副キャプテン 辰馬   作:匿名希望のぽっちゃり

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先日は誤って投稿してしまいご迷惑をおかけしました。


日本Jr.ユース代表選抜合宿 ②

 

夏の陽射しが傾きはじめた午後、熱気を帯びたグラウンドに笛の音が響いた。

 対戦相手は高校サッカー界の名門・三原中央高校。全国大会の常連であり、その身体能力と組織力は高校トップクラス。

 だが、日本Jrユース選抜の選手たちの表情に怯えはなかった。むしろ、その挑戦的な目の奥に燃えるものがある。

 

「いけぇ!中学生に負けるなぁ!」

 高校生たちの応援がベンチから飛ぶ。

 その声を背に、三原中央の選手たちが一気にプレスをかけてくる。序盤から圧をかけ、中盤を支配しようという狙いだ。

 

 しかし、友坂辰馬は冷静だった。

「みんな!落ち着いていこう!DFはまずマークチェック! ラインの声かけ忘れるなよ!」

 短く鋭い指示が飛ぶ。声のトーンは低く、だが芯がある。

 仲間たちの間に一瞬の緊張が走り、それが団結へと変わっていく。

「おう!」

 

 中盤で松山がボールを奪い、すぐさま友坂へ。

 友坂は一度ボールを止め、全体の配置を確認する。

(相手は縦の速攻狙い…なら、こちらは横へ流してテンポを崩す)

 彼の脳裏に瞬時に戦術のイメージが浮かぶ。指先が軽く動き、パスが通る。

 DFからFWへ、まるで糸で結んだような滑らかな連携が始まった。

 

 ピッチサイドでは、住友コーチが唸るように言った。

「高校生相手ですから攻められてはいますが、友坂が良くまとめていますね。」

「そうだね。」見上監督が腕を組む。「立花政夫は不慣れなポジションだから、まだ動きが硬いけど…それを友坂が上手くカバーしている。」

 三杉も頷きながら目を細めた。

「彼は戦いを知っています。ボランチでありながらDFの意識が強い。攻撃の起点にもなれる…まさに司令塔です。」

「なるほどな…」見上は口元に微笑を浮かべる。「松山をDFに下げて、友坂にゲームメイクを任せるのも面白いかもしれない。」

「三杉くんの案ですね。」住友が笑った。「彼なら上手くまとめられるでしょう。翼が戻ってきた後の布陣にも影響しそうです。」

 

 試合は動いた。

 前半、友坂のカバーリングで守備が安定すると、松山が中盤からロングスルーパス。

 それを受けた日向が、地を這うようなドリブルで中央突破。

「うおおおっ!!」

 日向のタイガーショットが炸裂し、ネットが揺れる。

 スタンドがどよめき、仲間たちが駆け寄る。

「ナイスだ日向!」

 二点目もまた日向。今度は松山のクロスに合わせて豪快なボレー。

 友坂はそのすべての流れを冷静に読み、リズムを整えていた。

 前半終了、スコアは2-0。だが、友坂の視線はまだ冷めていなかった。

(後半、相手は前がかりにくる。オフサイドトラップでリズムを崩す)

 

 後半開始、見上監督は石崎・立花兄弟・若島津を交代させる。

 友坂は指示を受けて最終ラインに下がった。

 新布陣で臨む南葛選抜。中盤の支配力はやや落ちるが、友坂がDFから声で全体を動かす。

「ライン上げるぞ!早田、右サイドは押し上げろ!」

「了解!」

 早田のスライディングが炸裂、ボールを奪ってすぐ前へ。

 友坂のロングパスが的確に早田の足元へ届き、そこから再び日向へ。

 カミソリのような展開。

 三原中央の守備陣はついていけない。

「いけぇ、日向ぁ!」

 強烈な三発目――タイガーショット!

 ゴール左隅に突き刺さり、ハットトリック達成。

 試合を決定づける一点だった。

 

 その後も、友坂はボランチの位置で冷静にDFラインを統率し、パスカットやオフサイドトラップを的確に仕掛けた。

 高校生たちが焦れて攻め込むが、ことごとく潰される。

 終わってみれば4-0。無失点の完勝だった。

 

 笛が鳴る。歓声が爆発した。

「やったー!高校生相手に勝ったぞ!」

「日向さん、ハットトリックですよ!」

「松山も1点おめでとう!」

「早田もワンアシスト!やったな!」

「おうよ!友坂の演出通りだな!さすが“軍師”だ!」

 チーム全体が喜びに包まれる。

 友坂は微笑みながらも、どこか冷静に戦況を分析していた。

(でも…今日の布陣で見えた。守りを整えた上で攻撃を繋げば、もっと上を狙える)

 

 見上監督が静かに言う。

「友坂は高校生相手にも支配力で負けていなかったな。」

「ええ。」住友コーチも頷く。「攻撃では目立たなかったが、守備の安定は彼の功績です。中盤とDFを繋げたのは間違いなく彼でしょう。」

 三杉が微笑む。

「間接的にでも、彼の演出が随所に見えました。次は…彼にゲームメイクを任せてみたいですね。」

「見てみたいな。」見上の目に確かな期待が宿った。

 

 夕方、練習が終わると石崎たち南葛中組は電話をかけた。

 相手はもちろん、今は療養中の大空翼だ。

「翼ー! 三原中央に勝ったぞ! 4-0だ!」

「日向のハットトリック! 松山も一点! 友坂がチームまとめて無失点だ!」

 電話越しの翼の声が、少し笑って返す。

「そっか…すごいじゃないか。みんな、成長してるな。」

「でもなー、翼がいればもっと楽に勝てたかもな!」

「ははっ、それはどうかな。」

 その笑い声に、夕暮れの風が通り抜けた。

 その瞬間、彼らの中に次の目標が生まれていた。

――翼のいる日本Jrユースで、もう一度、最高のチームを。

 

 

夕暮れが沈み、窓の外は橙から群青へと変わりはじめていた。

 合宿所の食堂には、カレーと味噌汁の香ばしい匂いが漂っている。

 昼間の熱気がまだ残る部屋に、試合を終えた選手たちの笑い声が弾んでいた。

 勝利の余韻と、全身に残る疲労が入り混じった心地よい時間だ。

 

「いやー!高校生相手に4−0って! ちょっと信じられねぇよな!」

 石崎がスプーンを握りながら満面の笑み。

「お前、後半出てなかったくせにテンション高ぇな!」と早田が突っ込む。

「そりゃ嬉しいに決まってるだろ! チームが勝ったんだぜ!」

 そのやりとりに、食堂のあちこちから笑いが起こった。

 

「日向さん、今日のハットトリックすごかったです!」

 タケシが目を輝かせる。

 日向は照れたように鼻をこする。「まあな。けど、あれは辰の仕込みだ」

 その一言に、食堂の空気がふっと和む。

「仕込み?」と立花兄弟が首をかしげる。

「そうだよ。」早田が補足する。「後半、ライン上げろって声を出したのは友坂だ。俺が上がるタイミングも、あいつが後ろから全部見てた。」

 友坂はスープを啜りながら苦笑した。

「たまたまだよ。相手が縦に突っ込んでくるのが見えたから、早田に抜けてもらっただけ。」

「それを“たまたま”でやるかよ。」日向が真顔で言う。「お前の“読み”は本物だ。」

 

 その言葉に、少しだけ周囲の空気が変わった。

 チームの中心に立つ者が、もう一人いる。

 皆がそれを自然に感じ取っていた。

 

 

 食事がひと段落したあと、見上監督と住友コーチ、三杉、それに友坂が残っていた。

 他の選手たちは風呂に向かい、食堂には静けさが戻っていた。

 湯気の消えたコップの水が、天井の蛍光灯を淡く反射している。

 

「…よくやってくれた、友坂。」

 見上がゆっくりと口を開く。

「今日は高校生相手に怯まなかった。それだけでも収穫だ。だが――」

「けど、まだ“支配しきれて”はいなかった。」

 友坂が先に言葉を継ぐ。

 見上は軽く目を細めた。「その通りだ。君は自分の立ち位置をよく分かっている。」

 

 三杉がノートを開いた。そこには今日の試合の簡易メモがびっしりと書かれている。

「前半の中盤は、松山のパスが効いていました。でも後半、友坂くんが下がったことで中盤が空いた。そこで相手のポゼッションが増えましたね。」

「うん。」住友が頷く。「友坂を下げると守備は安定するが、攻撃の起点が減る。逆に上げれば支配力は増すが、背後が薄くなる。」

 見上が静かに言う。「要するに――彼をどこで使うか、だ。」

 

 友坂は少し黙って、窓の外の闇を見た。

「僕はどこでも構いません。ただ、今のチームは“形”よりも“意志”が先にある気がします。」

「意志?」三杉が聞き返す。

「はい。みんな、翼の代わりに“勝ちたい”じゃなくて、“認められたい”と思ってる。だから、ポジションの責任を超えて、全員が繋がってる感じがするんです。」

 その言葉に、住友と見上はしばらく沈黙した。

 やがて見上が静かに笑う。

「……なるほど。戦術ではなく、意志で戦うチーム。面白い考えだ。」

 

 三杉が笑みを浮かべる。

「やっぱり、君は“軍師”というより“哲学者”かもしれませんね。」

「そんな立派なもんじゃないですよ。」

 友坂は少し頬をかいた。「ただの分析屋です。」

 

 その控えめな言い方が、逆に周囲をうならせた。

 友坂辰馬――ピッチの中でも外でも、常に全体を俯瞰して考える少年。

 その存在が、確実にチームの中心へと近づいていた。

 

 

 夜風がカーテンを揺らす。

 見上が最後に一言、低く言った。

「友坂、次は“ゲームメイク”を任せてみようと思う。お前が中心だ。」

 友坂は驚いたように目を上げ、そして深く頷いた。

「はい。やってみます。」

 その声には、恐れも迷いもなかった。

 翌日の空が、少しだけ明るく感じられた

 

 

 

日本Jrユース合宿 六日目

 

午前九時。照りつける夏の太陽の下、白いユニフォームに身を包んだ日本Jrユースの選手たちがピッチに散っていった。

相手は高校サッカー界でベスト4に名を連ねる強豪・帝和高校。

高校生とはいえ、全国を代表する実力者たちだ。だが、今日の日本Jrユースの表情には迷いがなかった。

 

中央には友坂辰馬。

見上監督の「ゲームメイクは任せる」という一言を受け、ボランチから一列上がって司令塔としてピッチを支配する。

 

「よし、いこう。まずはボールを回して相手の守備の穴を探そう。」

仲間たちに短く声をかけると、彼の周囲の空気が一瞬にして引き締まった。

 

開始直後、相手高校生のプレスは鋭かった。だが、友坂は慌てず、最初のワンタッチでボールを捌く。

「早田、サイド広げろ!」

その声で一気に展開が変わる。右サイドに展開されたボールを、早田が低く鋭いクロスで中央へ――

日向が飛び込み、強烈なタイガーショットを突き刺した。

 

――ゴール!

 

まだ前半10分。

早くもスコアは1-0。

スタンドの高校生たちがざわめく。

 

見上監督が腕を組んで呟いた。

「高校生相手に怯まず、完全に支配しているな。まるで…プロのようだ。」

 

その後も試合は友坂の掌の上にあった。

中盤で敵のパスコースを読み切り、前を向いた瞬間、視界の端にいた新田へロングスルーパスを通す。

「走れ、新田!」

叫ぶと同時に新田が反応。ノートラップのまま、隼ランニングボレー!

ボールは一直線にゴールへ吸い込まれた。2-0。

 

ピッチ上の帝和高校キャプテンが苛立ちを露わに叫ぶ。

「おい!中盤を押し上げろ!あの7番(友坂)を自由にさせるな!」

 

しかし、遅かった。

友坂はすでに次の一手を描いていた。

「早田、上がれ! 日向、ポストだ!」

日向が受け、身体を張ってボールをキープ。その背中に友坂が走り込む。

日向のワンタッチパスを受けた瞬間、友坂はわずかに体を傾け――

 

「飛龍ッ!!」

 

無回転の弾丸シュートがゴール左隅へ突き刺さる。

3-0。

ベンチから歓声が上がる。

 

その後も彼のゲームメイクは冴え渡り、後半には立花和夫のスカイラブハリケーンを完璧に演出。

終わってみればスコアは 6-0。

全6得点中、5点に友坂が直接絡む異常な支配力だった。

 

見上監督は笑みを浮かべながら住友コーチに言った。

「これが“軍師”のサッカーか。」

「ええ。まさに、試合を設計して勝つプレイヤーですね。」

 

 

試合後のロッカールーム。

汗を拭いながら、選手たちは高揚と疲労の入り混じった表情で座っていた。

そんな中、友坂がゆっくりと立ち上がる。

 

「二試合終わって二連勝。不慣れなポジションでも全員がよくやった。」

 

「やったー!」「二連勝だ!」と声が上がる中、彼の声は落ち着いていた。

 

「でもな、これで満足してたら国際大会では勝てない。今のうちに修正していこう。」

 

その一言に、全員の表情が真剣になる。

 

「まずFW。新田と立花。高校生相手だと身体で負ける場面があった。接触される前に次のプレイを決めよう。」

新田と立花が同時に「はい!」と返す。

 

「日向は…」

「俺は完璧だったろ?」胸を張る日向。

「だからこそ、ポストプレイだ。仲間が動きやすいように意識してくれ。」

「うっ…気をつける。」

 

「MFは政夫と佐野。動きは良くなってる。でも視野が狭い。ボールを持ってる時も、持ってない時も周りを見ろ。」

「了解!」

 

「松山はDFとしてキープ力が光ってた。ただ、持ちすぎると奪われる危険もある。次は一瞬で展開できるように。」

松山は静かに頷いた。「わかってる。」

 

「早田、石崎。サイドの攻撃参加は効いてた。でも両サイドが同時に上がるとリスクが大きい。どっちかは残るように。」

「おう!」

 

「次藤、相変わらず高さは武器だな。でも、サイドバックが上がった時は必ずカバーを頼む。」

「気をつけるたい!」

 

「最後にGKとの連携だ。守備ラインの位置はGKによって変わる。互いの守備範囲を確認しておけ。」

 

全員が真剣な表情で頷いた。

そして、最後に友坂は柔らかく笑った。

 

「俺たちの世代が、初めて海外へ挑むチームだ。勝つために、全員で最善を尽くそう。」

 

その声に、部屋中から力強い「おうっ!」の声が響いた。

 

 

ミーティングが終わると、友坂はホワイトボードを片付けていた。

そこへ松山と日向が笑顔で近づく。

 

「さすが軍師だな。みんなをよく見てる。」

「それにまとめ方もうまいぜ。」

 

友坂は少しだけ苦笑した。

「今日の試合で勝てたから聞いてくれるんだよ。そうでなきゃ、誰も耳を貸さないさ。」

 

松山が首を振る。

「いや、違う。みんなお前の実力を知ってる。だから信じてるんだ。」

 

日向がにやりと笑う。

「そういや昨日、練習後に一人で残ってシュート練習してたよな?」

松山も「見たぞ。ロングレンジから撃ってたけどバーの上に外してたな。」

 

「実はドライブシュートを練習してたんだ。」

 

「なにっ!?」

日向の声が一段高くなる。

 

「翼のドライブシュートか…!」

松山が感心したように目を細めた。

 

「そう。飛龍は無回転で変化するけど、ロングからだと精度が落ちる。だから回転系も身につけたいんだ。」

「完成しそうか?」

「大会中には…俺の右足でも難しいかもな。」

 

日向が肩を叩く。

「無理すんな。点は俺たちFWが取る。お前はゲームを支配してくれりゃいい。」

 

松山も頷く。

「そうだ。今のお前のサッカーがチームを動かしてる。」

 

友坂は小さく笑って答えた。

「ありがとう。でも、いずれ見せてやるさ。俺の“ドライブシュート”をな。」

 

日向がにやりと笑い返す。

「その時は、俺のタイガーとどっちが上か勝負だ。」

 

夜の風が窓を揺らす。

3人は笑いながら部屋を出た。

 

翌日の相手は、まだ分からない…しかし2試合で得た自信がみんなの胸の中にあった.

誰もが眠りにつく前に、胸の奥で静かに闘志を燃やしていた。

 

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