。
芝の匂い、太陽の熱、緊張した空気。準備運動のランニングが始まり、選手たちが一斉に走り出す。
その横で、若島津は早めに切り上げてトレーナーに体を預けていた。
「明日から本格的に動かすことになる。今日は無理せんほうがいい」
付き添いの声に、若島津は悔しそうにうなずいた。
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練習を終え、辰馬は思い切って見上監督に声をかけた。
「監督、今夜、交流のためにちょっとしたレクリエーションをやってもいいですか?」
見上は顎を撫でてから、すぐに答えた。
「いいだろう。ただ、余り遅くまで起きてない様にな」
「はい、気をつけます!」
報告を終えると辰馬は松山のもとへ駆け寄った。
「松山ぁ、監督に話したらオッケーだってよ!」
「よし、なら声をかけてみるか」
二人の会話を聞きつけた石崎が首を突っ込む。
「どうしたんだ?二人してニヤニヤして」
松山が笑って答える。
「食事の後、時間があるからみんなでゲームでもして交流を深めようってな」
「いいなぁ!やろうぜ!」
「楽しそうだ」井沢も乗り気だ。
「おもしろそうたい」次藤も笑う。
「俺も参加しますよ」佐野が手を挙げる。
やがて部屋中に声が広がり、誰もが期待に胸を膨らませた。
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夕食後の談話室。
「おーい、トランプやってるぞ!」井沢の声。
「こっちはUNOやるぞ〜」沢木の声。
あちこちでカードやボードゲームが始まり、笑い声が響く。
「やって良かったな」辰馬がぽつりと言う。
「ああ、チームの第一歩だな」松山が頷く。
辰馬は早田や次藤のいる輪へ歩み寄った。
「よう、早田に次藤。お前らもう仲良いんだな」
「おう、DF同士だからな。連携のために情報交換してんだ」早田は胸を張る。
「軍師・友坂辰馬か。中々のオーラたい」次藤は豪快に笑う。
「お前らが後ろにいると安心できるよ。明日、俺にもお前らの技を教えてくれ」
「へへ、辰馬に頼まれちゃ仕方ねぇな!」早田が拳を握る。
「ワシのパワー、必ず役に立てるたい」次藤も笑った。
見上監督と住友コーチはその光景を廊下から覗いていた。
「いい雰囲気になってきたな」
「ええ、あの二人の働きが大きいですよ」
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合宿五日目。
紅白戦では各選手が普段とは異なるポジションに回される。
戸惑いながらも、誰もが必死にアピールを続けていた。
「トップ下もなかなかやるじゃないか」松山が言う。
「ああ、だけど本職じゃねぇからな」辰馬は汗を拭う。
「いや、お前なら十分やれるさ」
「だがボランチは松山のほうが向いてる。俺とお前のダブルボランチ、面白いと思うぜ」
「そうかもな…だけど翼がいないとやっぱり――」
辰馬はきっぱりと言い切った。
「翼に頼り切りじゃダメなんだよ。これからは俺たちで引っ張らないと」
松山は息を吐き、力強くうなずいた。
「そうだな。任されたポジションをやりきる。それだけだ」
その姿を見上監督は腕を組んで見つめる。
「…やはりあの二人は、周囲をよく見ている」
「ええ。紅白戦でも、佐野や立花に積極的に声をかけてましたし」住友コーチが頷く。
「さて、明日からの高校生との試合で、真価が問われるな」
「ええ、選抜を決める最終段階ですからね」
夜の空気は、静かに、しかし確実に熱を帯びていった。
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合宿5日目の夜
夜の合宿所は、昼間の熱気が嘘のように静まり返っていた。外はひぐらしの声も止み、ただ遠くの波の音だけが響いている。
その中で一室だけ、まだ灯が消えない部屋があった。
「会議室」と書かれた札の下から、低い話し声が漏れている。
中では見上監督、住友コーチをはじめとする数名のコーチ陣、トレーナー、チームドクター、そして三杉淳の姿があった。
テーブルの上には資料やノート、映像分析のプリントが散らばり、皆の顔に浮かぶのは疲労ではなく、緊張と集中の色。
見上監督は腕を組み、低い声で切り出した。
「さて――明日からはいよいよ高校生との試合が始まる。今日までの練習と練習試合を踏まえ、各ポジションのレギュラー、そしてキャプテン候補について意見を聞きたい。まずは、住友コーチから。」
住友コーチは椅子から立ち上がり、手元のメモを一瞥してから前を向く。
「はい。まずFWですが、中心は日向を据えたいと思います。彼の爆発力と勝負勘はやはり突出している。サイドには反町と新田を配置するAパターン、もしくは立花兄弟をサイドに置くBパターンを考えています。相手の布陣や試合展開で使い分ける形が理想かと。ただ、基本はAパターンを想定しています。」
彼の言葉に数人のコーチが頷く。戦術ボードに赤いマグネットが並び、中央には“10 日向”の文字が置かれていた。
住友は指先でボードをなぞりながら続ける。
「次にDFですが、次藤・早田・高杉・石崎の4バックを考えています。経験と安定感のバランスを見ても妥当かと。
中盤は――友坂、松山、井沢の3人。いずれもゲームメイク能力に長けており、ボールの運び、展開の速さ、守備の切り替えが期待できます。
本来なら大空翼がこの中心を担うべきですが……今は彼の復帰が未定ですからね。」
その名前が出た瞬間、部屋の空気が少しだけ重くなる。
翼の不在――それはこの合宿中、誰もが頭の片隅に置いている現実だった。
見上監督が小さく頷く。
「ふむ。やはりそうか……。では、三杉くんはどう見ている?」
テーブルの向こう側、資料を抱えていた三杉淳が静かに立ち上がる。
柔らかい声ながらも、彼の言葉には自信と確信が滲んでいた。
「はい。住友コーチの意見と重なる部分は多いですが、僕はDFに少し違う案を出したいと思います。
石崎くんの代わりに――松山くんをDFに置く形です。」
その提案に、見上監督の眉が動く。
「……松山くんをDFに?」
周囲もざわめいた。松山は中盤のバランサーとして評価が高いが、最終ラインに下げる発想はあまりなかった。
三杉は静かにうなずく。
「はい。彼の読みの鋭さと球際の強さ、そして何よりも精神力は、最終ラインでこそ生きると思います。
それに――彼の視野の広さを後方から使うことで、ビルドアップの安定性も増すはずです。」
「なるほど……では中盤は?」
見上が問うと、三杉はすぐ答えた。
「翼くんがいる場合は、翼くん、友坂くん、立花兄弟の4人で構成します。翼くん不在のときは、ボール運びの上手い佐野くんを入れ、友坂くん、立花政夫くんで中央を形作る。
FWは立花和夫くんを中央に据えたスリートップを考えています。ゲームメイクは――友坂くんです。」
見上は「ふむ」と唸り、椅子の背に体を預けた。
住友コーチが腕を組みながら続ける。
「佐野や立花兄弟、松山のコンバートですか……確かに、もともとFW登録とはいえ、中盤のセンスが光る選手たちですしね。特に佐野はポジショニングの柔軟さがあります。」
「ええ。それに、FWは日向を中心に据える以上、他の前線は可変的にした方がいい。」
「うむ、確かに。」
見上監督がゆっくり頷く。
「今回の合宿では、あえてFWタイプを多く呼んだ。守備的ではなく攻撃的な競争を促したかったからな。だが――それゆえにコンバートの柔軟性も重要だ。」
住友コーチが手帳に何かを書き込みながら問う。
「では明日はどうされますか?」
見上は深く息をつき、戦術ボードの前に立つと、赤と青のマグネットを動かし始めた。
「……先発はこうだ。
GKは若島津。
DFは早田、石崎、次藤、高杉の4バック。
中盤はゲームメイクに松山を置き、友坂、立花政夫の3人。
FWは日向、新田、立花和夫――スリートップでいこう。」
その布陣に、住友コーチが頷く。
「良いと思います。バランスが取れていますし、攻守の切り替えも早くなりそうです。」
「僕も賛成です。」と三杉。
見上は腕を組んで全員を見渡す。
「では、今日の会議はここまでとしよう。最終的な選抜メンバーは、常に考えておいてくれ。
個人の能力だけではなく――戦術的、戦略的な組み合わせも含めて、だ。」
「はい。」
全員の返事が重なり、椅子の音が静かに響いた。
やがてコーチたちが部屋を出ていき、最後に残ったのは見上監督ひとり。
会議室の静寂の中、彼は窓の外に目を向けた。
夜の闇の向こうに、遠く光る星が瞬いている。
「……やはり、大空翼の存在は大きいな。」
呟きながら、深く息をつく。
「ヨーロッパ遠征までに――間に合えば、ベストなんだが……」
その声は誰に届くこともなく、静かな夜に溶けていった。
ただ、見上の目だけは眠ってはいなかった。
日本サッカーの未来を見据える監督の瞳に、まだ消えぬ炎が宿っていた。
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合宿6日目の朝
夜明け前の空はまだ薄い藍色に染まり、水平線の向こうからわずかに朱が滲み始めていた。
海沿いの合宿所に、静かに波音が響く。蝉の声もまだ遠く、夏の朝特有のひんやりとした空気が肌を撫でた。
そんな中、最も早く起きたのは――友坂辰馬だった。
寝癖を手で整えながら窓を開けると、潮の匂いがふわりと鼻をくすぐる。
(今日が…最初の試合か)
目を細めて空を見上げる。まだ青みを帯びた空に、白い雲が薄く浮かんでいた。
右足には、まだ微かな違和感が残っていた。
けれど、痛みはもはや恐怖ではなかった。
むしろ、この体の軋みが「戦う意味」を教えてくれるような気がしていた。
「……行くか」
呟いて、タオルを肩にかけ、静かに部屋を出る。
廊下を歩くと、すでに誰かがトレーニングルームに入っている音がした。
開けると――そこには、すでに日向小次郎がいた。
黙々とランニングマシンを踏みながら、額から汗を滴らせている。
「おはよう、小次郎」
「おう……辰か。早ぇな」
「そっちこそ」
短い言葉のあと、二人の間に沈黙が落ちる。
だが、重苦しい空気ではなかった。
互いに無言のまま、走る音と心拍だけが響く。
やがて日向がマシンを止め、タオルで顔を拭う。
「なぁ辰。監督、昨日の会議で言ってたらしいな。お前を中盤の軸にするって」
「らしいな」
「……プレッシャーとか、ねぇのか?」
友坂は苦笑した。
「プレッシャーなんて、もう慣れた。問題は、勝つためにどう動くかだけだ」
日向はニッと笑う。
「言うじゃねぇか。なら頼むぜ。お前が前でボール配ってくれりゃ、俺はぶっ放すだけだ」
「お前のタイガーショットが通るようにする。それが俺の仕事さ」
拳を軽くぶつけ合う二人。その音が、朝の空気に小さく響いた。
――7時半、食堂。
全員が揃った朝食の場も、いつになく緊張感が漂っていた。
立花兄弟は明るく振る舞おうとしているが、会話の端々に張り詰めたものがある。
松山は静かに皿を見つめながら、パンを小さくちぎっては口に運んでいた。
その様子に、隣の井沢が声をかける。
「……DF、やるんだって?」
「まぁな。三杉に言われた時は驚いたけど……悪くないと思ってる」
「らしいな。お前なら最後まで冷静に止められる」
松山は小さく頷いた。
「ありがとう。……でも、止めるだけじゃない。俺は守りながらも繋ぐ。あの友坂に、ボールを確実に渡すために」
その言葉に、井沢は笑った。
「そういうところが、お前らしいよ」
――午前9時。
練習グラウンドに集まった選手たちの前に、見上監督が立つ。
日差しが強くなり始めた中、彼の声がグラウンド全体に響き渡る。
「お前たちが今日戦う相手は、強豪・三原中央高校! 技術も、体格も、スピードも申し分ない。
だが――それ以上に見たいのは、“連携”だ。個々の能力じゃなく、チームとしての完成度を見せてくれ。」
監督の言葉を聞く全員の表情が引き締まる。
見上は続けた。
「特に――友坂!」
「はい!」
「お前の視野と判断が、このチームの軸になる。お前が迷えば全員が迷う。逆にお前が信じて進めば、全員が走る。
今日の試合は、“お前がチームを動かす一日”だと思え!」
友坂はまっすぐ見上の目を見返す。
「わかりました。全力でやります!」
監督は頷き、少し笑みを浮かべた。
「いい目をしている。……あとは、ピッチで証明してこい。」
その瞬間、風が吹き抜け、白いラインの上に舞い上がる砂埃が朝陽を反射した。
夏の光がグラウンドを包み、選手たちの影を長く伸ばす。
そして――笛の音が鳴った。
彼らの「戦いの夏」が、再び動き出した。
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